Because……!!
一億二千万人の『べた恋』ファンの皆様
お久しぶりです!
あいぽです☆
(≧▽≦)/
第二回のべた恋も沢山の素敵な恋が生まれました。
『べた恋』と検索すれば、べた恋作家様の『心』がこもった作品が、沢山読めますので、ぜひこの夏も一緒にべた恋しましょう!
「君はこれから僕とキスをする……」
華やかに艶やかに、心地の良いリズムが私を包む。
無造作に揺れる彼の前髪からは、こちらを妖しく見つめる黒い瞳が時折見える。
「いいかい? しかもそれは甘い甘いキスだ……」
フロアを包む大音量の音楽は、次第に早まり弾みを増す。
私の耳元で囁く彼の声は、フロアに響く重低音のリズムに合わせ、私の鼓動を早くした。
頭上のミラーボールはリズミカルに回り、フロアには銀色の光が降り注がれる。
彼がコロナのライムを指先で弾いた時、二人の周り広がった甘酸っぱい霧は、色とりどりの光を受け七色に煌めく虹となった。
「……なんで、わたしがあなたとキスしなきゃいけないのよ」
彼のちょっと強引な口説き文句に、心とは裏腹に少しつっぱってみる。
すると彼は、そんな私に上目で微笑みこう言った。
「because……」
――You love me!!
(君は僕に恋をしてる)
☆★彡
「綾子先生ぃ〜……」
午後の診療を終えた私を待っていたのは、待合室から猫なで声で私を呼ぶ、我が親友の史子だった。
私は横目で史子に視線を投げた後、マスクを外し、洗面所でウガイをはじめる。
「ねっ、ねっ、あれから昨夜カレとはどうなった?」
――ゴロゴロゴロ……
「綾子先生が声かけられた男、超イケメンだったよねぇ〜」
――ゴロゴロゴロ……
「な〜んか二人で超いい雰囲気だったけど……」
――ゴロゴロゴロ……
「したんでしょ!?」
――ンガ……ブェッ!
史子のその言葉に、私は思わずウガイ液を洗面台に撒き散らしてしまう。
「バカッ、……んな、する訳ないでしょ! 逢ったその日にセックスなんて!」
私は呆れながら史子に答え、洗面台をティシュで拭いた。
「え〜綾子先生。つまんな〜い。だって結婚前になんか楽しい思い出作りたいって言ってのそっちじゃん!」
……ったく。
何を言い出すかと思えばホントにもう……。
今更ながら、史子のぶっ飛んだ思考回路には呆れ返る。
私は白衣を脱ぎ、史子が掛けている待合室のソファに身体を埋めて念を押す。
「確かに私はそう言いましたけど、それとこれとはカ・ン・ケ・イ・ナ・イで……」
「――じゃぁ、綾子はこのまま、あの脂ぎっちょと結婚しちゃうの?」
……えっ――!?
私は史子のその言葉に一瞬絶句する。
脂ぎっちょ……
先日、父の勧めでお見合いした、私と同じ歯科医である。
今年でもう三十四歳を迎えた私は、さすがにこの歳で独身はまずいだろうと、父の勧めでついにお見合いをしたのだ。
別にお見合いをしなきゃ相手が見つけられない訳でもなかった。
医大からの親友で、内科医をやってる史子のツテで、これまで散々コンパをやってきた。
私に声をかけてくる男たちは自慢じゃないがそれなりにいたし、付き合いを始めるチャンスもあった。
しかし、私はどうも医師連中というのは苦手だった。
病院ではどうかは知らないが、いざプライベートで食事なんかしてみても、とにかく常識外れのナルシストが多いのだ。
かと言って、普通のサラリーマンと出逢ってみても、私にとっては絶対に論外。
彼らの年収は、私には遥かに及ばない。
それは別にお金の問題じゃなく、自分より年収の低い男と付き合ってみても、彼らはどこか「女のくせに」と私をひがんでくるから面倒くさいのだ。
だから私はそんなヤツらには言ってやりたい。
あなた達ががチャラチャラ遊んでた二十代に、私がどれだけ勉強してたか分かってんのと。
遊ぶ暇はなく、二十代の青春全てを医学への道に費やしたんだから……。
勉強くらいならまだいいよ。
一番辛かったのは解剖の授業。
半年間、食事する度に吐き気が止まらず、栄養失調になりかけた事もあったんだから!
