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24.社会運営に適した方略

 オリバー・セルフリッジが喋っている。

 

 「お互いの資源を奪い合う方略…… つまり“戦争”は、実は非常に劣った方略である事が知られています。これは直感的にも理解できると思うのですが、戦争とはつまりは互いに足を引っ張り合っている状態です。社会が発展し難くて当然でしょう。

 それに対して、互いに協力し合う方略の場合、お互いの不足しているものを補い合えますし、スケールメリットも活かし易くなるので社会は発展し易いのですね」

 

 いつもの王城の会議室。勇者パーティの面々を相手にして、彼は例の講義っぽいものを行っていた。

 そしてやっぱりいつも通りに彼には“闇の森も魔女”アンナ・アンリが抱きついていた。前から彼女の彼への“甘え”はひどかったけれど、魔王の戦争未遂事件後は更にそれに磨きがかかったよう……

 ……まぁ、色々あったので。

 普通なら、迷惑がりそうなものだけど、セルフリッジは全く気にする様子を見せていない。それどころか、彼女を受け入れているような感じ。

 でもって、ツッコミを入れるとむしろ怪我しそうなので、勇者パーティのみんなはそれを放置しているみたい。

 ある意味、この会議室内で、一番の無法かもしれない。

 セルフリッジは説明を続ける。

 「歴史を観れば、これは実は明らかで、戦争の少ない地域は発展しているのに対し、戦争ばかり行っている地域はあまり発展してはいません。

 矢鱈と戦争をしたがる人達もいますが、領土や資源を武力で無理矢理に手に入れるよりも、協力し合った方が得だというのは、歴史が証明しているのですね。もっと視野を広く持って、学習をしてもらいたいものです」

 そこでキークが手を挙げる。

 「でも、全ての資源と領土を奪い取ってしまえば、戦争でもちゃんと得をするのじゃないの?」

 なんだかとんでもない質問をする。セルフリッジは首を横に振った。

 「ところが、そうでもないのですよ。支配範囲が広がれば広がる程、その社会は不安定になり崩壊し易くなりますし、より多くの人の発想を活かし、社会全体に役立たせるという事もし難い。

 これも歴史を観れば明らかですが、協調行動の重要性を排した社会というのは、実は非常に脆弱なのです。これは決して綺麗事などではなく、理屈の上からも実証的にも明らかな事実です」

 

 オリバー・セルフリッジが、こんな講義をしているのにはちゃんと理由があった。これから先、是が非でも彼らは長く魔物達の社会と付き合っていくしかない訳で、ならば当然、その為の基礎知識も必要になって来る。

 人間達は魔物達が作り出せる商品なりなんなりを調べて、魔石以外にも取引に値するか検討し始めていて、実際に有望そうなものの輸入を開始していたりするのだけど、それを持続できるかどうかはまだまだ未知数。

 因みに、多少の問題は発生したものの、それは今のところは順調に進んでいるみたい。

 

 「歴史を観れば、できる限り協調行動を執った方が良いのは明らかなのに、それでも“領土”に固執する人が多いのは、“縄張り争い”という動物の本能的な欲求が影響しているのかもしれません」

 セルフリッジがそう言うと、キャサリンが尋ねた。

 「でも、そういう“縄張り争い”が本能に組み込まれているのは、“縄張り争い”に何かしらメリットがあるからでしょう?」

 セルフリッジは頷く。

 「それはもちろんその通りです。動物のように取引ができなかったり、或いは資源が希少で奪い合うしかない場合は、“縄張り争い”…… つまりは、戦争が適した方略になるケースもあります」

 それにティナが「どーいう事?」と質問を。

 それを受けると「ふむ」と言って、一呼吸の間を置くと、セルフリッジはまた口を開いた。

 「例えば、二人いるのに、パンが一個しかないとしましょうか。彼らが生き残る為にはパン一個が必要ならば、これはもう奪い合うしかありません。

 そういったように“資源が枯渇”しているケースは、戦争するのが適した方略になってしまうのですよ」

 そうセルフリッジが語り終えると、スネイルが腕組みをしてこう言った。

 「つまり、社会にどんな方略を執らせるかは何よりも“環境”が重要だって事か」

 「はい。その通りです。逆を言えば、戦争のような人を不幸にする方略を、社会に執らせないようにするには、“環境”に注意を向けるべきだって事ですね」

 ゴウがそれにこう質問する。

 「しかし、環境など、そう簡単にコントロールできるものではあるまい?」

 セルフリッジはそれに頷く。

 「まぁ、そうですね。ただし、まったく何もできないという訳でもありません。例えば、アンナさんの協力によって手に入れた太陽光からエネルギーを創り出せる“闇の木”は、その環境に影響を与えています。

