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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
74/364

ハイドラの狂人3

...フゥ...フゥ...ハァ..ハァ...フゥゥ...ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...フゥ...フゥ...ハァ..ハァ...フゥゥ...ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...フゥ...フゥ...ハァ..ハァ...フゥゥ...ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...


ついに...。


ついに。


モルフィンは洞窟の上に辿り着いた。


ネグレドに掴み上げられているトラフィンが見える。


サンザは、小枝のようなものを掴み、ネグレドに向かって行く。


トラフィンは青あざだらけ、いや、あざがないところが無いほどだ。


「サ、サンザー!。来てはならぬ!。殺される!。逃げよ!。サンザー!。」


トラフィンが声の限り叫んでいる。


しかし、もうサンザは逃げない。


サンザは泣きながら男に向かって突進する。


「なーにが、逃げよだ。何様のつもりだ!。この乞食が!。ムカつくぜ。また、痛い謝罪をさせてやる。このクソ野郎!。」


ネグレドはトラフィン持ち上げた両手でそのまま首を絞めた。


トラフィンは、必死にもがいている。


死んでしまう。


...ドドッ...ドドドッ...ドドッ...ドドドドッ...ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド...


土が舞い上がる。


モルフィンは滑り転げるように、斜面を駆け下りた。


関係ない。


そんなもの。


「ウオオオオオオオオーーー!。」


「...何だ?。この声は。...」


「トラ!。待ってろ!。今助けてやる!。貴様らぁっ!。」


男たちは、一瞬焦って辺りを見回した。


しかし、声の主が、崖から滑り降来る、華奢な少年だと分かると、ニヤけて無視をした。


首を掴まれ吊り上げられているトラフィンは、もうぐったりとしている。


しかし、ネグレドは容赦をしない。


成熟した大人の武闘家達の前に、たかだか4〜5歳の子供は無力だ。


トラフィンは、山の上から誰かが、決死の形相で降りてくるのに気付いた。


目が霞んで良く見えない。


1人で来ては危ない。


トラフィンはそう思った。


「...ラフィ...たしだ!...っかりしろ!。トラ...ン!。私だ!。」


トラフィンはその声が誰なのか、気がついた。


「あ、兄様..逃げてく...だ..殺され、殺さ...逃げ...。」


トラフィンは、最後の力を振り絞って、必死に声を絞り出した。


サンザは、待ち構えていたベベルにいきなり首を掴まれ釣り上げられた。


目を白くして、泡を吹いた。


サンザの武器は、地面に落ちた。


...カサッ...


「殺される?。なら、死んでしまえ。お前達のようなクズは。」


ネグレドは、トラフィンの首を片手で締めながら、両手で掲げ、竹林の尖った切り株に叩きつけようとした。


「ウオオオオオオオーーー!。」


「ふん、モヤシみたいなのが来たぜ!笑」


モルフィンは飛んだ。


ネグレドは軽くかわした。


モルフィンは地面に叩きつ...。


....。


...ドンッ...


...ドガ...


モルフィンの拳がネグレドの顔面を直撃している。


2mを越える筋骨隆々の男は、立っていられず、地面に崩れ落ちた。


ネグレドの顔から血が噴き出した。


...バン...


間をおかず大きな音が。


...ドガッ...


...ゴッ...


