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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
72/364

ハイドラの狂人1

小さな子供が2人。


川のほとりで遊んでいる。


膝まで水に浸かって。


日差しが、澄んだ水に反射している。


「気持ち良いのぅ。サンザ。」


「う、ううぅ。」


サンザと呼ばれた子の方は、少し言葉が不自由なようだ。


「サンザ見よ!魚じゃ。」


「ううぅ!。ううぅ。」


子供達二人はそっくりな顔をしている。恐らく双子だ。


美男子ではなく目は細く頬も赤い。


が、色が白く、ぷっくりとしていて子供らしく、可愛らしい。


顔立ちや、身振り、ぽってりとしたその体型も。


身体は大きいが、幼い。


歳は5〜6歳くらいか。


見すぼらしい身なり。


服が汚れていて、破れている。


親はいないのだろうか。


しかし、そんなことを気にする様子もなく、ずっと笑っている。


何がそんなに楽しいのか...。


ただの川が珍しいらしい。


声を上げてはしゃいでいる。


「サンザ!。みよ!。カニさんじゃぞ?。」


「ううぅ!。かー...か...あー。」


「かにさんじゃ。かーに。」


「ううーあ。かー。」


「はっはっは。そうじゃ。かにさん。」


サンザという名の子の方は、手を叩いて飛び跳ねている。


「良かったのぅ。ここは暖かい。埃っぽくない。サンザの咳がなくなった。笑」


この川はボルガ大河の支流。


山の比較的上の方にある。


ここハイドラのザブル州はなだらかな山が多い。


海浜都市タンジアのほとんどが、カリビア〔※〕であるように、ザブルは大半は、10〜150mの山で占められている。


〔※カリビア:水深10cmから1mで遠浅のマングローブの海〕


起伏に富み、至る所に山の緑がある。


そして、無数に川がある。


この豊富な川の水が、幅30kmのボルガ大河の水源となっている。


サブルの山々は、竹の種類が多い。


山の3分の1は、竹林だ。直径数メートルの塔竹や、苔と竹の間のような、絨竹などがある。


絨竹は肌触りが良く、自然な殺菌力があるため、庭や寝具に使われることが多い。


双子達の遊んでいる川も、塔竹や絨竹の中を流れている。


川の上には、白い石で作られた石橋がかかっている。幅は20mくらい。


手すりは落ち着いた赤で塗られている。


少し涼しい風が笹を鳴らす。


風の音が、日の光をより明るく、空をより青く感じさせる。


二人は、まだはしゃいでいる。


石橋の上を、色の黒い若者と色白の少年が肩を並べて歩いてきた。


色白の少年が若者に話しかける。


「兄者。あの者達...。」


「ああ。最近居ついたようだ。」


少年は、肌が白く細身だ。


年齢は13か14歳くらい。


しかし、立派な民族衣装を着ている。


大人とみなされている。


ハイドラでは、高貴な者が纏う衣服。


黒髪と切れ長の黒目が印象的で、鼻筋が通った美しい顔をしている。


「歳はいかほどだろうか...。」


「知らぬ。」


若者は、無関心だ。


少年とは色違いの民族衣装を着ている。


やはり、高貴な者の身なりだ。


色は黒く、やや茶色のウエーブのかかった髪。


エキゾチックな目だが、やはり端正な顔をしている。


しかし、躰つきはごつく、筋肉がせり上がっている。


少年とは対照的だ。


体格は既に大人の武闘家を超えている。


しかし、顔にはあどけなさを残している。


歳は、16,7といったところだ。


「親は、いるのだろうか...。」


「モルよ。気にするな。我らは稽古のことのみ考えていれば良い。」


