8話 プレゼント
あの後、村長と神父様に連れられていくアミスに付いていき、話を聞き終えるとすでに日が暮れていた。
二人並んで無言で家に帰る。
声がかけづらい……。
家に着くと先ほどの話を思い返す。内容は予想通り、剣聖が表れた場合、王都に知らせる必要があるということ、勇者のお供になる可能性があるということだった。
その晩、家族会議が開かれた。
机には俺以外の三人が既に座っていて、アミスは俯いていた。
「どうしたんだよ、改まって。アミスのジョブのことか?」
あれはどうしようもないだろ、そう思いながらも親父に問いただす。
「いや違う。 いやまあアミスのことではあるんだが。」
勿体振っていう親父に再度聞く。
「だったら何なんだ?」
「アミスは……、お前とは血が繋がってない。」
「へ? 」
「お前は覚えていないかもしれないが、お前がまだ幼い時に知り合いから預けられた子供だ。」
「なんだそんなことか。」
まあ確かにおかしいとは思っていた。アミスは俺とも両親にも似ていなかったからな。
「……兄さんは何とも思わないの?」
聞いてくるアミスは怯えた風に見えた。
「だってアミスはアミスだろ?」
そう言ってやると、彼女は唖然としたあと……。
「あはは、何それ。」
ふっきれたように彼女は嬉しそうに笑うのだった。
◇◇◇◇◇◇
その晩、庭に出て一人座り月を眺めていた。
先ほどの家族会議では結局、アミスの今後についての結論は出なかった。まぁなるようにしかならないということだ。
見上げた月は、前世と同じように丸く黄色い。せっかく異世界なんだから、2つ並んだ月とか色の違う月が見たかったな、そんなことをふと思う。
「兄さん…。」
後ろから声をかけられ振り返るとアミスがいた。
彼女は俺の横に座ると……。
「大変なことになっちゃったね。」
今日のジョブのことだろう。
「そうだな。」
「私もミナ姉と同じように勇者様のお供にいくのかな……。」
「どうだろうな。」
「……。」
そのまま無言でいると……。
「ねえ、兄さん。ううん、リト。結婚しよっか。」
「は?」
思わずアミスの方を見ると、彼女の顔は呼吸が聞こえるほどに間近にあった。
「気付いてるよね、私、あなたのことが好きよ、ずっと。」
アミスは俺を真剣な顔で見つめつづける。
「それに私たち血は繋がってないもん。ミナ姉はこんど別れるって言いに来るんでしょ。勇者様のお供になる前に絆を作っておきたいの。」
「いや、ミーナの手紙はまだそうと決まったわけでは……。」
「……そう、まだ諦めてないのね。」
やばげな雰囲気と暗い目になったアミスを見て慌てる。
「いやいやいやいや、……ほら、そもそもミーナに結婚するって言う前に連れていかれたからなあ。」
「……ふーん、そうなんだ。ちゃんと返事はしてないんだ。」
最後は聞こえないほど小さな声で言い、俺をジーっと見たあと、パッと明るい顔に変わった。
「兄さん、そろそろ家に入ろ。風邪ひいちゃうわ。」
そう言ってドアに向かった。
「なんだったんだ? いったい……。」
それから数日後、アミスを呼ぶと、手に持っていた木剣を渡す。勇者のお供に行くかもしれないと聞き、彼女のために、急いで護身用にと彫ったものだ。
「ほら、それやるよ。家にあったあの糞硬い木を削って作った剣だ。」
「え? ……うん、大切にするね。」
剣を抱えると嬉しそうに微笑んだ。