砂袋が地面に叩きつけられるような音だ。


ベベルだ。


べべルが大木に打ち付けられた。


ベベルは口からもおびただしい量の血が。


「ぅぐっ...。き、貴様!。だ、誰だ!。」


ケイヒルが叫ぶ。


「おまえは今から俺が殺す。名前など聞く必要は無い。」


「き、貴様...。誰だ!。」


べべルはたじろいでいる。


モルフィンは、ケイヒル、べべル、そして、ネグレドを睨みつけ、威嚇している。


牽制しながら、倒れているトラフィンそして、サンザの元に行った。


ゆっくりと起こし、2人の肩を優しく抱いた。


「ヒドゥイーンの戦士が...。よい大人が...。このような幼き子達に残虐の限りをつくすとは、許せぬ!。許さぬ!。断じて許さぬ!。」


モルフィンは、右手のひらを前に掲げ、構えた。


ケイヒルは真顔になった。


そしてべべル。


ネグレドを中央に、モルフィンに対峙する。


「ガキが。調子に乗りやがって。許さねばどうする?。」


ネグレドは、笑うが目は笑っていない。


「兄ィ。こいつ、もしや。」


ネグレドにケイヒルが何か耳打ちをしている。


「何?。バールは、色黒と聞いていたが...。」


べべル。


「こいつが、あのモヤシ野郎...。どうりで...。」


ケイヒルが言う。


「...兄ィ。こいつは、俺には勝ったが、そこまで強くは無い。...。」


「ふん。貴様がバール•クゥアン。丁度良い。ぶち殺してやる。」


「面白い奴が来たもんだぜ。おい!。バール!。貴様、その腕前で、ネグレド兄ィや、ケイヒル兄ィに素手で挑む気か?。とんでもない勇者だせ。ギャッハッハッハ!。」


華奢な少年が、大人の格闘家に敵う訳がない。


しかし、モルフィンは怒りで我を忘れている。


トラフィンは、茫然と立っていた。どうして良いのか分からない。


「トラ。下がっていろ。」


モルフィンは2人を自分の後ろに隠した。


トラフィンは足を引きずりながら、サンザに肩を貸そうとした。しかし、怪我が酷く倒れてしまった。


サンザは、両耳を塞ぎしゃがんでいる。


大人達は、にやけながら、モルフィンに寄って来る。


「サ、サン、サンザ。あそ、あ、あ、あそこから逃げ、逃げるのじゃ..もう、も、戻ってはならない。」


トラフィンは、住んでいる洞窟を指差した。


逃げ道があるのだ。


しかし、緊張し過ぎたトラフィンの声は筒抜けだ。


トラフィンは、足を引きずり、モルフィンの元に走った。


覚悟を決めたのだ。


ただ慎ましく生きようとしたことの代償として。


「トラ。下がれ。安全な場所まで逃げろ。なぜ俺が来たと思う。なぜ俺が掟を破ってまで闘うと思う。」


モルフィンは、まるで闘犬のように低く唸った。


トラフィンは立ち止まった。


...ザザザザザザッザザザザザザッ...


...バッサーーーーーーッ...


トラフィンの背後の笹の間から、男が飛び出して来た。


「死ねや!。」


ヒックルだ。


ヒックルは、岩をトラフィンの頭上に振り下ろした。


...ドガアッ...


重く鈍い音が響く。


「グワッ...。」


!?


モルフィンの拳がヒックルの顔面を殴り下ろした。


岩は粉々に砕けている。


足元には、土煙とともに、地面にが深く削れた跡が残っている。


まるで瞬間移動だ。


...ガツッ...


...ドガッ...


モルフィンはヒックルの顔や胸を容赦無く蹴り込む。


「ウウッ...。」


ヒックルは、顔から血を流し泡を吹いて倒れた。


「この野郎っ!。」


今度は、ドゥオモンが飛びかかった。


...ドフ...


「ウ...ウゥッ...。」


...ドス...


穀物袋が殴られるような鈍い音だ。


「かっ...コッカアアアアァァァァッ...わ、や、分かった!。わ、分かっ...。」


...ドスン...


「カァァコカァァ...。」


ドゥオモンは、腹を蹴られ胃液や血を吐いた。


モルフィンは、呆然と立ち尽くしているエリックの髪を掴み引き摺り回した。


ドゥオモンを蹴り飛ばし、エリック、ヒックルの腹や顔面を、これでもかというほど殴りつけた。


大人の格闘家が、まるでカカシのように引き摺り回されている。


外見からは想像がつかないほどの怪力。


しかも、大男3人がかりで、脚すらすくうことが出来ない。


モルフィンの身体は重い。


エリックは腹を抑え倒れこんだ。


モルフィンは容赦しなかった。


...ビリビリバリバリ...


つかまれた者の服は破れた。


...バキ...


