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5.魔物討伐 その2

 ――勇者キークが大ボスの火山顔(改めて書くと凄い名前だ)と遭遇するちょっと前の事、

 

 「いました。小物どもです」

 川辺にて、ゴウと兵士達は火山顔が生みだしたと思われる岩石のような形状をした小物達を発見していた。こっそりと、草の影から様子をうかがっている。

 どうも、水を飲んだり、川辺の小動物達を食べたりしているよう。

 「名前がないと不便なので、取り敢えず、岩顔とでも名付けましょうか?」

 そう兵士の一人が小さな声で言う。続けて別の兵士がこう言った。

 「ほら、見てくださいよ、あの牙。あいつらは凶暴で、人間を見ると襲いかかって来ることで有名なんです」

 その言葉にゴウはピクリと反応する。

 「なに? なら、逃げられる心配はないのか?」

 「はぁ、まず逃げないかと。あれだけの数がいれば間違いなく我々を見れば襲いかかって来ると思われます」

 ゴウはそれを聞くと嬉しそうに笑った。

 「それを早く言ってもらわなくては困る」

 そして、草の影から出て、堂々と岩顔達に向けて歩き始めてしまったのだった。兵士達はその行動に唖然となってこう訴えた。

 「ちょっと、ゴウ様。何の作戦もなく、いきなり攻撃なんて嘘でしょう?」

 「何を言っているのだ? 逃げられる心配がないのなら、面倒な小難しい作戦など必要ないだろう」

 しかし、ゴウはそう返す。兵士達の心配を意にかける様子がまったくない。仕方なく、兵士達はゴウの後に付いて行った。

 やがて、岩顔達がゴウ達に気付いたようだった。ゴロリ、ゴロリとまるで陣形を組むように集まって来る。

 「ゴウ様。あの魔物達は、表皮が堅い皮膚で覆われています。普通の攻撃は通用しませんよ? どうするのです?」

 兵士の一人がゴウにそう尋ねた。ゴウは「うむ。心配するな」と応えると言った。

 「俺にちゃんと策がある。見ていろ」

 そのタイミングで、気の早い岩顔が高速で転がって来た。意外に速い。そして、先頭に立っていたゴウに向かって襲いかかる。ゴウはまったく臆さない。

 「その一、まずは岩顔を捕える」

 と、そう言うと襲いかかって来た岩顔をがっつりと掴んでしまう。

 「その二、捕えた岩顔の動きを固定する」

 続けて、その掴んだ岩顔を逆さまにして地面に叩きつけて、押さえつけた。

 次に流れるような動作で剣を取り出すと、

 「その三、確りと切れ目を入れる」

 とそう言って、岩顔の腹部っぽい場所に剣で少し傷をつけた。

 「その四、その切れ目に剣を突き立て、あとはそのまま力を込めてぶった切る」

 ザクリ。

 音で表現するのなら、そんな感じで綺麗に岩顔は真っ二つになってしまった。

 「その五、後は適当な大きさに切り分け、煮るなり焼くなりし、お好みで味付けしてお終いだ!」

 その一連の作業と、そのゴウの説明に兵士達は頬を引きつらせる。

 「そんなカボチャを切る時のような説明をされても無理です、ゴウ様! まず、“その一”の時点でできません! あと、“その五”の意味がまったく分かりません!」

 そして、まるで助けを求めるようにそう叫んだ。

 「なにぃ!」

 と、それにゴウ。

 「こんな事もできないのか? なんて事だ。完全に想定外だぞ!?」

 兵士はその言葉に唖然となった。しかも、ゴウは嫌味とかじゃなくて、本気でそう言っているっぽい。更にまずい事に、仲間が一匹やられたのを見て、岩顔達は群れ全体でゴウ達に向かって今にも突っ込んで来ようとしている。

 それを見て、ゴウは言う。

 「ううむ。あまり、よろしくないな。あいつら意外にスピードがある。俺は機動力はそんなに自信がある方じゃないから、お前らを守り切れないかもしれん」

 兵士達はそれに悲壮な表情を浮かべる。

 「どうするんですかぁ?」

 それにゴウは力強く応える。

 「大丈夫だ、作戦はある!」

 「どんな?」

 「気合いと根性を入れて、がんばってやっつけるんだ!」

 兵士達はそれを聞いて絶叫に近い声でこう叫んだ。

 「それは作戦とは言わねー!」

 そして彼らがそう叫んだタイミングだった。岩顔達は兵士達に向かって高速で転がって来たのだ。

 “これ、終わったんじゃネェ?”

