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22.説得という名の戦闘 その1

 「なぁんだとぉぉぉ!」

 

 魔王のそんな怒号を聞いて、魔物達は一斉に臨戦態勢を執った。そしてそんな彼らの予想通り、魔王は次にこう叫ぶ。

 「お前ら、あの勇者共を殺せぇ!」

 その言葉に勇者キークは首を傾げる。

 「どうして? 親切で言ってあげたのに」

 そして、剣を鞘から取り出して強く握ると、彼らに襲いかかろうと前進を始めた魔物達の群に向かって、少しも物怖じせず、真正面から突進し始めた。丘を下っている。

 「あれ、マジで言ってるのかしらねぇ?」と、そう呟くとティナもそれに続く。

 「マジでしょ、いつもの事でしょ」とそれにキャサリン。

 「まぁ、お約束だな」とそれにスネイル。

 「なんか、美味しい物が食べたい」と、ゴウ。

 もちろん、全員が勇者キークに続いた。振り返らずにキークは言う。

 「みんな! 停戦が目的なんだから、できるだけ傷つけないようにね!」

 一斉にみんなは「おっけ」とそれにそう応える。そして、その言葉が更に魔王の怒りをあおる。

 「絶対に殺してやるぅぅ!」

 そんな魔王の怒りに構わず、勇者達は猛進した。言うまでもなく、彼らの速度は尋常じゃない。そんな彼らが真正面から突っ込んいるものだから、彼らを目指す左右の魔物の群はちょうど彼らを囲むような感じになってしまっていた。普通に考えれば、不利な状況下だ。しかし、何故か彼らは少しも不安そうな様子を見せてはいない。

 そのうち、彼らの目の前に巨大なオークが何匹かとワーラットの群が立ちはだかった。流石にスピードを落とすしかない。当然、彼らの後からやって来る魔物達も彼らに追いついて来る。背後からもワーラットの群。そして右からは、堅い殻に包まれた巨人が迫り、左からは巨大なワニの姿をした魔物が迫っていた。

 「じゃ、後ろの連中はオレが」

 そうまず言ったのはスネイル。

 「なら、ワタシは横の堅そうな巨人ね」

 と、キャサリンが言う。

 「俺はワニにする。美味しそうだから」

 と言ったのは、ゴウ。

 「食うなよ」とそれにスネイルがツッコミを入れると、なんだか嬉しそうに、

 「わたしはキークと正面ね」

 とティナが続けた。スピードのある二人が前ってのは、一応戦略的にも有りなのだけど、それ以外にも理由はありそうな感じ。

 「じゃ、それぞれ持ち場に、“GO”って事で」

 そうキークが言うと、皆は四散した。ただし、スネイルはキャサリンと比較的近い距離を保っていた。実はスネイルとキャサリンは連携プレイが得意だから、あまり離れない方が良いと判断したのだったりする。そして、それに引きずられるようにして、背後のワーラット達はスネイルを目指す。ゴウは一人きりになってしまったけれど、これならそれほど不利にはならない。今のところ、ワニの姿をした魔物と一対一だ。

 ある程度、距離が進んだところで、ワーラット達はスネイルに向かって弓矢を放って来た。

 「さっきはワタシがやったんだから、今度はあんたがやりなさいよ」

 ほとんど慌てる様子も見せず、キャサリンがそんな事を言う。スネイルと距離が近いから、彼女も攻撃範囲に入ってしまっているみたい。

 「やるよ。さっきは走行中だったからな、オレの技だと少々やり難かったんだ」

 スネイルはそう言うと「空気の壁!」とそう言った。見た目はほとんど何も変わらない。しかし、ある所まで来ると矢は動きを止めてしまった。そしてその場に落ちる。どうも彼の言葉通り、空気の壁がそこにできているようだ。

