表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
90/364

ハイドラの狂人11

大闘技場は、 北東方 アンティカ マタブマと、北方 ダルカンラキティカ バールクゥァンの対決のための準備に入った。


1階の観客席の四隅に巨大な歯車がある。


その真上の4階には大きな大太鼓とそれを叩く戦士が。


戦士達は太鼓の音に合わせ歯車を押していく。


四隅でそれぞれ太鼓の音でタイミングを合わせているのだ。


大闘技場の巨大な天井は、巨龍トラファルガーの腹の革で作られている。


3分の1ほど閉じていた天井は、太鼓の音に合わせ、規則正しく折れ曲がり開いていく。


この季節の空はとても高く感じられる。綿毛虫シンワートの群れが移動していく。


この地方のシンワートは様々な緑色をしている。


100人位ずつ横に並んだ戦士達が大きなブラシを引き、大闘技場を秩序正しく回っている。


レンガ色の土の地ならしをしている。


3m以上ある戦士達がまるで小人のようだ。


浮力虫ビルムスによってもたらされるこのレンガ色の土は、衝撃吸収力が高い。


20人位の神官が各ゲートから現れ、従者の持った桶に木の枝を浸し禊の水を撒いている。


大観衆は大半のものが席を立っている。


各区画の警官が辺りを見回している。


置き引き予防のためだ。


相当な数だ。


席にいるもの達は、食事や歓談をしている。


白い樹脂製の階段、自動通路、昇降機。


普通のものの数倍の数が設置されている。


にもかかわらず、人でごった返している。


大きな人や小さな人。


大人子供。


男、女、老人。


まるで民族大移動だ。


トラフィンとサンザは、串に刺されたパンのようなものを持っている。


二人はその餅のようなパンをかじり嬉しそうに顔を見合わせている。


パンの粉が口の周りについている。


オルテガは笑いながら二人の飲み物を持っている。


オルテガは、タント族など大きい民族用の席のある3階に人影を見つけた。


黒いフードを被り大闘技場をじっと見ている。


大闘技場の大柱に隠れている。


ん?。


あの方は...。


「ううううぁあああ...。」


サンザが飲み物を欲しがる。


「あぁ。はいはい...。」


「オルテガ兄様。何をご覧になっていたのです?。」


「あ。あぁ...。向こう正面の柱の影に...。」


「遠くてよく見えませぬが...。」


「おや、いなくなっている。」


赤い光が燻りはじめる。


「誰がいたのか?。」


背後から声がした。


「はっ...。」


「うわぁ。」


「うううう。」


サンザは泣き出した。


いつの間にか、フードを被った巨大な戦士が背後に立っている。


フードの男はサンザを見た。


サンザは、黙った。


「デ、デフィン様...。」


オルテガは、膝をつき頭を下げた。


「オルテガよ。」


「ハハッ。」


「おまえはどう考えるのだ。」


「...マタブマは戦歴こそ汚れていませんが、あの男がまともに戦うのは、己の力が優っている時のみ。過去に対戦した者で、後遺症に悩むものも少なくありません。」


「バラドは首長会に顔が効く。シンシアのアルマダイ鉱脈を持つセティの財力はやはり強大。俺も父も尻尾を掴むことが出来ぬ。」


「やはりデフィン様もそのように...。」


「ところで、具合はどうなのだ?。オルテガ。」


「やはりネスクの毒は強く無理が効きません。身体が少しずつ壊れていいきます。あと3年と...。」


「そうか。すまぬ。モルフィンがついていながら。」


「と、と、とんでもございません!。モルフィン様は、出来る限り...。いや!。それ以上のことをして下さいました。それ以上のことを...。」


「あいつはそうは思っていない。」


「そ、そんな...。寧ろ、私が、私が不甲斐ないばかりに、モルフィン様にあのような思いをさせてしまいました。モルフィン様の元に行くようマジア様に言われた時は正直なところ反発もしました。し、しかし、マジウと三年過ごし、私は、マジウの真の人柄に触れました。マジゥの強さ、弱さ、悲しさ、不器用さ、飾りの無さ、正直さ、誠実さ、脆さ...。そしてひたむきさ。私はそれまでの自分を恥ずかしいと感じました。例え、この様な身体になってしまっても、私にとって、私にとって、マジゥと供に戦った日々は宝物。少しの間でも、マジゥの力になれたこと。私の誇りです。この命、明日果てようとも悔いはありません。」


オルテガは、突っ伏して泣き出した。


デフィンは暫く、黙ってオルテガを見ていた。


デフィンは言った。


「オルテガよ。清すぎる心は同時に身を滅ぼす道でもあると知れ。」


デフィンは続けた。


「そして、それを生み出す総大将もまた致命的。マジウの者達はみな清い志を持つ。が、そして、簡単に滅される。果たしてそれで国や民を護れるのか?。」


「し、しかし...。」


オルテガは、うなだれた。


「して、おまえ達。ここで何を学んだ?。」


デフィンは、トラフィンの方を見た。


トラフィンは、慌てて口を拭い、パンを後ろに隠した。


「ただ人々と供に歓声を上げていたのではあるまいな?。」


トラフィンは、顔を真っ赤にして、おろおろと動揺している。


オルテガは、さっとトラフィンの肩を抱き一緒にひざまづいた。


「デ、デフィン様...。も、申し訳ございません。私がただ楽しませようとしておりました。」


オルテガは、更に頭を下げた。


トラフィンは、落ち込み下を向いた。


「オルテガ。俺がなぜおまえに預けたか分かるな。」


「は、はい。し、しかと、分かっております!。」


デフィンは、ゆっくりと歩いて出口に向かった。


オルテガは、トラフィンの頭を抱き抱えながら、デフィンの後ろ姿を見送った。


またトラフィンは大粒の涙を溢している。


オルテガは笑いながら、泣いているトラフィンの顎と頬を揉み続けた。


慈しむ目だ。


デフィンは身をかがめ一般の客と同じ出口を出た。


トラフィンは言った。


「モフモフはおやめくだされ...。」


オルテガは、トラフィンの頭を撫でてやり、また、顎と頬を片手で揉み続けた。


「モフモフはおやめくだされ...。」


オルテガは、二人に飲み物を渡し、肩を抱いて歩き出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