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ドコルタ!  作者: カレーライスと福神漬
4/9

腹ごしらえ

「アホウ!カレーあじのガムだと?

どこが新触感しんしょっかんなんだ?

そんなアイデアは、トイレにながしちまえ!」

 一喝いっかつくらって、ソフトクリームに伸びるのり子のした静止せいしした。

「だって社長は、前例ぜんれいのない味の付与ふよも、

充分じゅうぶんロッタの条件じょうけんたすって言ってたもん」

 した活動かつどうはなめらかに再開さいかいされた。

意味合いみあいを咀嚼そしゃくできていない。

きみのは、たんなる味のレパートリーにすぎない。

よこっとびの発想はっそうじゃダメ。

今回のようなビッグプロジェクトに要求ようきゅうされるのは、

たて・・すなわちverticalなジャンプさ」

「コロンブスのタマゴみたいな」

「そうそう。いまや、あたりまえの食品になっているカップヌードルだって、

あざやかな工夫くふうらされている。さすがというほかない。そのレベルさ!」

(がん)()さんの頭脳ずのうのなかには、

つぎなる新触感しんしょっかんのガムの発想はっそうはあるワケですか?」

「それをいまさがしてる最中さいちゅう

「見つかりそう?」

「見つけるのさ!なんとしても!」

「とんだ、おじゃまむしだったようね、私」

「・・でもない。

初心に帰った気分がする。

ビギナーズラックはバカにならないぞ。

カレー味だったら、チョコレートやキャラメル方面に可能性かのうせいはあるかもな。

コントラストねらいで」

(がん)()さん、

やつれているようにみえて、生き生きしてる。

ふだんとちがって表情ひょうじょうのニュアンスがゆたかよ」

「そうかい?

なんだか、いかけているような、われているような・・みょうな気分さ」

「ガンバってちょうだい。そろそろ私、消えるから」

 のり子は伝票でんぴょうをつかんで、しなやかに立ちあがった。

「ちょっと待った!」

 相手の声に反応はんのう

 表情を出さずに伝票でんぴょうもどす のり子 (しめしめ)。

「車で来たんだろう。

気分きぶん 転換てんかんしたいから、乗っけてってくれよ」

 そういうと(がん)()は、伝票でんぴょうを彼女の手にもどし、サッとせきを立った。

 (つぶ)らなひとみから、コンチクショウ光線が発射はっしゃされる!


 赤のBMWがかぜを切って進んでいく。

 景色けしき後方こうほうにビュンビュンっていった。

 お世辞せじにも安全運転とはいいがたく、

 叔母おばの血を引いているのはうたが余地よちなし。

 社長もスピード狂だ。

 ドライバー席から顔を横に向けるのり子。

(がん)()さん、どこまで行けばいい?」

群馬県ぐんまけんのここだ」スマートフォンのモニターを見せ・・

 ・・「うまいものゴチソウするから」と言ってウインクした。

「なんだろう?ちょっとワクワクしちゃうな」

 スピードいのはいった顔をホッコリさせる。

 着いた先は・・無人むじんのオートスナック!

