剣聖を継ぐ者 アフターストーリー
ある国があった。その国には伝統を誇る剣聖の一族と新興の銃聖と呼ばれる二つの名門の一族があった。その二つの名門は国政にも多大な影響を与えながらしのぎを削っていた。
「…いた…探したぞ!。銃聖!。」
とある屋敷、その再奥で赤髪、オッドアイの少年が叫ぶ。その服は赤く染め上がり滴る。その赤い染みは血液。ここに来るまでに立ちはだかった銃聖の門下達を斬り捨てた際についたものだった。
「…お前は…剣聖のガキか。いや、その目…継承はなされたという訳か。」
床に座り少年…剣聖を見上げるのは当代の銃聖。顔には横一文字の切傷が刻まれており未だ痛々しさが伝わる。
「…そうだ!俺が…剣聖だ。剣聖の一族はなくならない。連綿と紡がれてきた伝統は俺が次に繋ぐ。お前を倒して。」
「はっ!、坊ちゃんが威勢の良いことを言ってくれるじゃねぇーか。勝手に吠えるのは良いけどよぉ、今のテメェに何が出来る?。先代であるお前の父親は強かった。…まぁ欲をかき過ぎたがな。お前はどうやって俺を倒すんだ?。」
銃聖が傍らに置いてあった長い銃身の銃を引き寄せる。銃聖はこの長銃による近接と狙撃の二手の攻撃を行うのだ。
「立てよ、これは当主同士の決闘だろ!。何故立たない!。」
依然として座したままの銃聖に対して剣聖が激昂する。自分でも理由は分かっていた。侮られている。歯牙にもかからない、そう思われていると。
「今のお前ではどうにもならねぇよ。」
「…そうさ、ガキの俺では勝てない。だがっ!」
剣聖が懐から刀を取り出しそれを握るでもなくそのまま投げる。
「な⁉︎、何を…!」
剣聖であるはずの目の前の少年の行動に度肝を抜かれる銃聖。長銃で防御を試みるが頬をかすめてしまう。
「…テメェ…不意打ちとは舐めた真似を…」
頬から滴る血を舌で舐めながら銃聖が怒りを露わにする。
「…今暫くの別れだ。安心しろ、俺はお前たちとは違う。当主不在の銃聖門下に手出しはしない。」
「は?何を…トチ狂った…」
銃聖の体が頬についた傷を中心として渦を巻くように消え始める。そして銃聖の姿は完全に消え失せた。
「…次に会う時がお前の最期だ。」
そう言葉を残し剣聖は立ち去る。銃聖の頬を掠めた刀は煙となって消えていた。
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剣聖一門と銃聖一門の争乱は先代剣聖の殺害と当代銃聖の行方不明で終結した。跡を継いだ剣聖は銃聖一門に対し当主が帰還するまでの停戦を提案。それを銃聖当主代理が了承する形になる。それからは剣聖一門も復興を遂げ政治の舞台にも依然として影響を与えていた。そして7年の月日が流れた。
「…当主様。これからこの場所に銃聖が現れるとは誠でしょうか。」
剣聖の側に控える剣士が目を瞑り精神を集中させる当主に尋ねる。
「あぁ、刻は満ちた。」
そういい目を開ける剣聖。7年前の少年は死に物狂いで鍛錬を積み歴代の剣聖の中でも屈指の実力者となっていた。
「…事を言ってやがる!。」
突如空間に座した銃聖が現れる。その様子に周囲にいる剣聖一門と銃聖一門は驚きの声をあげる。更には銃聖の姿が7年前と変わらない。それも驚いた理由だった。
「…あ?誰だ、テメェは…それに、ここは…」
銃聖が辺りを見渡す。目の前にいる男がかなりの実力者ということはわかった。
「7年待たせたな。俺は剣聖!。お前を…殺す男だ!。」
剣聖が腰の刀に触れ殺気を放つ。
「7年…そうか!、お前あのガキか!。はっ!どうやったか知らねーが…俺を封じたのか。…ふん、ウチの門下は確かに生きてるな。」
即座に状況を理解する銃聖。時を止める魔法の存在は知っていた。その系統だろうと当たりをつけたのだ。
「俺はお前らと違って卑怯なことはしない。さぁ、7年ぶりに言う。俺と決闘しろ。」
「一端の言葉を吐くようになったじゃねーか。…いいぜ、相手をしてやる。今のお前には俺の糧になる権利がある。」
そう言い長銃を右手に立ち上がり構えを取る。
「父の仇とらせてもらう。」
「何も知らないガキが。時代が悪かったな。」
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剣聖と銃聖の闘いは2日に及んだ。お互いにいつ倒れてもおかしくない状態になりながらも敵の動向を見逃さない。そして致命傷だけを避けあった闘いは…
「…はぁはぁ、がっ!…はぁ、俺の勝ちだ。」
地面に刺した剣に寄りかかるように立っているのは剣聖。体の至る所に弾が掠った跡や弾痕が痛々しくみえる。
「……………」
地面に倒れるのは銃聖。左腕の肘から先をなくし顔にも刀傷が刻まれていた。今は静かに息をしている。
「…殺せよ。お前にはその権利がある。」
銃聖が静かに言う。自分は先代の剣聖を殺した。俺に負けたから殺した。なら負けた俺が殺されるのは当然。その想いがあった。
「…はぁはぁ、一撃で殺してやる。」
倒れる銃聖の側に寄って剣聖が言う。確かに銃聖は父親や門下の仇だ。しかし強敵手としての敬意を評し一撃の元に葬る宣言をする。
「なんじゃ、銃聖が負けたのか。」
今まさに因縁にケリがつくと言う瞬間横槍が入る。突如華美な服装をした人物が兵を連れ現れたのだ。
「…誰だ?。」
当然剣聖が尋ねる。
「ふん、貴様らが知る必要はない。…全員死ぬのだから。」
その男の言葉を理解する間もなく大軍が押し寄せる。
「…なんだ⁉︎、俺たちが剣聖一門と銃聖一門としての狼藉か!。」
「まさにそれが原因なのだよ。貴様らが政に介入するのは面白くない。ここで消えてもらう。」
押し寄せる大軍が剣聖、銃聖一門に襲いかかる。
「…くそっ!くそっなんなんだよこれは!。」
剣聖の叫び声が響く。しかしその声はやがて聞こえなくなった。
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「…それで上手く言ったのか?。」
「はい、剣聖一門、銃聖一門全て殺害致しました。」
「そうか。…代々続くからと政にまでしゃしゃり出てきた屑どもには良い最期だっただろ。闘いの空気の中で死ねたのだから。」
「7年前に銃聖に剣聖一門の殲滅を命じた時は失敗に終わりましたが…」
「ふん、まさか銃聖が消えるとは思わなかったからな。」
「しかし結果的に良かった。目障りな奴らを2つ同時に消せたのだ。民には剣聖と銃聖の両一門の争いの末全滅と触れておけ。」
「かしこまりました。」