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お弁当のおかず交換は仲良しの証

 押し入れ内の増築も済ませ、ぬいぐるみを配置し終えた翌日。2時限目が終わり休み時間に入った時のこと。


「あっ!」


「お」


 2年の教室から出ると、昨日出会った女の子に声をかけられた。


「昨日の人っすよね?! あれ?! 先輩だったんすか!?」


「あぁ、そうだ。むしろ、年上だって知らなかったのになんちゃって敬語を使ってたのか?」


「ウチはこれが標準装備の口調なんですぅ!」


 それは特定の異性を狙っているのかどうかが疑問だな。小さな体躯と薄桃色の髪も合わさり、小悪魔キャラめいた雰囲気を感じる。わざとならば小賢しい悪魔だし、天然ならば小生意気な悪魔だ。

 袖口をぎゅっと握り込み、ジトッとした瞳でこちらを見上げる。


「先輩は、女の子が困っていても助けてくれないんすね」


「助けるって、男2人と言い合ってた場面でのことを言ってるのか? あれは片方に肩入れする状況じゃなかったじゃないか」


「いいえ、昨日の場面ならウチの援護をするのが正義のオトコノコってところじゃないっすか」


「善悪の判断がつかなければ、助けるも何も無いだろ。女の子だからとか、立場的に弱いからだとか、そんな理由は一切関係無い」


「うわー……、無駄に真面目っすねー……」


「無駄とは心外だな。第一印象に流されず、きちんと状況を把握する心がけをしているだけだ」


「ふーんだ、いいっすよいいっすよー。例えばこの世界が恋愛シミュレーションゲームとかだったりしたら、ウチのルートが閉ざされちゃったりするんすからねー」


「べつにお前を攻略する気は無いから問題無い」


「ひっどーい!」


 毛を逆立たせてうがーっとがなり立てる。昨日に引き続き、また周囲の視線を集め始めた。


「お前……、そんな性格だから昨日だってトラブルを起こしたんじゃないのか……」


「ウチは悪くないっすもん!」


「分かった分かった、確かに悪くはないかもしれんが、少しは状況を考えろ。今お前がいるのは2学年のクラスが連なる廊下だ。そこで下級生が1人騒いでもみろ。上級生から変に目をつけられても知らんぞ」


「……!」


 諭すような口調で説明すると、さすがに場の雰囲気を察したのか途端に押し黙った。

 八つ当たりの恨みがましい視線を向けてくる。


「う~……、しゃーないっすね。今日のところは身を引くとします」


「そうしてくれ」


「疲れきった安堵の表情がムカつくっすけど、ここはぐっと堪えましょう。不測の事態を確認できたのは収穫っすから、それで手打ちってことで。それではっす」


 女の子は捨て台詞を残し、さっさときびすを返して立ち去った。

 一連の様子を見ていた真里が、教室から顔を出す。


「ねぇ、いまの子はなんだったの?」


「知らねぇ……。俺が聞きたいくらいだ……」


 答えになっていない返事だったが、俺の疲れた顔を見た真里はそれ以上の追及をしてこなかった。


******


 昼休み。中庭にて。

 俺、真里、池で桜の木の下に陣取り、各々が弁当箱のふたを開ける。


「じゃじゃーん! 今日は気合いを入れて作ってきたのよ!」


 真里の宣言通り、箱の中には様々なおかずが入っていた。ミニトマト、ポテトサラダ、レタスの野菜に始まり、鮭の切り身、ししゃも、数の子の海産物が続き、酢豚、肉詰めピーマン、鶏のからあげまで完備している。


