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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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赤碧の帝王4

ここはアマルの首都メンファー 神帝の道。


アマル帝国 スカル•ヤク•マー(神帝マーの将軍) エルマー•ザフィーラが通過した興奮が冷めやらない。


多くの貴族達の歓声。


一国の人口より多い。


まるで地鳴りのように轟く。


空には、純金やプラチナの紙吹雪が舞う。


大雪のように、桜を散らす春の嵐のように。


二つの太陽の光を受け、ランダムに反射する。


煌びやか過ぎて目眩がする。


美し過ぎて気を失ってしまいそうだ。


一つ一つの晴れの光が心の底に深く染み入る。


人の故郷は光なのかもしれない。


カポーティは、従者に手で合図した。


彼女達の従者は2人しかいない。


「あれをお持ちなさいな。」


「は、はいっ!。」


赤い服を着た若者が返事をした。


あまり美男子では無い。


夫はその若者を睨みつける。


きっと妻カポーティとお揃いの赤い服だからだ。


「やだ。あなたったら。」


カポーティは笑った。


若者は、服と同じ色のバッグを開け、陶器の筒を出した。


クリーム色のその陶器は、光の加減で微かな虹のような光沢が表面に浮かぶ。


描かれたピンクやブルー、黄色い淡い花が、高貴な質感を醸し出している。


「んもう!。何モタモタしてんの!。早く着けなさいよ。」


「あ、はいっ。」


もう1人の方の従者が陶器の上を触ろうとした。


こっちの子は髪の毛がサラサラ。


やや美少年だ。


...パシッ...


「あっ。」


「おまえは触るなと言っているでおじゃろう!。」


小柄な夫は、やや美少年の手を杖で叩いた。


「やだ、あなた...叩くことないじゃないですか...大丈夫?。怖いわねぇ..ミッチャムおじちゃまは...こっちいらっしゃい。」


「おじちゃまだと!。けしからん。」


ミッチャムは、怒りながら陶器の頭の部分を杖で叩いた。


カポーティは、少年の手をさすった。


お気に入りのようだ。


陶器の上から光るボールが出てきて、エンダル石の道に光を当てた。


眩しい陽の光の中、既にメルエン•ラ•カー前に到達しようとしている、小さなエルマー軍の立体映像が流れる。


辺りが明るすぎるため、半透明に見えるが、映像はリアルな小人部隊のようだ。


遅れて音が鳴りはじめた。


立体映像の中の軍楽隊が演奏を続けている。


『... 先頭は、アマル北部8州の王であり、宰相、そして、現アマル大帝国のスカルヤクマー筆頭 やはりエルマー•ザフィーラ殿下です。本日は軍事評論家のトランプ氏をお招き...』


「次は誰ざますかしら、あーた。」


「やはり白帝殿下だろう。」


「赤碧帝様は?。ハッサムを平定なさったし、これと言ったお働きをなさってるのは赤碧様とエルマー様だけ。ノアローク様はなんにも...。」


カポーティとミッチャムの前を堂々と、下位の貴族が通り過ぎる。


下位と言ってもカポーティと同じく爵位12位なのだが...。


本人達の意識を除けば単なる並び順だ。


「ん、まあぁぁ!。何ざますの!。この成り上がりの田舎者っ!。失礼じゃございませんの!?。」


カポーティは全身をプルプルと震わせながら怒っている。


「あら、ごめんあそばせ?。」


タイトな白いドレスを着た若い貴婦人が、スカートをつまみお辞儀をした。


「んまぁぁ!。」


カポーティは、手を握っていた少年のことなど、すっかり忘れ立ち上がった。


白い顔はみるみる赤くなり、今にも掴みかかるような勢いだ。


「まぁ、待ちなさい...。」


ミッチャムはなだめた。


カポーティ達は、宝石商から最近、爵位を貰った新興貴族。


彼等と変わりはない。


一つ前の区画に人だかりができている。


...ブーーーーーーーーーーーーーーーーン...