モルと呼ばれた色白の少年は頷き、向き直って歩き去った。


川の淵に立っている家は、白い壁に、光沢の良い青い瑠璃色の瓦。


屋根の縁は赤い光沢の良い、赤い顔料で彩られている。


この当たりは格式の高い、綺麗な建築物が多い。


ハイドラで著名な学者、芸術家、裁判官なども住んでいる。


そして、深い竹林の奥には、ハイドラの守護者ハイドゥクの神殿がある。


ハイドゥクの神殿は、幾つもの山をまたがって存在している。


佇まいは、神話に出てくる神の家のようだ。


————————————————————————


手すりの赤い橋の下に、双子達は今日もいる。


橋の上を、7、8人の大人が渡り始めた。


「くそ!。何が、全く成長してねぇだ!。くそ!。くそっ!。くそっ!。」


大人達は、見たところ、20代の若者のように見える。中には、30を越えている者も。


「あのモルガの野郎!。師匠面しやがって!。」


「なぜ俺が受けれねえ試験をあのモヤシ野郎が!?。」


「ネグレド兄ィ!。ケイヒル兄ィ!。兄ィ達が一番強えぜ!。」


「...当たり前だろうが!。ヒックル!。テメェぶっ殺されてぇのか!。」


「モルガの野郎!今年が最後だと思えだと!?。容赦なく殴りやがって!。」


「いつかぶち殺してやるぜ。」


「あー、むかつくぜ。」


「おい、あれ見ろ。乞食だ?。笑」


「ちょうど良いところにとっておきのが。笑」


「おい、何か焼いて食ってるぜ!?。」


男たちは、橋を降りて行く。


「おい、ネグレド!。放っておいてやれ!。」


「うるせえ!関係ねぇ。」


双子達は、橋から降りてきた大人達を見て固まった。柄の悪そうな大人達だ。


「見ろ。まだ、ガキじゃねぇか。俺は行くぜ。」


「俺もだ。」


男二人は、橋を登って行った。


「乞食にガキもクソもねぇ!。カエルよりゃいたぶりがいがあるってもんよ。」


「おい!。この野郎!。てめぇら!。」


ネグレドは、わざと怯えさせるように大声で怒鳴った。


サンザは双子の兄の後ろに隠れ、兄の方はビクッとして立ち尽くしていた。


手には串に刺した何かを持っていた。


「テメェ!。これ何持ってんだ!。」


...バシーーン...


ネグレドは、兄の方の顔を思いっきりひっぱたいた。


幼い二人は、吹っ飛んだ。


身体が少し大きくても、所詮子供だ。


「立てぇ!。コラァ!。」


サンザは泣き出した。


「テメェこら!。泣いてんじゃねぇぞ!。ブッ殺すぞ!。」


ケイヒルと呼ばれていた方が、今度はサンザに詰め寄った。


「こら、泣いてんじゃねぇ!。泣いてんじゃねぇ!」


ケイヒルは、サンザの髪を声に合わせて力任せに引いた。


...バシャーン...


サンザは川に倒れた。


「お!。おい!。サンザッ!。」


兄は弟を庇おうとした。


...ゴッ...


ネグレドは、兄の頭を思いっきり殴った。


兄は頭を抱えのたうち回った。


「な、なぜ、こ、こんなことを、するのじゃ...。」


兄の方は、痛みに苦しみながら絞り出すように言った。


「何だ?。その口の利き方かたは?。」


「てめぇら、カエル食ってるのか?。何でカエル食ってんだ!?。笑。気持ちワリィ。カエルなんざ食うとは、獣以下だな。このグズどもが!。」


「何でカエル食ってんだって聞いてんだよ!。」


後ろから出てきた男は、兄の方の腹を蹴った。


...ゲーーー...


兄の方は吐いた。


「おいおい!。ベベル。いきなり殺す気か?。笑」


「うわー!。わー!。」


サンザが泣き出した。


「てめぇ、さっき兄ィに泣くなって言われたろ!。」


ヒックルと呼ばれていた男が、川の岩を取りサンザに頭に思いっきり投げつけた。


...ゴブッ...


