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誰が選ばれるのか 最後の選択肢

 昼休み。真里と共に桜の木の下へと向かった。


「よう」


「みぞれさん、こんにちは」


 木の幹に背中を預けるように座っていた池は、いつも通りの透明な雰囲気をまとっている。


『こんにちは』


 軽く声をかけると挨拶を返してきた。手帳に文字を書く際、ボールペンに付けられた靴のアクセサリーが揺れる。


「あら、素敵なアクセサリーね。とてもお洒落だわ」


 さっそく真里が目ざとく見つけた。いや、ちょっとした変化に気付くの早過ぎだろ。どんだけ池に対しての観察眼が優れてるの? 彼氏力アピールでもしてるの?

 池はコクリと頷き、文字を書き出す。


『昨日、彼と入手した』


 そして、爆弾発言をいとも簡単に投下した。


「彼……?」


 池の視線はこちらに向けられており、その視線を追った真里も俺に顔を向ける。

 真里にはどう説明しようかと昨日さんざん悩んだのがバカらしくなるくらい、あっさり告げられた。


「……悠一、ちょっとお話ししましょうか」


 にっこりと微笑む真里の顔が怖い。こうなると分かっていたから話をどう扱うか悩んでいたのに。

 少しばかり恨めしい視線を池に送る。


「?」


 しかし無表情の優等生は、何も分かっていない風にこてりと首を傾げた。

 結局、飯を食いながら全ての経緯を説明した。参加は男女のペアのみで、真里に話を振られなかったのは仕方がなかったこと。靴のアクセサリーは2つで1セットであり、左右を2人で分けあったこと。

 聞き終えた真里はまず、怪我の具合を問いかける。


「みぞれさん、打撲は大丈夫なの?」


 池はコクリと頷くと、弁当箱と箸を置いて右足を見せてきた。

 昨日はくるぶしの辺りが赤みを帯びていたが、確かに今は健康的な白さを取り戻している。跡も残っていなさそうで安心した。


「そう、なら良かったわ」


 真里もホッと胸を撫で下ろす。


「それで、悠一はアクセサリーをどうしたのよ?」


「携帯電話に付けようとはした。けれど」


 俺はそこで1度言葉を区切り、ズボンのポケットから携帯電話を取り出した。


「三悠からもアクセサリーを貰って、どうしようか悩んでそっちを付けた。池、すまないとは思ってるが、お兄ちゃんとして、妹からの贈り物も大切にしたいんだ」


 池に向き直り、アクセサリーを付けていないと謝罪する。


「ーーーー」


 すると池は、透明な眼差しで猫のアクセサリーを見つめ、


『そう』


 と短く書き出した。


「あんたは筋金入りのシスコンよね……」


 真里が呆れ半分に呟く。家族を好きだなんていいことじゃないか。

 俺が家族愛を肯定していると、真里は靴のアクセサリーへと視線を向けた。


「あたしも何かアクセサリーを付けようかしら。それこそ、みぞれさんと同じやつを手に入れるのも良いわね」


 おっと、ついにお揃いコーデにまで手を出すのか?


「イベントは今日もやっているのよね。ねぇ悠一、今日はあたしと参加しましょうよ」


 俺を誘う声はいたって真面目。真里的には、ただ池と同じ品を入手したいがために提案したのだろう。

 けれど俺にとってはそんな簡単な話じゃない。靴のアクセサリーは着用こそしていないが、池との想いを分かつ大切な1品だ。真里も同じものを入手したいと願う気持ちは、勝手ながら多少の抵抗がある。

