閑話1
閑話を投稿します。もう一話か二話続く予定です。
後で見直すかもしれません。
それでは、久々のアミスをどうぞ。
王都の中央付近に位置する大きなお城。その王城の一画にある一室でアミスは一人、大きなベッドにうつぶせで倒れこんでいた。
「ああ、もう、兄さんに会いたいのに……。」
彼女は、あの日、兄と別れて以来、王城で国王に挨拶した後、王城にある練習場で剣の練習に明け暮れており、兄に会えないことへの苛立ちが募っていた。
「ミナ姉は、兄さんは元気にしてるっていってたけど、兄さんのことだからまた無茶していないといいけど……。」
兄は普段は慎重で諦めも早いくせに、時々、とんでもないことをする。
小さいことから近くでずっと見てきたアミスは兄のことをそう評していた。
そう思い悩んでいると、扉からノックの音がする。
「はーい。」
ベッドにうつぶせに倒れたままで返事をする。
扉が開いて入ってきたのは、メイド服を着たアミスと同年代に見える肩まである金髪のかわいらしい女の子だった。彼女はうつぶせのアミスに気が付くと、大きくため息をつく。
「はあ。アミス様、またそんな恰好で。どなたかを扉の中に招くときは、立って出迎えるか、少なくとも座っておく必要があると言っていますよね。もし高貴な方だったらどうするのですか。最悪、この城から追い出されてしまいますよ。」
アミスは顔を少し上げて彼女を見ると、ブスッとした顔で言い返す。
「何よ、イネス。また小言? それに別に追い出されてもいいわよ、こんなところ。」
イネスと呼ばれたメイドは、また一つため息をついた。
「はあ。またそんなことを。それに、お兄様のことは、ええと、ミーナ様が定期的に教えてくださっているのですよね。」
「そうだけど……。ミナ姉だけずるいわ。だって兄さんにいつでも会えるんだもの。」
「大丈夫ですよ。今の練習ももう少しすれば短くなると聞いています。そうすればお兄様に会いに行けますよ。えっと、王都にいるんですよね?」
「まあ、そうだけど……。え? イネス、さっきなんて言ったの?」
「何がですか?」
「ほら、練習がどうとかって言っていたじゃない。」
「ああ、騎士様たちが話されていたのを少し小耳に挟んだのです。アミス様は筋がいいので、基礎練習はもう少しで終わるだろうと。そうすれば、今よりは練習の時間が減って少し時間に余裕ができるので、外出許可も出ると思いますよ。」
アミスはそれを聞くと、飛び起きてパッと顔を輝かせる。
「ほんと? やった。そうと分かれば、俄然やる気が出てきたわ。」
「まったく、現金なんですから。」
そういって、イネスはまたため息をつくのだった。
◆
アミスの朝は早い。朝食を食べると、すぐに剣の練習が始まる。
彼女は、いつものように、兄にもらった木剣を持って練習場に向かった。
練習場が見えてくると、そこにはいつもいっしょに剣の練習をしている多くの騎士達が既に集まっていた。彼らは少し離れた場所をちらちらと見ているので、目線を追うと二人の若い男がいるのが見えた。
げっ、いやな奴らが来てる。
一人は勇者ユウヤ、もう一人はこの練習場に来るようになってから時々やってくるようになったロイとかいう兄さんより若干年上であろう貴族の男だった。
二人はアミスに気が付くとこちらに寄ってきた。
さっそくロイが声をかけてくる。
「アミス、今日もかわいいな。今日こそあの返事を聞かせてもらおうか。」
あの返事とは会って直ぐにこいつが言い出したろくでもない話のことだ。
少し前、ここで剣の修行が始まってから少しした頃に、若い貴族の男が一人が私に会いに来た。
伯爵家の長男であるそいつは私を見つけると近寄ってきて命令するように言ったのだった。
「ほう、近くで見ると更に良いな。俺の周りを飾るのに相応しい容姿だ。娘、俺のところに来い。」
それを聞いた私は困ったような顔で周りを見て助けを求める。