一際大きな立体映像が浮かんでいる。


強い日差しに関わらず色もくっきりと出ている。


前の貴族は、カポーティの倍の大きさの宝石付きポットを持っている。


さっきの若い女が振り向き、カポーティのポットを見て口に手をあてている。


バカにして笑っているように見える。


「んまあぁぁ!。なんざますの!?。あの品の無い女はっ!。」


「まぁまぁ...。おまえがあんまりに綺麗だから妬いてるんだよ、ハニー。そんな顔をしてはせっかくの美人が台無しだ。」


ミッチャムはそう言うとカポーティの背中をねっとりと撫でた。


「...妬いてる?。美人?。」


世話係の少年が首を傾げ、小さく呟いた。


「あなぁたぁ〜..。」


カポーティは三段腹のその巨体をよじりミッチャムに抱きついた。


「おおぉ。わしのうさぎちゃん。」


「...うさぎ?。」


と、世話係。


大勢の貴族達が、大型の立体映像の前に集まった。


『...間もなく、神帝の聖歌隊の演奏が始まります...トランプさん、ブッシュさん、そして、モウさん、我が帝国は無事にまたこのめでたい日を迎えることができました。この10年を振り返って...』


「気になるのは、次はどなたかということで、おじゃるな。」


「...何がおじゃるよ。マントヒヒみたいな顔して。子爵様達の真似など、100億万年早いざます...。」


「...やめなさい。カポーティ。聞こえるぞ。...。」


「...ううん。あなた...。あなたみたいな美男子こそそうして欲しいざます。あなたこそが、子爵に相応しい人。私をもっと燃えさせて...。」


ミッチャムは、堪らないと言った風にカポーティの唇にむしゃぶりついた。


...ブチュ...


2人は人目をはばからずキスをする。


『...間もなく、我らが神 カーのアマル大帝国軍を預かる、スカルヤクマー筆頭 エルマー•ザフィーラ殿下による、祈りと現人神 カー への平和の誓い、そして、祈りが捧げられます...』


公爵達は、大変な盛り上がりを見せている。


ポットの音声が聞こえない。


「いや。マロ達の関心は、次の順位は誰かということ。」


「わらわも、心配じゃ。赤碧であったなら、ドレスも赤と青のものを設えなくては...。」


「...なーにが、わらわよ。しわくちゃな顔して。まるでピックルスじゃない。...」


「...やめなさい、カポーティ。い、いや、やめるでおじゃる、あほたれ。...」


「ご功績をかんがみれば、赤碧帝が最初であるはず。」


「最近は神の御覚えが、あまりよろしくないそうな。」


「さようか。ならば、次はやはり白帝様か。」


「ご功績よりも、やはり格式。格調。順位はそうやすやすと変えるべきものではおじゃらぬ。」


「赤碧帝の国の民達からの人気も、日に日に増すばかりでじゃ。わらわも、好感を感じておる。」


「ご家族を亡くされた時は、それはそれはお辛かったじゃろうて。」


「白帝が動かなかったそうじゃ。」


「まさか、赤碧帝のご活躍を妬んでのことでは無いであろうが...。」


「昨今は、白様の白の軍よりも、赤碧様の赤碧軍の方が軍規にも優れるようにおじゃる。」


「ほう。白帝軍の清廉潔白さは、有名でおじゃったが...。」


「ワダンとうい名の使徒を除いて、略取も、強姦も、何もないとのことじゃ。何やらワダンという使徒は、そもそも銀帝の配下であったとか。」


「ほう?エルマー様の...。」


「ところで、赤碧様のお位は、いかほどでおじゃったか?。」


「赤碧様は天一位、白帝様は従特天、銀帝エルマー様が特天位でおじゃらる。」


「従特天様と、天一位様ではやはり差があるでおじゃろう。」


「やはり白帝殿下でおじゃろうな次は..。」


「次の機会までは、白帝様に合わせた方が良かろうに。」


「本に。赤碧様には、心苦しい限りじゃが。」


「式典の衣装も、扇子も、ご挨拶も何やらも。」


「わらわは、残念ぞえ。」


「誰とて。」


再び、神帝の道は激しく揺れる。


地響きとともに。


「おぉ、来たぞ...。」


「どなたじゃ!?。」


「やれ、ポットを消しやれ。」


...ザッ...


