9話 彼女の沸点
よろしくお願いいたします。
おっさんの方をちらちら見る。
「いや、お呼びじゃなさそうだから帰ろうかと。」
彼女はこちらに向き直ると、何を言ってるんだと困惑したような顔で俺を見た。
ただ、手は掴んだまま。
どうやら逃がしてはくれないようだ。
「そうだぜ、お嬢ちゃん。」
そう言って、おっさんはリアの肩に手を置こうとして。
パンッ。
リアは俺を掴んでいないもう片方の手でおっさんの手を払った。
おっさんは思わぬ反撃に後ずさる。
「な!?」
俺も心の中でおっさんと同じことを思った。
「うるさいわね。」
その返事を聞くこともなくリアは手に炎を浮かべる。
「あんた、焼くわよ。」
ええええー!
ちょっと沸点低くない? そんなんじゃなかったよね、君。
パーティの中じゃ、唯一の良心的な存在だと思ってたのに。
一人ショックを受ける。
いや、あのパーティに溶け込んでいるってことは、リアもちょっとあいつらと似たものなんだろうか。
そんなことを一人考えていると、どうやら周りもさっきの様子に驚いているようだった。
「おい、いまの見たか?」
「ええ、無詠唱だったわ。しかもあの速さ……。」
「ああ、ただものじゃないな、あの女。」
いや、違うことで驚いているみたいだ。
精神的にタフなんですね、冒険者って。
その様子に慌ててやってくる受付嬢(仮)。
「ちょっと待ってくださぁい、リア様ぁ。」
更に周りがざわめいた。
「リア、リアってあのリアか?」
「ああ、おそらく勇者パーティのだよ。」
「まさか、あの焼尽?」
「だったらあの炎も納得がいくわね。」
「あれが、後には何も残らないっていう、あの殲滅娘か。」
「おい、じゃあ、あのひょろいのって焼尽の関係者なのか?」
「あのおっさん死んだな、たぶん骨も残らん。」
え!? 焼尽? 殲滅娘?
なにそれ? 二つ名ってやつか?
なんか厨ニ心がくすぐられる言葉がいっぱい出てきた。
いや、それにしても物騒だ。
焼尽って焼き尽くすってこと?
なんか、リアらしくない名称のような。
そこで俺は以前、村でミーナに聞いた言葉を思い出す。
そういえば、爆発音のような大きな音がしたとき、リアは殲滅戦が得意とか物騒なことを言っていたな、ミーナが。
あの時は気にも留めなかったが、もしかすると本当なのかもしれない。
そう思ってリアの方を見る。
手を上に向けて、その掌の上に大きな炎を振らめかせるリア。
今にも罪もない、……たぶん、罪もないおっさんに炎をけしかけそうだ。
おっさんを見ると、さっきまでとは打って変わり顔を真っ青にして脂汗を浮かべていた。
うーん、俺のせいでなんか大変なことになっている。……仕方ない。
俺はリアにひとまず落ち着いてもらうことにする。
「ま、まあ、リア。ひとまず落ち着いて。別に俺は何もされてないし、ね。」
そう言ってリアをじっと見る。
リアもこちらをジーっと見た後、一度、目を閉じる。
「そうね。いいわ、もう行きなさい。」
次におっさんを見るとそう言った。
「はい。」
そう言って、とぼとぼ帰っていくおっさん。
背中が煤けてそうだった。
なんかすまん、名も知らないおっさん。
俺は心の中で謝ることにしたのだった。
この話がひと段落するとようやくミーナの登場です。たぶん、あと6話ぐらい、……でひと段落してミーナを出したいな。




