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領主の娘 エリス

1時に第二話を投稿します。その話でエリス編は終了です。

 とある森の中。外界から隔絶されたその空間に不釣り合いな人工物。時たま鉄を打つような甲高い音が響く。そこに訪れる者は一様にある目的を持つ。果たして訪れた者を待っているのは…。


「おや、いらっしゃい…。お客様が来るのは1週間ぶりぐらいですかね。」

 ドアの開く音が鳴りこの店の主人であろう人物が出て来る。黒髪黒目というこの国では珍しい容姿の男。幼く見える顔つきであるが実年齢は不詳であったしここを訪れる者にはどうでもいいことだった。


「…あの、ここは…」

 訪れたのは少女。金色の髪を背中まで伸ばした可憐な少女…だったであろう。今その服は薄汚れており、顔にも黒い汚れがついていた。


「ふふふ、はい、貴女の考え通りここは貴女に力を貸す場所です。ここに辿り着いた時点で貴女はその権利を得た。その権利を行使するかは貴女次第です。」

 少女の汚れなど気にせず店の店主が微笑みながら言う。その様子に少女は果たして自分の目的を果たせるのか不安を覚えるが最後の希望とすがりつく。


「私の…名前はエリス。ある街の領主の娘……でした。」

 過去形で語られる経歴。それすなわち今は失った肩書きであるということの証明であった。


「私の父は信用してはいけない男を信用してしまった。突然…国の役人が…我が領地に不正が行われていると言って査察に入りました。」


「当然父は身に覚えのないことですから査察を受け入れました。」


「すると…幾つもの不正、更には国に対する背任の証拠まで出てきたのです。」


「父と母は騎士に連行され処刑されました。私はその報を聞き命からがら逃げ出してきたのです。」


「…私は…憎い。あの男のことが!。私達家族は領民のことを大切にしてきた。幸せに暮らしていた。それなのに……なんで……」

 ことのあらましを語ったエリスの目からは堰を切ったように涙が溢れ出す。今まで隠れ続け泣く暇すらないような生活を送って来た。その緊張が解けたためであった。


「成る程…貴女の話はわかりました。それで…貴女はその男をどうしたいんですか?。」


「私は…殺したい。その男が1秒でも長く生きていることが…許せない。」

 エリスの目から流れていた涙。それを服の袖で拭いエリスは口にする。


「そうですか、ならば…」

 男がおもむろに腰から剣を抜く。まだ火入れもされていない剣だった。それを…


『グサッ!』


「…ぐっ…一体…何を…」

 エリスの胸、丁度心臓の辺りに突き刺す。しかし血は一切流れでない。


「その痛みの中で…祈れ。自分の心を黒く染めろ。それが汝の力になる。」

 先ほどまでと異なる口調で話す店主の男。


「…………私は…必ず殺してやる。」

 店主の言葉を受けエリスが誓いをたてる。今は亡き両親の仇。自分の手でその男を殺すと。痛みのためエリスが目を閉じる。ある時突然痛みを感じなくなる。まるで自分の体に馴染んだのかのようであった。


「…これが貴女だけの武器だ。」

 エリスが目を開けると店主が一振りの小刀を持っていた。紅い刀身を鈍く光らせた短刀。


「…コレが私の…」

 エリスが手を出して触れようとする。


「おっと、触らない方がいいですよ。」


「この刀の銘は『為すすべなく死ね』。一度だけ生身が触れた人を間違いなく殺す武器です。」


「⁉︎……」

 店主の言葉に伸ばしていた手を慌てて引っ込めるエリス。


「この手袋を差し上げます。それなら触れても大丈夫ですよ。」

 店主から渡された手袋をはめ改めて小刀に手をのばし手に取る。


「…これが私の。待っててくださいお父様、お母様。私があの男を!。」

 刀の紅に釣られるようにエリスの髪も毛先が紅く染まる。


「…あの、お代なんですけど…私が必ず家の復興を成してみせます。その暁には必ず対価を支払います。どうか…」


「わかりました。その時を楽しみにしていますよ。」


 ーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ヒタ…ヒタ…』

 歩く音が響く。場所は領主の館。元の主人を失ったというのにその中は綺麗に保たれていた。というのも連行される際も自身の潔白を疑わず抵抗せず連れられていった為である。結局その主人と妻は2度と帰ってくることはなかった。


「…ここね、今殺してやる。」

 エリスは慣れたように今の主人がいるであろう部屋にたどり着く。


『バンッ‼︎』

 エリスが勢いよくドアを開ける。


「…お父様とお母様の仇…覚悟しろ!。」

 手袋をはめた両手で握りしめた小刀を対象に振り下ろすエリス。


「な、なんだ⁉︎。エリス…」

 エリスに気付いた男が振り返りエリスの姿を確認する。


『ピッ…』


「…はぁはぁ…やったわ、やってやったわ!。」

 エリスの振るった小刀が男の腕を掠る。普通なら軽い怪我で済む。しかしエリスの持つ武器は普通ではなかった。


「なんてことを…うぐっ…か、これ……は…」

 瞬く間に男の様子がおかしくなる。その体からは力が抜け床に倒れる。


「エ…リス、どう…して。」


「どうしてですって?。それはあなたが…お父様とお母様を…策に嵌めたから!。」


「違…おれは…………。エ…ス、すま…な…た。」

 何か言おうとするが自身の時間がないことを悟ったのか男はひどく優しい目をしてエリスに謝罪をした。その謝罪が何に対してだったのか知る術はもうない。


「…もしあなたが天国に行けたなら…お父様とお母様に謝っておきなさい。…お兄様。」

 復讐を遂げたはずの少女は…唯一の肉親をその手で殺害した少女は…ひと筋の涙を流した。その手に握られていた小刀は役目を終えたとばかりに砕け、粉になり、風に乗って消えていった。


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