『魔族侵入』
《お知らせします。》
《イベントフィールドに魔族の精鋭が侵入しました。ご注意下さい。》
そんなアナウンスが聞こえ、騒がしかった会場は一瞬で静まり返る。だが、一秒たった次には直ぐに各自が動き出す。
偵察部隊を組む、各ギルドマスター。掲示板を開き情報を集める人。会場の片付けをする生産職の人達。
対して、俺達三人は少し焦っていた。なんせ
「え? 何何かあったの?」
「どどど、どうすれば?」
突然の変わりようについていけていない、リューニャとリリルィ。恐らくだが、魔族の精鋭の侵入に関わっているのだろう。
ふと、ここでさっきのアナウンスの内容が気になりだす。そういえば、アナウンスは「倒せ」とか、「撃退しろ」とは言っていなかった。「気をつけろ」と言っていた。ということは、侵入した魔族を倒すというのは、不味いかもしれない。ここは、何か知っているであろう二人に。
「リューニャ、リリルィ」
「何? スノウ?」
「なんなのです?」
「魔族が侵入したらしいんだけど、何か知ってる?」
「スノウ!?」
「スノウちゃん!?」
突然の俺の言葉に、ライラとクノが慌てるが、それ以上に俺の言葉に驚いた二人。リリルィに至っては、顔を青くしている。
「知ってるよね?」
「え、うぅ。それは……」
「リューニャ様、正直に話すのです。このままじゃ、スノウさん達が攻撃されるかもなのですよ!」
「う。そうね。えっと、多分私を連れ戻しに来たんだと思う」
うん。その回答は予想していた。ならば、攻撃されてもリューニャとリリルィが説得すれば、大丈夫だと思う。
そんな感じで、リューニャとリリルィから情報を得られたので、スリート姉さん、ルキエさん、茜さんに事情を伝える。
「分かった。では、我々親衛隊は侵入した魔族を見つけても攻撃はせず、あちらから攻撃してきた場合も防御や回避に専念するとしよう。説得は、そちらで頼みたい」
「私達もそれでいいわよ。他ならぬスノウちゃんの頼みだから」
「アタシらも協力するよ。ただ、他のプレイヤーがどう動くか分からない。特に、アーサーや黒金なんかは、迷わず倒すほうを選択するだろうから、そっちをなんとかしてみるよ」
「お願い」
そんな感じで決まったので、早速行動を……ッ!?
ゾワリと嫌な風が背中を撫でて上にいく。弾かれたように上を向くと、荒れ狂う暴風を閉じ込めた球が落ちてきていた。加えて、リューニャとリリルィの周りの風の動きが変わる。
スゲーな【風之主】。風に関することならだいたい分かるらしい。リューニャとリリルィを守りつつ、俺達を吹き飛ばそうって魂胆か。しかし、そうはいかない。
【風之主】で空を飛び、暴風の球に右手で触れる。すると、俺の右手に吸い込まれて消えた。体力が回復したのかは分からないが、一先ずこれで大丈夫だろう。さらに、相手の姿が見えた。
黒い翼……おそらくカラスの羽であろうそれを背中から生やし、驚愕の表情で俺を見ている。とりあえず、奴の周りの風の動きをめちゃくちゃにすると、バランスを取れずに落ちてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?!?」
「暴れないで」
首根っこを掴んで一緒に落ちる。なんか、下から悲鳴が聞こえてくるが、気にしない。集中力が切れるからな。地面から50センチぐらいのところで、ふわりと落下速度をゼロにして着地。男から手を離す。
すると、懐から取り出したナイフを俺に突き立てようと動かす。しかし、それより早くメイド服を着たリリルィの突進を受ける。
「ぐぇ!?」
「何やってるのですー! このバカ! あほ!」
「いだ! いで! ちょ、助けようとしたのになんでっ!」
「いいわよリリルィ! もっとやりなさい!」
