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36話 遅刻

それではどうぞ。


宿の一室で一人、俺は完成した杖を手に持ち一息をつく。


「ふう、ようやくできたか。」


あれから数日が経ち、決戦当日の日の朝になんとか杖を作り上げることができた。


「いやーぎりぎりだったな。途中、何度あきらめそうになったことか。」


杖の出来栄えに俺は一人満足げに頷く。


よし、リアに持って行ってやるか。


そう思い、宿の建物の前に出る。そこで俺は気づいた。


「……そう言えば、場所どこなんだ?」



俺は王都の街中を一人走る。


「やばいやばい、場所を聞くのを忘れてた。しかも開始の時間も聞いてねえ。」


向かうは冒険者ギルドだ。あそこに向かえばメリッサかバーケルン、あるいはフーリエが教えてくれるはずだと思い、急いで向かう。


冒険者ギルドに着くと、勢いそのままに建物の中に入ると、受け付を見た。


いた! フーリエだ。


急いで駆け寄ると、フーリエにリアの決闘の場所を聞く。


「フーリエ、リアの決闘の場所と時間を知らないか?」


彼女はいつものうつ伏せの格好から少し顔を上げてこちらを見る。


「へ?」


「リアの決闘の場所を知りたいんだ。」


彼女は俺の焦った様子に気が付いたのか起き上がる。


「えっと、落ち着いてください、リトさん。えっとリア様の決闘?の場所ですか?」


彼女も慌てているのか、語尾もいつもの調子ではなく普通に話している。

俺は急いでフーリエに説明した。


「えっと、すいません、私は知らないです。」


うーん、あと知っていそうなのは……そうだメリッサだ。


「だったらメリッサは?」


「メリッサ様なら朝早くに出ていかれましたよ。」


もしかして、リアの決闘の場所に行った? 遅かったか。

後、知っていそうなのは、……思いつかない、どうしよう。


そう思い、うなだれていた時にギルドの奥から、声をかけられた。


「おいおい、朝っぱらから騒がしいがどうしたんだ。」


声のした方を見ると、バーケルンが立っていた。

俺はバーケルンに状況を説明する。


彼は少し考えると。


「うーん、ってことはおそらくあそこだろう。メリッサの出て行った時間を考えると……、今はまだ決闘が始まる前ってところか。ちょっと待ってろ。」


そう言うと、彼は冒険者の机が並ぶ冒険者の待機場所に向かうと、魔術師の一人を捕まえ何かを聞いている。聞き終わったのかこちらに戻ってきた。


「おう、どうやら間違いはなさそうだ。」


「なあ、場所を教えてくれないか。この杖を渡してやらないと。」


頼み込む俺にバーケルンは杖を少し見た後、こちらを見てニヤリを笑う。


「まあ待て。魔術師ギルドはここからは少し遠い。お前の足じゃ、決闘が終わっちまうかもしれん。」


え?そんな……。


俺は後悔のあまり絶句する。


「いやいや、そんな顔するな、まだ間に合う。よし、俺が連れて行ってやるよ。」


「「え!?」」


俺とフーリエの声が重なる。


「ちょ、ちょっとバーケルン様、書類はどうするんですか?」


それを聞くや否や、バーケルンは俺の首根っこを片手で掴むとそのまま入口の方に走り出した。


「ちょっと、バーケルン様ー!」


フーリエの声が遠ざかっていく。


ごめん、フーリエ、今度何かお詫びの品を持っていきます。


俺はそう心の中で謝った。

その勢いのままバーケルンは建物の外に出ると、俺の胴に手をまわし小脇に抱える。

そして、そのまま走り出した。


えええええええええええ!?


凄いスピードで遠ざかる周囲の建物。

前世のジェットコースターに乗っているような感覚だ。


「おい、じっとしてろよ。」


バーケルンはそう言うが、ベルト無しのジェットコースターは恐怖でしかない。

俺はただひたすら時が過ぎるのをじっと耐えるのだった。

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