10.いわゆる公共事業ってやつだよ
「いわゆる公共事業ってやつだよ」
そう、スネイルが言った。それは王城の会議室、いつものメンバーを目の前にしての発言だった。
「あ~ 公共事業なぁ」とそれにキーク。
「なるほど。公共事業だな」とゴウが続ける。
「あんたら、分かってないで言ってるでしょう?」
と、そこでティナがツッコミを入れる。
「あんたもね」と、それにぼやくようにキャサリンがツッコミを重ねた。スネイルがボケには付き合わないぞってな勢いで、そのままの流れで説明をする。
「かねてから、実はオレは懸念していたんだが、どうもそれが現実になりそーなんで、先手を打っておこうって思ってな。
オレ達が行った耕運機等の農業技術の発展で、農村で恐らく、これから大量の失業者が出てくるだろう。その失業者達に新たな職を与える為のプロジェクトを推進する」
そこでキークが手を挙げた。
「どうして、農業技術を発展させると失業者が出るの?」
「いや、当たり前だろう。少ない人手で、今までと同じだけ農作物を作れるんだから。人手が余っちまうんだよ。で、人手が余れば失業者だ」
その説明にキークは首を傾げた。
「そんなのみんなの仕事量を減らしちゃえば良いのじゃない?」
それにはキャサリンが答える。
「経営者はそうは考えないのよ。人手を減らした方がコストが浮くから」
そこでセルフリッジが、注釈をつけるようにこう言った。
「一応断っておくと、実は今のキークさんの疑問はそれほど的外れでもないんですよ。皆で少しずつ仕事を分け合ってシェアすれば、失業者が出ないで済みます。これは“ワークシェアリング”なんて言われていますがね。ただし、労働者達の受け取る賃金は少なくなってしまいます。生活できないレベルまで落ちるようでしたら、この手は使えません。
それに、そもそも経営者達にこれを強制することは難しいので、やはりあまり現実的とは言えないかもしれません」
因みに、そう話す彼にはアンナ・アンリが当然のように抱きついていたりした。最早、デフォルト設定化していて、誰もツッコミを入れないみたい。
ふむふむ、と頷きながらティナが言った。
「そこで、公共事業の出番って訳ね?」
「だから、あんた分かってないで言ってるしょう?」と、それにキャサリンがツッコミを入れる。
「多分、なんかの魔法の一種でしょう?」
「やっぱり、分かってなかったのね」
そのやり取りを受けて、ここにキークやゴウが参戦したらもっと面倒くさいとでも思ったのかスネイルが少し慌てて言う。
「まぁ、平たく言っちまえば、民間で人を雇えないのだったら、国で雇えば良いってな発想だよ。国でやる事業だから、公の事業で“公共事業”だな」
セルフリッジがそこでこんな質問をした。
「公共事業をやるのは良いですが、一体どんな事業をやるのですか?」
スネイルは嬉しそうに頷く。
「いい質問だ」
それから彼は机の上に紙を広げた。そこには馬車のようなものが描かれている。ただし、馬も馬を操る御者の姿もない。代わりにハンドルがあって、どうも人が操作できるようになっているようだった。
「耕運機…… じゃないわね? なにこれ?」
そうティナが質問すると、スネイルは淡々とこう説明した。
「“自動車”とオレは名付けたが、魔力を動力源として動く車だよ。工房の技術者達に相談して試作品を造ってもらった。これは馬なしでも自由に道を走れるってもんだ。馬の世話もいらないし、疲れ知らず。耕運機は遅いが、これは馬車より速く走れるし、運転も簡単って優れもの。
これを造る技術を民間に伝えてだな、できれば、こいつを世の中に普及させたいとオレは思っているんだ。例えば、個人でもこれでお出かけができるって感じにしたい」
それを聞くと、キークが感想を言うようにこんな事を言った。
「つまり、この“自動車”ってのを造るために余った人手を使おうっての? それで失業者をなくそうってこと? だけど、これをみんなが乗るってなると、道が足らないんじゃない?」
スネイルはそのキークの感想に対して、こんな反応をした。
