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第2話・王位継承者

 レストラクスト侯爵領、首都レストラクト。

 アートラスト地方北部に位置するここは緑と水が豊かな土地だ。

 王都アレストラクスと比べても水は豊富で、アレストラクス国内でも一位、二位を誇る。

 人口約一万の首都レストラクトは王都と公爵領の首都を抜かせばアレストラクス王国内随一の規模だ。

 ここより北側と西部には国王派の貴族が多い所となる。


 シェリルはレストラクト侯爵の館までたどり着いて、一息をついていた。

 王族の人間が使う部屋に通され、今はネグリジェだけという格好でベッドの上に寝転がっていた。 

 街道での一件後も二回、襲撃にあったがシェリルは何とか生き延びて来れたのである。

「十四人か……」

 シェリルが自分の手を見ながらつぶやく。

 口にした人数は自分が手を掛けた人間の命の数だ。

 ファスティク公爵は男女問わず文武の両道を歩ませる方針で、シェリルも幼いころから剣術、体術、魔法、馬術と武芸を習練してきた。

 ファスティク軍においても兄に次ぐ大隊長の地位を持っていた。

 大隊長は約六百から千人規模の兵を率いる地位で、将軍の次の地位に当たる。

 魔法を最も得意としており、精霊魔法と神聖魔法の一部を行使出来るのだ。

 精霊魔法は大気に存在する火、水、風、土の四大精霊に加えて上位に位置する二大精霊光と闇も行使できる。

 普通の魔導士でも四大精霊は操れるのだが、中位魔導士は光、闇のどちらかが操れ、上位魔導士になると両方が操れるのだ。つまり実質、シェリルは上位魔導士相当の力を収めていることになる。

 実戦経験もある。だが同じ国の人間を手にかけなければ成らなかったことは無かった。

 やはり人の命を奪うことは出来るだけ避けたかったのが本音である。

「情勢はあまり良くないようだけど、これからどうなるのかしら……」

 現在、国王派軍と反乱軍の間で衝突が起きている。

 シェリルは何とか追っ手を逃れて来れたから良いが、街道より南側では戦闘が行われているのだ。

 その数は国王派軍八千に対して反乱軍はほぼ倍の一万五千。

 地の利がなければとっくに突破されていてもおかしくないのだが、既に約二ヵ月持ちこたえているのだ。

 現在、武芸の経験があるものや腕っぷしに自信がある人間、以前戦に出たことのある人間を集めているそうだが、恐らくかき集めても三千がやっとだろうとシェリルは見ていた。

 それより心配なことがもう一つあったのだ。

「王位継承権か……。わたしを含めて現状分かっている生存者は三人。でも、いずれも反乱軍の包囲網を突破したという報告は届いていないのよね」

 王位継承権はシェリルを含めて八名。

 シェリルが第八位なので実質最も継承権が低い。

 だが厄介なことに継承権一位、二位の王子二人と継承権第四位の父と第五位の兄が戦死している。

 残りは第三位のトルマストスク公爵と、その息子と娘だが三人とも相手の勢力圏内だという。しかも半月前を最後に報告が一切来ないところを考えると非常に難しいのだ。

 少なくとも早馬による連絡手段はすでに皆無。少し前のシェリルと同じような状況になっていると思われるのである。

「今までは考えないようにしてたけど、もしかしてわたしが?」

 もしシェリル以外の王族が居なくなれば、否応なくシェリルはアレストラクス王国復興のために王として祭り上げられる。

 つまるところ国の一切の責任をシェリルが背負う事になるのだ。

 むろん、シェリアは生き延びる事に必死でそこまで考えは至っていないが、王族の血を引くというのはそういう事なのである。

 だが、現実というは果てしなく残酷なものなのだ。


 静かな部屋にドアがノックされる音が響く

 はっとして、シェリルはベッドから起き上がる。

「少し待って」

 そう答えると、外から女性の声が聞こえてきた。

「申し訳ございません。至急、シェリル様にお伝えしなければならないことがあります」

 女性と分かり、少し躊躇うが一つ確認をする。

「悪いのだけど、わたし今ネグリジェしか着てないの。貴女だけ?」

「し、失礼しました。はい、私だけでございます」

「ならいいわ。入って」

「失礼します」

 ドアが開き、王軍の女性将校の制服に身を包んだ一人の女性が入ってくる。

 ブラウンの髪を後ろで結わいている。顔立ちは凛々しく、同じ女性から好かれそうな雰囲気を持っていた。

 シェリルの前まで来ると跪く。

「それで、伝えないとならない事は、何?」

「はい。トルマストスク公爵様がお子様ともに討たれたとの事です」

「トルマストスク公爵様達が!」

 シェリルは思わずベッドから立ち上がって入ってきた女性を見る。

 女性は頷き事実であることを肯定する。

「じゃあ、王族の生き残りは」

「はい。シェリル様のみとなりました」

 シェリルが一番恐れていたことがこの時、現実のものとなった瞬間だった。

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