究極の選択 そして思い出す薄桃髪の後輩
自宅の前まで送ってもらい、下車して池親子と別れた。自室に戻り、部屋着に着替えて靴のアクセサリーを手のひらに乗せる。
思い出の片割れなのだから、俺も何かに付けたほうがいいだろうか。
などと思いつつ、ポケットから携帯電話を取り出す。やはり付けるならば、池から見て分かりやすい所がいいだろう。
カニカンと呼ばれる留め具のツメを開く。けれど取り付けようとしたその時、ある想像が脳を過った。
俺が靴のアクセサリーを付けること自体は何の問題も無い。だが、間違いなく真里の目に止まる。
片割れを池はボールペンに付けているし、両方を見てペアアクセサリーであると確信する可能性は高い。そうなると、なんて説明しようか。
ありのままを語ってもいいのだが、そうすると池大好き真里さんから嫉妬されかねない。
目立つ所には付けないほうがいいだろうか。いやしかし、それ以前に池からの用事は何だったのかと問われる可能性も高い。問われた場合はペアアクセサリーの有無に関係無く、同じ未来が待っている。
それに池としても、どこにも付けていないとなると感じるものがあるだろう。ならばやはり付けるべきだろうか。
アクセサリー1つに思考が翻弄される。特別な悩みに頭を回していると、扉の向こうから声をかけられた。
「にぃ、入るね」
扉を開けて三悠が顔を出す。
「どした?」
問うと、とことこと歩み寄ってくる。俺は一旦、携帯電話と靴のアクセサリーを机に置いた。
「これ、あげる」
差し出された小さな手には、ビーズで作られたアクセサリーが乗っている。
「学校の授業で作った、猫」
「おぉ……マジか、このタイミングかぁ……」
「? どうかしたの?」
「いやいやべつになんでもない。可愛い妹から貰う可愛い猫だ、大切にするよ」
適当に誤魔化しながら猫のアクセサリーを受け取ると、三悠は満足げにふすんと鼻息を漏らした。
「わたしと、おそろい」
三悠がポケットから取り出した携帯電話には、ビーズで作られた同じアクセサリーがくくり付けられている。
これは、兄として応えなければならないのではなかろうか。
などと考えていると、母親がキッチンから三悠を呼んだ。料理の手伝いをしてほしいらしい。
「いま行くー。にぃ、それじゃね」
聞こえてはいなさそうな声量で返答をすると、用事は済んでいるとばかりにさっさと部屋を出ていった。部屋にポツンと、俺1人だけが残される。
アクセサリーが増えるなんて想定もしていなかった。これでまた選択肢が増えたじゃないか。
三悠から貰った猫のアクセサリーも机に置き、携帯電話を両脇から猫と靴が挟む。
どちらも付けるという考えも過ったが、携帯電話の取り付け部分は小さいためどちらか1つしか付けられない。
池の想いを選ぶか、兄として三悠を選ぶか、それともどちらも付けないか。
どうするべきだろうか。
アクセサリーは
池と分かち合った靴を付ける 30%
☆三悠から貰った猫を付ける 40%
どちらも付けない 30%
ここは兄として、妹の好意を優先するべきだろう。
携帯電話に猫のアクセサリーを取り付け、靴のアクセサリーは小箱に入れて机に置いた。
「そういえば……」
取り付けたアクセサリーをしげしげと眺めていたが、ビーズの猫といえば思い出すものがある。
薄桃髪の後輩と初めて会ったのは、ビーズで作られた同じような猫がきっかけだ。
友人にあげたものが、知らない男の手に何故か渡っていた。そんな感じの揉め事だったはず。
あれから経緯や結果は聞いていないが、無事に解決はしたのだろうか。一応関わった身としては気になるところである。
今度会った時に訊いてみよう。そう思ったところで、母親から夕飯の準備が整ったと声がかかった。
******
「あぁ、ホームセンターで会った時の話っすか?」
べつに探していたわけではないのだが、今度とやらはすぐに訪れた。