しかし、そんな努力の末にキャリアもお金も手に入れて、世間から見れば羨ましがられる私だが、最近女のキャリアってある意味幸せへの足かせになってるような気がしてならないのはなんでだろう……!?
……ただ――
老いてゆく父の悲しい顔だけはみたくなかったから、どうせいつかは結婚しなきゃならないんならと、父からの縁談の申し出を引き受ける事にした私だったのだ。
「ねぇ綾子、ホントにその結婚って幸せ?」
まるで私の心を見透かすかのように、ふと史子が呟いた。
「結婚ってさぁ、別に自分の幸せのためにしろとは私は言わない。お互いこの歳になったら家族の事とかもあるしさ、恋愛感情だけじゃ結婚できないって私も思うよ。だけどね……」
史子は私の肩にそっと寄りそい微笑んだ。
「大学ん時から、ほらっ、綾子とずっと一緒だったけど、綾子って全然『恋』なんかしてなかったじゃん。大学の時もそう、そして今も……。ただひたすら何かに追い立てられてるみたいにさぁ、仕事の事ばっか考えて。だからね、私は綾子の幸せそうな笑顔、……一度でいいから見てみたいなぁって最近思うんだ」
史子の言葉に私は少し胸が苦しくなった。
「恋」かぁ……。
確かに誰かを好きになることなんか、そんな事とうの昔に忘れてしまっていた気もしないでもない。
兄弟のいない私にとって、父親が営むこの歯科医院をこれからどうしてゆくかの事ばかりしか考えていなかったからなぁ。
あぁ……、そう思うと何だか史子が羨ましい。
あなたは大学病院勤務だから、跡継ぎとかって関係ないもんね。
色んな人と出逢い、色んな恋をして何かいつでも楽しそうだもんね。
私は、史子を見つめ大きなため息をついた。
「な〜にため息なんかついてんのよ綾子。……いい? 私たちは、青春の二十代を棒に振ったんだから、それを今からガッツリ取り返さなきゃ。だって私たちはキャリアもお金も手に入れた勝ち組なんだよ! 私たちにかかれば世の中の男たちなんてちょろいもんなんだから! だからほら、そんな暗い顔しないの。綾子はいっつも色んな事深く考えすぎなんだってば。ねっ、恋も人生も、もっとこれから楽しまなきゃ!」
一体何を想像しているのか、その瞳の先にまるでバラ色の未来でも映っているかのように、両手を広げ嬉しそうに語る史子を見ていると、私はまたもやため息がこぼれてしまう。
はぁ〜あ……。
史子は、な〜んにも悩みなんかなくって幸せそうでいいね。
なんだか史子の、その能天気さに嫉妬さえも覚えてしまうよ。
気がつけば、ついつい眉間にしわを寄せてしまう私だった。
「……で、ねぇねぇ、綾子、昨夜の男の名前と連絡先は聞いたの?」
先ほどの史子の言葉に刺激を受け、一体自分の幸せってなんなのだろうかと、結婚や将来への自分に自信がなくなってきた私は、倒れこむようにソファに身を埋めていると、史子が無邪気な笑顔を投げかけてきた。
「連絡先なんて教えてないし聞いてなぁ〜い」
私はめんどくさげに史子に答える。
「え〜、ウソでしょ。あんなに仲睦まじげだったのに。名前くらいは聞いたの?」
「ん〜名前……、なんだったけ。たしかフルネームで自分の名前名乗ってた気がする」
「フルネームで? ナンパするのにフルネーム名乗る男いるか、フツー!」
名前かぁ……。
アレ!? ホントになんだったっけな?
『because……』
――You love me!!
