閑話2
思ったより早く書けました。それでは閑話2をどうぞ。
また、ブクマ900達成しました。この場を借りて御礼申し上げます。
部屋の扉を叩く音がする。
私は返事をすることもなく、自分の部屋にある椅子に座ってボーッとしていた。
最近、意識がはっきりしないことが多い。
そういう時は、決まってユウヤさんと一緒にいる時だ。
彼に全てを委ねて、他はどうでも良くなる。
ん? ユウヤさん? なんであいつにさん付けしてるの?
あんなやつ、呼び捨てでいいはずなのに。
なんとなく、アイツとは二人きりにならない方がいい気がした。
再度、扉を叩く音に気付き、私は邪魔くさい気持ちを抑え、返事をする。
「どうぞ。」
扉を開き、イリスが入ってくる。
「アミス様、ミーナ様がいらっしゃいましたよ。」
どうやらミナ姉が来たらしい。
「分かったわ。呼んでもいいわよ。」
「はい、分かりました。少々お待ち下さい。」
そういうと、イリスは扉を出て、ミナ姉を呼びに行った。
◆
少しして、イリスと一緒にミナ姉が部屋に入ってくる。
「アミス、元気? って、元気ないわね。 リトのこと、教えてあげようと思ったのに。」
また、ボーっとしていた私を見て、ミナ姉は少し心配そうな顔をする。
へ? 兄さんの?
少し意識がはっきりした私はミナ姉の方を勢いよく見た。
「お、元気が出たわね。それじゃあ、最近のリトの様子を教えて上げるとしましょうか。」
ミナ姉は小さなテーブルを挟んだ私の前の椅子に腰掛ける。
イリスが私たちの方を見て。
「それでは、私はお茶を用意してお持ち致しますね。」
そう言って、部屋から出ていく。
彼女が出ていくのを見届けると、ミナ姉は最近の兄さんの様子を話し始めた。
◆
「でね、最近、リアが怪しいのよ。」
「へー、そうなんだ。」
イリスが運んできたお茶を飲みながら、ミナ姉の話題は最近の兄さんの様子に続き、周囲で起こったことに移っていた。
どうやら兄さんの悪い癖がまた出たらしい。
あの人は昔から、運命的なタイミングで女の子を助けることがあるのだ。
しかも決まってかわいい女の子。ハーレムでも狙っているんだろうか。
私かミナ姉がいる時は、兄さんに近づく虫を何度も防いできたものだ。
まあ、貴族の中には何人も女性を囲っている人もいるらしいけれど。うーん、やっぱり、あまり知らない人が増えるのは嫌だな。
ユウヤはどうなんだろう。なぜか、ふと、そんなことが気になった。
そんなことを思っていると、ミナ姉がこっちをじっと見ていた。
「アミス、大丈夫? 調子悪そうだけど。」
「そっそう? ミナ姉の気のせいよ。」
慌てて返す私にミナ姉は、そうかなー?と呟きながら首を少し傾げる。
時々、意識が薄れ、ユウヤのことが気になるのだ。
おそらく気づかれてはいないだろうが、ドキリとする。
「ねえ、アミス、時々、ボーッとしてるよ? 心ここにあらず、みたい。何か気になることでもあるの?」
「うーん、なんか最近ね、ユウヤのことが気になるの。」
「へ? どういうこと?」
驚いた顔のミナ姉が目に写る。
あ、私、今とんでもないこと口走った?
◆
目の前にはいつになく真剣な顔で私を見るミナ姉。
「で、どういうこと? 私が言うのもなんだけど、まあ、別にいいのよ、アミスの選択すべきことなんだから、あなたの心がユウヤの方に向くのは。でも、あなたの様子はちょっと違う気がするの。」
それについては私もそう思っている。
「あなたがもしユウヤと結ばれれば、ユウヤが私の義理の弟になるわけだし、ちょっとそれは。」
そうね、……いや、ちょっと待て。
「それに部屋に入ったときから気になってたんだけど、リトに貰った剣はどうしたの?あれ、違う剣だよね?」
そう言って、ミナ姉は部屋の端に立て掛けてあった鞘に入った金属製の剣の方に顔を向ける。
あれ? あの剣、どうしたんだっけ?