 とびらを開けると、ズラーッと自動じどう 販売機はんばいき 御一同ごいちどうさまのお出むかえ。

 大型コインランドリーのように、テーブルと椅子がいてある。

 お客はほかに誰もいなかった。

「わざわざ、千葉ちばから群馬ぐんままでてコレかよ!」

 スピードいからシラフへ。げんなりする宗像(むなかた) じょう

「さー、着席ちゃくせき

遠慮えんりょはいらない、好きなものをってくれ」

 のり子の肩をポンとたたく。

 年季ねんきのはいっためん販売機はんばいきにコインを入れ、

 ニキシーかんとニラめっこしつつ、でき上がりを待つ。

 秒読びょうよ完了かんりょう

 同時どうじに、プラスチック容器ようきに入った海老天えびてんうどんが、

 性急せいきゅうかんじですべるように、取りだし口へ姿をあらわした。

 ホカホカ湯気ゆげをたてている。

「けっこう、本格的ほんかくてきなんだ。

天ぷらも貧弱ひんじゃくじゃないし。山菜さんさいやカマボコも美味おいしそう」

 どんぶりをしげしげとのぞき込む、のり子。

 おつぎひかえしは、トーストサンド。

 熱々(あつあつ)のトーストがアルミはく梱包こんぽうされて、ご登場とうじょう

 (がん)()は、ボンナイフでアルミはくをカット。

 めくって、パンを刃先はさきちあげ、なかを見る。

 トロけたチーズとハムが、んがりトーストに、サンドされていた。

 食欲しょくよくをそそるイイ匂い。

 大トリをかざるのは、カレーライス。

 あたためられたライス+レトルトカレーが、

 親亀おやがめ子亀こがめのようにかさなってお目見めみえ。

 ライスの容器ようきの中には福神漬ふくじんづけも入っている。

「ワォ、行きとどいてる!」目をまんまるにする、のり子。

 トーストサンド、湯気ゆげの立つ天ぷらうどんにソバ、そしてカレーライス。

 飲み物はかみコップ入りのソフトドリンクである。

 ちょっぴりおそめのランチコースのはじまりはじまり。

「いっただきまーす!」

 のり子はうどん、

 (がん)()はソバをツルツル口にはこぶ。

 んだ空気くうきは、食欲しょくよく 促進剤そくしんざい

 味覚みかくのメータを否応いやおうなく上げた。

 麺類めんるいかたずけ、つづいて(二等分にした)カレーライスを、もぐもぐ食べる。

 ソフトドリンクでアクセントをつけ、フィニッシュはトーストサンドでめた。

 満腹まんぷくなり。


「ごちそうさまでした」合掌がっしょうポーズをするのり子。

「ガソリン代のほうが食費しょくひ上回うわまわっているのに、この充実感じゅうじつかん

こころ贅沢ぜいたくした気分」

「そいつは良かった。じゃあ、おひらきにしようか」

 二個のからどんぶりをかさね持つと、(がん)()は立ち上がった。

「ストップ!こんどは私のほうにつきあって。

ライブのチケットを持ってるの。ちょうど二枚。

入手にゅうしゅ 困難こんなんなプラチナよ」

友達ともだち さそいなよ。これから、また出かけるんだ」

「どこへ?」

「うーん、野暮用やぼようだ」(ピンサロだ)

「あれで白黒しろくろつけましょう。私が、負けたら解放かいほうしてあげる」

 朱色しゅいろのおみくじ自販機じはんきゆびさした。

「よし、けた!」


 <きち>をいた(がん)() ━ 「ヘヘ、いただきマンモス!」

「フフ、残念ざんねんでした」 ━ のり子は<大吉だいきち>をヒラヒラさせた。

 あっさり勝負しょうぶはついた。

「カンベンしてくれよ。ライブは拷問ごうもんにひとしい。

耳がいたくなるんだな。空気くうきわるいし」

けた人間にんげんは、うだうだ言わない。だまってきあうこと!」

 赤のBMWは一路いちろ、新宿へ向かった。


 ライブハウスの窮屈きゅうくつな入り口から、

 かかりいんの指示にしたがって若者たちが寿司ずし状態じょうたいならんでいた。

 人、人、人である。

 ほとんどが無表情むひょうじょうでスマートフォンのモニターとニラめっこしている。

 けったいなメイクをほどこした者もチラホラじっていた。

 (がん)()の目には、なにやら不気味ぶきみ光景こうけいうつった。

 わかしゅうとのあいだにカベを感じるのだ。

「オレも年を取ったなァ」

 26歳にしては、ちと早すぎる感慨かんがいむねく。


「バンドの名前はなんていうんだ?」

 のり子は、電子チケットを示して、バンド名をゆびでなぞった ━ Sapodilla。

「サポジラ?」

「うん、英語読みすればね。

でも、正式バンド名は Sapodilla <サポディラ>と発音はつおんするの。

とっても有望ゆうぼう

将来しょうらいBIGになる。間違まちがいない」

 企画きかく会議かいぎのときの社長と同じような目をした。するどい目。


 定刻ていこくどおり、ライブハウスへ入場にゅうじょうする。


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