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纏鎧のランツェレト  作者: 西村 捷生
第1章 ガグンラーズの現身
1/1

プロローグ 小さな約束



 (いか)めしい相貌(かんばせ)微笑(ほほえ)む。

 案じてくれるな、と前置いて、男はしわがれ声を震わせた。


「カイアケィントで――あの聖堂の(のこ)る街で待っていておくれ。俺は必ず、そなたのもとへと帰ってくる」


 愛する者の腕の中で、巫女(ヴォルヴァ)逡巡(しゅんじゅん)する。

 女としての直感が彼女にささやきかけるのだ。


 ――この手を離してはいけない。


 決して、あの言葉にほだされてはならない。

 実現するかどうか分からない未来など、朝露(あさつゆ)よりも(はかな)い幻に過ぎないではないか、と。


「ずるい殿御(ひと)


 けれど、それでも――。

 押し寄せる不安の波に翻弄(ほんろう)されながら、巫女(ヴォルヴァ)はうつむくことさえできなかった。


 ――信じてほしい。


 見上げた視線の先で、男に残された左目がそう告げている気がしたから。


「約束、ですからね」


 やわらかな(ほお)を伝う涙。

 それを右手の人差し指ですくい取った男は、握り拳を作り、おずおずと小指を立てる。

 

「指切り、げんまん」


(うそ)ついたら針千本()ぉます……!」


「指切った」


 たおやかな手が武骨な手の求めに応じ、すがるように、むさぼるように、互いに互いの指を(から)め合う。

 そうして、子供じみた呪文のうちに精一杯の願いを込めて、小さな約束は()わされた。

 戦いに(おもむ)く者と、それを送り出す者。

 涼やかな風が吹き渡る草原で、満ちて欠けることのない月だけが、一塊(いっかい)となった二つの影を見守っていた。



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