『霞む雪 散りて落つるは 黒桜』
「『風刃』!」
3つの符を投げ、発動させる。さらに、【風之主】を使って3つの刃を合成、巨大化させて飛ばす。
「『六妖閃』!」
妖しく煌めく六つの斬撃が、風の刃を細切れにする。
それをカモフラージュにして、突撃する。相手の強化がどのくらい続くか分からないが、俺の強化には時間制限がある。
俺の強化は満遍なく、【風纏】によって素早さがさらに上がり、攻撃に風属性が追加される。
向こうは、おそらく攻撃力を大幅に上げているのだろう。一度受けた時、腕が少し痺れた。以降は、受け流すようにしている。
「【疾風蹴り】!」
「がっ!?」
相手は体術は受け身ぐらしか使わず、攻撃は刀一辺倒。なので、隙が多く、鉄扇に符、格闘で攻撃する俺の手数の多さで、攻撃を与えられる。
しかし
「キャハッ! 本当に凄いねぇ!」
「………」
まるで効いているように見えない。いや、【苦痛消失】のせいで効いているように見えないだけかもしれないけども
「キャハッ! 『妖桜呪縛』」
鬼が地面に刀を刺した。すると、刺した場所から、紫色のオーラを纏った木の根が迫る。
手数多くなったなおい
鉄扇でいなす。もう少し刃が大きければ、斬り落とせるんだろうけども………
「『風刃』!」
風刃で斬り落としてみると、一気に枯れた。しかし、一本だけだ。後は、元気? に俺に襲いかかってくる。
「キャハッ! 本当に凄いねぇ。なら、これならどうかなぁ?」
「ッ!?」
俺の周囲から根が飛び出してきて、俺を取り囲む。このままだと、捕まってお仕舞いだな。
「『旋風独楽』!」
鉄扇に纏わせていた風を、大きくして『旋風独楽』を発動させる。
俺を取り囲んでいた根を全て両断する。
遮りが無くなったので、鬼に向かって飛び出す。
「『双龍斬』!」
「『剣弾き』」
「『剛鬼打』!」
「『岩裂』!」
「【疾風蹴り】! ッ!?」
鉄扇を弾かれ、一撃を相殺されたので、蹴りを叩き込もうとしたら、オーラを集中させた手で防御された。
「キャハッ! そぉーれ!」
刀の峰の部分で、打ち上げられる。
飛びそうな意識をギリギリで繋ぎ止める。鬼が高笑いしながら、飛んでくる。
さて、蹴りを受け止められ、打ち上げられたのは予想外だったが、空中戦なら此方のほうが上だ!
「『貫角』……ッ!?」
突き出された刀を、【風之主】で空中回避する。
驚愕の表情をする鬼、さて、時間も残り少ないし、一か八か止めをさすために全力でいこう。
「『剛鬼打』! 【疾風蹴り】!」
「ッ!?」
怒涛の二撃を鬼の右腕に叩きつけて、腕をへし折る。鬼が、手放しそうになった刀を左手で掴みとる。
その時間を利用して、縦回転。そして
「【疾風蹴り】!」
「グァッ!?」
鬼の肩に回転踵落としを叩きつけて、地面に落とす。俺は、鬼から大分離れた場所に着地して、鉄扇をしまい、アイテムボックスから刀を取りだした。
さて、見せてやろう。冬道流剣術の真髄を
「………冬の道は酷なり」
スッと、スイッチが切り替わったように眼前が鮮明になる。
刀に、魔力を、氣を、浄を、風を、俺の全力の“力”を刀に纏わせる。
「雪化粧に包まれて銀世界」
「痛いなぁ、酷いなぁ」
鬼が起き上がった。
「それは幻かや? それとも真かや?」
「もう、コロしちゃうね」
鬼がおれのほうに駆けてくる。
「夢と現の狭間にて、雪の僮は虚に遊ぶ」
「キャハッ! ナニ言ってるの?」
鬼が俺の言葉、ある技の前に言う言葉、すなわちルーティーンを聞いて首を傾げる。
「吹雪に消えろ━━冬道流剣術“奥義”!」
「キャハッ! さようなら、『屍咲き』!」
黒く、紅く、おぞましい斬撃が俺に迫る。
冬道流の真髄は、相手の視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚……五感から、いや、第六感からさえ消える。
つまり、相手の“完全なる死角”に侵入すること
相手の認識不能の位置から、認識不能の刃を叩き込む。
それが冬道の真髄である。
「………あれ? なんでいないの?」
鬼の身体から鮮血が飛び散る。
「これ何? アタシの………血?」
「━━『朧雪』」
「あ……え?」
冬道流剣術“奥義”『朧雪』
これは連発できる技じゃない。相手の完全なる死角を探すために、思考を高速加速させないといけない。長く続けると脳に負担がかかりすぎるし、連発するとすぐ死ぬらしい。
「あ、やだ! やだ! やだ!」
「……何が?」
「あ、え? それは………え?」
やっぱり、目的なんて本当はなかったのだろう。おそらく、自分の奥底から沸き上がる狂気に従って、ただ動いていただけなんだろう。
「うぁ? ……あれ? なんで? なんで? なんで? なんで? どうしてだっけ? あれあれ? どうして? なんで?」
「………おやすみ」
俺は、何かにとり憑かれたように、ぶつぶつ呟く鬼の首を、斬り落とした。
《お知らせします》
《〈ヤマト〉の特殊ボス。“狂桜月下の人喰い鬼”が討伐されました》
《〈ヤマト〉の転移門が解放されました》
《以降、〈ヤマト〉の夜に希に特殊ボス。“人喰い鬼の残滓”が出現するようになります》
《おめでとうございます。“狂桜月下の人喰い鬼”初討伐報酬として、討伐したプレイヤーに、〈妖刀・屍桜〉が与えられます》
《“狂桜月下の人喰い鬼”を特殊討伐したことにより、討伐したプレイヤーに、“式神の魂元”が与えられます》
鬼撃破です。多分、悪鬼編は次回で終わりです。後、次回はほとんど説明会になると思います。