貴族達は、再び色とりどりの双眼鏡を取り出した。


先の行軍で、気温が上がったことで、大きな陽炎が起きている。


先が見渡しにくい。


「どなた様じゃ?。白帝様か?。それとも赤碧様か?!。」


「見えぬ!。少しは下がらんか!。」


一気に、辺りは騒然とした。


「み、見やれ!。白!。白!。」


「白帝様じゃ!。」


一層、群衆は騒然とした。


いつまでも轟く歓声。


鳴り止まない。


我慢できないほどうるさい。


「なんと..。やはり..。」


「わらわは、残念ぞょ。」


「わしとて...。」


「なんと..。やはり格式こそ、全て...。」


ここの大群衆の大半は、子爵から男爵までの階位の人達だ。


落胆の声が嵐のように駆け巡る。


純白の大軍隊が、進んで来た。


雪崩が押し寄せるように。


「何故、空の船が来やらん?。」


「ほんに、こんなことは、初めて見やる。」


「空の船は遅れてあらしゃるか!?。」


「こんなんは、初めてにごじゃります。」


白の大軍隊は、構わず進み続ける。


真白な地を這う雲の先頭には、緑と茶色の模様の何かが...。


10000体近い、緑色と茶色のまだら模様の。


1000台以上横に連なって並び、最前列の兵曹用戦車シムキャストを引いている。


1輌のシムキャストに、純白の巨大兵曹が何人も乗っている。


群衆が更に湧き立つ。


「何ざますかしら..。あんな色の兵隊さん。珍しいわ...。首に鎖なんて。何をやらかしたのざますかしら..。動きも酷く落ち着きないし...。動物みたいざますわ..。ねぇ、あなた。」


「カポーティ。良く見てみろ!...じゃなかった...見やれ!。」


「おほはほ。何よ、あなたったら。そんな怖いお顔して...せっかくのいい男が...。」


カポーティは、巨大を屈め、男の胸に甘えようとした。


...ぴしゃん...


男は、カポーティの頬を叩いた。


カポーティのプルンプルンのコラーゲンは、余韻でしばらく震えている。


「何をする!。ばかもの!。」


カポーティは、泣きそうな顔になった。


2人のカポーティ従者も縮み上がる。


「何も叩かなくても..。」


カポーティの二重アゴのある顔はくしゃくしゃになった。


「はっ!。汗。おお、おお。愛しき君よ。すぐ手が出るのは、私の...いや、マロの悪いクセ。許しておく...たもれ。可愛き、白鳥の君よ。」


カポーティは、みる間に笑顔になり、小さな夫に抱きつく。


「白鳥...?。」


と、世話係の少年。


しかし、それにしても、辺りは騒然としている。


カポーティ達は、見つめ合い2人だけの世界に入っていく。


「な、な、何でありんす。ありゃ...。」


「見てーーたもれ、一大事じゃ...。」


「キャーー!。」


辺りから悲鳴が上がる。


カポーティ達は口づけ中。


後ろから、誰かがカポーティの背中を、叩いた。


「んもぅ!なんざますのっ!?。」


苛立ちを隠せないカポーティ。


隣の竜車の男だ。


...スドドーーーーーーーーーーン...


...ドゥンドゥンダダダダダダダドゥンドゥンダダダダダ....


...ズダドーーーーーーーーーーーーーーーーン...


隊列はかなり近くに迫っている。


いつのまにか。


カポーティは悲鳴を上げた。


「け、ケムンパスちゃん!。」


「うさぎちゃんや、ケムンパスではない。!あ、あれは?!。」


カポーティは、プルプルの頬を震わせ、全力で悲鳴を上げる。


「ギャ〜〜!ギャ〜〜〜!ギャ〜〜!ギャ〜〜〜!。」


「ざ、ザバナだ...。」


「ざ、ザバナっ!?ギャ〜〜!ギャ〜〜〜!.....うっ。」


カポーティは、白目を剥いて倒れた。


ふた回り以上小さい夫を下敷きにして...。


付き人が慌てて主人を助けようとした。


しかし、カポーティは重過ぎる。


...ブルルルルルルルルルルルルル ...


...ブルルルルルルルルルルルルル...


...ブルルルルルルルルルルルルル...


