05 予想外の訪問者
今日はバイトが休みで、予定も無いし暇だった。そこで俺は高校にバスケの見学に行く事を考えていた…。入部するつもりはないが、福島さんが練習してるなら見に行ってもいいかな…、そう思ったのだ。だけど…、いくら待ってもタカが迎えに来ない…。
さすがに昨日あれだけ言ったら来ないか…?と思ってたら、家のチャイムが鳴った。おっ!?さすが空気読めない男!と思いつつドアを開けると…、
「おはよう神田君!」
「おは…よ…う…。って、何?福島さん一人?」
「うん。」
「あっ、そう…。で、どうした?」
「えっ…、あ…、うん。」
そこに運悪く近所のおばちゃんに見つかって、
「大介彼女でも出来たんか?」
と冷やかされてしまった。俺も福島もバツが悪い。俺は開き直って、
「そうだよ。だからデート代貸してーや!」
「大介に貸したら返ってこないから無理や!」
「ったく、口の悪いおばちゃんやな!」
「おおきに!」
近所で有名な関西出身の人で、この人の家族と話す時にだけ、なんちゃって関西弁を使ってみるのだ。
「今日も部活行くの?」
「私は諦めた。」
「はぁ?諦めた?って、バスケ部入らないってこと?」
「うん…。」
「まだ2日行っただけだろ?」
「だって…、部員数多いし、新人の子に話聞いたら、中学の大会で上位の常連のレギュラーの子ばっかりだし…、」
「ふ〜ん、そうなんだ。で、そんな福島さんがウチに何しに来たの?」
「えっと…、それでお姉ちゃんと一緒で…、」
「マネージャーやるとか?」
「えっ?あっ、聞いたんだ?」
「まぁ…、」
「男子部のマネージャーやろうと思ってて…、」
「なぁ、福島。」
「ん…?」
「家上がってかね?どうせ今日は部活に行かないんだろ?」
「えっ…、あ…、」
「いいから、近所の目もあるしさ…、」
そう言って強引に福島の手を引っ張って、部屋へと上げたのだ。
俺は一度一階に下りて、紅茶の準備を済ませて部屋へと戻った。
「男の子の部屋に入るの初めて!」
「そうなの?」
「うん。ウチは二人姉妹だから…、」
「あー、冴子さんね。お姉さんも可愛い人だね。」
「そうかな…?」
なんか照れてる。でもそんな、はにかんでる顔も可愛い…。多分『お姉さんも』って言ったからだろう。その言葉には“陽子ちゃんも可愛いけど、お姉さんも…”という前置きが隠れているからだ。だけど、そこは直接言わずに、遠回しに言ってみた。
「で、今日は俺をバスケ部にでも勧誘しに来たの?」
小さく頷いて、こっちを見てる。
「タカに頼まれたとか?」
「タカって浅野君だよね?」
「そう。」
「それもあるけど…、私も高校で神田君のプレー見てみたいし…。」
「福島さんが俺の彼女になってくれるんだったら考えてもいいけど?」
ちょっと鎌をかけてみた…、反応をみてると視線を反らされた…。脈無しか?
「昨日冴子さんにも言ったんだけどさ…。」
「ねぇ?」
「ん?」
「お姉ちゃんの事名前で呼んでるんだね?」
「いや…、バイトの人が『サエコ』って名前で呼んでたから…、つい…。」
「そう…。」
「ダメだったかな?」
「いいけど…。で、考えてくれない?」
「何を?」
「部活!」
「部活か…。」
「堀北中の大島君と加藤君も、昨日も一昨日も来てたみたいよ。あの二人って中学の時全国大会行ってる有名な人達だよね?」
「堀北中ね…。でも全国大会じゃ、2回戦負けだけどね。」
「だけど、上手いって事でしょ?」
「まぁ…、でもあの二人はスコアラーじゃないからな。」
「スコアラー?」
「スコアラーって言わない?」
「悪かったわね!素人みたいで!」
「いや…。直訳すれば得点者だけど、バスケに限れば点取り屋って事だよ。」
「ふ〜ん。」
「堀北中のガードは、ゲームメイクは上手いしすばしっこい奴だけど身長が低い…。センターの方は、リバウンドはズバ抜けて凄い選手だけど、点を取るタイプじゃない…。試合でマッチアップしたけど、あんまり勝負してこなかったな。」
「浅野君だっているじゃない!中学の時は神田君の次に点取ってたんでしょ?」
「タカは…、そうだなスリーポイントの確率はいいし、体力もあるから走り負けない。速攻重視のチームならフィットするかもね。」
「そして神田君!」
「随分俺にこだわるね?」
「そりゃ…、ウチの県の中学のベスト5に選出された逸材だもん…。その身長で、外も中もこなせるプレーヤーだし。」
確かにベスト5には選出された。だが俺らは準決でそいつらに負けたのだ。所詮俺とタカでもってたチームで、選手層も薄い、ディフェンスの弱いチームだった。
「悪い…、実はウチの親が俺の中学卒業を期に正式に離婚してさ、しばらくは節制しなきゃなんだよ!ココに住めてるだけでもラッキーだし。生活厳しくなるだろうから、俺も少しくらいバイトして負担減らしたいしさ…。だから遊んでる暇無いんだ。」
かと言って俺と親父の仲は悪い訳ではない。携帯電話も買ってくれる予定だ。
「離婚したんだ…。そう…、ゴメンね…、神田君の家庭事情知らなかったから…。」
「だからバイトして、昼飯代とちょっとした小遣いくらい、自分で稼がないとな。」
「そっか…。」
どうやら福島は俺の事情を理解してくれたようだ。やっぱりタカにも言った方がいいかな…。