4話 ジョブ
誤字報告ありがとうございます。いつも助かっております。
15才になった俺は待ちに待った職業選定の儀を行うために村に一つしかない教会へと向かう。
教会には選定の儀を受けるために近くの集落からも子供たちが集まり列を作って待っていた。
俺もその列に並ぶ。
次々にジョブを授かる子供たち。聞こえてくるジョブは木こりや農民などで貴重なジョブを授かってはいないようだ。
ようやく俺の順番となり、一歩前に出ると膝をついて神父様に授かるジョブを教えてもらうためにじっと耳と傾ける。
さて、何がでるか……。ラノベでよくある勇者とか……。
いやいやそれは大変そうだしなぁ。
暮らしに役立つ狩人とかがいいな。
「……リト、おまえのジョブは木彫り職人だ。」
「……へ? 」
まったく予想していなかったジョブに俺は思わず神父様の方を見る。彼は何を勘違いしたのか、こちらを見てにこりと笑うと、深く頷いた。
「……え、えーー!」
ぜんぜんスキルと関係ないじゃん。
なんだかんだでやっぱり勇者やほかの貴重なジョブではと心のどこかで思っていた俺は思わずその場で声を上げた。
俺はとぼとぼと、教会から出る。
教会の外にはアミスが今か今かと俺を待っていた。
「ねえ、兄さん、何だったの? やっぱり狩人? だって、スキルが鷹の目だもんね。」
期待するように目を輝かせるアミス。
そう思うよね。いやいや、狩人じゃないんだよ、木彫り職人なんだよね。
スキルと全く関係ないよね。
そう思いつつ、妹にジョブを告げる。
「いや、えーと、木彫り職人?」
「へっ?」
「だから、木彫り職人。」
俺は大切なことだというように二回繰り返す。
彼女も鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。
少しの間、アミスも口を開けたまま、唖然としていた。
おそらく、ジョブを告げられた時、おそらく俺もこんな顔をしていたのだろう。
彼女の顔を見てそう思った。
◇◇◇◇◇◇
狩人のジョブを得て千里の魔眼で安定生活という俺の夢は早々に断たれた。
こうなったら木彫り人形をこの村の特産品にして儲けてやると意気込む。
さてまずは何を作るか、ジャイアントキラーベアーがヘルサーモンを銜えた木彫り人形でも作るか。
などと考えていると教会の方が騒がしくなる。
「兄さん、どうしたんだろうね。」
そう聞いてくるアミス。
はて、貴重なジョブ持ちでも現れたんだろうかと周りの声に耳を澄ます。
「えっ!ほんと?」
「聖女だって!?」
そんな声が聞こえた。
どうやら貴重ジョブの聖女が出たらしい。
気になって、教会の中に入る。
騒ぎの方に向かうとそこには戸惑いながら立ち竦んでいるミーナがいた。
「あっ、リト……。」
彼女と俺の目が合うとミーナは駆け寄ってきた。
「どうしよう、リト。わたし……、聖女って。ねえ、勇者様のお供になるのかな。魔物と戦ったことなんてないし……。」
いつもの明るい彼女とは違い、怯えた様子で俺を見てくる。
彼女の言う通り、聖女は勇者のお供になるとの習わしがある。
ただ、聖女は一人だけと言うわけではないらしく、年の近いものの中から一人、勇者のお供が選ばれると聞いたことがある。
いくら美少女でもこんな片田舎に住むミーナが選ばれることはないだろう。
選ぶとすればもっと血筋のいい人間から選ぶはずだ。
ミーナに心配しなくてもいいと、聞いた話を伝える。
「そうだよね……。」
さっきよりはマシな顔になった彼女を見て少し安心する。
「おお、ミーナ、そこにいたのか。それにリトにアミスもいっしょか。」
声のした方に顔を向ける。
「村長。」
そこには村長がおり、後ろには神父様もいた。
「ミーナ、そう心配することはない。確かに聖女は珍しいがそうそう勇者のお供になるもんではない。のう、神父様?」
「そうですよ、ミーナ。あなたはまだ聖女候補なのです。聖女になる可能性のあるものが現れたことは王都に連絡しますが、候補は他にもいますし、そのまま村に残るものもいるのですよ。気にせず王都からの連絡を待ちましょう。」
「さあ、王都に連絡するためにいろいろ手続きがある。こっちに来なさいミーナ。」
「はい……。」
やはり心配なのかミーナは二人に連れられて、とぼとぼと歩いていく。
「なんか大変なことになっちゃったね、兄さん。大丈夫かなミナ姉。」
アミスも心配そうにミーナを見ていた。
「神父様も言っていただろ。大丈夫さ。」
俺はアミスにそう返したけれど……。
これってラノベの幼馴染ものでよくある勇者のお供になるパターンじゃねえの、そう思わずには居られなかった。
ミーナは嫌いじゃない。……どちらかといえば好きだけれど、魔眼のことを考えると騒動に巻き込まれたくはないし、この村でひっそり暮らしたい。
……さて、どうすればいいんだか。
もし前世の記憶がなければ、俺はどうしていたんだろう、そう思わずにはいられなかった。