領主の娘 エリス アフターストーリー
とある領地の話。
その領地の領主は民の声を聞き、税を軽くし、良き領主として君臨していた。しかしある時その領主に国家に対する反逆の嫌疑がかかる。当然領民は領主の無罪を信じてやまなかったかが王都に連行された領主とその妻は処刑されてしまう。通常であればその一族は取り潰しになるのがならなかった。何故なら領主の罪を密告したのは領主の実の息子だったから。その功績ということで存続を認められる。息子は両親の死の結果領主の座に就いた。領民は思った、息子が自分の邪魔になる両親を嵌めて殺したのだと。これからの領地の行く末を案じる声が多く聞こえた。
そこに現れたのが領主の娘。箱入り娘だった少女はどのような手段を使ったのか反逆者である兄を討ち取る。
かつての領主の意思を継いだ少女は立派に領地を治め繁栄を築いたのだった。
「…もしあなたが天国に行けたならお父様とお母様に謝っておきなさい。…お兄様。」
「…私は絶対に守ります。この領民達を。」
誰も頼る人がいないエリス。決意を口にすることで覚悟を固める。…と先程まで仇であり兄である人物が座っていた領主の椅子が目につく。
「…これは…?。」
そこには色々な書面が散らばっていた。殆ど箱入りで育った為この書面の内容の多くは理解できない。それでも一際目立つ書面があった。
「…王家の紋章?。お父様とお母様を売った時のものでしょうか?。」
「…これは⁉︎。そんな…嘘…」
『我が妹エリスは此度の国家に対する反乱について何も存じ上げません。命だけはお助けください。』
『今回そなたのお陰で国家に対する大規模な反逆の芽を摘むことができた。その功績に免じて現領主とその妻にのみその罪を負わせることとする。』
それはエリスの命を助けるよう求める嘆願書とその返答であった。文面の送り主はエリスの兄。
「そんな…どうして?。え?どういうこと?…」
エリスの頭の中で何かが崩れる音がする。怨みによって積み上げてきた論理が破壊される。自分が見てきたものはなんだったのか?。
『ばさばさ‼︎。』
机の上の書類を読み漁る。探すのは今回に関係すること。真実を知るために一心不乱に探し読む。エリスが全てを知ったのは陽が暮れてからだった。
「…お父様とお母様は本当に…反乱を起こそうとしていた。お兄様はそれを…止めようとしたけど…ダメだった。お兄様は領民達を守るために……守るため…2人を…」
最後は言葉にならず崩れ落ちるエリス。現実はエリスの知るものと大きく異なった。自分が殺した兄は領民のことを考え両親を切った。それがどれほどの苦悩の果ての結論なのか。エリスには想像もつかない。
「…私は…私はとんでも無いことをしてしまった。」
後悔をするがもう遅い。必ず殺す刀。その効果によって兄は既に物言わぬ存在になってしまっている。
「あの時…お兄様は…私に何を…」
今際の際で兄が言おうとした言葉。今考えるとそれは…
『エリス、すまなかった』
それは何に対する謝罪なのか。今のエリスの頭の中では考えはまとまらない。
「お兄様…申し訳ありませんでした。」
エリスは兄の死体に近づいていく。その死体は腕に擦り傷があるだけの綺麗な死体だった。その目にそっと手を触れ閉じさせるエリス。その顔には先ほどまでの怨みの表情はなかった。
「…どうして…相談してくれ…いいえ私が何も出来なかったからですよね。だからお兄様1人に……」
兄の体を抱き寄せるエリス。すると…。
『パサ…』
1枚の紙が落ちてくる。
「…これは思念紙?。何か書いてある。」
『僕は悪でいい。お前は生きろ。』
短い文章。事切れる寸前懐に潜ませた思念紙の存在を思い出し念じて書かれたであろう内容だった。
「…お兄様……分かりました。お兄様の仰せのままに。」
内容を見たエリスは理解する。僕は悪でいい。それはすなわち街に流れる噂通り両親を嵌めた悪虐非道の息子。その兄を成敗し両親の仇をとった娘としてエリスは生きろと伝えていた。自分の汚名を晴らすよりもにエリスの今後を考えてのことだった。
「…だれか!。だれかいないのか!。」
エリスが大声をあげ屋敷の使用人を呼ぶ。当然中に入って来た使用人は驚くだろう。そこでエリスはこう言うのだ。
「両親を嵌めた悪虐非道の兄は私が討ち取った。これからは私が両親の跡を継ぎこの街を治める。」