 彼らの恐怖に歪んだ表情からは、そんな心の声が聞こえてきそうだった。

 「安心しろ! わざわざ切り込みを入れなくても、既に切れ目は入っている! 目や口を冷静に狙えば大丈夫だ!」

 ゴウは彼らを叱咤するようにそう言った。

 「なんで、さっきから、微妙に料理風っぽく言うんですかぁ?」

 兵士達はそうツッコんだが、それでも勇気を振り絞ると、剣や槍を握り、ゴウの言葉通りに目や口に狙いを定めた。弓矢を放った者もいたけれど、遠い上に転がっている相手じゃ弱点に当てるのは無理だったようだ。

 やがて岩顔達が兵士達に襲いかかる。戦闘力の高い兵士はなんとか戦えているが、中には一方的に攻撃を受けている兵士もいた。特に弱い一人は真っ先にやられてしまった。体当たりをくらい、それでできた隙で足を齧られ、足から血を噴き出している。

 「うわぁぁぁ!」

 ここで簡単に兵士がやられてしまっては全体の士気にかかわる…… と判断したからかどうかは分からないけども、ゴウは素早く反応した。

 「ぬぅん!」

 と、そう言って近く転がって来た岩顔を掴むと投げ飛ばし、その兵士の足を齧っていた別の岩顔にぶつける。兵士の足から顎が外れたばかりか、それで岩顔は二匹とも戦闘不能状態になったようだった。物凄い力だ。それからゴウは戦場を縫うように疾走し、劣勢の兵士達を襲っている岩顔達を次々と倒していく。

 機動力に自信がないと言っていた割には、随分と速い。一部の兵士は、吃驚した表情でそれを見つめていた。

 「これでも勇者パーティの中じゃ、遅い方なんだよ」

 その視線を受けて、ちょっと照れながら、お茶目にゴウはそう返す。

 「いえ、それは別に良いですけど。さっきのその一~五の手順、ゴウ様にはまったく必要ないじゃないですかぁ!?」

 それに兵士の一人が(ツッコミ込みで)返すと、「あれは、お前達用の方法だ!」とゴウはそんな常軌を逸したことを言った。勘弁してくれって感じの雰囲気が流れかけたけど、もちろん、気を抜いている場合じゃない。戦闘はまだまだ続いている。

 ゴウのサポートもあって、死者はまだ一人も出ていないが、重傷者はそれなりの数になっていた。このままでは、いずれ死者が出てしまうかもしれない。兵士達は不安と恐怖に苛まれ始めていた。

 が、そんなところでゴウが言ったのだ。

 「安心しろ。その程度の傷だったら、回復魔法でなんとかなる!」

 兵士達は、当然喜ぶ。

 「本当ですか?」

 「ああ」

 力強くゴウはこう答える。

 「俺は自分の傷を癒す能力しか持っていないが、勇者さんなら他人用の回復魔法も大得意だ!」

 それを聞いて兵士達は頭を抱える。

 「ノッォー! 選択を間違えたぁぁ!! 勇者の方に付いて行くべきだったぁ!」

 そんな時だった。簡単には、この人間達は倒せないと察したのか、突然、岩顔達が一斉にフルフルと震え始めたのだ。しかもなんだか真っ赤になっている。どうも熱を帯びているっぽく見える。