たしか先日、ユウヤにプレゼントしてもらった剣だったような。
その剣を受け取った時のことを思い出し、少しニヤける。
……なんで喜んでるの? 私。
あ、そう言えば、兄さんに貰った大切な剣はどこに置いたんだろ?
思い出すのに時間がかかっている私を見かねたイリスが話し始める。
「あの剣はユウヤ様からプレゼントされた剣です。アミス様は最初は断っていたのですが、ユウヤ様が近づいて何か話された後、受け取られていました。」
え? そうだっけ?
戸惑う私を気にすることなく、イリスが続ける。
「ユウヤ様はアミス様の持っておられた剣を捨てておいてやると、アミス様から剣を奪い取ろうとしたのですが、これは凄く大切なものだからと、ユウヤ様を部屋から追い出すとあの奥にアミス様が仕舞われていましたよ。」
そう言われて思い出す。
いつだったか、ユウヤが突然部屋に押しかけてきて、剣をプレゼントと言って押し付けてきたのだ。
しかも私から大切な剣を奪い取ろうとするから、急に気持ち悪くなって追い返してやったんだった。
……なんでいままで忘れていたんだろう。
ミナ姉は、悩んでいる私を見ながら。
「持っているならまずはいいわ。アミス、捨てちゃだめよ、リトからもらった大切な剣なのだから。できるだけ肌身離さずに持っておくこと。それに精神が少し参っているみたいだから、私が治癒の魔法をかけておいてあげる。ふふ、治癒の聖女の魔法って本当は高いのよ。」
そう言って立ち上がったミナ姉は私の横に来て、頭に手を置く。
私の頭を優しく、温かい光が包む。
すこし意識がすっきりしたような気がしたのだった。
◆
朝早く、いつもの自分の部屋で今日も剣の練習に出かける準備をする私に、部屋の隅で控えていたイリスが声をかけてきた。
「アミス様、お兄様の剣を持っていかなくていいのですか?」
「あ、そうね。」
そう言って、私は兄さんの剣を手に取り、練習場に向かう。
練習場に出向くと、すでにユウヤが待っていた。
彼は隣に太った貴族のような中年の男性を従えて、何やらぼそぼそと話をしていた。
「勇者様……この前の村娘……、今度もぜひ……。」
「ああ……解けない……代わりに……。」
「もちろん……、準備は……。」
二人は私に気づいたのか、話を止めて、こちらを顔を向けた。
中年の男がまるで品定めするように私の胸や足を見てくる。
気持ち悪い。
彼はユウヤに一言二言話すと、そのまま練習場を後にした。
残ったユウヤは私の方をニヤニヤしながら見ていた。
彼は私の腰の方に目をやった後に驚いた顔をした。そして、慌てた様子でこちらに寄ってくる。
「アミス、俺のやった剣はどうしたんだ?」
「ああ、あの剣? 部屋に置いているわ。」
「なんでだよ、そんな剣より俺のプレゼントしてやった剣の方がいいだろ? やっぱりそんな剣捨ててしまおうぜ。」
そう言って、私に近寄ると肩に手をかけて話しかけてくるユウヤ。
一瞬、意識が薄れてボーッとするけれど、以前よりは意識ははっきりしていた。
「そう、かしら……。いいえ、やっぱり手になじむ剣の方がいいわ。」
「……そうか。なら今度、手になじむ剣を選んでやるよ。(くそ、なんでだ?かかりが弱いのか?ミーナといい、こいつといいなんでかからないんだ?)」
舌打ちしながらユウヤは私から離れていった。最後に剣を睨むようにして離れていったのがひどく気になった。
◆
ある日、イリスからリリスティアーナ様が私をお茶会に呼んでいると聞いて、イリスに連れられて彼女の待つ王城にあるテラスに向かう。テラスに向かうと、御茶会のためのテーブルがあり、そこにはすでに彼女が待っていた。
私は彼女のそばに寄ると挨拶をする。
「剣聖のアミスです。リリスティアーナ様、遅くなり申し訳ありません。それにこの度はお招き頂き、ありがとうございます。」