(君は僕に恋をしてる)
そんな事を考えていると、昨夜のワンシーンが、急に脳裏に思い出される。
あの時確かに、私の胸は高鳴っていたよな。
ははは、馬鹿みたい、あんな二十歳くらいの年下のナンパ男に……。
だけど、何でだろう。
あの男の事思い出すだけで、なんか優しい気持ちになる。
え〜と、それより名前は……。
そうそう、確かにどこかで聞いた名前だったんだよな。
「あっつ、思い出したよ史子! 昨夜の男の名前はツバサだ! イマイツバサって名乗ってた!」
「イマイツバサって、――今井翼!? ぷっ……ジャニーズみたい」
私と史子の笑い声が、病院の待合室に響いた。
☆★彡
「はいはい、またおいでなすったぜ、――翼!」
溢れる人混みのざわめきの中、R&Bのリズムが心地よくフロアに響く、クラブのいつもの角のテーブルで、俺は先ほど女にぶたれた頬を左手でさすっていると、浅田はニヤケ顔をこちらに向けてきた。
「いや〜翼くん、モテる男はつらいね〜。一体オマエは何人の女にぶたれりゃ気がすむの?」
「うっせ〜、浅田、お前うんこしに行くんじゃなかったのか!! 我慢しねぇで早く行って来い!」
「フフン。ナニ言ってんだよ翼。親友として見守ってやってるオレの友情が分かんないの?」
カツカツとヒールを鳴らしこちらに歩いてくる女を眺めながら、ふざけた笑顔を浮かべる浅田は、ニコちゃんマートというコンビニでバイトをしている俺の高校時代からの親友だ。
「やっぱりここにいたんだね、翼! 留守電聞いたわよ、急に別れるってナニよあんた!」
「いやいや、お姉ちゃん。別れるもなにもって初めっからコイツの頭に本気って文字はないの!」
俺に向かって鬼のような形相をむける女に、浅田がチャチャを入れる。
「――別の女でもできたの翼……?」
「ナニ言ってんの!? 出来きたどころか、あんたで五人目。コイツに同じ事を聞いた女は」
怒りから次第に懇願するような涙目に変わり始める女に、浅田は困った笑顔を向ける。
「ホントなの……? 翼……?」
「ホントかどうかコイツの腫上がったほっぺた見なよ、お姉ちゃん。」
今にも泣き崩れる女をよそに、浅田は俺のアゴを持ち上げて、先ほどから四人の女にぶたれて真っ赤に染まった俺の左頬を女に見せ付ける。
「さぁさぁ、これでゲームセット。ぶつのぶたないの? 俺がコイツのアゴ押さえといてやるから、さっさとあんたもコイツぶって、早く忘れて次の恋でもみつけなよ」
浅田が呆れたようにその女に呟いた瞬間だった……
――バシッ……
俺は今夜五度目のビンタをくらい、イスから落ちて思いっきり後ろに転がってしまった。
床に倒れ込む俺の周りには、その勢いでテーブルから落ちたグラスと灰皿がコロコロと転がっていた。
「ホンッ……トにあなたってサイテーね、翼! 人の心弄んで……、ナニがそんなに楽しいわけ? 初めから私の事なんか好きじゃなかったなら、なんで付き合ったりするのよ」
なんだよ、またその質問かよ……。
……ったく。
倒れこむ自分の前で、泣き崩れている女に向かって俺は一言呟いた。
「何でって? ――because……You love me(君が僕に恋をしてたから)」
「なっ、分かったかいお姉ちゃん。コイツは初めからあんたになんか恋してない。あんたがコイツに恋しちゃったから、コイツは付き合ってやっただけだよ。コイツは自分からは恋なんてしない、サイテーヤローなんだから」
俺の前で涙に濡れる女に対し、浅田は優しい声でそう語りかけた。
☆★彡
「……つぅ〜。すまなかったな、浅田。イヤな思いさせちまって」
「バカ……。らしくないぜ、ナニ言ってんだよ」
全ての女と無事別れられた俺は、クラブの地下にあるバーカウンターで、浅田と二人で飲みなおしていた。
五人の女たちからビンタをされて唇を切ってしまったのだろうか。
さっきから、アルコールがピリリと唇にしみてしまうが、俺はおかまいなしにと、コロナを一気に喉に流し込んだ。
「でも、どうしたのさ一体? 急に全部の女と縁切っちゃてさ。坊主の修行にでもでるつもりか?」
浅田は、ビスタチオをカリカリと食べながら俺に笑いかける。
「さぁ〜な……。そろそろ逃げんのはもう終わりにしようかと思っただけさ」
「なんだそりゃ」
困惑する浅田を横に、俺はずっと大切にしまっておいた名刺サイズほどのカードを指で弾き、テーブルの上でそのカードがくるくると回わるのをずっと眺めていた。
胸の片隅に大切にしまっていた、あの時の想いが今でも止まらず回り続けているように……。
そのカードはいつまでも俺の目の前で回り続けていた。
――青井歯科医院……
そのカードは、五年前の中学ん時の夏休みに俺が通っていた歯科医院の診察券。
そして、俺が生まれて初めて恋をした時の思い出がいっぱいつまった大切な大切な宝物。
最初は気づかなかったけど、まさかまた逢えるなんて思わなかったよ。
――綾子先生……
☆★彡
その日は、夕方から急に雨が振り出した。
「はぁ〜あ、なんか雨の日ってヤダよね綾子。気持ちまでブルーになっちゃうわ」
午後の診療を終えると、また史子がウチに遊びに来ていた。
「……ったく、こっちは休みなく働いてるってのに、大学病院勤務は休みが多くていいわね」
私はマスクをはずし、史子にため息混じりの視線を投げる。
「こらこら、綾子。ため息なんかついちゃうと幸せが逃げていっちゃうよ」
「だって、史子がブルーなんて言うからよ。こちとら最近いつも気分は、限りなく透明に近いブルーってとこなのに。あんたなんかに、本当のブルーの苦しさが分かってたまりますかってんだよ〜だ」
マッリジブルーって言うのだろうか?
