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得た勝利はけして、ただのアクセサリーではなくて

 歩いての帰宅は無理だと判断し、池に家の者を呼ぶよう提案した。

 病院へ行こうとも提案したのだが、そちらは『冷やせば治まる程度』『これは本当に信じて』と却下されてしまった。まさか先ほどの話の後で無理をするとは思えない。それほど大事でないのは真実なのだろう。

 すぐに母親が迎えに来ると話がまとまり、俺達は運動場を後にした。

 この辺りは歩行者天国のため、一般車を停められる場所が無い。一般道まで移動する必要があった。

 池は右足を痛めてしまったため、肩を貸して歩いた。すぐ左隣から感じる体温に動揺を隠せない。

 ヤバい。こんなに密着して後で何か言われたりしないだろうか。汗臭かったし気持ち悪かったなんて言われたらショックで不登校になる自信がある。

 などと適当なことでも考えないと、柔らかな体に薄い布地越しに触れているのだという事実に気がおかしくなりそうだった。

 待ち合わせ場所に着き、しばらく2人で棒立ちする。池は右腕を俺の肩に回しているため筆談ができない。この時間も互いに無言で迎えの到着を待つ。

 すると5分くらい経過したところで、シルバーの乗用車が目の前で止まった。

 運転席から出てきた女性が声をかけてくる。


「はじめまして、池みぞれの母です。この度は娘が迷惑をかけてしまい申し訳ありません」


 池と印象は似ているが、やはり年齢差分の大人びた雰囲気を感じた。大人の池を未来視した感覚に襲われる。


「迷惑だなんて思ってないですよ」


 儀礼的とも言える言葉を交わし、池を後部座席に座らせた。

 役割は終えたと池の母親に向き直る。


「では、確かに娘さんを送り届けました。俺はこれで失礼します」


「いえ、返礼ぐらいはさせてください。せめて、あなたの家までお送りいたします」


「いえ、そんな遠くもないので気にしな」


 と、そこまで断りかけたところで横から上着の裾を引っ張られた。

 右横へと目を向ければ、後部座席に座る池が開け放たれた扉から左手を出していた。細い指先でしっかりと俺のジャージを掴んでおり、何かを訴えかけるような視線で見上げている。


「ーーーー」


 ことこんな場面で、視線の意味が分からないような鈍感ではない。


「あぁー……、じゃあ、お言葉に甘えさせてください」


「はい、是非に」


 池の強い要望に折れ、池の母親のご厚意を受け入れた。

 車の右側へと回り、後部座席に乗り込んで池の隣に座る。家の位置を池の母親に伝えると、すぐに発車した。


「あなたが、坂衣さんでしょうか?」


「はい、そうです」


「やっぱり……。いつも娘から話は聞いています。みぞれに付き合っていただき、ありがとうございます」


「お礼を言われることじゃありません。俺だって娘さんと一緒に弁当を食べさせてもらったりして、楽しい思いをさせてもらっているんです」


「そう言ってもらえるとありがたいですね。あなたと、灯賀さんは1度お礼をと思っていたんです」


「真里……あぁいえ、あいつだって感謝なんてされたら逆に困ると思います。けれど、気持ちだけは伝えておきますね」


 池の母親と俺が言葉を重ねていると、池が鞄から小包みを取り出した。


「あら、景品は獲得できたのね」


 スポーツメーカーのロゴが印刷された小包みを、池の母親がルームミラー越しにチラと確認する。


「坂衣さん、そもそもの発端は私なんです。私が昼過ぎごろに、みぞれにイベントの話をメールで送りました」


「そうなんですか」


「ええ。仲良くしていただいている男の子がいるなら、参加を持ちかけてみてはという話でした」


 なるほど。それで5時限目の終了後にいきなり現れたのか。昼休みよりも後にメールが送られて来たのだろう。

 俺が時系列の整理をしていると、池は小包みを開封して中身を取り出した。

 現れたのは、アクセサリー。スポーツメーカーの靴であろうデザインのものが、2つ。

 イベントが男女ペアでの参加を前提としていたから、お揃いの品を身に付けてもらうという赴きなのだろう。


「みぞれは、そのアクセサリーが欲しかったそうです」


 池は2つあるアクセサリーの内の1つを左手で握り、もう1つを右手で差し出してくる。


「ーーーー」


 見つめる視線に言葉はいらない。もう片方を受け取ってほしいのだという意思を感じた。

 靴のアクセサリー。いや、この場合は靴である必要は無い。2つセットの内の片方を、受け取れと差し出しているのだ。

 池と2人で勝ち取った思い出の品。




 俺はそれを、


☆受け取る         67%

 真里に渡すよう提案する  33%




「俺達2人の勝利だもんな。遠慮無くいただくよ」


 左手をアクセサリーへと伸ばす。その際、車がカーブを曲がって遠心力が生じた。


「ーーーー」


 俺が伸ばしていた左手に、池の右手がすっぽりと納まる。図らずも手を握る形となり、池の瞳がわずかながら見開かれた。


「っ! すまん!」


 咄嗟に左手を離して謝罪する。不意の事故とはいえ、女子高生にいきなり手を重ねるなど重罪もいいところだ。


「ーーーー」


 池は静かに俺の左手を見据えていた。何か思うところはあるだろう。

 だからと俺は、続けて言葉を言い募ろうとした。しかしそれよりも先に、池が左手を握ってくる。


「!?」


 声も出せずに驚く俺に構うことなく、離したばかりの右手が再び重なった。アクセサリーを器用に薬指と小指で挟み、残りの指でそっと掴んでいる。


「ーーーー」


 そのまま俺の左手にアクセサリーを掴ませ、右手を戻すと同時に左手を隣まで伸ばしてきた。2つのアクセサリーが宙に並ぶ。

 よく見るとデザインは左右で反転している。俺が右足用で、池が左足用。2つで1足が再現されていた。

 どちらか片方だけでは不完全なもの。それを、俺達2人で分かち合う。


「ーーーー」


 静謐な瞳で見つめられ、慌ただしかった心境が徐々に落ち着いていく。


「努力の結晶を共有するなんて、なんか青春真っ只中って気がするな」


 実際には、他にイベントをクリアしたペアも同じ品を貰っているのだろう。けれど、このアクセサリーには俺達だけの追憶が込められている。

 池は左靴のアクセサリーをボールペンに取り付け、手帳に文字を書き出す。 


『私とあなたの、特別の証』


 無表情だが無感情ではない。物言わぬ静かな少女の、強かな想いを確かに受け取った。




【トロフィー 気持ちを共有したペアアクセサリー を獲得した!】





これにて、池みぞれとのアトラクションゲーム編が終了となります!


そして明日からは、物語が終盤へと向かいます。


それがまさか、今日の明日であのようなアンケート結果になるとは思っておりませんでした。

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