 その時、声が聞こえた。

 「流石にこの程度では倒せんか。しかし、甘く見るなよ。我々はお前らと戦う為に軍事力を高めていたのだ! 前と同じだと思ってもらっては困る!」

 見ると、ワーラット達にまぎれて、頭が大きく背の小さな魔物がいる。恐らくは、知略専門の魔王の側近の一人だろう。そう言っている間にも、チョロチョロと素早い動きでワーラット達がスネイル達に迫って来ている。手には槍を持っていて、鎧も装備していた。

 「このワーラット達の装備している鎧は抗魔力仕様だ! 魔法攻撃は効かんぞ! 果たして魔法攻撃専門のお前らに倒せるかな?!」

 どうも、ワーラット達がスネイル達の方に向かって来たのは、意図的に魔法が得意な二人を狙ったからだったようだ。

 側近の言葉を聞くと、スネイルは「はあ」と軽くため息を漏らした。

 「“前と同じだと思ってもらっては困る!”

 ……って、それはこっちの台詞だよ。お前らは二点ほど見誤っている。

 まず、一点目。

 確かに、前回、魔王城でこれだったらまずかったかもしれない。あの時はオレらはかなり疲れていたからな。しかし、今は元気いっぱいだ。

 そして、二点目。

 オレらが国のトップに就いて、まったく戦闘力を上げて来なかったはずがないだろうよ? 当然、そっちにも力を入れているんだよ」

 そう言い終えると、彼は両手を広げた。すると何もない空間から、彼の衣服にはとても収まりそうにない何かの道具がバラバラとたくさん落ちて来る。十以上はあった。それは長い筒状の形状をしていて、どうも鉄で出来いるらしい。魔物達は今までにそんなものは見た事がなかった。武器には見えない。しかし、

 「人間社会の兵器技術は成長しているんだ。特にここ最近は、急速にな。この武器の名前は“銃”と言う」

 スネイルはそう言うと、腕を組んだ。すると、それら銃は宙に浮き、その銃口を相変わらず突っ込んで来ているワーラット達に向けたのだった。そして、次の瞬間、そこから火が噴いた。

 パパパパパパンッ!

 側近は目を大きく開ける。

 その炸裂音の後で、近くまでやって来ていたワーラット達の全てが倒れていたからだ。

 「おー、こりゃ、楽ちんだ」

 と、それを見てスネイル。

 「オレら魔法が得意な戦闘員はな、魔法を封じられた時の対策を常に考えているんだよ。だから、こんな感じの魔法に頼らなくて済む強力な武器を見つけたなら、直ぐに手に入れるんだ」

 側近は苦悩しつつ叫ぶ。

 「なんだ、これはー!?」

 まだ、その現実を受け入れられていない感じ。

 「だから“銃”だって。魔力を利用して、爆発させた弾を飛ばす武器。ま、安心しろ。弾は全て麻酔弾だから。死にゃしないよ」

 淡々と説明するスネイルを側近は睨みつける。そうしている間にも、他のワーラット達が突っ込んで来ていたが、それもやはり銃弾を放ってスネイルは迎撃してしまう。

 その信じられない光景に、側近は歯軋りをする。

 「ぐぬぬに……」

 それから、今度はキャサリンと対峙している堅い殻を持った巨人を指差す。

 「その程度でいい気になるなよ! まだだ! そこにいる堅い殻の巨人“ライア”は、その程度の武器などまったく効かんぞ! 動きは遅いが、その堅い殻が強力な魔法攻撃すらも防いでくれる!」

 その説明を聞いてキャサリンが言った。

 「あ~、分かったわ」

 「何がだ?!」

 「あんた、この戦闘の魔王達側の解説役なのね」

 「何の話だぁ?!」

 その小漫才の後で、側近は異変に気が付いた。

 “なんだ? ライアは動きが遅いことは遅いが、遅すぎる。まったく動かんぞ? 何をしているんだ?”