 「もしかしたら、こいつら、火系の魔法を使うのか?」

 声を震わせながら、兵士の一人がそう言った。ゴウはそれにこう返す。

 「落ち着け。熱せられているという事は、皮膚が柔らかくなっているかもしれない! 攻め時だ!」

 だけど、即座に別の兵士の一人がこう告げるのだった。実際に剣で斬ってみたが、刃は通らなかったようだ。

 「駄目です。硬いまんまです!」

 すると、何故かゴウはガッツポーズを取るのだった。

 「なにぃ! つまり、表面はカリカリで中はジュワッと柔らかいという事か! もしかしたら、美味いかもしれんぞぉ!」

 兵士達は頭を抱えた。

 「何言ってるんだ、この人は~!?」

 やがて熱を帯びた岩顔達が兵士達に襲いかかって来た。これまでは何とか持ち堪えていた兵士達も、それで押され始める。攻撃が当たっても、熱によって酷い火傷を負ってしまうからだ。

 「ゴウ様! ピンチです! 負傷者が明らかに増えています!」

 ゴウは応える。

 「安心しろ! 勇者さんは、回復魔法も大得意だ!」

 「だから、ずっと遠くで戦っている人に、何を期待しているんだ、あんたはぁ!」

 兵士達は泣き出しそうな声でそうツッコミを入れた。ところがそんなタイミングだった。

 

 ドォォン!

 

 そう物凄く大きな音が鳴ったのだった。見ると、少し遠くで、まるで火山の爆発のように熱された岩がたくさん噴射している。

 兵士達も岩顔達もそれを吃驚して見上げた。そして、その時に誰かが気が付いたのだ。

 「見ろ! あそこに誰か人が飛んでいるぞ!」

 そう。噴射された岩の中には、何故か人影があったのだ。それを見て、ゴウがこう言った。

 「おお、あれは勇者さんではないか」

 

 ――そのちょっと前、

 

 真面目くんが青ざめた表情で、目の前でフルフルと震えている火山顔を見つめていた。火山顔は全身を真っ赤にし、明らかに高い熱を帯びている。

 “これ、まずいのじゃない?”

 彼は祈るようにして勇者キークに話しかける。

 「あの…… 勇者様?」

 勇者は呑気そうに返す。

 「なーにー?」

 緊張感がない。

 「火山顔がこうなるのを放置したのって何か理由があるのですよね?」

 勇者は大きく頷く。

 「もちろん」

 それから火山顔を見やりながら言う。

 「まず、話の尺が足らない気がしたってのが一つ」

 「何のことですかぁ?!」

 真面目くんのツッコミに構わず、勇者は淡々と続ける。

 「それに、あんないかにも火山な形をしておいて、それをまったく活かさないなんてのも、ちょっとどうかと思ってさぁ」

 「わざわざ活かしてあげる必要はないです!」

 それから勇者は何故か遠くの方を横目でチラリと見てからこう言う。

 「後は、そろそろ向こうの方で負傷者が出てる頃なんじゃないかと思って、まぁ、一石二鳥かな?って」

 真面目くんにはそれが何の事なのか分からない。質問をしようとしたのだけど、そこで勇者が「お、まずいかも」と火山顔に目を向けたのでタイミングを逃してしまった。火山顔はもし本当の火山なら火口に当たる部分を勇者達に向けようとしていた。

 「ほい!」と、勇者は真面目くんに何かを投げつけるような謎の動作をした後で、「こっちに向かって撃っちゃ駄目だよー」などと言いながら火山顔に向かってダッシュをし、火山顔の手前で大きくジャンプをした。空に飛びながら火山顔を見下ろしていている。火山顔は、照準を勇者に合せて火口を空に向けた。真面目くんは叫んだ。

 「勇者様! 危ないです! 空に飛んだら逃げ場がない!」

 だが、時は既に遅かった。火山顔は不敵に笑うと大きく力む。そしてその次の瞬間、

 ドォォン!