挙式はもう間近だと言うのに、本当に最近なんだか気が滅入ってしまいしょうがない。
私は、これみよがしにもう一度、このお気楽な我が親友に大きなため息をついたあと、白衣を脱ぎ二人分のコーヒー入れて受付のソファに運ぶ。
「ねぇ、綾子……? 来週末が式なんでしょ。準備とか進んでんの?」
おいおい、いきなりその話題かよ、史子。
あなたは私をそんなにブルーにさせたいの!?
病院の跡継ぎのためとはいえ、好きでもない人とこのまま結婚しちゃってホントにいいんだろうかなって、最近すごく不安でいっぱいなんだから。
「ナニ困ったような変な顔してんのよ、綾子。……父親のためとかカッコいい事言ってたくせして、もしかして結婚辞めたくなってきた?」
「ばっ……はか!! 今さら辞めるとかそんな事出来る訳ないじゃん」
「へ〜、『卒業』みたいに王子様がいきなり迎えに来たとしても!?」
『because……』
――You love me!!
(君は僕に恋をしてる)
史子のその言葉に、私はまたもやクラブで出会ったあの男を思い出してしまう。
…………。
ダメダメダメ、私何を考えてんだ!!
そんな事ある訳ないし、出来る訳ないじゃん!!
私は思いっきり首を何度も横に振り、クラブのナンパ男の記憶をかき消そうとした。
――だけど……
何度あの男の記憶をかき消そうとしても、時折見せてくれた彼の笑顔だけは、どこか心の奥底に焼きついていて、遠い昔の記憶を辿るように、何故だか私を懐かしい気持ちにさせるのだった。
「ふ〜ん、綾子。……もしかしてその顔、恋のスイッチでも入ってんじゃないの!?」
「もぅ……! んなわけないでしょ、私は式の準備で忙しいんだから、コーヒー飲んだらさっさと帰ってよ!」
まるで私の心を見透かされているかのような史子の冗談に、思わずヒステリックに声を上げてしまう私だった。
☆★彡
二階建ての白い小さな建物。
そしてその脇ある、白地に青で書かれた「青井歯科医院」という看板。
全てが懐かしかった。
五年前の記憶を辿り、俺は今、初恋の人のいる場所に覚悟を決めてやってきていた。
――五年前……
俺は、この歯科医院で綾子先生に出逢い恋をした。
まだ、歯科医になりたてだったのか、どんなに我慢しても耐え切れないほど痛みを伴う綾子先生の治療は、不器用だったけど、どこかいつも一生懸命で、気がつけば俺は綾子先生に恋をしていたんだ。
誰かに聞かれたら、馬鹿みたいだと笑われるかもしれないけど、帰りの受付で、『大丈夫だった? 痛くなかった?』と、いつも泣きそうな表情で尋ねてくる綾子先生が、自分よりも随分と年上のはずなのに、何だかとてもいじらしくて、あの頃の俺はいつも心が高鳴っていたんだ。
そして、何とか無事に虫歯の治療も全て終わり、夏休みももう終わろうとしていたある日の事だった。
俺は、綾子先生に逢えるのがこれで最後だと思うと、どうしても耐えられなくなくなり、ついに綾子先生に告白をしたんだ。
『ありがとう。でももう少し大きくなってから迎えに来てね』
綾子先生はくったくのない笑顔で俺にそう答えた。
まるで短かかった夏のように、俺の初恋はあっけなく終わりをむかえてしまったんだ。
それからだったかな……。
人を好きになるのが怖くなったのは。
真剣に誰かを好きになって傷つくのが怖くて、『恋』なんてだだゲームだと思い込むようになっていったんだ。
『because……――You love me』
自分から誰かを好きになんて決してならなかった。
ゲームのような恋の始まりは、自分からではなく、いつも相手からだった。
だけど、まさかまた逢うとは思わなかったよ、綾子先生。
俺、……もう逃げんのは止めにする。
あの頃のまっすぐな恋、まっすぐな気持ちを思い出したんだ。
だって俺、いつか綾子先生にもう一度告白したくて、ちゃんと一人の男として見て欲しかったから、頑張って医大に進学したんだぜ!!