 その堅い殻の巨人“ライア”は、わずかに震えていた。時折、動きはするが、ぎこちない感じでかなり不自然だった。

 側近はよく目を凝らしてみる。すると、細い糸のようなものが、ライアの全身を縛っているのが分かった。

 「ワタシ、捕縛緊縛魔法も得意なのよねぇ。これだけ大きくて、動きが遅いとやり易いわぁ」

 側近が気付いた事に気付いたのか、そのタイミングでキャサリンはそんな事を言う。それに対し、側近はこう叫ぶ。

 「それがどうした?! その程度の緊縛、そいつなら直ぐに引き千切れるわ!」

 それを聞くと、キャサリンは楽しそうにこう返す。

 「そうみたいねぇ。でも、こっちはまだ手を用意してあるのよ?」

 それからスネイルを見やると言った。

 「スネイル。銃でお願い。少しで良いから、あいつを傷つけて」

 スネイルはそれに頷く。

 「はいよ」

 そして、ターンッと堅い殻の巨人を撃つ。堅い殻の一部が弾け、ほんの少しだけ傷がついている。

 側近が叫ぶ。

 「それがどうした? その程度の掠り傷、何のダメージにもなっていないわ!」

 ところが、そう言った途端に堅い殻の巨人はその場に倒れてしまったのだった。縛られたままズーンッと。

 また、側近が叫んだ。

 「なんだとぉぉぉ!!! 何故、倒れるのだ?」

 それを受け、楽しそうにしながら、キャサリンはこう説明した。

 「不思議でも何でもないわ。毒よ、毒。毒針で刺したの」

 まるで何でもない事のように。手には小さな針を持っている。ちょっと怖い。

 「毒だとぉぉぉ?」

 「そう。国のトップの方の人間になって、今までは観られなかった極秘資料も観られるようになったのね。その中の一つに、この超強力な麻酔毒もあったのよ。ほんのわずかでも効きまくるんだって。前から使ってみたかったのだけど、ようやく使えたわぁ。ほら、麻酔毒だけど、強力過ぎるから、普通の人に使うと殺しちゃうのよね」

 そのキャサリンの説明に側近はこう叫ぶ。

 「毒とは、なんと非人道的な!」

 その言葉にキャサリンは笑う。

 「それ、なんかのギャグゥ?」

 ちょっと、というかかなり怖い。

 その時、大きな足音が近付いて来た。移動速度が鈍い所為で遅れていたオーク達が、ようやくここに辿り着いたらしい。

 それを見て、「面倒だから一気にやっちゃいましょうか、スネイル」とキャサリン。「そうだな、キャシー」とスネイル。

 懐からキャサリンは毒針を数本取り出すと、それを魔力で宙に浮かべた。続けてスネイルが「空気の魔法“つむじ風”」とそう呟く。その直後、静かに不気味に空気が回り始めた。そして、その回転していた空気は移動して、毒針をさらうように取り込むと、そのままやって来たオーク達に向かって飛んでいく。

 側近が慌てる。

 「ああ、まずい! 逃げろ、お前達!」

 それを聞いてキャサリンは面白そうに言った。

 「もう遅いと思うわよぉ。あいつら、動きが鈍いみたいだし」

 そして、そのちょっと後、オーク達は走っている途中で叫び声も上げずにその場にバタバタと倒れていったのだった。

 「やっぱりね」と満足げに言うキャサリン。

 やっぱり、かなり怖い。

 

 ――。

 ゴウの目の前にはワニの姿をした魔物がいた。かなり巨大で、まるでちょっとした丘の様だった。しかも少し戦ってみた限りでは動きも速く攻撃力も高い。でもって、耐久力も高い感じ。

 「フハハハ! どうだ、そのレビヤタンの実力は!? そいつは魔王軍の中でもトップクラスに強力な魔物だ! そいつは魔法攻撃に多少は弱いのだが、お前はそれほど強力な魔法は使えまい! お前が来てくれて助かったわ!」

 と、少し離れた安全圏から、そうサルの姿をした側近の一人が言う。彼がここの解説役みたい。分かり易い?

