2話 妹
「兄さん、朝から大声なんか出してどうしたの?」
一人考え込んでいると、先ほどの起きた時の声が聞こえたのか、金髪の髪を片方に束ねた俺とは似ても似つかない可愛らしい女の子が部屋に入ってくる。
彼女はアミス。二才下の俺のかわいい妹だ。彼女は美少女と言っていい容姿をしていた。
よくよく考えるとこんな片田舎にこんな美少女って場違いだよな……。ゲームとかだと間違いなくヒロイン候補だろう。
「こっちをじっと見てどうしたの?」
「えっ? あぁいや。」
昨日までとは違った感覚で彼女をじっと見ていた俺は、自分のスキルを思い出す。
マズイと思い、自分の眼の色を見られないようにあわてて横を向いた。
「どうしたのよ?突然横なんか見て。あっ、もしかして私の顔に見とれちゃった?」
そう言うと、にやにやしながら俺の向いた方に回り込んで顔を覗きこんできた。
しまった。
眼の色を見られた、そう思いながら、上擦った声で聞いてみる。
「そ、そんなわけないだろ、アミス、えっと、へ、変なところはないかな?」
「え? 変なところ? うーん。」
こちらを真剣な顔でじーっと見たあと、にっこりと笑った。
「とくにないわよ。いつもどおりの兄さんよ。……あ、もしかして、さっきの声。 とうとうスキルに目覚めたの?」
ベッドに乗り掛かり、体が触れあうぐらいに近づけてくる。
昨日までと違い精神的に変化した俺は、妹からのスキンシップに緊張する
「そ、そうなんだ。」
「へー。良かったね。で、なになに? 教えてよ。」
さらにぐいぐい来る妹に俺は唯一話しても問題なさそうなスキルを答えようと思い、少し思いとどまる。
たしか魔眼持ちは国にとって貴重な存在で、貴重な魔眼であれば見つかり次第、捕らえられ隔離し管理されるのだとか。
話せそうな千里でも、その能力は千里を見通すもので、戦ともなれば重用されるものの一つである。
そして、そもそも俺は、王都から遠く離れたこの村でのゆったりとした生活が気に入っていた。
「……えーと、鷹の目みたい。」
俺は、少し遠くが見えるスキルを答えた。
これだとスキルを読まれない限りばれないだろう。
「へー。鷹の目かー。たしかにちょっと眼の色が水色っぽいかも。兄さんの狩に役立ちそうだね。 だったら兄さんのジョブは狩人とか弓使いとかかなー。」
ジョブはスキルに引っ張られるのか、はたまた逆にスキルがジョブに引っ張られるのかは分からないが、スキルとジョブは関係することが多いということが経験上、知られていた。
アミスはうんうんと何か納得したように頷いていた。
「ほら、もう分かっただろ。さあ退いた退いた。」
そう言って、いま跨って顔を近づけている妹にベッドから降りるように促す。
「はーい。それじゃあ、父さんと母さんにも教えてくるね。」
アミスはさっとベッドから飛び降りると、俺の返事も聞かずに両親のいる台所の方にかけていった。
さて、両親のもとに向かう前に、これからのことを考える。
通常、貴重な魔眼、とくに人心に影響を及ぼす魔眼は眼の色が変わることが知られている。
知っている限りでは次のようなものだ。
魅了:赤
暗示:青
幻惑:黄
にも関わらず、なぜか俺の眼の色は変わっていないように見えるらしい。
うーん、これが転生特典ってやつだろうか。
そう思い、これ以上考えても仕方ないと、このことについては考えるのを止める。次に、これからのライフプランだ。
おそらくこのスキルを使いこなせば、冒険者でも、王国の兵士でも成功は約束されたものだろう、もしかすると騎士や王にだってなれるかもしれない。
まぁ、持っているスキルが見つからなければだが……。
ただ、有名になればなるほどバレるリスクも増えるのは必然。
よし! 今世の方針は、スキルは隠してこの村でひっそり暮らすだな。
そう決めた俺は両親と妹の待つ台所に向かうのだった。