 という大きな音が。空に飛んだ勇者に向けて火山顔の火口から、熱せられた岩石が一斉に噴射をした。

 「勇者様ー!」

 と、真面目くんは悲鳴を上げる。ところがどっこい、勇者キークはそれでも余裕の表情を浮かべていたのだった。

 「お、キタキタ」

 なんて言っている。

 そして迫って来た岩石をまるで羽根のようにそっと踏むと、今度はそれを足場にして強く蹴り、そのまま更に跳躍をすると空高く高く昇っていってしまったのだった。勇者キークは、昇りながら辺りをキョロキョロと見渡している。そのうちに「ん、いたぞ」とそう独り言をつぶやく。

 彼の視線の先には、兵士達と岩顔達がいた。驚いてこちらを見ているのが分かる。

 「やーっぱり、負傷者が出ているっぽいね」

 それから勇者は何故だか腕をグルグルを回し始めた。しかも回す腕には少しずつ光が帯びていっている。やがて、寂光が円を描くように輝き始めた。

 「じゃ、行って、みま、しょうかー!」

 勇者はまるで子供が悪戯をするような表情を浮かべると、それからこう叫んだ。

 「回復・魔法・超・大・遠投ー!」

 そしてそれと同時に、兵士達に向けて、その寂光を大きく“投げた”のだった。

 「んな、アホなー!」

 それを下で見ていた真面目くんはそう驚愕の声なんだかツッコミなんだか分からない声を上げた。

 「デタラメだ! 回復魔法を投げるなんて、そんなの聞いた事がないですよー!」

 

 ゴウ達兵士一団は驚いていた。突然に、勇者から放たれた光が、自分達を包み込んだからだ。

 兵士達には訳が分からなかったが、次の瞬間には気が付いていた。

 “あれ? 傷が癒えている”

 そう。今までの戦いで受けた傷が癒えているのだった。完治とまではいかないが、重傷を負った者も剣が振るえるほどには復活している。

 そこで、「ふむ。これは勇者さんの回復魔法だな」などとゴウが呟いたので、兵士達は確信をした。勇者が自分達の為に、あんなに遠くから回復魔法を使ってくれたのだ。こうなると一気に士気が高まる。

 「うおぉぉぉ! ゴウ様! あなたはこれを知っていたのですね! 人が悪い。教えてくだされば良かったのにぃぃ!」

 ゴウは淡々とこう返す。

 「いや、うちの勇者さんがあんな事もできるなんて、知らんかった」

 兵士達は一斉にツッコミを入れる。

 「知らなかったんかい!」

 ただし、兵士達の上がった士気は、この程度では下がらなかった。いい加減、ゴウのボケに慣れて来ているというのもあったけど、何故かむしろ上がった感じ。

 とにかく、それから彼らは劣勢を跳ね返して、岩顔達を逆に押し始めたのだった。そうして兵士達を守る必要がなくなれば、当然、ゴウは自由に動けるようになる。ゴウが自由に動ければ、こんな魔物達などただの雑魚と変わらない。そうして一気に岩顔達は倒されていったのだった。

 ただ、不安な点もあった。戦いながらゴウが勇者を心配していたのだ。彼はこんな事を呟いていた。

 「しかし、あれは熱風の魔法か。まずいかもしれん。今の勇者さんは、熱風には弱いからな……」

 

 「うわぁ!」

 と、真面目くんが叫び声を上げる。火山顔の“噴火”によって飛び散った岩石の一部が自分に降りかかって来ていたからだ。が、しかし、当たる直前でその岩石は弾け飛んでしまった。

 “あれ? 無事?”

 と、首を傾げる真面目くん。

 どうやら、いつの間にかに魔法シールドが張られていたよう。彼はそこで思い出した。火山顔が噴火する前に、勇者が自分に何かをしていた事を。それで、ああ、あれはシールドを張っていたのか、と思い至る。

 “凄い。僕の事まで気遣って。あっちの兵士達にも回復魔法を使ったみたいだし。この人は本当に勇者なんだ!”

 彼がけっこうギリギリのタイミングで、勇者が魔法シールドを張ったと気付くのは、これよりちょっと後の事だった……。そもそも火山顔の攻撃なんかを勇者が待たなければ、そんな必要もなかっただろうし。

 “ツッコミ所は色々あるけど、なんだかんだで上手くいっているっぽい! これは、このまますんなりイケるんじゃないか?”

