04 冴子さん
「神田君ゴメンね。」
「いえ、かまいません。ほとんど通り道ですから。」
家の場所を聞いたら、メインの通りの一本裏の道で、これならほぼ通り道だ。それにウチからも近い。
「実は俺、妹さんと同じ部活だったんすよ。」
「みたいね。朝、陽子から聞いた。神田君って大きいもんね。」
「たまにデカくて怖いって言われますけどね。」
「そうなの?」
「はい。コンプレックスに感じたことはないですけど、『デカイ』って言われると結構ショックです。」
「もうバスケやらないの?」
「バスケ部男子は弱いみたいなんです。女子は強いみたいですけどね。」
「知ってる。」
やっぱり県の代表になって全国大会に出るくらいだから有名なんだ…、
「私も去年まであそこにいたから…。」
「えっ?あの…、OG…?お姉さんっておいくつですか?」
女性とはいえ、若いから歳を聞いても平気だろう。
「18よ。この3月に卒業したばっかり…。去年の6月に引退するまで私もあのコートの上にいたわ…。」
「お姉さんもバスケやってたんだ…。」
「プレーは1年間だけ…、あとは実質クビだけどね…。」
「クビ?高校の部活でクビなんてあるんすか?」
「女子部はね。毎年40人くらい入部してきて、3軍まであるの…。中学時代有名な選手でも監督が気にいらないと即2軍行きでさ…。」
マジかよ…、
「それでどんどん辞めていって、新人が入ってくる4月には30人近くは辞めてるわね…。」
「1年で30人も…、」
「ベンチにはレギュラー含め15人しか入れないから、1,2年でいい選手がいれば、3年だって試合で応援席から観戦ってこともあるのよ…。」
「そうなんすか…。」
「だから2年からは男子部のマネージャーやってたの。だけど男子は弱くてさ…。人数だってせいぜい毎年2,3人だしね…。」
「それじゃ、ゲームも出来ないじゃん!?」
「だからマネージャーが男子の練習に混ざるの。」
「へっ?」
「私が3年の時は、部員6人マネージャー6人の仲良しクラブだったからね。」
「マジっすか?もしかしてその中でカップルがいたとか?」
「もちろん。でもウチの高校って…、もう卒業したから『ウチの高校』って言い方変よね。」
「いえ…、」
「あの学校って、ちょっとしたハーレム状態だから、変な奴じゃない限りモテるのよ。だから二股されてるとか色々あってなんかね…。」
なんだかハーレムっていい響きだ!
「ウチらの代の男女比が1対7だったし、1コ下の…次の新3年も1対4くらいで、2年は1対3くらいになったみたいだけどね。」
そうなんだ…、ハーレムか…、
「神田君聞いてる?」
「…。」
「神田君?」
「えっ!?あっ、聞いてます、聞いてます。」
「で、話をバスケに戻すけど、陽子が言うには今年の男子は粒ぞろいらしいの!なんでも県で優勝したチームのガードとセンターがいて、神田君のチームメートだった浅野君に…、」
「えっ?今、誰って言いました?」
「ん…、え〜と浅野君?」
「その前!タカの前に何て言った?」
「あー、県で優勝したチームのガードとセンター…、」
「マジっすか?」
「ええ…、だから出来れば神田君にも入って欲しいかなって、思って…、神田君って中学時代は相当有名な選手だったんでしょ?」
マジかよ…、ウチらが準決勝で負けたチームのガードとセンターが同じ学校に入ったのかよ…!?いや、待てよ…、あいつらなら強豪校に引っ張られてもおかしくない実力の持ち主のはず…。なんでウチの学校に…?俺みたいに断ったのか?レギュラーじゃなくて控えの方のメンバーか?
「ちょっと神田君聞いてる?」
「えっ?」
俺が考え事してる間にも、冴子さんは俺に話しかけてたみたいだ。
「なんでしょ?」
「だから神田君もバスケ部入ってよ。」
「無理すよ。」
「なんで?」
「なんでって…、バイト入ったばっかりだし…、」
「辞めちゃいなよ。」
「そしたら、俺、昼飯食えなくなります。」
「そうなの?お小遣は?」
「ないですよ。4月からの携帯料金も自分で払わないといけないですし…。」
「大変なのね…。」
「冴子さんが貢いでくれるなら考えますけど!」
「えっ?」
「冗談す。」
「……いくら欲しい?いくらあったら足りる?」
「えっ?」
「だから、月にいくらあったら足りるの?」
「いや、お姉さん冗談すから…。それに俺って育ち盛りで、今、食欲底無しですし…、」
「そっか…、ちょっと考えちゃった…。」
マジかよ…?見竹さんといい、冴子さんといい、俺ってなんかの素質あるのかな…?ジゴロ?なんか違うな…。甘え上手?でも年上もありかも…。