「おっ 勇者にしては、いい指摘じゃないか。その通りだよ。自動車をたくさん走らせようにも道がないんだな。で、だ。そこで公共事業が出てくる。オレは自動車を国で造ろうなんて思っちゃいないんだよ」
それにはセルフリッジが反応した。
「なるほど。つまり、国で道を造ろうって言うんですか?」
スネイルが頷く。
「その通り。自動車が通る為の道をまずは造って、自動車を普及させる下地を整えるんだな。まずは道を造ることに労働者を使って、ある程度進んだところで、道を造る事業は縮小させる。そして、それで余った人手を今度は自動車製造に回すってな計画だ。もちろん、良さげなタイミングで、自動車製造を民間に促しもする」
セルフリッジはその説明に大きく頷く。
「話はよく分かりました。確かに、それなら上手くいきそうですね」
「まぁ、計画自体はそれなりに良いんじゃないかとオレ自身も思っているよ。ただ、物事は計画通りにはいかないってのが世の常だけどな」
そうスネイルが語り終えた時点で、皆はその話に納得しかけていたのだけど、そのタイミングで、セルフリッジに抱きついていたアンナ・アンリが、ギュッと強く彼を抱きしめると「セルフリッジさん」とそう彼に呼びかけたのだった。
「なんでしょう? アンナさん」
上目遣いで、心配しつつも諌めているような口調で彼女は言った。
「誤魔化さないでください」
「何の事でしょう?」
「あなたはスネイルさんの計画を聞いて、不安を抱いているでしょう? わたしにはちゃんと分かるんですよ?」
それを聞いて、セルフリッジは困ったような表情を浮かべる。
「あの…… それは…」
スネイルが訝しげな顔を見せた。
「なんだ? 問題点があるんなら、ちゃんと指摘してくれよ。そのために会議をやっているんだから」
「はぁ、まぁ、確かに問題点と言えば問題点なんですが、論点としては少々ズレているかとも思いまして……」
「良いから、取り敢えず言ってくれって。聞いた後でそれは判断するから」
そうスネイルから促されても少しばかりセルフリッジは迷っていたが、やがて決心したような表情を見せるとこう言った。
「まず、道を造る為に労働者を用いると、当然ながら農村から人が出て行く事になります」
「まぁ、そうだな」とそれの何が問題だとでも言いたげな口調でスネイルが返す。セルフリッジは続けた。
「更に自動車を造った場合でも、同様に農村から人が出て行きますね。そして、自動車が普及した後も、交通の便が良くなった事によって、農村から都市部に移動する人が多くなるのではないかと思われます。都市というのは人を集める力が強いから都市なんです。道が通れば、都市部に行く人が増えるのは自明でしょう。
つまり、この計画を進めると、急速に農村の過疎化が進む事になると思うんです。それに、自動車が普及すれば事故も増えるでしょう。動物が轢かれるかもしれないし、人間だって轢かれるだろうと思います。その他にも様々な問題が発生する可能性があるはずです」
スネイルは腕組みをすると、そのセルフリッジの問題点の指摘に大きく頷いた。
「確かに少し論点はズレているな。ただ見逃せない指摘でもある。今から解決できそうな点については解決策を考えておくか……」
それにキャサリンが続ける。
「それと、あとはアレね。やっぱり失業問題の大きさと、セルフリッジさんが指摘した問題点の大きさを比べて、どちらを優先させるべきなのか?ってこともあるのじゃない。ワタシには、失業問題の方が大きいように思えるけども……」
セルフリッジは彼らの言葉に頷いた。
「はい。もちろんそれはそうだと思います。今から解決策を準備しておくのも手だし、最終的には問題点の大きさで優先順位を決めなくてはいけないという事もあるでしょう……」
ところがそこまでをセルフリッジが言った時に、アンナ・アンリがまた口を開いたのだった。
「それだけですか?」
それに彼は「え?」とそんな、少々間抜けそうな声を上げた。
「あなたの懸念点は、それだけかとわたしは訊いているんです」
なんだかさっきと似たような感じ。
そのアンナの表情は、やや苛立っているように思えた。もっとも、相変わらず、彼を心配しているようにも見えるけども。いや、もしかしたら、彼女はここにいる全員を心配しているのかもしれない。
