38話 本気
それではどうぞ。
リアが再度倒れたヒルデガルドに声をかける。
「もう終わりにしましょう。」
ヒルデガルドはリアを見上げるようにした後、俯いてぎゅっと杖を握った。
「……ふふふ、そうですね、どうやらこのままではダメそうですわ。」
そう言うと、立ち上がり杖を前に掲げた。
「まさか、そんな貧相な杖を相手に本気を出すことになるとわ。そこは褒めて差し上げますわ。」
そう言うと何かを呟きだすヒルデガルド。
「何をするつもりですか。」
リアも杖を前に出して構える。
「解放呪?」
メリッサがぼそりと横で呟く。
「何ですかそれ?」
すると、今まで後ろで黙ったままじっとしていたバーケルンが教えてくれる。
「強力な力を持つ特定の武器は使い続けると持ち主に負担がかかる、だから、あらかじめ封印することで力を抑えていることがあるのさ。」
「そうです。それを一時的に解くのが解放呪です。」
メリッサが続ける。
「じゃあ、あれも?」
「そうです。ここからがヒルデガルドさんの本気、ということでしょう。」
ヒルデガルドの周囲の地面に青い光が円を描く。
すると、背後に彼女の倍はある氷でできた竜が現れた。
杖の先をリアの方に突き出す。
「行きなさい。」
ヒルデガルドがそう口にすると、背後の竜が口を大きく開ける。
「な!?」
慌ててリアも杖に力を籠める。
竜の口から氷のブレスが吐き出されるのとリアの杖の先から炎の柱が放出されるのはほぼ同時だった。
ぶつかり合う炎と氷。勢いは同等。二人の中央位置でほぼ拮抗していた。
「うぅぅぅ。」
リアは苦しそうに呻くとともに、額を一筋の汗が流れる。
ピシッ。
何かに亀裂が入るような音が響く。
「えっ?」
ピシピシッ。
「う、嘘!?」
リアが焦るように声を出す。
音はリアの杖から響いているようだった。
「だ、だめー!」
パリーン。
リアの叫び同時に杖が砕けた。
「きゃあ!」
氷のブレスによってリアが飛ばされる。
ドサッ。
リアが地面に倒れたのだった。
「リア!?」
俺は駆け寄ろうとするがメリッサに止められる。
リアの方を見ると。ゆっくりとではあるが起き上がろうとしていた。
「大丈夫です、直撃は避けました。ただ……。」
そう言って、砕け散って地面に散らばった杖の破片を見る。
リアは上半身を起こしたままの姿勢で、杖の方を呆然と見ていた。




