39話 再び
それではどうぞ。
「あぁぁ。」
リアは戦いを再開することもなく、ただただ砕け散った杖を見ていた。
「お師匠様から頂いた杖なんです。これでもそこらの店で売っている杖より貴重なもの。」
そう言っていたリアの言葉を思い出す。
「ふふ、あははは。杖がなければ魔力の増幅もできないわね。勝負はあったわね。まあ頑張った方じゃない。それじゃあ今から勇者パーティの魔術師は私ね。」
高笑いするヒルデガルドに対してリアは反応しない。
「なあ、メリッサ。」
俺はメリッサの方を見て杖を差し出す。彼女は俺の言いたいことを察したのか。一つ頷くと俺の持つ杖を手に取る。
「本当は決闘の途中で渡すのはルール違反なのですが……。まあ、いいでしょう。それに私もこの杖の力を見てみたいですし。うふふ。」
そう言って杖をじっと見る。
いや、私欲の方が強そうな気が……。
「なにか?」
いえ何もありません。
「まあいいです。」
メリッサが前に出で、二人に声をかける。
「まだ勝負はついていないのでは?ただ、片方の杖が壊れただけです。」
ヒルデガルドが憮然とした顔でこちらを見る。
「何をおっしゃっているのですか?メリッサ様でも神聖な決闘を穢すことはできませんわよ。それに代わりの杖などないでしょう。ああ、日を改めるなんてことは無しですわよ。」
そう言った。俺はメリッサの方をちらっと見るとニヤリと笑っていた。
こわっ。
「いえいえ、杖ならここにありますよ。本当はこちらで戦う予定だったんですよ。ただ、この杖を使うまでもないということでリアさんはそちらの杖を使っていたのです。」
リアが顔を上げると、えっっと驚く。
ヒルデガルドはリアの顔に気づくことなく、メリッサの言い返す。
「ふ、ふん。まあ杖が変わったところで結果は変わらないもの。」
その言葉を聞くとメリッサはリアの方に近寄っていった。
リアは涙で濡らした顔をメリッサの方に向ける。
「……メリッサさん。」
「リアさん、これを。」
リアはメリッサが手に持っている杖を見る。
「え?え?これは?」
メリッサは俺の方をちらりと見ると。
「リトさんからです。あなたのための杖ですよ。」
そう言って彼女に杖を渡した。
彼女は杖を受けとると、驚いた顔で俺の方を見た。
俺は彼女を見て頷き返す。
「あなたのために頑張ったみたいですよ。これで貸しは無しにしてあげてくださいね。」
そう言ってにっこりを笑顔を見せた。
リアはその場でじっと杖を見る。
「(す、すごい魔力。これって国に献上するレベルじゃないの?こんなのもらっていいの?ううん、リトさんが作ってくれたんだから。絶対にこの杖で勝ちます。)」
彼女は俺の方を再度見ると強く頷いた。
「ヒルデガルドさん、私の勝ちです。」
立ち上がるとリアは一言そう宣言した。