セルフリッジはそんな彼女の態度に戸惑いを見せる。
「それだけですが……」
すると彼女は軽く「はぁ」とため息を漏らしてからこんな事を言うのだった。
「やっぱりあなたはお人好しです。“人間”というものを分かっていません。頭はとても良いとは思いますが……」
そう言ってから、勇者パーティの面々を見渡す。そしてこう続けた。
「もっとも、それに関してはここにいるメンバーも大差ないかもしれませんがね」
キャサリンがその持って回った言い方に、まるで文句を言うように口を開いた。
「何が言いたいのかしら? アンナ・アンリさん」
それに彼女はこう返す。
「政治の舞台に立つ人間は、どうして“悪い事”をやる場合が多いか分かりますか?」
これは返答を期待した問いではない。皆もそれを分かっているから何も言わなかった。アンナは直ぐにこう続けた。
「それは“悪い事”をやった方が、富を集め易いからですよ。そして、そうして不正に集めた富によって権力を得る。権力を得れば、政治の中枢に位置し易い。結果、政治の舞台には悪い事を行う悪い人間が集まります。あなた達のような人材が集まるのは、非常にレアなケースなんですよ?」
「だから、つまり、それがどうしたの?」とティナが尋ねる。アンナは淡々とこう説明した。
「つまり、公共事業なんて“富”を目の前にちらつかせたなら、絶対にその権益欲しさに悪い人間達がわいて出るってことです。あなた達が、今回の計画を実施するにあたって、まずやらなくてはいけないのは、そういった人間達への対策ですよ」
――でもって、最近毎度おなじみの魔王城。
「魔王様!」とコンドルが言う。
そう言われた魔王は、なんだか黄昏ていた。報告によると、人間達は順調に農業生産を行っているというのに、魔王達にはそれが一向にできなかったからだ。
人間達にできる事など、容易く自分達でもできると思っていたのに。
このままでは、軍の組織化など夢のまた夢。結局、人間達から奪って来た車輪を回す妙な技術の意味も分からなかった。今でも変なオブジェとして、魔王の目の前でカラカラとそれは回っている。
自信喪失。
暗澹落胆。
なんだか、とっても、鬱気分。
「魔王様! 気落ちしている場合ではありません!」
そんな魔王に向けてコンドルがそう言った。
「人間共に妙な動きがあります!」
いかにも億劫そうな様子で魔王は返す。
「騒がしいな。一体、どうしたというのだ?」
すると、自分から話しかけておきながら、コンドルは頭を抱える。
「ええっと……ですね。説明が難しい。あっそうだ。これだ、これ」
そして魔王の目の前で虚しく回転している車輪を指差した。
「これです。これを使って、人間達は妙な乗り物を造り出そうとしているようなのです!」
関心なさそうに魔王は返す。
「なんだ? これは食糧生産の為の機械ではなかったのか?」
「そうなんですが、それだけではなかったのです! 諜報員の報告によると、馬なしで馬以上の速度で走る乗り物を造ろうとしているのだとか! もちろん、凄まじい力を持ってもいます!」
「ほぉ」
やはり魔王は関心なさそう。
「呆けている場合ではありません!」と、それにコンドル。彼はなんとか魔王に諭そうと「よっく考えてみてください、魔王様」と前置きすると語り始めた。
「もしも、そんなものを軍事利用されたとしたらどうなりますか? 下手すれば、我々は勇者達だけでなく、普通の人間にも手こずるようになるかもしれませんよ?」
それを聞いて、ようやく魔王は危機感を抱いたようだった。クワッと目を開くと、こう言う。
「なにぃ!? うっわぁ、そりゃ大変だ! どうしよう?」
なんか、すっげぇ間抜けな台詞。
コンドルは力強く言った。
「分かり切った事です。何としても、“それ”の量産を阻むしかありません!」
公共事業で“道”を造る。勇者達がそう決めたからといって、ただそれだけで事が進むほど世の中というものは単純じゃない。当然だけれども、政府関係者はもちろん、国民の皆さん達も納得させないといけない。そんな事情もあって、国民にその有用性をアピールするべく自動車のデモンストレーションを行う事に決まった。……のだけど、問題は自動車の試乗者だった。なんと勇者であり王でもあるキークに決まってしまったのだ。
