『泣きたくなってくる』
祝・100話! しかしゲームはしない!
「1━B女装メイド喫茶やってまーす」
「是非来てくださーい」
「………」
校内を三人で練り歩く。お客さんの多くが、二度見どころか三度見している。恐らくだが、メイド服を着ている俺を見て、次に女装メイド喫茶と知ってまた見て、えぇ男!? という感じで見るのだろう。
皆の視線を独占だ!(ヤケクソ)
それと、たまに━━━
「あのー……」
「はい。なんでしょうか?」
「メイドさんと写真撮影いいですか?」
「いいですよ~」
写真撮影を頼まれるんだよな。主に女子から。男子も写真撮影を頼んでくるんだが、だいたいが俺を女だと勘違いしている。んで、男だと知ると、orzするのだ。
そうそう、たまにお茶に誘ってくる奴もいるが
「女装メイド喫茶だって書いてあるだろうが」
と、地声で言えば去っていく。因みに、それ以外は裏声でいくように言われている。
「結構宣伝したわね」
「そうだね。一旦戻る?」
「雪子をそろそろ休憩させないとヤバいかもね」
いいよ別に。もう諦めてるから
「雪子ちゃん。目が死んでるよ」
「うん。戻ろう」
どうやら目が死んでるらしい。ゆっくり休むことにしよう。
教室に行くと、行列が出来ており、中からは楽しそうな笑い声も聞こえてくる。とりあえず、女子が全力でとった休憩室(隣の教室)に入る。
死屍累々だな。ズーンという効果音が付きそうなぐらいの雰囲気だ。
「あ、宣伝お疲れ様~」
「お疲れー」
「お疲れ様」
「………」
俺は近くの椅子に座って深く息を吐いた。いやぁ疲れた。精神的に凄く疲れたよ。一時間ぐらい休めたらいいけど、多分無理だろうなぁ………
それから30分程、ぼー、としながらお茶を飲んだり、お菓子を食べていたら、クラスの女子が目の死んだ幾人かの男子を連れてやって来た。
「はいじゃあ、30分休憩ね。次のシフトの人ー………ん?」
「え?」
やって来た女子と目が合った。なんだか物凄く嫌な予感がするんですけど………
満面の笑みを浮かべる女子と、ひきつった笑みを浮かべる俺。
「雪子ちゃん。強力してくれる?」
なんでだろう。疑問系のハズなのに、「無理とは言わせない」という副音声が聞こえてくるんですが………とりあえず、頷くしかない現実にガックリした。
女子に連れられて教室に入ると、一斉に集まる視線。
「今から暫く雪子ちゃんが入りまーす!」
すると、歓声を上げるお客さん達
もう何も言う気力が出ない。とにかく、頑張ろう。
教室内を、あっちに行ったりこっちに行ったり、他の男子達と忙しなく回る。時折一緒に写真撮影をお願いされて、それに応じる。
「お兄ちゃん!」
「雪くん」
「雹に霙姉さん?」
学校祭があるとはメールで伝えたけど、来ちゃったのか。苦笑しつつ、二人に近付くのだが……
『パシャ! パシャパシャ』
「………二人共?」
「お母さんが撮って来てって」
「記録は残さないとダメよね」
「………もう好きにして」
なんというか、こういう事は以前にもあったし、小さい頃は女の子の格好をさせられていた。それが可笑しいと分かった瞬間、この格好をさせた父をボッコボコにした。
四歳だったけど、鍛えられていたのでそれぐらいは余裕だった。
席に案内すると、メニューを見ながら笑顔で話し合っている。
「お兄ちゃ~ん」
「雪く~ん」
指名ですか、そうですか。
「ご注文は?」
「君の笑顔をテイクアウトで!」
雹がドヤ顔でそう言って来たので、鼻を摘まんで黙らせた。この阿呆め。
助けを求めるように霙姉さんのほうを見ると、満面の笑みを浮かべて━━━
「雪くんをテイクアウトで!」
「普通に注文せい」
霙姉さんには軽いチョップを食らわせた。この姉妹は本当にもう、止めてほしい。まぁ、これ以上は流石にふざけないだろう。
ふざけないよね?
雹はショートケーキを、霙姉さんはガトーショコラを注文した。
因みにメニューは全てデザート系で、我がクラスは料理が出来る奴が多いので、各自で作って持ってきていた。俺もその一人である。飲み物のほうは、買ったものだけれど。
「お待たせしました」
「メイドさんの愛は込めないの?」
「込めません」
「えぇー」
「えぇーじゃありません。ごゆっくりどうぞ」
雹と霙姉さんは、デザートに舌鼓を打ちつつ、他の女装メイドとも記念写真を撮って、帰って行った。
こうして1日目は、宣伝したり教室で接客したり、たまに休憩したりしながら過ごした。
明日は1日フリーなので、学校祭を楽しもう。俺が忙しいのは、初日と最終日である。ハードスケジュールで泣きたくなってくるな。
◇
そんなこんなで次の日になった。今日は1日フリーだから、のんびり学校祭を楽しもう。
そう思っていたのに。
「お願いします!」
今目の前には、土下座をしている先輩がいる。
「お願いします! なんでもしますから!」
どうしてこうなった。
「えーと、須藤先輩? 状況が全く理解出来ないんですけど………」
須藤 夜一先輩。演劇部部長で、俺が基本的に会いたくない先輩ベスト2にランクインする先輩だ。因みに1位は、倉敷先輩だ。基本的というか、よっぽどの事が無い限り避けたい先輩だけど。
さて、演劇部部長の須藤先輩が目の前で土下座しているというだけで、嫌な予感しかしてこない俺なのだが………
「実は、これを倉敷の奴から見せられて………」
須藤先輩が差し出してきた写真を見てみると━━━
「oh………」
そこには、王子様衣装に身を包んだ東雲先輩に顎クイされた、メイド服姿の俺が写っていた。
『てへぺろ♪ ごめんちょ☆』
頭の中で、倉敷先輩が舌をちょっと出して、頭にコツンと拳を当ててウィンクしてきたので、アイアンクローをきめておいた。現実で会ったら、問答無用でアイアンクローを食らわせてやろう。
さて、もっとも見られたくない人に見られてしまったわけだが………
「是非この話に出てほしい!」
「………」
脚本を差し出して来たが、とりあえず無視しておこう。
何も言わずに須藤先輩の横を抜けたら、後ろから足にしがみついてきた。
「頼むよーーー!!!」
「先輩、今すぐ足を離さないと顔面踏みつけますよ?」
「いきなり強行手段!?」
警告はしたので顔面を踏みつける。それでも離そうとしない先輩。困っていたら、運動部に所属している知り合いの先輩方が来てくれて、須藤先輩を連行していってくれた。
「ありがとうございます!」
「いいよー」と言ってくれる先輩方。いい人達だ。倉敷先輩と須藤先輩も見習ってほしい。
先輩方を見送った俺は、教室に向かうことにした。
さて、また来るだろうし対処法考えないとな。
次話から暫く不定期更新になります。すみません