鈍い音がして、サンザは倒れて動かなくなった。


サンザの血は川を赤く染めた。


「な、何をするんじゃああ!。」


兄は、弟の元に水しぶきを上げ駆け寄った。


「サンザー!。サンザー!。」


「おい、ちっとは加減しろよ。ここで殺したら騒ぎになるだろうが!。」


「すいやせん。笑」


「ま、いいけどよ。こんな奴ら殺しても。死んだら鳥かネズミにでも食わせりゃいいだけだろ。」


「兄ィもひでぇな。笑」


「おい、行くぞ。笑」


大人達は、笑いながら去って行った。


「さ、サンザ。サンザ。大丈夫か?サンザ。」


サンザは頭から血を流していたが、無事だった。


頭には大きなたんこぶが出来ている。


兄の方は泣き出した。


今度は、サンザが兄に抱きついた。


「どうしたのだ?。」


人が。


後ろに。


いつの間にか...。


兄の方は、慌ててサンザを庇い、転げるように後ずさりをした。


色の白い美しい少年が立っていた。


少年は優しく微笑んだ。


「腹が空いているであろう?これを食べろ。」


懐から竹の皮に包んだ握り飯を差し出した。


二人は顔を見合わせた。


少年は二人の顔を見ると血相をかえた。


「お前達、その顔はどうした?!。可哀想に!。何があった!。」


少年は、聞いた。


サンザが泣き出した。


「誰にやられたのだ?!。」


少年は、悲しそうな顔をして、二人を触ろうとした。


しかし、二人は慌てて後ずさりした。


「私を恐れなくて良い!。こちらへ!。」


少年が呼びかけるが二人は来ない。


少しずつ、後ずさりをした。


「分かった。もうそちらには行かぬから。」


子供達は、また後ろに。


「おい。待っておれ!。今、薬を持って来る!。」


川原に、握り飯そっと置くと、少年は、川を走って渡り、階段を駆け上がっていった。


---------------------------------


少年が戻ってみると、握り飯はそのまま残されていた。辺りを見回したが、気配がない。


少年は、握り飯の近くに、塗り薬と頭を冷やすゴムの枕を置いて辺りを探した。


何時間探しても、どこを探しても、双子は見つからなかった。


-----------------------------------


少年は、橋の下を見ながら歩く。


いつものように。


「まだ気にしておるのか?。」


「この前は顔が青く腫れて、酷い様子でした。」


「何があった?。」


「すぐに逃げてしまったので。」


「獣か?。」


「人です。恐らく...。」


「なぜそう思う?。」


「可哀想に。顔や、腕が腫れ青あざが...。わざわざそこだけ傷つけて去る獣はいません。」


「そのような不届きものがいるとは。」


「兄者。あの者達を連れて帰ってやりたいのです。安全な場所へ。」


「モルフィン。首長会と父様が争っているのを知っているか?。」


「分かっております。」


「首長会は、ハイドラに数十万いるという孤児の存在を認めようとはしない。そして、生き残ったアンティカを生存させることが許せないのだ。」


「なぜ、認めようとすらしないのですか...。なぜ、殺し合いが良いと言うのでしょうか...。」


「モルフィン。首長達は自分達や、自分達のしてきたことの落ち度を認めたくないのだ。変えたければ、自分が首長達を超える力を持つしかない。今は耐えよ。」


「そんなことをしていたら、あの子供達は殺されてしまう。兄様はそれでも平気か!?。」


「おまえは、目先の2人の命のために数十万の命を犠牲にするつもりか?。我らが力を得たその時、首長達の権力を凌駕した時、奴らを根絶やしにすれば良こと。今は耐えよ。」


「いつになれば凌駕できるのです?。兄様は既にアンティカではありませんか。分からぬ先のことより、私は今目に見えるあの子達を救います。」


「愚かな。浅はかな考えだ。首長会は、残ったアンティカの生存や、孤児を認め救おうとする父様が許せぬ。だから、汞菴陵の使用も租調課も止めようとしている。武力のみでは人は救えぬ。部族長に発言がある今はまだ良い。首長達は既に法を変え、族長の発言力を奪うことすら出来るのだ。」


「そんな...父様のおっしゃることは、いずれも正しきことではないですか。何の為の首長達なのか。なぜ父様も兄様も、指を咥えて見ているのです。戦わぬのですか。父様のお力で服従させれば良いのです。首長達が愚かで改めぬなら、力で従わせれば良いではないですか。」


「モルよ。首長会とその支持者も我らと同じくヒドウィーン。貴様は父様に、不動明王に、ハイドラの民を殺せと言っているのか?。」


「いや、それは...。」


「もし、不埒な者を見つけても、拳を振るってはならない。そして、もうあの乞食と関わってはならない。足元のみを見て短絡的に行動するのではなく、先を見よ。勝手な行動は許されぬ。この兄に必ず知らせよ。」


「私は兄様の命令に従うつもりはありません。」


「何だと?。愚かな。分からぬのなら貴様の正義も、外道の蛮行と変わりは無い。」


二人は険悪なまま神殿に入った。


----------------------------------


あの子らを見かけなくなってもう3ヶ月。


どこに行ってしまったのか。


あの時、無理にでも連れ帰れば良かった。


この握り飯を腹一杯毎日食わせてやりたい。


この薬を塗ってやりたい。


良く頑張ったと褒めて抱きしめたやりたい。


私を産んでくれた母ネスファルは、父様にとっては18番目の妻。


母ネスファルには、私以外に、父親違いの弟、そして妹がいる。


可愛い弟達が。


そして、私も母様も忘れた日はない。


行方不明になってしまった別の母の子達。


弟達...。


あの子達かもしれない。


父様も兄様も長らく必死に探しておられる。


毎日探しているけど、橋の下にも周りにも気配すらない。


どこに行った。おまえたち。


ハイドラの人達は、首長会の発言通り、孤児はいないと思っている。


だから、近年ハイドラでは孤児をこっそり自分の子として育てる話が良くある。


「どこに行ってしまったのだ...。」


ハイドラの風習である、多夫多妻を非難する他国に対する建前としても、そう簡単には認められないのだ。


あの子達は、その犠牲者。


ハイドラの孤児たちが国外の人に連れ去られることが多い。


知っていて目を背けるなど、卑怯者のやることだ。


今日もいなかった。


!?


