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5話 別れ

それからどうしたらいいか悩みながらも答えを先送りにして、はや一年ほどが過ぎてしまった。


あの後、戻ってきたミーナに聞いてみると、王都からの連絡を待つとのことだった。その後、特に何の連絡もなく、以前のような変わらない日々が続いていた。


ミーナも選定の儀のことは忘れたように、すっかり元気を取り戻していた。

ただ、一点違うことがあるとすれば……。


ブオンブオン。


何かを振り回す風切り音がする。

ミーナは俺が護身用に渡したお手製の棍棒を振り回し、素振りをしていた。


悩みに悩んだが答えが出せない俺はミーナのために何かプレゼントをすることにした。

とはいえ、俺の家は貴族のような裕福な家というわけではない。


そこで、自分のジョブを生かして、例え王都に連れていかれても大丈夫なように護身用の武器を作って渡すことにしたのだった。


俺のジョブは木彫り職人。

鍛冶職人ではない俺には頑丈な鉄製の武器なんかは作れない。


よし、木製の武器を作ることにしよう。

ただ、普通の木の武器を作っても護身用にはならないかもしれない。


王都にいくと騎士や冒険者なんかもいるんだろうな。

相手が鉄製の武器を使ってきたら、木製の武器ではきっと役には立たない。


そこで、俺は試しにスキルを使ってみることにしたのだ。

まずは木に硬くなるよう魔眼を使って暗示をかけてみよう。


そこらに落ちている木の枝を拾い、暗示をかけた後、そこらに生えている木を叩いてみる。


カンッ。


木の枝とは思えない音が響く。叩いた後が木にはついて、鉄のような硬さに変っていた。

魔眼ってこんなんだっけ……。

まあいい、どうしてこんなことができるのか分からないが、武器作成に役立ちそうなので良しとしよう。


ミーナに渡した棍棒は暗示をかけて硬くし、振った際に軌跡を捉えられないよう幻惑の魔眼を使った珠玉の一品だ。


あと木にもこだわった。


家の倉庫の奥深くにしまってあった金物でも削れない堅さを持つ入手先不明の木を素材にして魔眼を使って削りあげた一品だ。


基から硬い木が暗示でさらに硬くなっている。出来上がったこん棒はとんでもない硬さになっていた。


作り終わった後で思ってけれど、魔眼ってこんな使い方するんだろうか……。


女の子らしくないプレゼントで申し訳ないと思いながら渡したプレゼントだったがミーナはすごく喜んでいたな。


それ以来、彼女は肌身離さずにお手製のこん棒を持ち歩いている。


そう思い返しているうちに、どうやら日課の素振りのノルマは終わったようだ。


「ふう。」


彼女は一息ついた後、見ていたおれのとなりに座る。


日課が終わるとミーナは俺と他愛もない話をするのがいつもの流れ。

といっても、ミーナの話を聞くことの方が多いが。


「ねえ、リト。」


「どうしたんだ、改まって。」


「私たち、もうすぐ16才じゃない? いい頃合いだと思うのよ。」


いつもと違い、恥ずかしいそうに下を向きもじもじするミーナ。


選定の儀から一年がたち、俺たちの年齢は16才になっていた。

ミーナの言葉に鈍感系主人公ではない俺はさすがに気がつく。


いよいよ覚悟を決めるときが来たようだ。

……まあ、ミーナいつも言ってたしね、結婚、結婚って。


「そうだなミーナ、分かったよ。でもその言葉は俺から改めて言わせてくれ。」


気持ちは決まっているが、この場で流されて返事をするのはよくない。

やはり、男の俺からきっちり言わないと。


「え? うん! 待ってるね。」


一瞬戸惑いをみせたミーナだったが、俺の顔を見て悟ったのか、嬉しそうに笑った。


その後ほかの話をしてその場は別れて家に帰り、後日会う約束をした。


返事のときには何か持っていった方がいいのか? 指輪……は買うお金がないし、木で作るか……。


家に帰り、両親に今日のことを伝える。


祝福してくれる二人を見ると、俺も嬉しくなった。

ただ、アミスは始終俯いていて、ブツブツいっていた。


「……チッ、あの泥棒……、よくも兄さんを……。」


恐くて話しかけれない……。


ただ、その日を境に、ミーナに会うことはなかった。


後から知ったのだが、急遽、王都から呼び出しがあり、村での別れの挨拶も許されずに連れていかれたのだった……。

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