18 賭けの対象
俺は入学してから10日もしないウチに、入るつもりのなかったバスケ部に入る事にしたのだ。とても不本意…。
有紀姉の電話を切ったあと、直ぐさま陽子に電話して『男子のマネージャーじゃなくて他の部活に入れよ!』と、時間かけて説得したが、結構頑固で辞める気がないそうだ。
「バスケに携わってたくて…。」
女子部のマネージャーは、選手を2日で辞めたこともあってやりたくないそうだ。で、結局俺がバスケ部に入るはめに…。ただし、バイト優先という条件付きで!
それと直江には、俺と付き合いだした事をちゃんと報告出来たみたいだ。
「向こうから告白してくれたんだったら、仕方ないかな…。でも、おめでとう!よかったじゃん!」
と同時に俺の事を諦めてくれたらしい。でもタカとのダブルデートの話は言ってないようだ。まぁ、話の流れからいうと無理だよな…。
「あれっ?若宮君今日荷物多いね?」
「ん…?あぁ、そうだね。」
「これってバッシュのケースじゃない?」
「ん?あぁ、そうだけど…。」
渡辺さんは結構目ざといのか、なにかと指摘されることが多い。
「って事はやっぱりやる気になったの?」
「たまにね。運動不足解消程度に。」
そこに時間ぎりぎりで教室に入ってきた、大島が近寄ってきた。こいつもタカ同様、朝練でシュートでも打ってるのか?
「おー、若宮!とうとう入る気になったか?」
俺がバッシュのケースを持ってるのを目ざとく見付け、俺の肩を揉みながら嬉しそうにそう言うのだ。
「大島痛いよ。」
「おっ、悪い悪い。で、入るんだよな?バスケ部?」
「まぁ、家庭の事情もあるから、バイト優先ではあるけど、それでもよければ入ろうと思ってる。」
「よし!認める!そうか、入ってくれるか〜。」
俺の言葉を聞いて、大島がメールを打ち始めた。
「おい、大島、誰にメールしてんだ?」
「えっ?誰にって…、みんなに…、」
「みんな?」
「みんなに一斉メールだよ。」
「いや、だからみんなって誰?」
「浅野に加藤に片山、桜井、中西。」
片山までは聞いた事あるな…。
「このあとはに柏木先輩とかにも送る予定だし。」
「何人に送るんだよ?」
まったく…、そう思って、ふと渡辺さんの方を向くと、渡辺さんまでメールを打ちまくってる…。もしもし、渡辺さん…?あんたは誰に送信してるの?
そして、隣の教室のドアが乱暴に開いた音が聞こえたかと思ったら、廊下を走る音がして、ウチの教室の後ろのドアからタカが入ってきた。
「大介!お前って奴は!」
どうやら大島からのメールを見たタカが、事の真意を確かめにきたようだ。
「よう、浅野!あとで千円だからな!加藤にも言っておいてくれよ!」
ん?千円?
「もしかしてお前ら俺が入部するしないで賭けてたんか?」
「ん…、まぁ…。でも入ってくれるんだろ?」
「まぁ…、」
「だったら千円なんて痛くない。」
「っていうか、大島以外は誰が勝ったんだ?」
「なんで?」
「いや…、俺のお陰で勝ったんだから、学食でA定食くらい奢ってもらおうかと思って!」
「あー、もちろん奢るよ。1年は俺の一人勝ちで、先輩方は先輩方でやってるはずだけど、多分柏木さんの一人勝ちのはずだよ。」
有紀姉?あんにゃろ!
「今月中に入部してくれなかったら、俺は5千円マイナスだったから、危なかったよ。ありがとな若宮。」
「それより本当に入部するんだよな?」
「だからバイト優先だけどな!」
「よっしゃ〜!」
「浅野、そんな喜んでていいのか?」
「何が?」
「先輩方に『本人が入らないって言ってたから、絶対固いです。』とか言ってたじゃん!ガセネタつかまされたって、練習でしごかれるんじゃね?」
「ゲッ!」
それはないだろうけど、結構言われるのは間違いない。
それより久々にボールに触れるからか、放課後になるのが待ち遠しかった。