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ドコルタ!  作者: カレーライスと福神漬
3/9

調査員

「ところで・・

(がん)()さん恒例こうれいの・・

むちゃな要求ようきゅうは・・いまのところなしですか?」


「いまのところね。

<食べられるガム>のときはまいった。

『ディズニーランドをまる一日()ってくれなくちゃ、

このプロジェクトから、オレはりる!』なんて、強硬きょうこうにダダをこねやがって。

仕方しかたがない、すったもんだのすえ、

なだめすかして<花やしきで>妥協だきょうしてもらったわよ」

「そのくせ、ご当人とうにんは、三十分もいなかった。

ジェットコースターに乗っただけで、ご帰還きかん

最高級のゼイタク&わがまま。 発明家はつめいかって王族おうぞくですよね。

結果けっか、おこぼれとはいえ、楽しい時間をすごせてラッキーだった」

「私だって、もったいないから、

ぜんぶの乗り物とアトラクションと売店を制覇せいはしたわよ」 

「売店で食べ放題ほうだいのオプションつきが、

(がん)()さんの出した交換こうかん 条件じょうけんでした。

六人部師むとべしのたのしそうな顔も忘れられない。

引きこもりなのに、遊園地()きって、なんか面白い。

戸井さんはお屋敷やしきがおしたようで、ご満悦まんえつでした」

六人部むとべさんは、自閉じへい 傾向けいこうの強い人。

ただし、モサモサした外見がいけんとは裏腹うらはらで、仕事は早い。

しめ切りに遅れたこともほとんどない。

器用きようなタイプなんでしょうね。

しかし・・(がん)()くんときたら。

ヤツは・・あつかいがムズカシイ。

思考しこうわくのない人とでもいうか。

境界線きょうかいせんギリギリ。

ほんとうに紙一重かみひとえという人種じんしゅだと思う。

かまえばヘソをげるし、ほうっとけばいとの切れたたこ

手綱たずなさばきにはたいそう神経しんけいを使う。海のような気持ちで接するしかないわ」


 のり子は顔をキラめかせると、

 きびきびとした動作どうさで、バッグからファイルをき、

 社長のデスクの正面しょうめんに立った。

報告ほうこくいたします」れのある表情で簡潔かんけつに言葉を発した。

(がん)()氏のバイオリズムは目下もっか上向うわむ傾向けいこうにあります。

発明はつめいモードに入っているか、

もしくは、それに近い状態じょおうたいだと推察すいさつされます」

 宗像むなかたのり子 ━ そう彼女は、表向おもてむきはBF社の事務員じむいん

 うらの顔は  ━ 調査員ちょうさいんであった。

根拠こんきょは?」

性欲せいよく亢進(こうしん)です。

日をけず、よるひるな、ピンクサロンにあしをはこんでいます」

 くちびるをまるくひらき、ほほをすぼめ、したを向くと、

 リズミカルに顔を上下じょうげさせた。

「バカもん!嫁入よめいり前のむすめのすることですか。

はじを知りなさい、はじを」

「これは、『プラマナ』開発時かいはつじ同様どうよう行動こうどうです。

発明はつめいたましいはいると活動的かつどうてきになる、(がん)()さんの特徴とくちょうパターンであります」

一理いちりあるようね。ほかには?」

「やたらと牧場ぼくじょうかよっています」

「それで?」

うしを見ています」

意味合いみあいは?」

不明ふめいです。ただただ、牛を見ています。マンガ喫茶きっさにもよく行ってますね」

「ただただ、マンガを読んでいる?」

「ええ。『巨人きょじんほし』っていう昭和しょうわ作品さくひんです。

となりのブースから、椅子いすに乗って、こっそりのぞいたところ、

マンガを読み、PCでAVを鑑賞かんしょう同時どうじにパラダイス・テレビも見ていました。

ながらH族!ティッシュ消費量しょうひりょう相当そうとうです」

「若いからね、彼」社長は眉根まゆねを寄せた。

「まだまだ時間はあるし。ちの一手いってで、気長きながにいきましょう」 

「こちらからアプローチを仕掛しかけてみたらどうでしょうか?

