『もふもふ』
森の中をライラを先頭に、クノ、俺の順で進んで行く。途中、未知の草等を採取しつつ、ひたすら先に進む。勿論、ちゃんと拠点に戻れるように目印もつけている。
進んで行くのはいいのだが、モンスターが出てこない。
「なんなのこの森! イベント限定のモンスターとかいるハズでしょ!」
「うーん。ライラちゃんの言うとおり、全然いないね。」
「ん。」
そんな事を話し合っていたら、火の玉が飛んできた。いきなりかよ、おい。突然の事でびっくりしたのか、動けない二人の前に立って、【魔力刃】を 発動させた鉄扇で弾く。
火の玉の飛んできた方を見ると、むちゃくちゃでかい赤い芋虫がいた。キモッ!
「うわぁぁぁぁぁ! 何よアイツキモすぎ!」
「うぅ。流石にアレは…………」
「ん………」
キモいが、倒さないとな。動きは遅いので、距離をつめて閉じた鉄扇を叩き込む。
「ギュギャァァァァァ!」
口から変な液体を吐いた。キモ過ぎる。キモ過ぎるよコイツ。その後何度か攻撃して倒したが、もう二度と戦いたくない。いくらなんでもキモ過ぎる。
「うぅ。もう会いたくないんだけど。」
「そうだね。」
「ん………」
なんかやる気なくなってきた。他の二人も同じようで、話し合いの結果一度拠点に戻る事にした。目印という名の、木につけた傷をたどって拠点に戻る。
戻って気づいたのだが、森に入ったのと反対側に進むと、草原に出た。先にこっちを見れば良かった。
草原を見渡すと、色とりどりの羊が沢山いた。なんだかほのぼのとしていい感じだ。
「とりあえず、さっきみたいな虫系モンスターはいないみたいだし、進む?」
「そうですね。」
「ん。」
羊に警戒しつつも進んで行くが、羊達はのんびり草を食んだり、寝てたりしていて襲ってこない。ひょっとして魔獣とかかな? と思い鑑定するが、どうやらモンスターのようだ。にしても、なんで襲ってこないんだろ?
「ノンアクティブモンスターね。」
「ノンアクティブ?」
「そう。こっちが何かしない限り襲ってこないモンスターだよ。逆に直ぐに襲ってくるのは、アクティブモンスターっていうんだよ。」
「ふーん。」
にしても、もふもふだな。近くにいた青い羊に近づいてみる。うん。凄くもふもふです。
一つ思いついて、アイテムボックスから料理に使う予定だった人参を取り出す。
「メ゛ー。」
「ん。」
「メ゛メ゛。」
人参を差し出すと、モグモグ食べ始めた。その隙にもふもふな毛を触ってみる。羊は特に嫌がりもせずにされるがままでいる。もっふもふや~、顔というか、身体ごと埋める。
あ゛ーー! いいわ~、癒される~。
「スノウちゃん、わ、私も!」
クノももふもふの毛に埋もれる。二人に増えても嫌がらずに、されるがまま、さらに、無言でライラも埋もれた。それでも嫌がらない。この子ええ子や。追加で人参を上げる。
もふもふしていたら、他の羊達も寄ってきたので、人参やらキャベツやらを取り出して与えると、お礼なのか分からないが、自身のもふもふボディを押し付けてくる。ここはもふもふ天国ですか?
ひとしきりもふもふを堪能したので、再び探索に向かう事にする。出発するさいに羊達からもふもふな毛玉を貰った。もふもふな羊が、もふもふの毛の中からもふもふの毛玉を取り出すのは、なかなか見ものでした。
「さぁ、再出発よ!」
「「おー!」」
次は何が出てくるのかと、期待しながら先へ進む。草原はかなり広くて、なかなか新しい物は見えないが、もふもふな羊達がそこら中にいて、癒されるので、気にならない。
暫く歩いていると、前方に二つの人影が見えた。このイベントフィールドに来て、初の他プレイヤーを見かけたな。近づいて行くと、それが見知った顔なのが分かった。
「キャァーーー! ライラちゃん、クノちゃん、スノウちゃん! こんな所で会うなんて危惧ね♪」
「お久しぶりですお三方。」
表れたのは、以前防具を作って貰ったリジェさんと、その助手のアルネさんだ。二人は裁縫士だし、ここにいる理由はおそらく羊の毛だろう。
「ここに来たのは、羊の毛のためですか?」
「そうなの。でもね、幾人かのプレイヤーが毛を手にいれるために攻撃したんだけど、びっくりするぐらい防御力が高くて、しかも、一匹を攻撃すると周りの羊達も襲ってくるから、簡単にやられちゃうらしいの。」
「私達も来たのはいいんですが、倒すのはまず無理として刈り取ろうと考えたんですが、それも敵対行動になったら、洒落になりません。」
「うぅ~。どうすればいいの~!」
お二人共困っているようなので、大量に貰った毛玉をプレゼントする。
「えっ!? どうしたのコレ!?」
「貰った。」
「誰からですか?」
「ん。」
羊達を指差すと、驚いた顔をする二人。とりあえず、毛玉を貰った経緯を話すと、納得したような表情をした。
「成る程。仲良くなるか……………盲点だったわ。」
「普通なら、モンスターと仲良くなろうとは思いませんよね。」
「もふもふ。」
しょうがないじゃないか、もふもふに埋もれたかったんだもん。
試してみる。と言って羊達の方へ駆けていく二人を見送って、俺達は再び歩きだした。