 真面目くんはそれからそう思った。思ったのだけど、その頃、上空では勇者の身に異変が起こっていたのだった。

 勇者の身体を熱風が襲っている。これは別に問題にならない。勇者も自身に魔法シールドを張っている。だけど、彼の口元にある髭は強風に煽られていたのだった。防御しているとは言っても、それなりに熱も伝わって来ているから劣化もある。

 ……で、

 突然、勇者の口元の髭が剥がれてしまったのだった。気付いた時には既に遅く、それは勇者の魔法シールドの外に飛んでいくと、瞬く間に燃え尽きてしまった。

 愕然とした表情で、それを見つめる勇者。こう叫んだ。

 「髭太郎ー!」

 名前を付けていたらしい。

 髭太郎の燃えカスを見つめながら、勇者キークは思い出していた。髭太郎と過ごした楽しい日々を。頼りない自分の口元を彩ってくれていたその優しい触れ心地を。

 それから勇者は怒りからワナワナと震え始めた。

 「許せない。火山顔! 髭太郎の仇は絶対に撃つ!」

 それから彼は剣に魔力を込めていく。魔力を帯びた剣は鋭く、熱風さえも切り裂き始めた。そしてやがて火山顔からの熱風噴射が終わる。勇者キークは剣を振り上げると呟く。

 「加速、下降」

 その言葉通り、それから勇者キークは重力以上の速度で加速しながら空から火山顔を目がけて突進をし始めたのだった。火山顔は元々機動力がないのか、それとも力をかなり使ってしまった所為か、怯えながら、ただただそれを見上げているだけだった。

 「必殺! 勇者ぶった斬り!」

 そう叫びながら、突進してきた勇者は火山顔に上空から剣を振るった。火山顔の火口部分に剣がめり込み、そのまま半分に引き裂いていく。勇者の剣は大地に突き刺さった。つまり、火山顔は真っ二つにされてしまったのだ。どさりと左右に身体が倒れる。

 それを見て、真面目くんは歓喜の声を上げる。

 「やったー! 流石、勇者様です! あの凄まじい魔物を簡単に倒してしまうだなんて!」

 それを聞いているのかいないのか、勇者は拳を握りしめるとこう呟いた。

 「仇は取ったよ、髭太郎!」

 真面目くんは何の事?と思ったけど、そろそろ慣れて来たので戸惑いはしなかったみたいだった。

 

 それから、それぞれ魔物討伐を終えた勇者キーク達とゴウ達は合流をした。ゴウは勇者の顔を見るなり言う。

 「やはり、髭は守り切れなかったのだな」

 勇者キークは静かに頷く。

 「ああ。だけど、仇は取ったよ」

 「知ってる」

 「そりゃそうか」

 変な会話。

 その後で、兵士達は口々に勇者に礼を言った。

 「勇者様。あの時は、回復魔法をありがとうございます! お蔭で、無事に魔物を倒すことができました」

 「本当に助かりました」

 「ありがとうございます!」

 勇者キークはそれにはにかみながらこう返した。

 「いやぁ、みんな、困っているんじゃないかと思ってさ。予感的中だったね。やっておいて良かった。まぁ、できるかどうかは分からなくって、ほんの思い付きだったんだけど、やってみるもんだよ」

 それを聞いて、兵士達は頬を引きつらせた。

 “あれ、初めてだったのか……”

 ゴウが言う。

 「なんだ、あれはやっぱり思い付きか」

 「ま、ねー」

 そう応えた後で、勇者はこう続けた。

 「ところで、ゴウ、料理風のコメント、途中から僕、忘れちゃってたよ。君はどう?」

 「なに? 俺はけっこう最後の方まで続けていたぞ。なら、今回の魔物討伐は俺の勝ちだな」

 「うん、そーかー。残念」

 謎の会話。

 兵士達は、皆、貢献度合いでいったら、勇者の方が上だから勇者の方が勝ちなんじゃと思っていたのだけど、誰もツッコミは入れなかったみたい。

 なんか、色々と疲れていたし、“この人達は自分達の理解の外”と、そう認識していたからかも。

 とにかく、そうして、なんだかかんだで、なんとか無事に魔物討伐は終わったのだった。一応これで、勇者達の武勲が一つ増えた事になりそうだ。

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