ハイドラの狂人2
今日は、二人の為に新しい釣竿を作って持って来た。
約束通り。
私はどうも不器用だ。
見た目に反して、兄様は器用で、私は何をやっても不器用。笑
こんなに見た目の悪い釣竿は中々無い。
でも、性能は良いはずだ。
竿の強さ、しなり、そして軽さ。
兄様は機嫌が良かった。
「...ふん。何だこれは?。何の棒なのだ?。釣竿には見えない。お前は本当に不器...。!?。良く出来ている。笑。見た目に反して、この形はわざとこうしてあるのか。おまえが器用なのか不器用なのか分からぬ。はっはっは。これは愉快だ。我が弟よ。俺は認める。素晴らしい出来栄えだ。誰が何と言おうと。...」
まさか私が双子の世話をしているとは思っていない。
もし、見つかれば、母様まで兄様に叱られる。
第1妃の長子だからではなく、兄様は生まれつき誰に対しても尊大だ。
そして、兄様の意志は、父様の意志とほぼ一致している。
いつも...。
あの子達の喜ぶ顔が目に浮かぶ。
それとも、幼いから、この見てくれで、がっかりするだろうか...。
やっと母ネスファルを説得し、弁当と布団も持って来た。
いつものように、藪を掻き分け洞に近づく。
子供の笑い声がする。
鍋が落ちている。
少し前に持って来た鍋。
おかしいな。
トラ達が外で遊ぶなんて珍しい。
洞窟が見えて来た。
距離は近いが、山の反対側にある。
ここに橋があればすぐに行けるのに。
「ほら、吸ってみろ!。」
大人だ。
なんだ、あいつ? 。
!?
笑い声じゃない!。
何て私はバカなんだ。
悲鳴だ!。
トラフィンとサンザの。
私は、慌てて岩を駆け上がった。
大人が6、7人。
「吸えよおらっ!。」
...パシッ...
...パシッ...
「吸えって言ってるんだよ!。」
...バーン...
な、殴っているのか?。
ふざけるな!。
色黒で、髪を後ろに束ねたヒゲの男が、トラフィンに安楽草〔※〕を吸わせようとしている。
〔※安楽草:幻覚を見せる草。〕
バカか...そんなもの子供に吸わせたら死んでしまう!。
大変だ!。
...バタッ...ドタドタ...ガンガラーン...
くそ!。
こんなもの何の役に立つ。
私は、荷物を全て地面に捨てた。
こんなもの。
あの子達がこんなに恐ろしい思いをしているのに。
何て私は迂闊なんだ。
何というバカ。
なぜもっと早く走れぬ!。
サンザは!?。
向こうの山、よく見えない。
岩に座らされている。
ずんぐりした、髪を下ろした奴の前で。
痩せた奴に頭を、いや、髪の毛を引っ張られている。
唇が赤い。
紅か?。
ち、違う!。
血...。
血だ!。
早く、早く行かなければ!。
「...って言ってみろ!...」
な、何を言ってる?。
何を言わせてる。
くそっ!。
くそっ!。くそっ!。
トラフィンの悲鳴。
泣き声。
「...なさいませ!。」
ゲラゲラと大人の笑い声。
許さない!。
絶対に!。
待ってろ!。
今、この兄が助けてやる!。
「あぁ?。聞こえねぇ!。」
「ネグレド様の、魚や蛙や虫を食べて、ごめんなさいませ!。」
あっはっはっは!。
何を言わせてる!。
くそ野郎!。
絶対に許さない!。
「虫は食ってもいいぞ!おい、ドゥオモン。あれ持ってこい。」
ドゥオモン?。
ネグレド?。
まさか...?。
モルガ大師の弟子ではないか!?。
ヒドゥイーンの戦士ではないか!。
それが、こんな小さな子達を。
何だあの入れ物は!?。
何だあの鉄の棒は!。
山蠍...!。
あんなもの口に入れたら、し、死んでしまう!。
「おーら!。」
...バン...
トラフィンの泣き叫ぶ声が...。
な、な、何をした!。
あの我慢強いトラフィンが...。
悲しい...。
可哀想に...。
血の匂い。
どんなに私が歯を食いしばって怒っても、時は止まりはしない。
許さぬ!。
絶対に許さぬ!。
サンザが髪の毛も持って引きずりまわされてる!。
五分だけ!。
五分だけ!。
神よ!。
貴様に少しでも慈悲の気持ちがあるならば、俺が着くまで...。
貴様があの子達を護れ!。
何が神だ、何がナジマだ!。
もし、間に合わなければ、俺は貴様も殺す!。
役に立たない神など、いるだけ邪魔だ。
償え!。
くそっ!。
叫ぶことすら出来ない。
キチガイどもが何をするか分からない。
...バーン...
トラフィン...。
もうすぐだ!。
待っていろ!。
...フゥ...フゥ...ハァ..ハァ...フゥゥ...ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...
こんなことで息を上げるとは。
間に合わぬなら、心臓も肺も破れてしまえ!。
山に着いた。
登るだけ。
後は、この坂を...。
岩で、坂で、あの子達が見えない...。
もう少し...。
トラフィンの鳴き声、サンザのも...。
大丈夫だ。
間に合う!。
間に合うぞ!。
神よ!。
あぁ、神よ!。