(がん)()さん、かなりんでいるみたいで、

すこし()せたし、目の下に(クマ)ができていました」

「よけいなことだけはしないで。()せも、(クマ)もまいどのこと。

新商品の開発かいはつっていうのは、そこなしぬまみたいなところがあるから。

高給こうきゅう取りの宿命しゅくめいよ」

「ねえ、叔母おばさま。くまで待とうもアリだけど、

ときには、かせてみようスピリットも必要ひつようです。

(がん)()さんのマインドに刺激しげきあたえて、ケミカルを起こさせる。

私にまかせていただけませんか?」

公私こうし 混同こんどうはつつしむべし!

会社では社長と呼びなさい!

それに、あなたの報告ほうこくによれば、開発かいはつモードに足をふみ入れているのだから、

前回ぜんかい 同様どうよう辛抱しんぼうづよく待つべき。したがって、提案ていあん却下きゃっかします!」

「しかし、叔母おば・・社長しゃちょう

ハッキリ言って、今回こんかいの<新触感しんしょっかんのガム>のミッションはハードルたかすぎ。

『プラマナ』のときとちがって、(がん)()さんの内面からSOSをかんじる。

すこしだけ、こころをほぐしてあげられたらなあっていう、

無私むし気持きもちから提案ていあんしているんです」

「ウソつきなさい!

(がん)()くんにかこつけて、経費けいひを引っぱり出すのが魂胆こんたんなんでしょう?

車のローン、三か月分(とどこお)っているそうね」

 瞬間しゅんかん顔をしかめると、のり子は口を閉じ、

 スマホに画像がぞうを立ち上げて、社長に見せた。

 (がん)()近影きんえいを見た竜子りゅうこは、メンソールタバコに火をつけ、

 しばしちゅうを見つめる。

 ふわっとケムリをきだすと、決断けつだんをくだした。

「わかったわ。許可きょかします。

ただし、くれぐれも、彼の機嫌きげんだけはそこねないでちょうだい。

もし粗相そそうをしでかしたら『ぷかぷかクジラ・プロジェクト』の責任者せきにんしゃよ」

 ドライをよそおっていても、社員思いにかけては、人一倍ひといちばいなのである。


 少しばかり肌寒はだざむくはあるが、春の日射ひざしの明るい、ある日の午後。

 ブラザー牧場のさくりかかった(がん)()は、

 ロッタのチューインガムをみ、

 ホルスタイン牛が草を()むのをジッと見つめていた。

 モシャモシャと草をむ牛。

 クチャクチャ音を立ててガムを(がん)()

 人と牛。

 目と目が合う。

 言葉ことば意思いしも通じない。

 お見合い状態じょうたい

 変なが生じた。

 牛の方で、お見合いをきらったのか・・「モォー!」とひときした。

 牛の真髄しんずい。みごとな鳴きっぷりだった。

 ふたたび、われにかえったように草をむ牛 ━ モシャモシャ。

 かずに見つめる(がん)() ━ クチャクチャ。

 (がん)()背後はいごしの八頭身はっとうしんかげ

「ワッ!」両手で背中にアタック。

「んガくく!」気管支きかんしにガムをつまらせ、目を白黒させる(がん)()

 八頭身はっとうしんの人物は、動作どうさにターボをかけ、

 背後はいごから(がん)()のみぞおちへ両手りょうてまわし、「ハアーッ!」気合きあいを入れ、

 彼の身体を持ち上げると同時にグイ! ━ コブシをしこんだ。


 ガムは(がん)()の口からポトリと落ちた。


「ゴメンなさい?大丈夫だいじょうぶ?」

「バカたれ!ガムの開発者かいはつしゃがガムをのどにまらせてくたばったら、

シャレにもならんぜ」

おこ気力きりょくがあれば、後遺症こういしょうはナシと見た」笑顔をみせるのり子。

「なにしに来たんだ?スパイ活動か?」

人聞ひとぎきの悪いこといわないで。たまたま通りかかっただけ」

「バレるうそをつくとは、図星ずぼしだな?とっととかえりな」

「いまのは冗談じょうだん

まっとうな用事ようじたのよ。

私に<新触感しんしょっかんのガム>のアイデアがかんじゃってさー。

ビギナーズラックかもしれない。

それを開発かいはつのエースにいてもらいたくって」


 かたくなな(がん)()の表情が少しばかりほぐれた。

「ほーう、言ってごらんよ。参考さんこう意見いけんぐらいにはなるかもしれない」

「ここはさむいな。牧場ぶくじょうのカフェで、

コーヒーにソフトクリームといきましょう」

 レザーのコートを着ているのり子のスカートは短く、ひざ小僧こぞうが見えていた。



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