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知人から友人へ

 桜の木の下に戻り、三角形を作るように全員で向き合って腰を下ろす。


「あたしの自己紹介がまだだったわね。灯賀真里です。よろしくね、みぞれさん」


『よろしく』


 ようやく2人が挨拶を交わせて、俺は内心でホッと一安心する。真里の対人能力なら悪い雰囲気にはならないだろう。

 弁当を前にいただきますと手を合わせて食べ始める。

 と、ここですぐに問題が浮かび上がった。


「……」

「……」

「……」


 分かりきっていたことだが、会話が生まれない。池は会話のために箸を置いてしまうと、いつまでも食べ終えられない。それを分かっている俺と真里は、話しかけヅラい。

 池を置いて俺と真里が会話を盛り上げるのも、気分的に良いものではない。

 いやそれとも、2人だけでも盛り上がったほうが良かったりするのか? はたまた、この状態を破ろうと池や真里が何かを言ってきたりするだろうか?

 ここはどうするべきだろう。




 俺は


 無言のままでいる  30%

☆池に話を振る    40%

 真里に話を振る   30%




「そういや池。昨日俺の友達が言ってたんだけどな、俺と池が飯を食ってる光景は楽しそうに見えたらしいぞ」


 話を振られた池は、言葉を確かめるようにジッと俺を見つめてきた。

 次いで、意味を問おうとしたのか箸と弁当箱を太ももに置く。ボールペンと手帳に手をかけたところで俺は制止する。


「ごめんごめん、食事の邪魔をするつもりは無いんだ。中断しなくていい。俺が勝手に喋るから、傍聞かたえぎきしてほしい」


 池は手の動きを止め、3秒ほど静止してからコクリと頷く。箸と弁当箱を持って食事を再開した。


「思うに、会話ができるかどうかってのは要因の1つでしかないんだよ。喋ってなきゃ楽しくないなんて道理は無いし、喋ってても楽しくないと感じることだってある」


 池は同意するように再び頷く。


「池が1人で飯を食ってたのはさ、たぶん、会話のことを考えて皆と一線を引いてるんだと思う。だけど、そもそも楽しさなんて気にし過ぎなくてもいいと思うんだよ」


 何故? とでも言いたげに首が傾けられた。


「いやそりゃあ、楽しいか楽しくないかで言ったら楽しいほうがいいさ。けど、一緒に飯を食うだけで嬉しいって感じるやつは結構いると思うぞ。例えば俺の家族なんかだと、毎日一緒にいたら話す内容が無くなる時もある。それで無言の食事をするときもあるんだが、やっぱり隣にいるってだけで何となく嬉しいと感じるんだよ」


 聞いた言葉を全て噛み締めるように瞳を閉じる。言いたいことがきちんと伝わったのか、ゆっくりとまぶたを開いて頷いた。


「だからさ、また一緒に飯を食べに来てもいいか? 1人でいるのが好きだって言うなら身を引くけど、迷惑じゃないなら頷いてくれると嬉しい」


 池は返答に迷っているのか少しばかりうつむく。右手で持っていた箸を弁当箱に置き、答えを探すように首もとの白いスカーフにそっと触れた。

 返答に迷っている根本の原因は、声。そしておそらくは、その原因の理由がスカーフによって隠されている。

 声は出さないのではなく、出せない。そんな確信が俺にはあった。

 だが理由自体には深入りせず、あくまで会話の可否というラインで踏みとどまる。声という核心に触れてしまう単語は使わず、できるだけ遠回しに誘いをかけた。

 池はスカーフから手を離し、顔も元の角度に戻して俺の顔へ視線を注ぐ。

 真っ直ぐな眼差しに射抜かれると、心の内まで見透かされた気分になる。俺の浅慮せんりょなどバレているかもしれない。

 だが池は何も問わない。ボールペンや手帳に触れはしない。


 澄んだ瞳でただ見つめながら、コクリと頷いた。


 俺も言葉は使わず笑顔を返す。すると、黙って一連のやりとりを聞いていた真里が割って入ってきた。


「ずるい! あたしもみぞれさんと一緒にご飯食べたい!」


 懇願する瞳が池に向けられる。


「あたし、ずっとみぞれさんと仲良くなりたかったの! だけど何だか近寄り難い雰囲気だから、ちょっと気後れしちゃってて……。いえごめんなさい! 怖いとかそういうんじゃなくて、完璧過ぎて遠い存在っていうかね……? 一緒に居られるなら嬉しいし、おかずの交換とかしたいなって思ってたの!」


 池は好意を受け止め、視線を弁当箱へと移す。そして玉子焼きを箸で掴み、真里の口へズボッと突っ込んだ。


「!」


 唐突な行動に真里は驚愕していた。池は箸と弁当箱を太ももに置くと、ボールペンと手帳をポケットから取り出した。


『おかずの交換、しましょう?』


「~~~~!」


 真里は口元へ手を添えながら、歓喜のうめきを上げる。充分に噛み締めてから玉子焼きをゴクンと飲み込むと、弁当箱を持ったまま池に近付いた。


「とっっっても美味しかったわ! お返しは何がいいかしら! フライ? それともごま和え? こんなことになるなら、気合いを入れて作ってくれば良かったわ!」


 1人でワイワイと盛り上がる真里にすり寄られながらも、池は陶磁器のように冷淡な表情で相手をしていた。


 池を好く真里。真里を受け入れた池。

 性格は全然違うが、2人は意外といい友達になれると確信を抱いた。




【トロフィー 真里とみぞれはズッ友! を獲得した!】




 

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