22 ゲーム3
守りはそこそこなんとかなった。松本さんは2回ほど加藤にぶっ飛ばされ、中西君もタカに嫌がられながらもピッタリ食らい付いて頑張ってる。
だけど、攻めだ。桜井君が大島に3度スティールされ、なかなかフロントコートにボールを運べないでいた。その結果、やはりボール運びも俺がやる事になったのだ。デカイ俺がやる仕事じゃないが、フロントコートまでボールがこなければ攻めることも出来ない。結局、攻めも守りもガードになってしまった。
けどガードのポジションが嫌いなわけじゃない。むしろセンターでガツガツやるより好きだ。俺のマークは前と変わらず加藤なので、パスは通しやすいし、シュートを打つにもドリブルでカットインしていくにも楽な間合いなのだ。
しかし、じわじわと点差が離されていく。
分かった事がある…、加藤って奴は、自分より上手い奴には弱気になり機能しないが、自分よる劣る又は同じくらいの実力、又は体格的に有利なら、そこそこ働いてくれるということだ。この3本目も俺のマークで、ディフェンスの時はリング近くにいないが、オフェンスの時はマークが松本さんということもあって、ことごとくリバウンドをもぎ取っている。
でも自分より上手い奴に勝負していかないのは、上達しない奴の典型的なパターンだ。
向こうチームはミスマッチを有効に使い、上手く試合を運んでいる。
また松本さんが吹き飛ばされた。たまたまガードの俺の方に飛んできたから手を貸してあげたのだ。
「大丈夫?」
「ありがとう。」
手を差し出すと、それを握って立ち上がってきた。俺的にはなんでもない行為だったが、これを見ていた陽子が相当ヤキモチを妬いたみたいで、あとで大変だったのである。
「ディフェンスのマーク変わろうか?」
俺の聞き方が悪かったのか、彼女の闘争心に火が点いたらしい。
「やられた分はやり返すから、どんどんパス頂戴。」
「あぁ、分かった…。」
俺の聞きたかった事は、オフェンスの事じゃなくディフェンスの事だったのに…。それにやり返すといっても、攻めの時にマークしてるのは加藤じゃなく、大迫さんだし…。でもきっと、彼女の中ではやり返す事になるのだろう…。
結局3本目は序盤のリードが効いて、負けてしまった。
「大介は大島の事を、よく抑えてたよ。」
「そりゃ、どうも。」
「でも、お前がもっと攻めなきゃダメだよ。」
「ですね。」
「ラストは片山休みな。」
「やっと休みだー!」
あれっ?
「俺って休み無しですか?」
「お前は無しだ。」
「マジすか…?」
「バイトで来れない日もあるんだから、いる日くらいしっかりこなせ!」
「うっ…、はい…。」
確かにそうなのだが、少しくらいは休みたい。久々のバスケという事もあって、すでに足がパンパンなのだ。夜中、寝てる最中に足がつらなければいいのだが…。
4本目はセンターのポジションでガンガン勝負してやった。ダンクもかましてやったし、外からも何本か決めてきた。スクリーンで味方をフリーにしてやる献身的なプレーもして、チームを機能させたつもりだ。それに伊藤先輩が戻ってきたことですごく楽にプレー出来たのだ。
そしていつの間にか、女子の顧問の内田先生がいなくなった代わりに、女子の3軍にあたる選手達が、屋上からゾロゾロと移動してきた。おそらくその中に直江もいるのだろう。
女子部は総勢80人の大所帯で、そのうち1軍2軍の30人が新しい綺麗な体育館で練習している。それ以外のメンバーが3軍なのだ。その3軍全員が、1面しかないこの古い体育館でこのあと練習となる。
そもそもウチの女子バスケと女子バレーは全国レベルで、越県して入学してくる選手が毎年何人かいるらしい。そのうちの1人が松本さんなのだが、入学2週目にして、男子に混ざって練習するなんて可哀相な子だ。上級生を含め練習相手になる人がいないのだろう。レギュラーに大型な選手はいないのだろうか?もしいたとしても松本さんが上手過ぎて、相手にならないのかもしれない。
俺達男子は、ゲームのあとクールダウンに軽くストレッチをして、上がりとなった。松本さんは1軍がいる体育館に戻って練習に参加するみたいで、ゲームが終わったあとすぐに新しい体育館へと移動してた。
「女子は何時頃までやるの?」
横でバッシュを脱いでいたタカに聞いてみると、
「このあと1時間くらいやるみたいよ。」
「それじゃ、帰り遅くなるんだな。」
「だな。」
それから俺達は部室に着替えに戻りに行くとこだったのだが、体育館の出入口のところで前島に声をかけられた。
「神田!ちょっといいか?」
まだ前島にとって俺は神田らしい。
「あっ、はい。」
「浅野は来なくていいよ。」
「…はい。大介先行ってるな。」
「おう…。」
俺は前島について、体育館の1階にある格技場に入っていった。ここは主に廃部寸前の柔道部が使ってる場所らしい。
「なんすか?」