 それと、“コントロール”って言い方だと誤解を招きそうでもありますが、社会システムは自然と環境を生み出しもします。

 経済システムが新たな環境を誕生させたのは、皆さんも知っての通りですよね?」

 彼のその言葉には皆が納得できた。経済協力によって、魔物達の社会と密接に結び付くと、ただそれだけで戦争はし難くなった。また、魔物達への経済協力が戦争を未然に防ぎ、そして今では戦争など考えられないくらいの状態になりつつある。

 「要は戦争をするよりも、経済協力し合った方が遥かにメリットがあるという状態にし、更にそれを分かり易く示せればいいのです。

 ……もっとも、戦争をする事、それ自体に価値を見出しているような場合は、どうしようもありませんがね。或いは、戦争でなければ手に入れられないものがあるだとか」

 その説明を聞いて、勇者達は少しだけ胸が痛んだ。自分達にも思い当たる節がない訳じゃなかったから。

 「まぁ、強力な武器を持ち過ぎるとかは、控えたりした方がいいかもな。あると使いたくなるから……」

 なんて誤魔化すようにスネイルが言う。

 「あと、運動不足も注意しないと」

 と、ティナがそれに続ける。

 キークとゴウがそれに大きく頷いた。

 ただ、オリバー・セルフリッジはその意味が分からなくて、“運動不足?”と首を傾げていたのだけど。

 そんな彼の様子を見て、彼の首に抱きついているアンナ・アンリは“ふふ、大好き”とそんな事を思っていたりした。暴力嗜好的な発想が、ほとんど出てこない彼が、愛おしくて仕方ないといった感じ。

 

 ――こんな風に、

 勇者達は一生懸命、これから魔物達と上手く付き合っていく方法や、その他の問題解決の為に色々と考えたりやったりをしている訳だけど、社会に暮らす一般の人達は極めて呑気だった。

 戦争の危機もリアリティを感じる前に消えてしまったし、技術力の発達は間違いなく彼らに恩恵をもたらしていて、生活の質は順調に上がっているのだから、それも無理はない話なのだけど……、

 ……まぁ、あるいはその方が仕合せなのかもしれないけど。

 と言うか、羨ましい。

 人々の魔物に対する嫌悪感は徐々にではあるけどなくなり始めていた。ワーラットやリザードマンのような比較的交流のし易い者はもちろん、それ以外の種類にも。

 魔物のクロちゃんに対してもそれは同じで、だからって訳でもないけれど、彼はもうスパイの役割を果たせなくなった今でもティナの自宅で居候をしていたりする。いずれ役に立つと思われているのか、それとも単に忘れられているのか、魔王達にも放置されているみたい。

 ……多分、後者だと思われる。

 彼はやっぱりティナにラブラブで、時々はこっそり下着の色を確認していたりもするよう。

 ここ最近、社会はいたって平和だ。

 ただし、

 平和な世の中が続いているとは言っても、あちこちに不安要素があるのもまた事実だった。

 いつ魔物達が豹変するか分からないし、それに国内にだって、例えばシロアキ達や悪徳官僚等のように、社会全体を犠牲にしてでも自分だけは得をしたいという人間がわんさかいるからだ。

 もっとも、だからこそ、そういった不安を抑える為に、勇者達は努力をしているのだけど。

 

 「社会をより住み心地の良い場所に変え、それを安定して維持する為に、僕らはもっと社会システムについて考えなければいけません」

 

 オリバー・セルフリッジが、勇者達に向けて語っている。“闇の森の魔女”アンナ・アンリは、そんな彼を見ながら、世の中の人がみんなこの人みたいだったなら、そんな面倒くさいことをしなくても、きっともっとずっとこの社会は良くなるのに、とそんな事を思っていたりした。

 ハイ。

 そんな訳で、ラノベなのりで社会について扱った小説でした。

 勘の良い人は気付いているかもしれませんが、このお話は簡単に言っちゃえば「ニンジン嫌いの子供に、ニンジンケーキを焼いてみました」みたいな作品です。

 もう少しくらい、皆さん関心を持ってほしいな…… なんて、僕は常々思っているもので。そうすれば、随分と世の中はマシになるでしょうに。

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