――この五年間
綾子先生、あなたはいつも俺の憧れで、そして全てだったんだ。
降りしきる雨の中、そんな風に初恋からの恋の記憶を辿っていた時だった。
「……え!? あなたは、こないだのツバサくんじゃない!? 何でこんな所にいんの?」
綾子先生の病院から、一人の女性が出てきて俺に声をかけた。
「――ん!? あなたは……?」
「へ〜、あの夜は綾子に夢中で私なんかに気づかなかったのかなぁ〜?」
その女は、いきなり俺の傘の中に入ってきて、ピタリと俺に体をくっつけてきた。
「あぁ〜、やっぱ近くで見ると、ツバサくんってかっこいいじゃん。なんでこんな所にいんのか分かんないけどさ、綾子から奪っちゃおうかなぁ〜。綾子どうせ結婚すんだし……。ほら、私、あの夜に綾子と一緒にクラブで踊ってた史子だよ」
……――結婚!?
「ちょ……どういう事なんだよ!! 綾子先生結婚すんのか!!」
「……へ!? 先生って、あんたなんで綾子の事知ってんの?」
その史子とかいう女は、さっきまでのなれなれしい態度から、急に真剣な眼差しに変わり俺に問いかけてきた。
「綾子はあなたに自分の職業や連絡先は教えてないって言ってた……。ストーカーには見えないし、あなた一体ナニ者なの!?」
「俺は――……」
☆★彡
入り口を開けると、そこには初夏の爽やかな日差しが窓からキラキラと差し込んでいた。
目の前にまっすぐと伸びるバージンロードの先には、銀色にきらめく大きな十字架がかかげられており、そこにこれから未来を一緒に歩んでゆく男性が静かに立っていた。
私が入り口を開けたとたん、パイプオルガンとチャペルの鐘の音が華やかに鳴り響いた。
このまっすぐと伸びる道を歩き終われば、私の人生の全てが新たに始まる。
……本当にそうなの?
この道を歩き終われば、私は全てを失ってしまうように思えてならない。
医者になるために、そして医者になってからも犠牲にしてきた青春も恋も何もかもすべて……。
一体私は何のために医者になったんだろう!? 世間から見れば羨ましがられる程に、お金もキャリアも全てを手に入れた。
でも、本当に私が欲しかったものって一体何だったんだろう?
父親の左腕に手をまわし、まっすぐに続くバージンロードを歩きながら、私は式が始まる前に、史子に言われた事を思い出していた。
――いい? 綾子……
結婚式の当日にね、非常識かと思われるかも知れないけど……。
私はずっと綾子が大好きだし、大切な友達だと思っている。
だからね、私はちゃんと綾子に伝えなきゃいけない事があるんだ。
例のクラブで綾子をナンパしてきたあの年下くん……。
こないだ偶然に彼と逢ってね、色々話をしたんだ。
そしたら、すごいびっくりした事が分かった。
ほら……、名前思い出す時に、彼の名前はどこかで聞いた事があるって綾子は言ってたじゃん。
それもそのはずよ、だってあなたたち二人は、実は昔に出逢ってたんだもん。
彼は、綾子が歯科医になった五年前に、あなたが初めてうけもった患者さんだったんだよ。
……そして
その時のあなたに恋した少年だったの。
ははは……、綾子その顔じゃどうやら思い出したようね。
あの子ね、ツバサくん、綾子にもう一度告白するために綾子追いかけて医大に進学したそうよ。
ホントに偶然だったけど、綾子に逢えてすっごく喜んでたんだ。
彼……ちょっとちゃらちゃらして見えるけど、ホントはイイヤツなのかも知れないね。
まぁ、散々女遊びしてきてたみたいだけど、綾子の事だけは忘れなかったみたいだから。
結婚……
綾子が幸せになれると思ったらしたらいい。
でも、自分の幸せを我慢してまでする必要はあるのかな?