 「うむ。良い動きだ。これだけ動ければ、きっと肉も美味いに違いない」

 なんてゴウはそれに返す。サルな側近は“なに言ってるんだ、こいつ?”とそう思った。そしてこう言う。

 「この体格差だ。お前の圧倒的不利は否めまい! さぁ、その巨体を相手にどう戦うつもりだ?」

 それを聞くと、ゴウは「うむ」と頷く。

 「こう体がでかいと……」

 周囲を少し見やる。

 「便利だな」

 と、そしてそう呟くように。

 次の瞬間、ワニの魔物、レビヤタンは素早い動きで咢を横にしてゴウに噛みついて来た。「フンッ」と、ゴウはそれを剣と盾で防ぐ。

 それを見てサルな側近が言った。

 「便利だぁ? 何を言っているのだ、お前は? その状況、どう抜け出すつもりだ?」

 しかし、それからゴウはレビヤタンの牙を掴むとそのままその体を垂直に持ち上げ、倒してしまったのだった。ブレーンバスターっぽく。まったく、平気な感じ。

 サルな側近は、体格からは考えられない、その凄まじいゴウのパワーに頬を引きつらせた。しかし、直ぐに気を取り直すと、また口を開いた。

 「なるほど。大したパワーだ!

 しかし、余裕ぶっていられるのも今のうちだぞ! 後少しで、ここにワーラット達とオーク達が到着する。そうなれば、お前でもその攻撃を防ぎ切れまい」

 その言葉をゴウは無視する。首をコキコキと鳴らした後で、指をクイクイと曲げてレビヤタンを挑発した。尻尾を見やる。因みに、ワニの尻尾攻撃はとっても恐ろしいらしい。それでプライドを傷つけられたかどうかは分からないけれど、レビヤタンはその挑発にのって、尻尾をぶん回して来た。ゴウにそれが直撃する。

 しかし、ゴウはそれを真正面から受け止めていた。

 「こっちの方が掴み易いと思っていたのだ!」

 と、それからそう言う。そして、

 「全力全開! うおおりゃああ!」

 そう叫ぶと、そのままレビヤタンをぶん回し始めた。

 「ワニの尻尾って、そこまで美味しくないらしいが、こいつの場合はどうなんだろうなぁぁぁ!?」

 なんか、そんな事を言いながら回している。きっと、レビヤタンも恐怖を感じているのじゃないかと思う。

 それからゴウはレビヤタンをぶん回しながら、移動をし始めた。これがそれなりに速い。そして、その方向には……

 「まさか!」

 と、サルな側近が叫ぶ。

 そう。ワーラット達やオーク達が向かって来ていたのだった。

 そしてそれから、意外な程の速度に目測を見誤ったのか、そいつらはレビヤタンの体によって薙ぎ払われてしまったのだった。

 「そんな馬鹿なぁぁぁ!」と、サルな側近は叫ぶ。

 「……やっぱり、便利だった」

 と、ゴウは回りながらそう言った。

 

 ……そのちょっと前のこと。

 勇者キークとティナは巨大なオーク達及びにワーラット達と戦っていた。“できる限り傷つけない”というのが意外に大変で、ちょっとばかり手こずっていたみたい。

 「呪符魔術…… “呪い”の拳!」

 ティナはそう叫ぶと、巨大オークの喉仏に掌底をいれた。「呪縛!」と決め台詞。その瞬間、オークは見えない何かに捕縛されたような姿で固まってしまった。動きを封じた。ただ、喉仏への一撃が強烈過ぎたのか、白目になって泡を吹いているから、それはあまり意味がなかったかもしれない。

 続いてティナは背後から襲いかかって来たオークに回し蹴りをくらわし、流れるような動作で掌底をみぞおちにかます。同じ様に「呪縛!」とそう言った。すると、やはり捕縛されたような姿勢になり固まる。ただし、口からはみぞおちへの一撃の所為で何かを吐いていた。血も少し混ざっているかもしれない。戦闘不能っぽいので、やはりあまり意味はなかったかも。

