『屍桜』
◇【ある妖刀の話】
妖刀と呼ばれるモノがある
妖刀と言われて、いいイメージを持つものは少ないだろう。
マンガやアニメで出てくるモノは、所持者を呪い、最終的には殺してしまった、という設定が多い。
ちなみに、最も有名な妖刀は“村正”だろう。
さて、『Miracle World Online』にも妖刀が存在する。
主に〈ヤマト〉に多く点在し、使用中に所持者にバッドステータスを与えるモノ、使用中は狂乱の状態異常にさせるモノ、使用中は体力もしくは魔力、または両方を減少させ続ける等々………
基本的には、強力ではあるが、所持者に大小はあるがデメリットを与えるモノが多い。
しかし
一部、所持者にデメリットを与えない妖刀が存在する。
さて、そんなデメリットを与えない妖刀の一振りを紹介しよう。その前に、その刀が出来た逸話を話そう。
〈ヤマト〉のあるところに、美しく咲きほこる桜の木があった。
ほの木は、朝夜、春夏秋冬問わず美しく咲くという、とても不思議な桜の木だった。
「なんでこの木はずっと美しいんだろう?」
ある日、一人の男が件の桜の木を見て、首をかしげて呟いた。
それは、誰も特に気にしなかったこと、妖精や精霊、妖怪が存在する世界。一年中咲く桜があっても不思議だとは思いこそ、精霊でも宿っているのだろうと自分の中で納得するのだ。
しかし、男は、その桜の美しさに、ほんの少しの何か別の感情を抱いた。
「なんなんだろう? この違和感」
男は不思議に思い、毎日のように桜の木を見に行った。
朝も、夜も、晴れの日も、曇りの日も、雨の日も、雪の日も、雷の降る日も、嵐の日も……
そんなある日、男はふと思った。
「ナニか特別なモノから、栄養を取り込んでるんじゃないか?」
男はそう思いたち、スコップを片手に地面を掘り始めた。
来る日も、来る日も、何日もかけて掘った。
そんなある真夜中のこと、スコップの先にナニかが当たった。
男は周りを掘り、当たったモノが何か確かめた。
男の予想は当たった。
桜の木は特別なモノを養分として、一年中美しく咲いていたのだ。
そして、男がうっすらと感じていた感情もその時分かった。
「ッ!?」
恐怖。
男の感じていたのは恐怖だった。
掘り出したモノは、骸骨。人の頭の骨、それに絡み付いた桜の根だった。美しい桜の木は、人を喰らって美しく咲いていたのだ。
男が恐怖に身を震わせた時、桜の根が男に絡み付き、地中に引きずり込んだ。
またある日、一人の異質な鍛冶師が一つの刀を鍛えた。
より人を殺しやすくなる刀ばかり作っていた、その異質な鍛冶師には珍しく、鍛えられたその刀が持っていた能力は、【能力吸収】というものだった。
鍛冶師は、その刀を持って件の桜の木の下に向かった。
そして、桜の木に持っていた刀を突き刺した。
瞬間、桜の木から血のような真っ赤な樹液が吹き出し、桜の枝や、根が、幹が、のたうち回るように揺れ動いた。そして、それを見ながら嗤う鍛冶師を枝が、根が、飲み込んだ。
後に残ったのは一本の刀
刀身は薄紅色で、所々に光を吸い込むような真っ黒の桜の花びらの柄がついている、妖刀が一振りあるだけだった。
その刀の名は━━━
◇
鑑定結果に俺は愕然とした
〈妖刀・屍桜〉
ダメージ補正:[HO]F
斬撃補正:S+
打撃補正:A
魔力制御補正:B
耐久値:1500/1500(不壊)
≪武器能力≫
【斬撃強化:大】【苦痛消失】
【吸血喰肉】【妖華覚醒】
【斬殺成長】【邪刃】
【不壊】
はぁ!?
ちょ、なんかヤバそうな効果の能力あるし、[HO]ってなんだよ!?
しかし、斬られた後に沸き上がったえもいわれぬ恐怖は、【邪刃】のせいだろう。
【吸血喰肉】は、【攻撃吸収・体】や【攻撃吸収・魔】に類似した能力だと予想できる。
【苦痛消失】はなんだ? 字面どうりなのか? まぁ、痛みや苦しみを感じずに戦えるのだろう。
【妖華覚醒】は皆目検討もつかない。覚醒っていうくらいだから、強化系かな? 分からん
総合すると、妖刀ですね。うん。
攻撃は受けてはダメだろう。またあんな恐怖を感じたとして、無理矢理消せる確証は無い。
相手を警戒しながらも、足にぶつけるタイプのポーションをかけて治療する。
「キャハッ! これの攻撃受けた後、すぐ死ななかったのは、アナタが始めて♪」
そりゃ、あれだけの恐怖を感じて正気でいられる、もしくは無理矢理消せる奴は少ないだろう。俺だって、あの声が聞こえなかったらヤられていただろう。【神託】スキル万歳!
「『疾風』、『剛力』、『堅牢』、『風刄』」
作成しておいた、付与の符を発動させる。というか、数日前に作って貼っておいたのを今思いだしたのだ。
戦う前に思いだしてたら、もっと楽だったんだろうか?
「『窮突打』!」
「『貫角』!」
俺の突きと、鬼の突きが衝突する。
攻撃力なら向こうのほうが上、しかし、速度などを換算すると同等のようだ。
鉄扇と刀は、ぶつかった状態で動かない。
「キャハッ! 本当に凄いねぇ! これは、本気出さないとダメかなぁ?」
「私も本気出したほうがいいみたい」
ほぼ同時に距離を取る。
俺は、鉄扇を上に放り投げ、両の掌を打ち合わせる。
鬼は、刀を額に浅く突き刺した。
「【仙人化】、【風纏】」
「【妖華覚醒】」
俺の身体がうっすらと氣に包まれ光り、荒ぶる風が覆う。
鬼の身体はうっすらと赤黒いオーラに包まれ、額には薄紅の桜の花が咲いた。
「キャハッ! それじゃあ、そろそろおしまいだよぉ!」
「それはこっちのセリフ!」
俺が落ちてきた鉄扇を掴み取り構えると、鬼も刀を構えた。
月の下、俺と鬼の戦いは、終わりを迎えようとしていた。
とんでもない武器が出てきましたね
ちなみに、[HO]は、Higher order(上位の)という英語の頭文字を取りました。
これを読んでいる時、梶井基次郎を思い浮かべた人は少なくないハズ………リアル、桜の樹の下には屍体が埋まっているですね