幸せってね、結局誰かが運んでくるものでも、勝手に自分の元にやって来るものでもないんだよ。
自分で頑張って掴むもんなんだから!!
…………。
そっかぁ……。
あのナンパくんは、あの時の男の子だったんだね。
だから何だか懐かし気持ちがしたんだね。
私は、彼と逢ったあの夜にクラブで久しぶりに胸が高鳴っていた事を思い出し、自然と微笑みがこぼれてしまう。
そして、何故だか急に涙が溢れて止まらなくなってしまった。
幸せって、自分で掴むものって史子は言うけどさ……。
もう無理だよ私……。
だって、この道はもう止まれないもん。
奇跡でも起きない限り――!!
せっかく綺麗にお化粧したのに、涙が溢れて、私の顔はきっとぐしゃぐしゃなんだろうな。
でも、なんで参列者たちは、みんでこんなに騒いでるんだろう!?
人の結婚でそんなに騒げるあなたたちが、今の私には羨ましいよ。
こっちは、こんなにブルーってのに。
でも、なんかオカシすぎやしないか!?
みんなのこの騒ぎ様は……!!
うちひしがれる私の周りで、一体ナニが起きてるんだろうと耳を澄ませてみると、どこかで聞き覚えのある男の声が、私の後ろで、必死に私を呼ぶ声が聞こえてくる。
「綾子――っ!!」
「綾子――っ!!」
えっ……!?
この声は……!?
なんと私を呼ぶその声は、間違いなくツバサの声だった。
そして、私が一番聞きたかった声だった。
でも……
どう考えても、今さらこのバージンロードは引き返せないだろ、フツー!!
昔観た映画じゃあるまいし。
しかし、そんな戸惑う私に、ツバサは懸命に呼び続ける。
「なぁ綾子! あの夜言った事覚えてる!? 俺たちはキスをするって……!! 」
バカ……。
ナニ言ってんのよ。
こんな時にあなたはいきなり。
まっすぐと自分を呼ぶ彼の声に、照れくさいながらも、とめどなく嬉しくなってしまった私は、ついに後ろを振り返ってしまう。
そして涙に濡れた顔で一生懸命笑顔を作り、思いっきりツバサ笑いかけた。
「なんで……なんで、私があんたなんかとキスしなきゃいけないのよ!!」
すると、ツバサは少し黙り込んだ後、何かを決意したように、少し照れくさそうに大声で叫んだ。
「because……I love You!!」
(僕は君に恋をしてる)
初夏の眩しい光に包まれたチャペルの中、とまどう周りのざわめきはお構いなしで、私はウェディングドレスをひるがえし、まっすぐとツバサの胸を目指して駆けていった。
――幸せは……
自分で掴むもんなんだもんね、史子!
もう自分にウソついて生きるのはやめた!
一生に一度の人生、たまにハメをはずして、べたに『恋』するのもいいよね……!
☆Fin☆★彡
第二回のあいぽの作品、いかがでしたでしょうか?
……えっ!?
リアリティがない?(笑)
はい。
めちゃくちゃリアリティはありません(爆)
ノリと勢いだけの作品です。
ただ、ここまで現実離れしてしまえば、逆に読んで下さる読者様が、綾子と一緒に思いっきり『恋』ができるかな〜なんて思っています。
あいぽは思います。
『恋』には理屈も何も必要ありません。
「君が好きだから……」
ただそれだけで、例えばそれがひとときだけの情熱でも、もしもそんな風にカッコつけずに『恋』ができたら、きっとそれが『幸せ』なんだと思います。
この作品を読んで下さった読者様が、ひとときでも『幸せ』な気持ちになって頂ければ、あいぽも幸せです☆
それから、今回も沢山の素敵なべた恋作家様と作品を作り上げる事が出来た事を心より感謝申し上げます。
PS
あいぽが大好きな浅田くんをついに出演させちゃいました(笑)
なんと今回のnicoさんの作品は、浅田くんが主人公で、ツバサくんも出演する予定ですので、nicoさんの作品も是非是非こうご期待です!!
あいぽ