理由は主に二つ。
まず、なんだかんだで国民から最も人気が高いのは勇者キークだから。なんと言っても勇者だし、つい最近も魔物を倒して武勲を上げたばかりだし。自動車の凄さをアピールするのには最も適していると言える。
もう一つの理由は、国の関係者達のキークに対する評判だった。こちらは一般の国民と違って芳しくない。キークはそれほど王様らしい仕事をしていないから。早い話が“こいつ、何にもしてないんじゃね?”ってキークは国の人間達から思われ始めているのだ。ここらで、なんか印象的な仕事をしてもらわないと困る。
――で、
その広場には自動車が用意されていた。周囲に人は少なく、勇者パーティのメンバーの他には数人の関係者がいるだけ。
「これから、勇者が自動車運転の練習をする訳だけど、オレははっきり言って非常に心配だ」
そうスネイルが言った。
勇者キークがどんな失敗をするか分からない。だから広場を用意したし、人身事故を防ぐ為に人もあまり呼ばなかったのだが、それでも何を“起こす”か分からないのが勇者キークで、どんな備えをしようと未知であるからには万全とは言えない訳で。
続けて、とても厭そうに、スネイルがキークに向けて言った。
「まぁ、とにかく、一度乗ってみてくれ」
「よし、分かった」と、妙に明るくキークは返す。少しばかり興奮しているのが明らかに分かる。その様をいかにも深刻そうな顔で勇者パーティ一同は見守る。
「本当に、大丈夫かしらね?」
ティナがそう言った。
「何が起こるか分からないな。うちの勇者さんの場合」
ゴウがそう続ける。
「キークだもんねぇ」
最後に、キャサリンが、なんだか少しばかり諦めた感じでそう言った。
その皆の深刻そうな顔と発言を受けて、技術責任者だろう男が「いやいや、大丈夫でしょう。ちょっと前進して曲がるくらい」とそんなことを言う。それを聞いて、勇者パーティの面々は“こいつはキークを何も分かっていない”などと思う。
自動車は屋根を取り外してあった。いわゆるオープンカー。人気者の勇者キークを、国民達に見せ易くする為だ。
それから、揚々とした様子でその自動車に乗り込んだキークは、広場に用意された簡易道路に引かれた白線から、自動車が少しばかりずれている事に気が付いた。
「ちょっと、この車、中心からずれているみたいなんだけど?」
それで彼がそう言うのを聞くと、技術責任者は「ああ、それくらいなら別に問題ないんで……」と言いかけた。ところが、そのタイミングでキークは「よっと」とそんな声を上げたのだった。そしてその瞬間、自動車は蟹歩きをして中心に移動をしてしまったのだった。
「へ?」
と、それを見た技術責任者はそんな声を上げて鼻水を垂らす。
勇者パーティの面々は、冷や汗を流した。
“やっぱりな”と思いながら。
「こんな機能付けていたの?」とティナ。
「付けているはずがないだろう?」とスネイル。
「見なかった事にしましょう」とキャサリン。
一同は大きく頷いた。
自分の目にした事が信じられなくて、固まっている技術責任者の代わりにスネイルが言った。
「おい、勇者。取り敢えず、車を走らせてみてくれ。いいか? 余計な事はするなよ? ただ・単に・真っ直ぐ・走らせるだけで良い」
それを聞いて、キークは「オッケェ」とそんな呑気な声を上げた。
「レディ…… ゴー!」
そして、そう無邪気に叫ぶと、彼は車のアクセルを踏む。そして、車輪が回る…… と、その場にいる誰もがそう思っていた。だけれども、何故か車輪は回らなかったのだった。代わりに前輪がグワッと持ち上がる。後輪がそれを支える。そしてそのまま、自動車は二足歩行でダッシュをし始めてしまったのだった。ズガッシャ、ズガッシャと音を立てて。
すっごい光景。
眼球が飛び出さんばかりの勢いで、それを見つめる技術責任者。
ちょっと可哀想。
そんな彼の代わりに、やはりスネイルが二足歩行で走っていく自動車に向けて「待て待て待て待て待て!」と叫ぶ。
「なーにー?」
