『白い恐怖・後編』
「あそぼ♪ あそぼ♪ いっしょにあそぼ♪」
全方位から迫ってくる白く薄い手を、【氣術】で氣力を纏わせた鉄扇や蹴り、そして【清祓術】の『滅』で撃退していく。
数が多く、撃退したはしから復活していく“手”に苦戦してしまう。正直に言うと、“手”を捌きながら少女に迫って倒すことは可能だろう。
しかし、これはそんな単純な問題ではないと思う。何故なら、先ほどのアナウンスにあった『チェインクエスト』とは、クリアする度に新たなクエストが発生したりするクエストのハズだ。
いや、それは関係無い。
目の前の少女から感じるのは、“恐怖”、“悲しみ”、“焦燥”………
違う。
これは俺が感じているんじゃない。
これは少女の感情だ。
「…………なんで?」
「あそぼ♪ あそぼ♪」
「…………どうして?」
この迫りくる手は、彼女のモノでは無い。
本体は何処にいる?
「滅!」
“手”に『滅』を食らわせても、少女には苦悶の表情一つもない。いや、少女には負担があるようだ。新たに、“苦しみ”と“痛み”が伝わってくる。おそらくだが、少女を媒体として攻撃してきているんだろう。
本体を倒せば、少女の霊も解放出来るだろう。しかし、どこに本体がいるのか………
じっくり周りを調べたいところだが、この“手”が邪魔で思うように動けない。
さて、どうしようか?
「あそぼ♪ あそぼ♪」
「…………」
ダメだ。
これ以上少女を放っておくと、かなり危険だ。
『救いを先に………』
なんだ? 今のは?
『白い恐怖は悲しみ』
誰だ?
『風はいつも貴女とともに……』
あぁそうか………
「今、助ける」
「?」
白い手を捌きながら、白い少女に近づいて行く。“手”を倒すのは難しい。
しかし、少女を浄化するのは簡単だ。
「浄!」
「!?」
少女に近づいて、『浄』をかける。少女と“手”がゆれる。ゆらいで、消えかかる。
「たす……けて……」
「大丈夫。浄!」
より激しくなっていく白い手の猛攻をしのぎつつ、白い少女を浄化していく。
白い少女は“悪霊?”に取り憑かれているだけ、ならば悪霊を倒してから白い少女をなんとかするのではなく。白い少女を浄化して、悪霊を引き剥がせばいい。
「浄!」
「あぁ………」
なん十回目かの『浄』を白い少女にかけたとき、白い手が消え去り、少女が柔らかく微笑んだ。
「ありがとう……」
「どういたしまして」
白い少女がぽうっと光の粒子になって、空に吸い込まれていった。
さて、後は………
『ユル……サナイ』
「…………」
黒いモヤのようなモノ………おそらく悪霊であろうモノが、耳障りな声で憎々しげに言葉を紡ぐ。
『コンドハ………オマエノ………バンダ!』
黒いモヤから白い手が伸びて、俺を捕まえる。
『クラッテヤル。オマエヲ………クラッテ……イキヌク!』
黒いモヤが迫ってくる。
やっぱり、真犯人はこの人達じゃない。
まだ悲しみが、苦しみが、伝わってくる。
「もういいよ」
『イキテヤル! クラッテヤル!』
「楽になっていいんだよ」
例え悪霊とはいえ、望んでなったのか、無理矢理そうさせられたのかの違いがある。
この人達は、後者だ。それならば、この人達も救いたい。
「お休み」
『コレハ……ナンて……暖かい……』
黒いモヤが晴れて、何人もの人達が満足げな表情で光の粒子になり、空へと消えていく………
━━━━━ありがとう━━━━━
《 ≪チェインクエスト:白い恐怖≫をクリアしました。》
《クリア報酬として、“導きの光”が与えられます。》
《完全クリア報酬として、冥霊結晶が与えられます。》
嫌な気配が無くなった場所で、暫く考える。
これを行った人物の目的は?
なんのためにやっている?
他の町でもやっているのか?
考えていても仕方がない。クリア報酬で手にいれた“導きの光”の見た目は、普通のランプだ。しかし、名前とクリア報酬ということから、次のクエストで使うのだろう。しかし、情報が少ない。
「とりあえず戻ろう」
ネーヴェもシャルーも待ってるハズだし………
通路を通って元の大通りに戻ると、裏路地の前でうろうろしているネーヴェとシャルー、そして、それを見て困惑している幾人かのプレイヤー………って、なんかハチマキ巻いてると思ったら、『雪月花親衛隊』と書かれていた。
「きゅ!」
「!!!」
「お待たせ」
飛び付いてきたネーヴェとシャルーを受け止めると、親衛隊の皆さんは「失礼します!」と言って、バラバラに散って行った。なんというか………まぁ、おいておこう。
さて、チェインクエストの手がかりも探していくつもりだが、一旦は当初の目的通りに港町を目指して〈ノルデ〉に向かうことにする。