人の形をした、イカにもカエルにもにた化け物の咆哮だ。


10000匹以上いる。


体長は全て30mを超えている。


緑色をした両生類のようなねっとりとした皮膚。


カタツムリのような目が複数ある。


口はイカのロートのような形で牙がある。


身体の、骨格はしっかりとしていて、格闘家のように筋肉質の太い脚をしている。


良く見ると、4本の退化した小さな脚が、昆虫のようについている。


なんと、白帝ルークノアロークの前衛隊は、ザバナにシムキャスト(兵曹用戦車)を引かせている。


ジニリウム鋼の鎖で拘束して。


ザバナは、未開の地、ケラム地帯の、食物連鎖の上位に君臨する特亜種危険生物。


あちこちで、悲鳴が上がる。


貴族の車を引く鳥竜達は、突然の天敵の襲来に怯え暴れた。


カポーティの鳥竜は、ザバナの群れの前に、わざわざ飛び出してしまった。


...ブルルルルルルルルルルルル ...


...ブルルルルルルルルルルルルル...


腹を空かせたザバナ達が、次々とカポーティの鳥竜に飛びかかる。


鳥竜はザバナの前では正に小鳥。


...バリバリ...バッチィン...バッスン...


カポーティの鳥竜を捕まえたザバナが、ロート型の口で、首を喰いちぎる。


...シャアーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


鳥竜の血液がほとばしる。


噴水のように。


一瞬で鳥竜は血だけを残し、食べられてしまった。


「あ、あなたっ!。ミミちゃんが!。ミ、ミミちゃんが!...。うっ。」


カポーティは、また、白目を剥いて気を失い、夫の上に倒れこんだ。


「ミミちゃん....?。」


「く、苦し、苦しい...野薔薇の君。」


「野薔薇...?。」


と世話係。


...ポカッ...


「痛っ...」


「さっきからいちいちうるさいザマス!。おまえは。」


カポーティは突然目覚めた。


...グワッ...ガガ...ゴゴギギィ...グワッ...グワッ...グワッ...ガガ...ゴゴギギィ...グワッ...グワッ...グワッ...ガガ...ゴゴギギィ...グワッ...グワッ...グワッ...ガガ...ゴゴギギィ...グワッ...グワッ...グワッ...ガガ...ゴゴギギィ...グワッ...グワッ...グワッ...ガガ...ゴゴギギィ...グワッ...グワッ...


仲間が食われる様子を見た他の鳥竜達が怯えている。


逃げようとして暴れている。


この区画だけでも膨大な数の鳥竜が。


逆効果だ。


ザバナが激しく反応している。


鳥竜の鳴き声が、ザバナの食欲を刺激してしまっている。


暴れる姿は、ザバナに取って餌が新鮮に見えるだけだ。


ザバナが呼応して、鳥竜の方へもの凄い勢いで走り始める。


四方に散らばろうとしている。


白帝ノアローク軍の象徴、前衛隊は大混乱になった。


...ガーーーン...ガッスン...バキーーーーーーーーン...ジャラジャラジャラジャラ...


次々とジニリウム鋼の鎖は破壊されて行く。


...ガーーーン...ガッスン...バキーーーーーーーーン...ジャラジャラジャラジャラ...


豪華な純白のシムセプト(兵曹用戦車)は次々と倒れて行く。


後続の白帝群100万が完全に足止めを食らっている。


...ブルルルルルルルルルルルル ...ブルルルルルルルルルルルル ...ブルルルルルルルルルルルル ...ブルルルルルルルルルルルル ...ブルルルルルルルルルルルル ...ブルルルルルルルルルルルル ...


更に、最悪なことに...。


ザバナは、貴族達に気づいてしまった。


鳥竜よりも遥かに美味しいご馳走に。


神帝の道には、染みさえ許されない。


鳥竜の血、人の血や肉が落ちるなど、とんでもないことだ。


何万の人々が処刑されることか...。


白帝 デューク•ノアロークは、途轍もない失態を犯した。


そして、神帝の第一神殿メルエン•ラ•カーへの登頂時間は迫っている。


イナトナの影にいた、黒いフードを被った少年がそっと姿を隠した。

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