呑気な声を上げてキークは自動車を止めると戻ってくる。ガシャン。ガシャンと。戻ってくる時も二足歩行だ。歩きだったけど。
「なんで、二足歩行で走った?!」
――なんで?、と言うか、どうやって?がまず先だと思うけど、とにかく、ツッコミなんだか怒りをぶちまけたんだかそれ以外の何かなんだか分からない感じでスネイルがそう叫ぶ。続けて、
「ちゃんと車輪を回せー!」
とも。これも同じニュアンス。
キークはキョトンとした表情で「いや、だって、車輪の回し方なんて分からないよ」と言い訳をするように返した。
「二足歩行の方が遥かに分からんわ!」
「えー?」
そのやり取りを見ながらティナが言った。
「流石、キーク。わたし達の常識を軽々と超えて来るわね」
「うむ。いつも通りだな」と頷いてゴウ。
「いつも通りってのが怖いんだけどね」とキャサリン。
「そんなバカなー!」
そして技術責任者が、何テンポも遅れての遅すぎるタイミングで、そんな絶叫を上げた。ようやく呪縛から解き放たれたかのように。
それからしばらくして、ようやく少し落ち着いた技術責任者が、なんとかその現象に無理矢理に説明付けを行った結果、自動車が魔力を動力源としている事が原因なのではないかという推測に落ち着くに至った。勇者キークの持つ魔力が、動力源の魔力と混ざり合い、自動車全体に影響を与え、そんな怪異が起こったのではないか……、と。
いや、分からないんだけどね。
「……まぁ、とにかく、勇者様にでも普通に車は運転できるはずなんで、そっちを訓練してもらいましょう。二足歩行する車なんて国民にアピールされても困りますので」
そして、技術責任者のその当たり前すぎる提案によって、それから勇者キークは普通に自動車を運転できるようになるため訓練をし始めたのだった。確かに普通の運転もキークには可能だった。けれども、それでも無意識に魔力で車を操ってしまうらしく、その二つが混ざると自動車はもうしっちゃかめっちゃかな動きをしまくってしまうようだった。はっきり言って、国民には見せられない。デモンストレーションの日までに、なんとかこれを克服し、普通に運転できるようにならなければいけない。一同は顔をひきつらせながら、そのシュールな練習光景を見つめていた。
「ところで、スネイル?」
その光景を見つめながら、キャサリンがスネイルに尋ねた。
「なんだよ、キャシー?」
「魔王の所の諜報員がうちに忍び込んでいたのでしょう? リザードマン達だっけ? 耕運機の設計書の一部を盗んだとかって。その件は何か分かったの?」
スネイルは肩を竦めた。
「いや、それが全然。農業をやり始めたってな話も聞かない。諜報活動は、魔王達の方が圧倒的に有利だな」
「どうして?」
「あっちは人間に化けられるけど、こっちは魔物に化けられないからだよ。仮に化けられても魔王領では簡単にバレちまいそうだ。飯の問題とか色々あるからなぁ。しかも、あっちは遠くから視力の高い魔物に偵察させるなんて事もできる。そんな事をされたら、オレでも見破れない。こっちは精々が、使い魔を飛ばしたり噂を拾ったりするくらいだ。断片的な情報ばかりだし、精度も悪い」
キャサリンはそれを聞くとため息を漏らす。
「はぁ…… 確かにそうかもね。ま、あいつら馬鹿だから、それでも大丈夫かもしれないけど」
スネイルがおどけた調子でこう言う。
「もしかしたら、この練習の様子も何処かで観察しているかもしれないぞ?」
それにやっぱりおどけた調子でキャサリンは返す。
「なら、“人間共が造った自動車とやらは、どうやら二足歩行も可能なようです!”って、そんな報告を魔王に上げていたりしてね」
そして二人は笑い合った。
「ハハハハハ!」
……少し離れた場所。木々の枝に隠れて丸い大きな目が二つ。その様子をじっと見つめていた。
――でもって、魔王城。
コンドルが魔王に言った。
「魔王様! 大変です! 偵察に忍び込んでいたフクロウから報告が入りました。人間共が造った自動車とやらは、どうやら二足歩行も可能なようです!」
魔王は驚く。
「なにー! 車輪は関係ないではないか!」
本当にそんな報告が、魔王に上げられていたりしたのだった。
……はい。オチ担当の魔王達でした。