モルフィンは、ドゥオモンの足をついにへし折った。


ドゥオモンの顔は真っ青になり動けなくなった。


モルフィンは、大木にヒックルの顔面を何度も叩きつける。


トラフィンは、茫然とした。


あれが、あれが、兄様の本当の姿なのか。


華奢な少年は、逃げようとするエリックを追いまわしている。


「...ふん。役立たずが...。」


「...あいつ。バールじゃねぇな?。...」


ネグレドがケイヒルに言う。


「...え?。おい!。ベベル。あいつ本当にバールか?。...」


「...あ、いや。イブラデで闘ったから...。...」


「...馬鹿野郎が!。どう見ても違うだろう?。小僧のクセにやけに重い。見ろ。あいつの足元。...」


「...あいつデフィンの弟じゃねぇのか?。...」


「...何?。あのキチガイか?。キレたら手に負えねぇあの。...。」


「...だとすれば...。やり易いぜ。兄ィ。笑。あのバカ、雑魚相手にまだキレてるぜ。笑...」


「...相当なバカらしいからな?。笑...。ハイドゥクも、デフィンもあのバカには手を焼いてるらしいぜ。...」


「...デフィンはあのバカを嫌ってる。助けに来たりはしねぇ。あのバカ1匹なら、倒せる。...」


「...あれがデフィンの弟なら、シャガールだぜ?。だから重い。この身体のままじゃ、陸じゃ敵わねぇ。まさか禁を破る訳にもいかねぇ。だが...。笑...」


「...ふん。陸じゃな。陸じゃ。笑...」


「...なるほど。あいつシャガールだったな。笑。だが、あのキチガイ。禁を犯しゃしねぇかな?。...」


「...しねぇさ。流石に。それこそ、ハイドゥクか、デフィンが身内の恥をきっちり始末しに来るさ。寧ろ、それを待ってるぜ。多分な。あのキチガイが邪魔で仕方ないらしいぜ。笑。チッ。痛ぇ。肋骨が折れちまってる。...」


「...笑。寧ろ、一番の面白れぇおもちゃだぜ。」


「...見ろ。雑魚相手は飽きたみたいだぜ?...」


モルフィンがこっちを睨んでいる。


「ウジ虫ども。何をヒソヒソ話していやがる!。かかって来ぬなら、俺の方から行く。」


ケイヒルは立ち上がった。


「小僧。教えてやる。俺とネグレドは、近々ラキティカになる者だ。セティの一門よ。そんなに死にたきゃ、相手になってやる。」


「満足したか?。このキチガイ野郎。雑魚半殺しにして嬉しいか?。親父や兄貴に泣きつくんじゃねぇぞ。この足手まといが。」


「俺達より凶暴で凶悪だぜ、おまえは。あんな白痴のゴミの為に、ここまでキレるとは。貴様の後にあの白痴のチビどもは生きたままヒドゥイーンワラナーの餌にしてやるぜ。俺の犬は生きた肉が好きでな。笑。」


ネグレドは、ゲラゲラ笑い、トラフィンを指差した。


トラフィンはもう動くことが出来ない。


「ざまぁねぇぜ。」


ケイヒルは腹を抱えて笑った。


「こいよ!クズども!。」


モルフィンは、目が据わっている。


ベベルがモルフィンに突撃する。


...ドガッ...


向かって来るベベルをモルフィンは一撃で殴り倒した。


!?


ネグレドが隙をつき、走る。


トラフィンを捕まえた。


鉄骨で殴ろうとしてる。


「ヘッヘッヘ。本当にバカだぜ。怒りに我を忘れるとは。」


「ギャァーー。」


「サンザーーー!。」


ケイヒルはサンザを脚から持ち上げた。


「所詮ガキはガキ。」


「貴様!許さぬ!。」


モルフィンは猛烈な勢いでケイヒルの前に移動した。


...ブウゥゥオン...


モルフィンの蹴りをケイヒルが両手で受ける。


...ガツン...


ケイヒルの左腕はグラグラに。


...ドタッ...


サンザは地面に落ちた。


...バスッ...


ケイヒルは、緑色の粉をモルフィンに叩きつけた。


「チッ!ガキの目にもぶつけてやりゃあ良かった。」


芝竹の粉...。


目潰しだ!。


「おりゃあ!潰れろ!白痴ブタ!。」


ネグレドは、思いっきり、トラフィンの頭上に、鉄骨を振り下ろした。


モルフィンが猛烈なスピードでネグレドに激突した。


..グシャァ...


ネグレドの身体が悲鳴をあげる。


鈍い音がする。


...ドサッ...


トラフィンは倒れた。


2人はそのまま崖の下に落下する。


ケイヒルが追って飛び降りた。


グラつく腕を抑えながら。


次いでベベルが崖を滑り降りる。


...バッシャーーーーーーーーーーーーーーーン...


...ズバーーーーーーーン...


...ドッボーーーーーーーーーーーーーーーーン...