 いやしかし、ここで要望を断ると真里からの印象が悪くなってしまうだろうか。池を一人占めしているとか思われたりするだろうか。

 池との特別ではなく、全員で共有する特別。そんな考え方もできなくはない。




 真里とイベントに参加


☆する   100%

 しない  0%




 「しゃーねぇな……。分かった、付き合うよ」


 承諾すると、真里は放課後の予定を立て始めた。


「ジャージに着替えて行ったほうがいいわよね。本当はみぞれさんと参加したかったけどーー」


 ご飯をむぐむぐとみながら、イベントをクリアする前提で話を進める。意外と難易度が高かったが大丈夫だろうか。

 参加すると俺も返答した手前、またちょっと頑張るかとやる気を漲らせる。その際、池がこちらをジッと見つめていたと気が付いた。


「ーーーー」


 静かで、何を考えているのか分からない無表情。


「どうした?」


 視線の意味を問うと、少しだけまぶたを閉じる。目を落とした先にあるのは、自身の手で握られているボールペン。

 言葉を書き出すのかと思ってしばらく待機するも、何も書かない。

 無言の空間に吹き抜けたそよ風が、ボールペンから下がる靴のアクセサリーをふわりと撫でる。ぶつかってカチャリと鳴った音は、何故だかとても寂しげに感じた。


******


 俺と真里はそれぞれ更衣室でジャージに着替え、教室で待ち合わせをして共に校舎を後にした。昨日と同じ道を歩き、昨日と同じように参加受付を済ませる。

 各種目は難易度が緩和されており、昨日ほど真剣に挑まなくともクリアできた。一般参加イベントにしては厳しいとの声が多かったのかもしれない。


「靴って左右があるのね。あんたが持ってるのはどっちなの?」


「右靴だ」


「ならみぞれさんは左靴ね。あたしは右靴を付けて左右対象1セットみたいにしようかしら……。いえいえ、同じ左靴を付けてお揃いにするのもいいわね……」


 そんなことを5分ほどぶつぶつ呟き、悩み抜いた末に左靴を選んで携帯電話に取り付けた。


「右靴のほうはどうするんだ?」


「うーん、そうねぇ……。あんた欲しい? 付き合ってくれたんだからあげてもいいわよ」


「片側を2つはいらねぇな……」


 どうせなら左側を貰えれば良かったのにと思いつつ、報酬の獲得権を放棄する。そもそも着用しない可能性が高いのだから執着心など無い。

 あとはおとなしく帰宅するのみ。そう思ったところで真里の携帯電話が着信音を鳴らした。


「もしもし? ええ、ええ、分かったわ。うん、それじゃあとでね」


「三悠か?」


「そうよ」


 長い付き合いだから、口調や通話時間で相手をだいたい当てられる。


「夜になったら家に行くから。と言っても、あんたには関係無いかもだけど」


「そうかい」


 適当に返事をして、俺達2人は帰路についた。

 晩御飯を食べ終えて後のこと。

 部屋に戻り椅子に座り、読書を始めた辺りで隣の部屋の扉が開く音が聞こえた。


「おまたせ」


「真里ねぇ、久しぶり」


 先ほどの約束通り、真里が三悠の部屋に来たらしい。直接確認しなくとも聞こえてきた会話で分かる。


「ねぇねぇーー、これーーかしら」


「それはーー、ーー」


 三悠の部屋の扉が閉まると、声はわずかに漏れ聞こえるだけとなった。とくに三悠は声が小さいため、ほとんど何も聞こえない。

 だからといって盗み聞きするのも不躾だと思い、椅子から立ち上がってベッドに移動した。三悠の部屋とは真逆の壁に背中を預け、足を放り出して読書を再開する。

 たまにテンションの上がる真里の声を耳に掠めながら本を読み進めていると、部屋の扉がノックされた。


「悠一、入るわよ」


 返事も待たずに真里が入室してくる。その後ろには三悠も付いて来ている。


「にぃ、意見を聞きたい」


「意見?」


 疑問の声を返すと、真里が腰に手を当てた。


「そう。三悠ちゃんと話してたんだけど、結婚したいタイプと恋人にしたいタイプって違うじゃない? それは男子も同じなのかなって」


「それ完全に女子会の話題じゃねーか。そんなもんを男の俺に振るなよ」


「女子だけじゃ分からないから振りにきたのよ」


「だいたい、違うじゃない? ってほとんど確定的な問いをするな。結婚とか考えたこと無いから分からねぇよ」


「まぁ……そうよね。悠一だもんね」


 最近は何だか知らんが、俺らしいってよく馬鹿にされる気がする。


「それじゃあ、あんたは結婚するなら、頼もしい人と守りたい人のどっちがいい?」


「なんで選択肢が2択なんだよ。人のタイプなんてもっとたくさんあるだろうが」


「基本的にその2択に収束するからよ。いいから答えなさい」


 コイバナに俺を巻き込むなとは思いつつも、頭の片隅では割りと真剣に考えていた。

 頼もしい人と守りたい人。この情報だけで考えるならば少々抽象的に過ぎるが、ちょうど目の前にいい例が存在している。

 真里は頼もしい人、三悠は守りたい人に当てはまるだろう。それこそ、この2人で考えた場合はどうなのか。

 真里みたいなタイプならば、多少の困難があっても共に乗り越えていけそうだ。三悠みたいなタイプならば、男の本能ともいえる保護欲が満たされそうである。

 どちらも一長一短であり、一概に判断はできない。




 選ぶならば……、


☆頼れる人       44%

 守りたい人      22%

 どちらとも言えない  33%




「頼れる人がいいかな」


「あら、ちょっと意外ね。てっきり、守りたい人だとか言うと思ってたわ」


「長い人生を共に生きていくとなると、困難を一緒に乗り越えられるパートナーがいいなと思ったんだよ。守るのは大前提であって、保護欲を満たすために選ぶのは不義理だ」


「そういうものなのね」


 片方を選び説明すると、真里は腕を組んで納得した。

 対照的に、選ばれなかったのが納得いかないのか、三悠がぷくーっと頬を膨らませる。


「にぃ、わたしのことは、守ってばっかりだよね」


「三悠は守るってよりも、甘やかしてるって感じだな。てかなんか、若干不機嫌になってない? 気のせい?」


「気のせい、だよ」


 絶対に気のせいじゃない。なに、もしかして「守られてるからパートナーの対象としては見られていない」とか思ったの? いくら三悠が大好きな俺といえど、妹をパートナーに選ぶのは無理がある。

 世間体なども考慮した説明を脳内で組み始めた辺りで、真里が三悠の両肩に手を置いた。


「守るのは大前提だって言うなら、守れるだけの甲斐性はなきゃダメよね。さぁ三悠ちゃん、乙女の密談に戻りましょう」


 肩を押し、2人で部屋を出る。扉を閉める際、ついっとこちらに顔を向けた。


「頼りになる相手が見つかるといいわね」


 俺に対して言ったその言葉。真里の様子は至って普通に感じるが、言葉そのものに違和感があった。

 見つかるといいわね。と言うことは、今の俺は頼りになる相手を見つけていないということだろうか。

 閉じられた扉の先に、俺の想像に当てはまる"頼りになる相手"を幻視する。

 お前は、俺が見つけるその相手なんじゃないのか……?

 言外に、自分はパートナーの対象外だからと言われた気がした。

 そう思い至り、背筋に寒気が走る。

 俺は何かを間違えたのかもしれない。……いや、間違い続けていたのかもしれない。

 そんな不安感が心に灰色を落とした。




【????ルート突入】




本日の話でルートが確定しました。

残りはとても短いのですが、納得いってもらえる〆になっていると幸いです。

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