「おい、これはさすがに張り切り過ぎじゃないか……?」


「昨日はみぞれさんに大したお返しができなくて、すっごく悔しかったのよ! これだけラインナップがあれば、間違いなく満足してもらえるはずだわ!」


「てか食いきれるのかよ……」


 さて件のみぞれさんは……? と視線を向けて様子を窺う。


「ーーーー」


 池は、披露された弁当箱を真剣に見つめていた。


 次いで手帳とボールペンを取り出す。


『どれも美味しそう』


「っしゃあー!」


 真里さん渾身のガッツポーズ。歓喜の叫びが校舎に当たって反響した。


「みぞれさんはどれがお好みかしら。ポテトサラダ? 鮭? いえもう全部あげるわ!」


 ぐいぐいと真里が迫る。さすがの池も無表情ながら、わずかに上体を反らして距離を開けていた。


『好き嫌いは無いの』


「あら、そうなの? 嫌いなものが無さそうなのはイメージ通りだけれど、好きなものも無いのは珍しいわね」


『正確には違うのだけれどね』


「どういうことかしら?」


 問われた池は軽く目を閉じ、すぐに開いて文字を書き出す。


『美味しいものは全部好き。優劣なんて無い』


「こんなところまで優等生だなんて……!」


 真里の心酔っぷりが半端無い。こいつ、池を好き過ぎだろ。

 お喋りも結構だが、昼休みの時間は限られている。そろそろ食べ始めないと優雅なランチタイムとはならないだろう。


「なぁ真里、おかずの交換をするのは良いが、そのためには筆談してもらわなきゃならんだろ。食べる前からあんまり盛り上がってると、肝心の交換する時間が無くなるぞ」


「そうだったわ!」


 池も同意件なのかコクリと頷く。


「みぞれさんのお弁当も見せて!」


『珍しいものは無いけれど、どうぞ』


 真里と池が和気あいあいとおかずを交換し合う。一口食べる毎に喜ぶ真里の姿は、見ているこっちまで嬉しくなってくる。

 2人の様子を微笑ましげに眺めていると、池がこちらへジッと視線を向けてきた。


「どうかしたか?」


『あなたも、交換しましょう?』


 まさかのお誘いがかかった。


「俺もいいのか?」


『もちろん』


「そいつはありがたいね」


 正直なところ、交換している光景に多少は羨ましさがあった。確認に問い返しはしたものの素直に受け入れる。


「あら、悠一も混ざりたかったの? あたしのも交換していいわよ。あんたの好きな鶏のからあげもあげなくはないわ」


 真里からもお誘いがかかった。

 俺は自分の弁当箱へと視線を落とす。

 会話に混ざらず食べ進めていたため、おかずはもうミニハンバーグ1つしか残っていない。交換する相手はどちらか1人を選ばなくてはならない。




 どちらと交換しようか。


☆真里  33%

 池   67%




「なら、真里のおかずと交換させてもらおうかな」


「ええ、いいわよ。やっぱりからあげ狙いかしら?」


「いや、からあげは明日三悠に作ってもらうから今回はいいかな。肉詰めピーマンと交換しないか?」


「構わないわよ。交渉成立ね」


 2人ほぼ同時に相手の弁当箱へと箸を伸ばし、真里はミニハンバーグを、俺は肉詰めピーマンを掴んだ。

 そして、あることに気が付く。


「ってお前、これかじりかけじゃねぇか」


 箸で掴んで全貌があらわになると、見えていなかった下半分が噛み切られていると判明した。


「あら、分かっててそっちにしたんじゃないの?」


「分かってたら選んでなかったよ」


「そう? けれど残念でした、もう交渉は成立しているので、返品対応は受け付けておりません」


「クーリングオフを求める」


「唾液のついた箸で触れたため、中古品とみなしお受けいたしません」


「それ以前にお前の唾液も歯形もついてるんだけど!? そもそも商品として不適切じゃないのか?!」


「そもそも、クーリングオフは企業に対して有効な権利です。個人間の契約には適応させられません」


「くっ……!」


 返せる言葉が無くなってしまった。この口論は、俺の負けだ。

 真里はわずかに目を細め、ジト目でこちらを見据える。


「なによ、家では同じ鍋の具もつつき合うのに、今さらそんなことを気にするの?」


「いやなんてーか、若干騙された感があっただけだ」


「ふーん、そ。それは悪かったわね。ならお詫びに、からあげも持っていっていいわよ」


「べつに、ただ反射的に言い返していただけだ」


 そう、初めから不満など無い。かじりかけじゃないかと口にしたのだって、不平ではなくただの事実確認でしかない。

 俺は肉詰めピーマンを一口で頬張り、残っていたご飯もかき込んで弁当箱を空にする。


「ごちそうさまでした」


 一足先に完食し、両手を顔の前で合わせた。


「ーーーー」


 それと同時に、真里をジーっと見つめ続けていた視線に気が付く。


「みぞれさん、どうかしたの?」


 真里も自身が見つめられていたのだと気が付き、視線の主、池に質問をした。

 池は返答のために視線を手帳へと落とす。書き終わると、俺達2人に文面が見えるように掲げた。


『家では、と言うのは、いつも一緒にご飯を食べているということ?』


「!」


 真里はその問いが予想外だったのか、驚きに身を跳ねさせる。


「えっとね、みぞれさん! いつも一緒ってわけじゃないのよ! あたしと悠一は昔から家族ぐるみで付き合いがあって、べつに深い意味は無いの!」


 何に対する弁解だよ……。とも思ったが、確かに年頃の男女が頻繁に食事を共にするのは特殊と言える。食事、ひいてはそれ以上の関係性を想像される可能性は否めない。


『仲がいいのね』


 だが池は、下手な勘繰りはせずに事実だけを確認した。こういった配慮までもできる、心の底から優秀な人間なのだろう。

 真里も余計な不安は抱かずに済むと察したのか、気持ちを落ち着けて言葉を返す。


「ええ。それはもうーー」


 そこまで真里の心情を想定して、ふと違和感に気が付いた。

 俺は今どうして、特別な関係と思われるかもしれないことに対して「余計な不安」という言葉を使ったんだ……?

 心の中で引っかかった原因を探るべく、感情の波へ手を伸ばしてみる。


「ーーあっ、昼休みが終わる予鈴が鳴っちゃったわ」


 しかし理由を掴み取ることはなく、校舎全域に響き渡るチャイムによって違和がかき消された。

 ……まぁ、気のせいかもしれないしな。

 掴み損ねた何かの面影は、時間の流れと共にだんだんと朧気おぼろげになっていく。深くは追及せず、すでに立ち上がっていた真里と池と共に校舎へと歩いた。

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