「そうだ。何も聞いてないと思ってな。結局どうなったんだ?」
翌日、2時限目の授業が終了した休み時間。トイレに向かおうと廊下を歩いていたところ、2学年の教室が並ぶ廊下ですれ違った。
「えっと……、あっ! 実は和美も同じものを作っていて、それをあげたらしいんすよ!」
「あっ! ってなんだ。なんで今考えましたよみたいなリアクションをしたんだよ」
訝しげな視線を向ける。適当に答えた感が凄まじかった。
「信じてないっすね! ちゃんと証拠もあるっすよ!」
制服の胸ポケットから携帯電話を取り出し、なにやらポチポチといじりだす。1分ほど操作したのちに画面を見せ付けてきた。
「ほら!」
表示されているのは、受信された1通のメール。差出人の名前は和美となっている。内容はアクセサリーの件の誤解を説明するものであり、受信日時も先週となっていた。
「マジ……だな」
怪しいところがないかつぶさに確認する。けれど別段何も見付けられなかった。強いて言うならば、メールを開くだけなのに1分も時間をかけたということだろうか。
「でしょでしょ! 私の言うことに嘘は無いんすよ!」
「まぁ……疑ったのはすまんかった。そんで、友達は同じものを作ってあげてたってか。それならある意味、お前も相手の高校生も悪くはないかもしれないな」
「ですっす! いやむしろ、ウチのあげた犬を精巧に再現した和美が悪いっす!」
「いやそれはまた違うだろ……」
和美とやらが不憫だ。
と思うと同時に、発言に違和を感じた。
「あれ? 確か犬じゃなくて、猫じゃなかったか?」
ホームセンターでこいつは猫と言っていたはず。細かい形までは覚えていないが、そんな記憶がある。
「そうだったっすか? まぁどっちでもいいじゃないっすか。似たようなもんっすよ」
お前、その発言は犬信者からも猫信者からも叩かれるぞ。
「だいたい、鈍感な先輩がよくそんなことを覚えてたっすね」
「ちょっと待て。鈍感だと評されるのは納得がいかない」
話を流そうとしたのか、心当たりの無い罵倒をされた。どうにも先ほどから会話が上手く噛み合っていない気がするが、こればかりは聞き流せない。
「何を以て鈍感認定してんだ。てか水族館で会った時も言ったが、お前は俺の何を知ってるんだよ」
声には少し苛立ちが混じっていたかもしれない。だがこいつは、とくに怯みもせず飄々と答える。
「それはもちろん、先輩だってことを知ってるっすよ。そこまで思い出してるのに違和には気付かないんすから、鈍感で助かったと思ってるくらいっす」
「何かに気が付いていないってのか……?」
「そうっす。まぁウチは勢いに任せていろいろ話しちゃったりするんで、分からないならそのほうがありがたいっす」
「お前……、そういう思わせ振りなキャラクターは今の流行りじゃないぞ。せめて考えれば分かる程度にはヒントを出しとけ」
「べつに先輩に好かれる必要は無いんすけど、求められると応えたくなっちゃうのがウチなんすよねー。なら……」
こいつが何かを言おうと腕を組む。その時、休み時間終了を知らせるチャイムが鳴った。
「おや残念、詳しく話してる余裕が無くなったっすね」
全然残念ではなさそうに言い、踵を返して顔だけ振り向く。
「いつか教えてあげるっすよ。お兄ちゃん」
イタズラをする子供のように微笑み、意図不明な言葉を残して走り去る。
「ちょっ……! お兄ちゃんってなんだよ!」
問い叫ぶも立ち止まりはしない。廊下を曲がって階段へと消えていった。
「はぁ……。もういいや、なんか疲れたな……」
あいつは自分が言いたいことだけは言って、こっちの話は適当に流している感じがする。
会話が成り立たないやつっているよな。そう思い込み、無駄な心労を抱かないよう心がけた。
お兄ちゃん♪
この言葉を見て、違和感に気付いてくれた方はいるでしょうか。
違和感の正体を見つけたい方は、10話の「兄妹デートの続き 不思議な後輩」へレッツゴーです!