なぜ涙が...。


稽古があるからもう帰らなくては。


ごめんね。


見つけてやれなくて。


また、明日...。


---------------------------------


「モルフィン。リリウツの洞で子供を見かけた者がいます。おまえの言っていた子供達ではないかしら。ほら。持って行きなさい。笑。母はあなたの行い。誇らしく思います。いざとなれば私が父様にはお叱りを受けます。心配しないで行っていらっしゃい。でも、出来るだけ隠密に。」


モルフィンは、母ネスファルの言葉を思い出しながら、竹藪に入っていった。リリウツの洞は広い。


散々探した。もう三時間になる。今日も見つからない。


モルフィンは、緑の絨竹の上にしゃがみ考えこんだ。日差しは暮れ始めている。今日もこの握り飯、自分で食うのか...。


足元から、風の音がする。風?。


足元に穴が。


モルフィンは下を見た。


誰かと目が合う。


穴の中の目は走って逃げた。


!?


いた!。


モルフィンは、何回も通った入り口と洞の前を行き来した。


どこだ?。


今度は慎重に...耳を澄ました。


微かに人が動く音が...。


息遣いも。


どこにいる?。


あっ、あそこだ。


下からは見えないが、少し上に岩が逆さまになっている場所がある。


モルフィンは、下まで行き、登ろうとした。


...ガギッ...


足をかけようとした、岩が壊れた。


「な、なぜ邪魔しようとするのじゃ!。」


上を見上げると、双子の兄が、顔を真っ赤にして見下ろしている。


怒って息が上がっている。


顔のあざも腫れも大分おさまっていた。


今は輩から逃げられているようだ。


「ここにいたのか?。」


「わしらは、誰にも迷惑をかけていない。ただ静かに暮らしたいだけじゃ!。何で放っておいてくれぬ!。」


顔を真っ赤にして怒っている。


「待ってくれ、私は、私はお前達を助けたいんだ。ほら、握り飯だ。薬も。」


モルフィンは、握り飯の入った笹の包みを掲げた。


「もう、放っておいてくれ!。」


「うぅ。あーぁ。あわ。」


弟の方が顔を出した。


「サンザ!。だ、ダメじゃ、サンザ!。今度こそ殺される!。」


...バッ...


サンザは兄を押し降りて来た。


身のこなしが軽い...。


「うーー。う、あーーー。」


「ダメじゃ!。サンザ!。ダメじゃあ!。」


兄の叫びは悲痛だ。


サンザは近寄って来た。


モルフィンは、慌てて笹の皮包みを解き、一つの握り飯をあたえた。


「ダメじゃ、毒が入っているかもしれん!。」


兄の方は慌てて転げるように、穴から降りて来た。


「バカを言いなさい!。何の得になると言うのだ!。」


モルフィンは叫んだ。


...ドブン...