 「おっけぇ! この技なら、無傷で相手を止められるわ!」

 と、その後で彼女は言う。

 「お前の“無傷”の定義ってなんだぁ?! どう見ても大怪我をしているじゃないか!」

 それを受けて、離れた場所から戦況を見守っていたイグアナのような姿をした側近の一人がツッコミを入れた。

 「うるさいわね! そこの解説役! 戦場ではこの程度は怪我とか言わないのよ!」

 「解説役ってなんだぁ?」とイグアナな側近は返す。

 一方、勇者キークの方は、

 「睡眠魔法、“スヤスヤ!”」

 とか言って、ワーラット達に魔法を使って眠らせていた。ただ、ワーラット達は抗魔力な防具を身に纏っているから、それを剣劇でいちいち剥がしながらやっていて、少しばかり時間がかかっていたのだけど。

 「いやぁ、こんな魔法、ある事をすっかり忘れていたよ。久しぶりだから」

 キークがそう言うとティナが頷く。

 「あっ それそれ! わたしも同じ! すっかり忘れていたもんだから、使い始めるまでに時間がかかっちゃった」

 因みに、使い始めるまでにやられた魔物達は酷い事になっていた。彼女的には、それでも“無傷”らしいけど。

 「気楽に会話するなー! 休日の昼下がりの公園か!」

 と、イグアナな側近がそれにツッコミを入れる。

 「ええい! まだまだワーラット達ならたくさんいるわい! 続け! お前達!」

 その言葉に従って、再びたくさんのワーラット達がキーク達に迫って来る。それを見るとティナは言った。

 「キーク! もう面倒だから一気にやる! 例のアレいくから!」

 「おっけ」とそれにキーク。

 「なにぃ? 例のアレとはなんだ?」とそれを聞いてイグアナな側近が。それにティナは機嫌良さそうに返す。

 「フフフ。あなたなんかに分からないわよ。キークとわたしの、長年培ってきたチームプレイがあればこそ通じ合えるんだから!」

 それから彼女はこう言う。

 「呪符魔術…… “大地”の拳!」

 軽く飛んだ。そして、続けてこう叫んだ。

 「大地の魔法。仰天動地!」

 両手を掌底にして、大地に叩きつける。その瞬間、ワーラット達の下の地面が盛り上がり、まるでばね仕掛けのように思いっ切り跳ねた。そして、ワーラット達はそのまま空中をぶっ飛んでいったのだった。

 「世界の果てまで飛んでいきなさいぃぃ!」と、ティナは叫ぶ。その言葉通り、ワーラット達は空高く飛んでいった。ただし……

 「流石、ティナだぁ!」

 と、空中から叫ぶキーク。

 ……キークも一緒に。

 ティナは頭を抱えて叫んだ。

 「なんで、あんたまで、ぶっ飛んでいるのよぉぉぉ!?」

 それを見て、イグアナな側近は言った。

 「凄い、チームプレイだな……」

 

 一方、その頃、ゴウはまだ相変わらずレビヤタンをぶん回していた。なんか、止めどころが分からなくなっているみたい。

 「その程度の攻撃、例え投げても、レビヤタンの耐久力なら余裕で耐え切れるぞ!」

 なんて、サルな側近も言っているしで。

 それで、

 “さて、どうしたもんかな?”

 なんて悩んでいると、そんなところに空中を飛んでいる勇者キークの姿が目に入ったのだった。なんでか、ワーラット達と一緒に飛んでいる。

 “さては、ティナのあの技でぶっ飛んでいるな”などと彼は思う。

 どうやらキークの方でもゴウがレビヤタンをぶん回しているのに気が付いたらしかった。なんか手を振っている。そして、

 「おーい! ゴウー! それ、こっちに向かって投げてぇ!」

 などと、キークは頼んで来た。

 “何故?”