4人は、洞窟に続く川、ボルガの支流に落ちて行く。


「兄様ぁぁぁーーー。兄様ぁぁぁ!。」


「ぎゃーーーぁぁぁ。きいゃあーあぁぁ。」


悲痛な叫び声。


トラフィンも、サンザを竹の根を掴み、崖を降りて行く。


シャガール族は、ヒドゥイーン2種16部族の中では異端の部族。


水性民族でありながら、水に対応できない惨めな部族。


比重の重さ故に沈んでしまう。


陸では最強の部族でありながら、水の中においては、ただの溺れる牛か馬。


...ゴボ...ゴボゴボゴボ...ゴボゴボ...


ネグレドとヒックルがモルフィンの民族衣装を引き力の限り、川底に沈める。


...ガッ...ガッ...ガッ...ガッ...


ケイヒルが沈んだモルフィンの頭を鉄骨で殴り続ける。


川は血の色で染まり始めた。


沈められながら、モルフィンが放つ突きは、川水が爆発するほどの威力。


しかし、毒のせいで、目が見えない。


見当違いの場所を突いている。


ネグレドとヒックルは、渾身の力を込めて川底に引き摺り込み、ケイヒルは、鉄骨が曲がるほど殴り続ける。


モルフィンの動きは弱まって来た。


「兄様ぁぁぁぁーーー。兄様が、兄様がぁぁぁ!。兄様がぁぁぁぁぁ!。」


「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーー!。」


サンザは、崖の中腹で大声で泣いている。


トラフィンは、崖から飛び降りた。


もう立っていられる足ではない。


「誰か、誰かぁ。兄様がぁ!。兄様ぁぁぁーーー!。」


トラフィンは、川の中で動きの止まったモルフィンに向かって這って行く。


真っ赤な顔に大粒の涙をこぼしながら。


「兄、兄、兄様ああああーーーー!。」


大声で泣き叫びながら、硬い石の上を這って行く。


...ガツッ...


岩がケイヒルの頭に命中した。


ケイヒルは血を流し失神している。


大きな男が、川に入って行く。


極限まで鍛え上げられた肉体は、民族衣装の外からもわかる。


男はまるでシャチのように泳ぎ、モルフィンを掴んだ。


川の底に沈められたモルフィンを軽々と片手で川岸まで引き摺り上げた。


決して川の流れは遅くはない。


...バッシャーーーーーー...


...ドサッ...


...ズズザザザザザザーーーー...


...ドサッ....


ベベルとネグレドは、まるで地引網にかかった魚のように、ついでに川岸に引っ張り上げられた。


「この野郎ーーーーーー!。」


「死ねやこらぁーー!。」


2人の男が、大男に飛びかかって行った。


鉄骨をふりかざし。


今まで、潜んでいた臆病な奴らだ。


大男は振り返り睨んだ。


「うぅわあぁぁあ。で、で、デフィンじゃねぇか...。」


「デフィンは出てこないって、ネグレドが...。」


男達は、大男の一瞥で腰を抜かしてしまった。


...ゴッホッ...ゴボッ...ゴッホ...


「...兄様ぁぁぁぁぁぁ。よ、良かった...。良かった。兄様ぁぁ。...」


「デフィン!この野郎ーーー!。」


ベベルが鉄骨を拾いデフィンに殴りかかる。


...ガツッ...


デフィンは、後ろ回し蹴りでベベルを蹴り飛ばした。


ベベルもかなりの大男だ。


しかし、まるでぬいぐるみのように、ベベルは崖まで蹴り飛ばされた。


激突し、動かなくなった。


「モル。おまえ、ここで何をしている。?」


「ゴホッ...ゴホッゴホッ...ゴホッ...。」


デフィンは、澄んだ目で、モルフィンを見つめている。


デフィンは、落ちていた岩。人の頭より大きい岩に指を突き刺し、軽々と投げた。


岩は、サンザを捕まえようとしている男を直撃する。


男は失神して倒れた。


「クズばかりではないか。」


ケイヒルは、あからさまに落ち着きを無くした。


何とか岸まで戻ってきたネグレドも、デフィンと目を合わせようとはしない。


「ゴホッ。ま、まずいぜ...。デフィンが、出てきちまった...。」


「愚かな。だから、俺に知らせろと言ったはず。このようなクズを相手に負傷するとは。」


デフィンはモルフィンを見ずにエリック達を見ながら言った。


「この野郎!。」


エリックが飛びかかった。


「クズども。不快な。」


デフィンは、前蹴りを浴びせた。


エリックとて、2m近い体格の格闘家。


デフィンとさほど体格に変わりは無い。


しかし、紙のように吹き飛び地面を転がった。


デフィンの技の破壊力は、モルフィンの比ではない。


体型に似合わず繊細で、綺麗な型だ。


もはや、デフィンはネグレドやケイヒルを意識してはいない。


ネグレドとケイヒルは、デフィンの横を通り過ぎる。


...バッスンッ...