降りてきた兄の方は、びっくりして、足を滑らせ、洞窟の水に落ちた。


ヒドゥイーンなので泳ぎは魚のように達者だ。すぐに陸に上がって、サンザの元に来た。


シャガール族のモルフィンのようにカナヅチではない。


「毒など入っていない。私が作った。」


モルフィンは、一つをサンザに与え、もう一つを自分でかじった。


「あなたが...。そういえば...。あなたは、あの時の...あの...。」


兄の方は、力が抜けたようにへたり込んだ。


「やっと思い出したか。笑。美味しいぞ。ほら、おまえも食べろ。」


モルフィンは、握り飯を一つを、双子の兄にも差し出した。


「あー、あー、あ、あ。」


サンザは、その手を引っ張り握り飯を取ってしまった。


「サンザ!。ダメじゃ!。その様な、その様な無礼なことをしては!。」


兄の方は慌てて走り寄った。


モルフィンは、サンザの頭を撫でてやり、握り飯を渡してやった。


「気にするな。ほらおまえも食え。」


モルフィンは言った。


「...。」


兄の方は中々近づいて来ない。


「サンザか?。お前は。」


モルフィンは言った。


サンザは、飯を頬張り食べるのに夢中だ。


「サンザ!こら。いやしいではないか。」


「良いではないか。腹が空いているのだ。私はモルフィン。おまえは?。」


「わ、ワシは、ワシは...と、と、トラフィンと申します。」


「ほら、いつまで持たせる気だ?。トラフィン。お前の握り飯だ。私が作ったので形はいびつだが。毒は入っていない。笑」


「ワシ達の..ワシ達...ワシ達の為に...ワシ達の...ワシ達の...ため...ワシ..。」


トラフィンは、真っ赤になって泣き出した。


必死に堪えていたが、決壊した防波堤のように、涙が流れた。


「気にするな。泣いても良い。ここには3人しかいない。」


モルフィンは、足が水に浸かったままの、トラフィンに近付き頭を撫でてやった。


まだトラフィンは、我慢をしている。


モルフィンは、しゃがみ、トラフィンと同じ目線になり、握り飯を差し出した。


トラフィンはしゃくりあげながら、貪るように握り飯を食べた。


「おい。サンザ。おまえもこっちへおいで。」


モルフィンは二人を抱きしめてやった。


2人はモルフィンを自分たちの住処に案内した。


モルフィンは洞穴を降りる。


..ガシャァーーーーーー...


...ザラザラザラ...


石が落ちる。


「うむ。思ったより狭く危険だな。」


双子は、身軽に降りる。


モルフィンは体重が重い。


恐らく普通の倍はある。


しかし、身のこなしは軽い。


並ぶ者がいないほど。


にも関わらずこの子達は...。


横穴に辿り着いた。


外から風が通る。


「寒いな。こんなに寒いのにどうやってしのいでいる?。」


「これを敷いております。」


トラフィンは、いつも寝ている枯れ草の塊を見せた。


焚き火の後のようだ。


「ちょっと待っておれ。」


モルフィンはそう言うと、洞窟を出た。


しばらくすると、モルフィンが戻ってきた。


絨竹を持って。


二人は、洞の入り口で待っていた。


「出ておいで。」


「モルフィン様...。」


トラフィンは絨竹を見て困ったような顔をした。


「まぁ、見ておれ。」


モルフィンは、芝竹を岩の上に置き上から叩き、火で炙った後、水に浸けた。


水面に芝竹の固いザラザラした殻が流れる。


「こうするとな、絨竹の固い殻が取れるのじゃ。殻の取れた絨竹は柔らかくで気持ち良いぞ。それに、菌も虫も寄せ付けない。サンザに良いだろう?。笑」


モルフィンは、手際良く芝竹を岩で叩き、水に浸していく。


「おまえ達、これを叩いてくれ。くれぐれも火に炙る前に触れぬようにな。かぶれるぞ。笑」


モルフィンは再び洞窟を出て行った。


「このようにして芝竹を使うのか...。」


二人は黙々と芝竹を叩いた。


小一時間して、モルフィンは、魚を6匹抱えて持って来た。


アーロンという魚。トラフィンが何度捕まえようとしても捕らえられ無かったすばしこい魚。


モルフィンは薪木を持って来た。


そして、触ると積んだ薪木が火を吹いた。


「モルフィン様は、いったい?。」


「これか?。トラフィン。おまえ達にも教えてやる。笑」


モルフィンは優しく微笑んだ。


モルフィンは、手際よくアーロンの内蔵を流し、石で鱗を取り、洗った枝で刺した。


トラフィンもサンザもあまりの手際の良さに目を丸くしている。


「これは修行の成果だ。笑。芝竹もな。俺は、こう見えても偉いのだぞ。笑」


モルフィンは、もう一方で芝竹を炙り始めた。


「こうすると、残りの渋皮も焼け、毒も飛ぶ。毒が肌を守る薬に変わる。」


魚が焼ける良い匂いがする。


モルフィンは、ふかふかになった芝竹を敷き、二人を座らせた。


「うわぁぁ...何という柔らかさじゃ。心地良いのぅ。笑。このように、気持ち良いのは生まれて初めてじゃ。」


トラフィンとサンザも大喜びだ。


「火を使うときは、洞穴の中はダメだ。ここでやりなさい。風は通るが、悪くすると煙で死んでしまう。良いな?。」


「はい。」


モルフィンは、焼けたアーロンを二人に渡した。


腹を空かせた二人はすぐに1匹たいらげた。


アーロンは大きな川魚だが味は良い。


オレンジ色の肉は味がはっきりしていて、脂ものっている。


穴だらけの高い洞窟。


焚き火の周りで、三人は過ごした。


トラフィンもサンザも安心し切って眠りに落ちた。


モルフィンは、柔らかく香りの良い乾かした芝竹を二人にかけてやった。

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