023 前島
ご無沙汰してます。長々放置してすみませんでした。
月9ドラマ『ブザービート』終わっちゃいましたね…。
「なんすか?」
「お前いつから福島と付き合ってんだよ?」
「えっ?」
ったく…そんな事知ってどうするんだよ?
「いいから、言われた事に答えればいいんだよ。」
「…3月からです。」
「最近だな。」
「えぇ…。」
「なんか聞いてるか?」
なんか?微妙な言い方だな…。
「先輩に関する事なんか話題にも上らないけど…例えばどんな…?」
「チッ…。聞いてないんだな?」
「だから何を?」
「聞いてないなら別にいい。もう行っていいぞ。」
「なんだそれ?」
「おい、神田。」
「なんすか?」
「お前、口の聞き方に注意しろよ!」
急に先輩面か?
「気にいらないなら、いつでもタイマン受けますよ。タイマンが怖いなら別ですけど。」
「なっ、何を!?」
小学生の時と違って、今は俺の方が完全に体格で上回っている。俺は黒帯ではないが、空手の実力はそんなに変わらないだろう。
「いいだろ…。」
言ったその場で上段蹴りが跳んできた。それを左腕で受け止めすかさず足首を掴んだ。そのままの態勢から下段蹴りでもう片方の足を払うと、前島の体が宙に浮いて『ウワッ!』という声と“ドスン”という音と共に畳に落ちた。
すかさず前島のマウントポジションを取り、右の拳を振り上げ一気に前島目掛けて振り下ろした…
振り下ろしたが、鼻先で寸止めしてやった。
「…。」
「迷惑なんで陽子にちょっかい出すの止めてもらえますか?」
「出してねぇよ…。」
「…。」
「しねぇから…、福島には手ぇ出さねぇから…。どいてくれ…。」
福島には…?には…、福島にはだと…、この野郎マジでムカつく…、
あれはちょうど2年前の夏休み…、ある噂が広まった。
その噂とは、バスケ部女子の屋良由紀子という子が夏休み中の部活の帰り道、何者かに性的暴行を受けた…、要は犯された…という噂だった。更に噂は拍車がかかり、彼女らしき女の子の淫らな写メが、サイトに載ってると噂になったのだ…、
俺の学年のバスケ部は一部の男女仲が結構良かった。その女子のグループには陽子は入っていなかったのは残念だったが…。そして仲良しグループの中から、自然とカップルが出来上がっていったのだ。
その子もその流れに漏れず、男バスの奴と付き合っていたのだが、そいつとは別にある男から交際を申し込まれていた。
それが一学年上の前島だった。何度も交際を迫り、その度に『彼氏がいるから…。』と断わられた。それが納得いかない前島は、ストーカー紛いにしつこく付きまとっていたらしいのだ。
2学期に入って1ヶ月経った頃、その子は転校してしまった。表立ったイジメはなかったものの、回りの視線や、影でこそこそ話されるのに耐えられなかったのだろう…。
真相は分からない。だが一組のカップルが破局したのは事実だった。
「前島さんよ…、」
「どけって言ってんだよ!」
前島は下で体を左右に振ってるが、この態勢では効果はなさそうだ。
「一つ教えてもらいてんだけど…、」
「……、なんだ…?」
「由紀子…、屋良由紀子やったの前島さんすか?」
「チッ…、お前もやったと思ってたのかよ?」
「やってないんすか?」
「やるわけないだろが!」
「じゃ、誰が…?」
「今更、そんな事知ってどうする?」
「もしあんただったら、由紀子と勇の代わりに一発殴る。」
「あぁ、丹羽勇な。」
「あぁ、そうだ。」
「あんな奴…あんな弱い奴と付き合ってたのが笑えるつーの。」
「あんな奴じゃねぇ、俺のダチだったんだよ…っていうか、弱いってなんだよ?」
「ダチ?同じ部活にいただけだろ?それにお前に直接関係ないだろ?」
「確かに俺は関係無いかもしれない、でもあんな噂が流れないで彼女があのまま学校にいたら…、勇がグレてバスケ辞めてなかったら…、」
「そうさ、噂さ。」
「は?でもあんたが由紀子に付きまとってたのを、見かけた奴は沢山いる。」
「あの時はまだガキだった。」
「まだ2年経ってねぇよ。」
「チッ…、お前には関係ねぇだろ…、福島には手出ししねぇから、どいてくれ。」
「うぉぉぉ・・………。」
また、右の拳を振り上げたが、殴る価値がない…その事に気付き、振り下ろすか迷っていると、
「待て、言う。喋るから止めろ。」
意外とヘタレになっていた前島がいた。ガキの頃は威張りくさってたのに…。
「…。」
「さっきも言ったが、あれは噂だよ。」
聞こうとした俺が馬鹿だったか…?
「俺が噂を流したんだ。」
「噂を流した?何の為に?」
「変な噂を流せば、付き合ってる奴と別れると思ってな…。でも効き過ぎた…、まさか転校するとは…。」
「実際襲ったんじゃないのか?」
「そんな犯罪出来るわけねぇだろ?それに誰が彼氏か早い段階で教えてくれてたら諦めてやったのに…。」
勇はこんな奴のこんな思惑のために堕ちていったのか…、
「…。」
「なぁ、喋ったんだからどいてくれ。」
なんか、やり切れない怒りが沸き上がってきた。
「うぉぉぉ・・・。」
上げたままだった拳を俺は振り下ろした。『ヒィッ』前島は情けない悲鳴と共に目を閉じた。
振り下ろした拳は、前島の顔の右側の畳に『ドスン』と、叩き落とした。こんな奴殴る価値もねぇ…、
「神田…、」
震えてるような前島の声が聞こえた。
「なんすか?」
「丹羽って、どこの高校行ったんだ?」
「勇…!?勇なら通信制にしたみたいですよ。ついでに言うとボクシングジムのプロ養成コースに通い始めたって噂ですけどね。」
「プロ?」
「えぇ…。最近は会ってないから分かりませんけど、卒業式の時に誰かが言ってましたよ。」
「そっ、そうか…。」
俺はそれで前島から離れてやった。そして、見下ろしながら、
「俺を気に入らなければ、いつでも相手しますので…。」
「…。」
「そう言えば、さっき勇の事、弱い奴って言いました?」
「あぁ…、」
そういえば勇が何日か学校を休んだあとに、顔を腫らして登校したって聞いたことがある。おそらく前島に何か聴きに行き、喧嘩を仕掛けて逆にやられたんだな…。
「言っておきますけどあいつの性格はしつこいですから、気を付けた方がいいですよ。」
「かっ、神田!」
「なんすか?」
「さっきの話、丹羽にしないでくれ!」
「言わないですよ。連絡も取ってないから会う機会もないですし。でも、もう勇に目を付けれられてるんなら、言わなくても同じじゃないですか?いつかリベンジしにきますよ。」
「そんな…。」
「そんじゃ…。」
そう言って格技場をあとにした。許して欲しけりゃプライド捨てて頭下げに行けばいいのに…。