 とはゴウは思ったけれど、レビヤタンをどうしたら良いか困っていたこともあって、彼はその言葉に従った。

 「じゃ、行くぞぉ!」

 と、そう言うとそのままレビヤタンをぶん投げる。狙いは正確で、真っ直ぐにレビヤタンはキークに向かってぶっ飛んで行った。一緒にぶっ飛んでいたワーラットはレビヤタンに当たって弾け飛んでいったが、キークは器用にもその頭に着地する。そして、

 「睡眠魔法“スヤスヤ!”」

 と、そう大声で言った。魔法攻撃に弱いレビヤタンは、それで呆気なく眠ってしまう。そしてそのままキークはレビヤタンの頭に乗って、元の場所にまでぶっ飛び帰っていったのだった。

 

 ズゥゥゥーンッッッ!

 

 そう大きな音が鳴る。

 ティナは変な顔でそれを見ていた。ぶっ飛んでいったはずのキークが、どうしてか、大きなワニの姿をした魔物の頭の上に乗って戻って来たから。

 「ただいま、ティナ」とキーク。

 「……おかえり、キーク」とティナ。

 “なんで、こんな魔物に乗って帰って来るの?”

 と、彼女は訝しげ思っている。

 「あれは、レビヤタン! 我が軍の最高戦力の一つではないか! くそう、何故か眠っているぞ!」

 そう独り言を言ったのはイグアナな側近だった。彼はとても慌てていた。横にいるフクロウの姿をした魔物のその高い視力による報告によると、戦況は極めて芳しくないらしかったからだ。勇者の“余裕で勝つ”という言葉通り、既にほぼ全滅に近い状態だった。しかもそこに、レビヤタンまで戦力外状態という現状を見せられてしまった。

 そして、

 「グヌヌ……」

 と、そこで不意にそんな直ぐ近くで鳴るうめき声をイグアナな側近は聞いたのだった。その聞き覚えのある声に彼は驚く。

 「魔王様!」

 そう。いつの間にか、魔王が直ぐ傍にまで来ていたのだ。

 「起きろぉ! レビヤタン!」

 そう眠っているレビヤタンに向かって怒号を発する。しかし、レビヤタンは起きない。

 「起こさない方がいいよぉ!」と、それに勇者キーク。

 「僕の開発した“スヤスヤ”は、普通の睡眠魔法とは違うからぁ!」

 「ほぉ どう違うのだ?」

 魔王がそう尋ねると、キークは澄ました顔でこう言った。

 「普通の睡眠魔法とは違って、とっても気持ち良いんだよねぇ。良い夢が見られるの。リラックスしたい時なんかに重宝する一品です」

 「ふざけるなぁ!」とそれを聞いて魔王。

 レビヤタンに向けて「起きろぉ!」と魔法を放った。レビヤタンは魔法には弱い。それでビックリして目を覚ましてしまった。それを見てキークは「あ~あ、起こしちゃった」とそう言った。そして、

 「起こしたら、なんだと言うのだぁ?」

 と、魔王が言うのと同時だった。何故か、魔王の手下であるはずのレビヤタンが、魔王に向かって突っ込んでいったのだ。しかも、明らかに怒っている感じ。

 憤怒の表情で物凄い勢い。

 「なっ なんだぁ?!」と魔王。

 「睡眠魔法“スヤスヤ”の眠りはあまりに心地良いものだから、眠りを妨げられると、その相手を怒って攻撃しちゃうんだよ」

 そう勇者キークは説明する。

 「なんじゃ、そりゃああああ!」

 と、叫ぶと慌てて魔王は睡眠魔法を使う。突っ込んで来ていたレビヤタンは、途中で眠ってズサーッと魔王の直ぐ傍をスライディングした。

 ちょっと後ろで、眠っている。

 はぁ はぁ と息を切らせながら魔王は言う。

 

 「ふざけた魔法を使いやがって。もう、分かった。他の魔物達は何もしなくて良い。この私自らが、勇者共の相手をしてやろう!」

 

 と言っても、他の魔物達はほぼ全滅していた訳だけれど。

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