...ズゴーーーーーーーーン...


...ズッバーーーーーーーーーーーーーン...


ケイヒルは崖まで蹴り飛ばされ。


ネグレドは空高く蹴り上げられ、ボルガの支流へ落ちた。


ケイヒルは手足が逆の方向を向き、泡を吹いている。


...バシャ..バシャ..バシャ...


「...ウプッ...だ、誰か...ブボボ..だすけて...ひぃ...ビビズバ...助け...ブボズ...ゲホッだ、だらか、だふけて...ズバボ...ゴボゴボ...ひぃぃ.だ、誰...ゴホッ...。」


「モル。帰るぞ?。」


デフィンは、背を向け言った。


「ゴホッ...。お前たち。ゲホッ。ゲホ。お、おいで。」


モルフィンは、トラフィンとサンザを呼んだ。


トラフィンは、自分の身体がボロボロなのに、サンザの身体をさすってやっていて気がつかなかった。


モルフィンは、二人の方へ歩いて行った。


「お前たち。ゴホッ。私と来い。」


トラフィンは、足を痛め簡単には立ち上がれない。


モルフィンはサンザを優しく抱き起こし、足の土を払ってやった。


モルフィンもまた、満身創痍だ。


目くらましのせいで、二人があまり見えてはいない。


「モル。放っておけ。」


デフィンが言う。


モルフィンは、デフィンの言葉を無視した。


そこにいるのは、さっきの凶暴な少年ではない。


モルフィンは穏やかな顔つきに戻っている。


デフィンは、トラフィンの前に立った。


「兄者?。」


モルフィンはまだ良く目が見えていない。


デフィンは、トラフィンの頭を片手で掴み立たせた。


モルフィンは、何が起きてるのか理解した。


「兄者っ!。何を!?。」


モルフィンも素早くは動けない。


「兄者!?。な、何をするつもりだ!。」


「ふん。」


デフィンの腕は力を増した。トラフィンは激痛に顔を歪める。


「おまえ、名は何と言う?。」


デフィンはトラフィンに言った。


「ワシは、ワシは、ト、トラ、トラ、トラフィンじゃ。」


この男が相手なら、もう絶望しかない。


身体は大きくても、たかだか、4〜5歳の子供。


あまりにも辛すぎる仕打ち。


それでも、トラフィンは、顔を真っ赤にしてデフィンを睨みつけた。


鼻水を垂らしながら、歯をくいしばりながら。


傷だらけのあまり動かない腕で、必死に抵抗する。


デフィンを殴ろうとしている。


しかし、所詮、傷を負った子供の力。


威力などない。


「兄者ーーーっ!。」


また、モルフィンは怒り狂っている。


足を引きずりながら、デフィンの前に立つ。


「俺と闘え!。兄者!。」


デフィンは、トラフィンを離し、モルフィンを突き飛ばした。


トラフィンも、モルフィンも、勢いよく地面に倒れた。


「トラフィンよ。世の中には二つの人種がある。貴様に分かるか?。」


「悪き人と、良き人じゃ!。」


トラフィンは叫んだ。


「愚か者。違う。弱い者と強い者だ。貴様のような弱い者は、いつもいじめられ、いつも虫けらのように死んで行く。」


トラフィンは、恐怖と戦っている。


震えながら、歯をくいしばって。


「弱き者には死しか待っていない。世の荷物になるだけ。弱きは悪。それが嫌なら強くなれ。」


「ワシはそうはお、思いませぬ。」


「それを貴様のような者がなぜ言える?。己も己の大切な者を護れないではないか。貴様が強ければ済んだことではないのか?。」


「そ、それは...。」


「強くなれ。」


「...。」


「強くなれトラフィン!。」


「は、はいっ。」


トラフィンはデフィンの威圧と迫力に屈した。


「モル。帰るぞ。貴様も来い。トラフィン。」


トラフィンは、サンザの方を振り返り動かなかった。


モルフィンも、足を引き摺り、サンザの元に歩いた。


「来い。サンザ。大丈夫。」


モルフィンは、地面にしゃがみ、サンザに背中に乗るように仕向けた。


「モル。そいつは置いて行く。足手まといだ。」


モルフィンは、無視をした。


「さぁ、おいで。大丈夫だ。今日から俺が、おまえ達の兄だ。」


モルフィンは、サンザに笑いかけた。