見かねたのか近くにいた騎士の一人がこいつとの間に入ってくれたので、ようやく状況が分かったのだが、どうやら、王様との謁見の際に私を見て気に入ったのだとか。
その場はなんとか断ったのだが、こいつはこりもせずにやってくるので、一度、練習と称して叩きのめしてやった。
その後は命令口調こそなくなったが、未だにやってくるのだ。
はあ、私は兄さん一筋なのに。
私は一つため息をつくと、次にユウヤのほうを見る。
「アミス、まだそんなおもちゃの剣を持っているのか。そんなものは剣聖には相応しくないって言ってるだろ。いい加減そんながらくたは捨てて、俺が新しい剣を買ってやる。」
こいつも懲りずにこんなことを言ってくる。
本当に嫌な奴だ。
兄さんからもらった大切なこの剣の文句も言ってくるし。
私は返事をすることなく二人に背を向けると、騎士たちが集まる場所に向かった。
◆
部屋で休んでいると、ノックの音がしてイリスが入ってくる。
「アミス様、今日の午後の国王様との謁見の準備はできていますか?」
「まだよー。」
「もう!すぐに準備しますよ。」
そう言ってイリスはベッドに転がっていた私を無理やり起こす。
今日は国王様の娘、第三王女との顔合わせがあるのだとか。
第三王女のリリスティアーナ様は私より2歳ほど年が小さくまだ若いので、先日行われた謁見とは別に顔合わせの機会が設けられたのだ。
面倒くさいと思う反面、私と年も近く、それに結構お転婆らしいリリスティアーナとは会ってみたい気もしていた。
もしかしたら、気が合うかもしれないし。
でも、王女様と親しくしたら怒られるかな?
同世代の話し相手のいない私はそんなことを思う。
イリスは同世代なのだが、堅苦しい口調で、気が休まらないし。
国王様との謁見ともなれば、木の剣と言えどさすがに帯剣は許されず、また衣装も特別なものを着せられる。まあ、兄さんからもらった腕輪はつけていても大丈夫みたいだが。
イリスに言われるがままされるがままに衣装を着せられ、準備を終わらせると、イリスに連れられて、待合室に向かうのだった。
◆
待合室に向かうと、ユウヤと、久しぶりに見たラキさんがすでに待っていた。
ユウヤが私を嘗め回すように見ると、声をかけてきた。
「へえ、アミス、その衣装も似合っているな。」
「……。」
社交辞令としてお礼ぐらいは言うべきかとも思ったが、さっきのいやらしい目線を思い出すと私は無言を貫いた。
そんな私のことを気にした様子もなく、ユウヤは私の腰の方を見た。
「あれ?あの剣は……。そうか今日は帯剣は許されないからな。……ということは今だったら……。」
あいつは私に聞こえない声で何かぼそぼそと言っていた。
興味のない私は謁見の時間はまだかと他所を見ていた。
気がつくといつの間にかユウヤは私のそばに寄っていて、私の肩に手を置く。
「ちょっと何するの……よ、ユウヤ。」
ユウヤに肩に手を置かれたとたんに一瞬、私は意識がぼーっとしてきた。
「まあ、いいだろ、アミス。俺たちの仲じゃないか。」
「え、ええ、そうね。……ユウヤ。」
私は何も考えられず彼の言うことに対してそのまま頷くのだった。
「そうだ、今度、お前の部屋に行ってもいいか?」
「え?」
ユウヤからの突然のお誘いに驚く。
また意識がぼーっとして、そのまま頷きそうになる私は、腕輪から感じた何かに守られるような気配に意識が晴れる。
「い、いえ、それはちょっとどうなの?まだ、そんな仲じゃないでしょ、私たち。」
あれ? 私、なにかおかしい?
「(……っち、かかりが浅いか。まあいい、じっくりやっていくか。)……そうだな。また今度にするか。」
ユウヤはそう言うと私から離れていった。
謁見の間へと続く扉が開く。
あ、どうやら謁見の時間になったようだ。
私は先ほどまでに感じた違和感を振り払うようにして謁見の間に向かうのだった。
次回は来週日曜日よりは早く投稿したいなと思います(追記、水曜日には投稿できそうです)。