「ちょ!? 姫様!? 姉ちゃんもやめてくれ!」
「黙るのです。お尻百叩きです!」
「え、ちょ! それだけはー!」
あれ? なんか楽しそうだな。
リューニャとリリルィが魔族の説得をしている間に、準備を済ませた各ギルドが散っていく。生産職等の精鋭魔族に簡単にやられそうなプレイヤーは、ここで待機して入ってくる情報の整理になっている。ちなみに俺達三人は、そのうちリューニャとリリルィを連れて魔族説得に向かうつもりだ。
「成る程。つまり、姫様と姉ちゃんは捕まってたわけじゃなかったのか」
「見れば分かるでしょ!」
「そうなのです!」
「いやいやいや、俺バカだし!」
リリルィの弟こと、レレロゥの説得は終わったようだ。このままレレロゥに任せて、リューニャとリリルィに帰ってもらえばいいのだが、なんだか嫌な予感がするというか、嫌なことが起こるのはほぼほぼ確定なんだよね。
何故かというと、先ほどから【風之主】を使って広範囲の声や、話し合いを拾っていたのだが、どう考えてもヤバそうな会話があったのだ。それが、こちら。
『それで? リューニャ王女暗殺計画は順調か?』
『ああ、見事に騙されてやがる。異界の冒険者によって殺されたことにするのは簡単そうどころか、本当にそうなる可能性さえある』
『ほぅ。それはいいことだな。まぁ、いいタイミングになったら迷わず殺せ。いいな』
『分かってるっつうの』
はい。どうみても不味いやつです。一歩間違えれば、何処かにあるだろう魔族の国がプレイヤーの敵になる可能性がある。しかし、上手くいけば味方になるということだ。とりあえず、今聞いたことを伝えることにする。ただし、聞かれる可能性があるので、リューニャ達住人には伝えず、フレンドチャットを使って知り合いのプレイヤーに伝える。
ライラとクノにはパーティーチャットで伝える。
『成る程。リューニャを守りきればこっちの勝ち。出来なければ完全敗北ってわけね』
『なら、リューニャちゃんには大福をつけておきましょう』
『ん。とりあえず、そんな感じで』
リューニャとリリルィは、レレロゥについて他の精鋭魔族四人プラス一人と合流して、帰るらしいので、そこにお別れをいいたいから着いていくと言って動向することにした。ちなみに、プラス一人というのは……
「王太子様です………」
「「「「「………」」」」」
なんでも、リューニャが拐われた━━この時点で騙されているようだ━━と聞いた魔族の王であり、リューニャの父親が直々に助けに行こうとしたのだが、それは流石に色々不味いと臣下が止め、その隙に精鋭五人で転移の痕跡を辿ってここに来たのだが、何故かリューニャ大好きシスコン王太子も一緒にいたという。
「陛下の暴走に気をとられてて、完全にノーマークでした」
とにもかくにも、リューニャとリリルィに加え、レレロゥもいるので襲われることはないだろうが、王太子の精神状態が不安定なので、注意するように言われた。
「先ずは、連絡のとれたガルディア隊長と合流しましょう。石造りの舞台がある場所にいるみたいです」
「そこなら知ってる」
「本当ですか? なら、案内お願いします!」
ここで石造りの舞台といったら、影真似妖精のいたあの場所だろう。森の中にあるので、強襲には気をつけなければならない。とりあえず、【風之主】を使った『風の察知結界』(スノウ命名)を半径100メートルぐらい展開しておこう。
本当なら、超遠距離からの攻撃を警戒して、最低でも半径500メートルは展開したいのだが、維持できるのは数秒だけ。それ以上続けると、自動で解除されるし、頭痛によるダメージまで受ける。まぁ、脳が受けとる情報が多過ぎて耐えられないのだろう。
そんなわけで、範囲は100メートルが一番安定する。
「それじゃ、行きましょうか」
よし、ミッションスタートだな。