13 有紀姉
俺は家から学校が近い事もあって、どうもぎりぎりで家を出る傾向にあるみたいだ。タカといえば、朝からシュート練習をしにいくとかで、一緒に登校するのは昨日だけで終わるらしい。俺的にはその方が気が楽でありがたい。
教室の前まで着くと、廊下で話してる生徒が結構いる。上履きの色を見ると上級生が半分くらいいるみたいだ。この学校は上履きの色で学年を区別してるのだ。
席に着くと渡辺さんに話しかけてきた。なんでも、上級生が自分の中学の後輩を中心に、部活の勧誘に来てるみたいだ。
「成る程ね。」
「そういえば、さっき『神田君いない?』って男バスのマネージャーが探しに来てたよ。」
「マネージャー?」
「そう。他の部も勧誘しまくってるよ。廊下に結構人いたでしょ?」
「あー上級生っぽい人達のこと?」
「うん。それに多分だけど、マネージャーの中でも1番可愛い子連れてきてるんじゃないかな?」
「可愛い子?」
「新入生1人に対して、その中学の先輩と可愛い系のマネージャーが1人は来てるよ。」
「えっ?そうなの?」
色仕掛け?高校生の発想じゃないな…。
「そうだよ。あの後ろのドアから見える人達って、坊主頭だから野球部だろうけど、あのままだと入部決定だよね。」
「野球部あるんだ?」
「みたいよ。活動場所は校内じゃなくて、運動公園の球場借りてるみたいだけどね。」
「へ〜。野球部って9人以上いるんだ。」
「いないから勧誘してるのかもよ。」
「そっか、そうかもね。」
「あっ、又来た!」
「ん?何が?」
「さっき言ってた男バスのマネージャーさん!」
「マジ?」
そう言って入口の方に振り返ろうと思ったが、俺は渡辺さんの方を向いたまま振り向けなかった。
「入ってきた。」
「嘘?」
「こっち来てるよ。」
「…。」
すでに後ろに気配を感じた。俺は口パクで“いる?”と渡辺さんに聞いたら、静かに頷いた。意を決して振り向くと、俺のよく見知った懐かしい顔が立っていた。
「大介探したよー。しかも苗字変わってるとは思わなかった。浅野に確認しに行っちゃったよ。」
「久し振り…。」
「そうだね、久し振りだね。」
俺の1つ上の先輩で、お互いの初めての相手…。要は、俺のファーストキスも俺の童貞も捧げた相手がこの人なのだ。付き合ってたわけじゃないけど、ノリで何回かしてしまった…。
言い訳するわけではないが、始めに誘ったのは有紀姉の方からだった。バージンから早目に卒業したい年齢だったのかもしれない。
当時有紀姉は、ウチの隣のアパートに住んでいたが、有紀姉ん家が近くに建て売りの物件を買ったとかで引越したのだ。
母親同士が古くからの友達で、更にお互い看護士で職場までもが一緒だった。それでどちらかの母親が夜勤でいない時などは、お互いの家に夕飯をご馳走になったりしていたのだ。
「春休みの練習スケジュール表入った手紙行かなかった?」
「きてた。でも俺がやらない事タカから…、浅野から聞いてるんだろ?」
「本気でやらないつもり?」
「まぁ…、」
「やりなよ。伊藤先輩も楽しみにしてるよ。」
「…。」
「谷津も前島もいるし。」
また前島の名前が出た。でも、そのうちきっと顔合わすよな…。出来れば見たくなかった。
そこに担任の綿貫が出席を取りにきて『お前ら席に着け〜。』と言ってる。
「大介また、来るから。」
そう言ってドアに向かって行くと、手前で振り向いた。
「入んなきゃダメだからね!」
そう叫んで出ていった。タカから入らないって事は聞いてるだろ!って叫び返してやりたくなったが、『起立』の声がかかり止めといた。
「あの先輩と仲いいの?」
「うん?」
「いや、タメ口だったからさ…。」
「あぁ、昔近所に住んでた。」
「幼なじみみたいな感じ?」
「そうだね。」
そこは当然濁しておいた。幼なじみは幼なじみなんだろうけど“エッチした仲”なんて言える訳ない。
ん…?待てよ…、有紀姉が男バスのマネージャーって事は、今の彼女の陽子と一緒にいるって事?もしかして女同士だと仲良くなったら喋っちゃう?ヤバイかな…?有紀姉に喋らないように口止めしないと…。