そう言って、頭を下げる。
王都で別れる前、兄さんは私のマナーのなさを心配していたみたいだけれど、私もこれくらいの挨拶は出来るようになったのだ。
マナーの教育の最初はうまく挨拶もできずに先生に散々怒られたけれどね……。
……そういえば、兄さん、村で学ぶ機会なんてなかったはずなのになんでマナーとか知っていたんだろ。
あの人、時々、村では学ぶ機会がないような知識を持っていて謎なところがある。
下を向いたまま考え込んでいた私にリリスティアーナ様が声をかけてくださる。
「いいえ、わたくしもあなたと会うのを楽しみにしていたの。さあ、顔を上げてそちらに座ってください。今日はゆっくりとお話ししましょうね。」
私は顔を上げてリリスティアーナ様を見る。
彼女は光を受けてきらきらと輝く銀色のストレートの髪を腰まで伸ばしたすごくかわいらしい美少女だ。
うーん、すごくかわいい。
自分で言うのも何だか私もかわいい方だとは思うけれど、彼女は頭一つ飛び抜けている。
「あ、そうそう、わたくしのことはリリアでいいわ。親しい人はそう呼ぶの。」
「あ、はい。でもさすがに呼び捨てはできませんので、リリア様と呼ばせてください。」
彼女は不満なのか頬をぶーっと膨らませた後、小さなため息をつく。
私は思わず抱きしめたくなる衝動をぐっと我慢する。
これだけかわいいとちょっと卑怯だよね。
そんなことを思う。
「はあ、まあいいわ。じゃ、アミス、よろしくね。」
案内された椅子に座ると、お付きのメイドの人達がお茶の準備を始め、当たりに良い香りが漂い始める。
そして、お茶会が始まった。
私はお茶を入れたカップを置かれたテーブルの上を見て、そこに場違いなものが置いてあることに気が付いた。
どこかで見たことがあるような熊の木彫り人形だ。
って、これ、この場所に合わないでしょ!
リリア様は私の目線の先を見て、パッと顔を輝かせる。
「これはね、木彫りの熊人形っていうのよ。予言の聖女リスティア、わたくしの幼馴染でもあるリスティから今日これを持ってお茶をすると良いことがあると聞いたの。それにね、この熊に出会ったのもリスティのおかげなのよ。王都の露店市場に行けばいいものに出会えるって聞いて、その時に買ったのよ。」
「ええっと、王都の露店で買ったのですか?」
「そうよ、ええと、たしかアミスより少し年上に見えるお兄さんが一人で売っていてね、それにこの腕輪もいっしょにもらったのよ。」
お兄さんと言う言葉に軽く引っかかり、その言葉は私だけのものだと思ったが、今はぐっと我慢してその腕輪をよく見る。
……やっぱり私の腕にあるのと同じ木でできた腕輪だった。
うん、間違いない、あの熊といい、腕輪といい、兄さんだ。
いいでしょー、っと自慢げに見せてくるリリア様にどう言おうか悩む。
悩んだ結果、私はリリア様にちらちらと腕についている腕輪を見せることにした。
気づいた彼女は、パッと顔を輝かせた。
「あ、それ、わたくしと同じ。アミスも持っていたのね。」
「あ、はい。……あの、たぶん売っていた人、私の兄なんです。これも兄にもらったものなので。」
「まあ!? あのお兄さんがアミスのお兄さんだったなんて、それはすばらしいことね。」
その後、兄さん話を中心に話をしていた。
あの熊の人形を見ているとなぜか兄さんに守られているような気がして、話が終わる頃には、最近、頭の中にかかっていた靄のようなものはすっかりなくなっていた。
なんか、今日はすっきり寝れそうな気がするわ。
みんなの助けを少しずつ借りて、アミス、復活回でした。残り一話で閑話は終わりです。当初の予定より長くなってしまいました。
それより、ユウヤが最初に考えていたよりどんどんクズに。もう少しまともな子だったのに。後々、見直そうかと思いましたがこのままで。