サンザは泣きながら、モルフィンの背中にのった。


トラフィンは、やっと、歩き出した。


足を引きずりながら。


「モルフィン。そいつは置いていけ。貴様。聞こえなかったのか?。」


モルフィンは、兄を睨みつけ歩き出した。


「貴様。俺の言うことが聞けないのか?。」


「聞こえぬ。」


モルフィンは言い返した。


「誰が食わせる。誰が世話をする?。」


「私がみます。私が世話を。」


「いや、貴様には出来ない。貴様にはそんな甲斐性も余力も無い。父と首長達の確執を忘れたか。」


「分かっている。」


「愚かな。犬や猫では無い。そのような余裕がどこにある。稽古の後、貴様は階段すら登れないではないか。」


「では、兄者はどうしろと?。このまま見殺しにせよと言うのか?。」


「捨てて置け。弱きは悪。貴様は生涯その者を背負い生きることは出来ない。」


「弱きが悪などと。それは兄者が決めたこと。強弱で価値を決めるのは、力のみで価値を測るのは、獣のする愚かな事。」


「如何にも、人間は獣だ。人間は、さだめから逃れられない。」


「兄者の理念は、あの帝国と同じ。侵略国家アマル帝国と。」


サンザは身をよじってモルフィンの背中から降りた。


そして、反対の方向に走り出した。


「サンザ!サンザーっ!。待て!。1人で行くなー!。」


サンザは、トラフィンの声を聞き立ち止まった。


「モル兄様、短い間でしたが...短い間でしたが...ワシらのような者を可愛がっていただき、本当にありがとうございました。母や父が生きていた時のような安らぎを思い出すことが出来ました。楽しかった...。ご恩は、この優しさは、生涯忘れません。ワシは弟を見捨てることなどできません。お名残おしいが..お名残おしいが..」


身体の大きな子は言葉につまると、デフィンにもお辞儀をして、弟を追い走り出した。


「まて、私が行く。」


モルフィンはサンザの元まで走り、背負った。


サンザは嫌がった。


「来いっ!。」


モルフィンは、トラフィンに言った。


サンザは、モルフィンの頭をポカポカ叩き出した。


「モルフィン。貴様、俺に逆らうのか?。」


デフィンは言った。


モルフィンは、無視をして走り抜けようとする。


トラフィンはモルフィンの後ろにぴったりと付いて走った。


「モルフィン。!」


デフィンは、前に立ちはだかり、走るモルフィンを突き飛ばした。


3人とも地面に転がった。


「貴様は俺に歯向かう気か?。」


「そこを退かぬなら、もう兄とは思わぬ。どうしても、この子だけを置き去りにしたいなら、俺を倒してからにしろ。」


モルフィンは、構え、デフィンを睨みつけた。


デフィンは静かに腕組みをしたまま、モルフィンを見て動かなかった。


「モルよ?。」


「何だ!。」


「貴様、俺に勝つ気なのか?。」


「やって見ねば分からぬ!。」


「その身体でか?。今まで貴様は何度俺に勝てたのだ。」


「.....。」


「なぜ、そこまでするのだ?。同情は弱い者のすること。」


「私はそうは思わない!。」


デフィンは、しばらく考えた後、モルフィンに背を向け、来た道を戻り始めた。


「帰るぞ。」


「何と?。」


「帰ると言ったのだ。」


「この者は...。」


「俺は知らん。」


「知らんとは...?。」


「おまえが、世話をしてやれば良いではないか。」


デフィンは、苛立ちながら言った。


モルフィンはうつむいて歩いた。


足を引きずりながら、サンザをおぶって歩いた。


「俺は背負わぬぞ。」


「...。」


「父には俺から話してやる。」


「兄者...。」


モルフィンの瞳からは大粒の涙がこぼれ落ちた。


「父は俺ほど甘くはないぞ...。」


「...。」


「愚かなり、されど我が弟...。」


デフィンは呟いた。


4人は黙々と山を降下り、平地に着いた。


「貴様は、乱暴なのか、優しいのか分からぬ。」


デフィンはサンザを背負うモルフィンに言った。


デフィンの表情は、始めた緩んだ。

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