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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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ララ11

「サビオとララが心配じゃ。これから、ワシは2人を探しに樹海に入ろうと思う。」


「し、しかし、いくら征天大剛様と言えど...。」


官吏の男は困っている。


「かつては私もアンティカだった者。封印を解き、力を解き放つとしよう。」


「あなた。待って!。待って下さい。オルフェとハイドゥクを競った時の傷であなたはもう...。」


カルラが言う。


「最期になるかもしれん。しかし、サビオには変えられぬ。ララの命には変えられぬ。必ずこの命と引き換えに必ず2人を連れ帰る。」


「あなた...。」


「大剛様。まだクロカゲがいるかもしれません。もし滅ぼしたとしても、また湧いて出るかも知れません。樹海への入り口は、もはや軍に塞がれています。」


「だとしても、あの子達を放っておくわけには行くまい。この命無駄になっても構わぬ。」


「兵曹で樹海に入られるなら、セメティームハイドラはまた第一級警戒態勢になります。サイレンも警報が鳴り響きます。通信も何もかも通じなくなります。市民が持ちません。パニックをもう防げません。軍も来ているのです。」


「それでは、兵曹にならず入るとしよう。それなら構わんな?。」


「ダメです!。それこそわざわざ死にに行くようなものです!。樹海にはギガスクイードも、ヒドゥイーンタイガーも、バングリズリーもいるんですよ!。いくら大剛様でも、素で猛獣の群れには敵うますまい!。ダメです。絶対にダメです。」


「ふん。そこまで指図は受けぬわ。」


「ねぇ。さっきの話ではトラフィンがクロカゲを倒し、元の姿に戻ったんでしょう?。ハルが見つけたかもしれないって言ってたじゃない...。トラフィンの性格からするとララもサビオも無事だと確信しない限り、怒りは治らないんじゃないかしら...。しばらく待ってみましょうよ。ララちゃんがサビオちゃんの場所を知ってると言ったんでしょ?。」


「そのララにも何かがあったらどうするのじ...!?。キヨタ!。お、おまえいつの間に!。」


「何よ!。さっきからいるわよ!。後ろのトリュックで来たわよ!。ずっと話しかけてるのに、爺さん全く気づかないじゃないの!。鈍感な!。」


「何が爺さんじゃ!。こんな時に!。このクネクネ医者が!。」


「バカね!。喧嘩してる場合じゃないのよ。多分トラちゃんは2人を見つけてる。私も上で見てたわ。それより、サビオちゃんが戻ってきた時、処置をしなくてはならないかも。」


「じゃからララが。」


「ララちゃんは大丈夫よ。絶対に。ケガをしていたとしても、死ぬことは絶対に無いから。」


「何でそんなことが断言できるのじゃ!。」


キヨタはしまった、という顔をした。


「そんなの医者の勘に決まってるじゃない!。経験に基づく勘よ!。それに、爺さんの出る幕じゃないのよ。どう考えても、あなたのその傷。今回兵曹になれば、それだけで確実に死ぬわよ。即死よ。」


「何じゃと?。」


「キヨタさん、あなたは一体...。」


「大丈夫よ。3人とも。必ず帰って来る。待ちましょうよ。トラフィンを。」


——————————————————-


...ゴゴーーーーーーゴゴゴゴーーーーーー...


トラフィンは、ハルの咆哮の方へ走って行く。


まだ兵曹の名残を残したままだ。


体長こそ人間大だが皮膚は金属のまま。


目も青い光を発している。


途中に、あのおぞましいクロカゲが焼けただれて倒れている。


身体をズタズタに切り裂かれて。


トラフィンが戦っていたのとは真逆のこの場所にもかかわらず...。


クロカゲは、かつて無敵で人類を滅亡に追いやると言われたほど強力な怪物。


未だに、並みの兵曹では敵わない。


クロカゲは無数に倒れている。


...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーー...


ハルは主人が近づいたことに気づいた。


トラフィンは森の開けた場所にたどり着いた。


ここにも巨大なクロカゲが絶命している。


クロカゲは口を引き裂かれ、無残な姿で息絶えている。


ハルだ。


ハルが何かを庇っている。


「ハル!。ハルよ!。サビオは!。サビオは無事か!。」


ハルは主人を見つけると、隠しているものを見せた。


ララだ!。


サビオを抱きかかえたララだ。


「ララ!。ララではないか!。なぜここに?。ララ!。」


ララは腕にサビオを抱いている。


カルラから貰った衣装が血だらけだ。


腕も足元傷だらけだ。


トラフィンは、ララに向かい走った。


ハルは再び二人を庇い低く唸った。


...ゴゴーーーーーー...


少しトラフィンを警戒しているようだ。


「ララよ!。凄いケガではないか!。ララ!。サビオは?。おい!。サビオ!。」


「サビオは大丈夫...。ケガもしていない。私も。」


ララは言った。


少しハスキーな声。


透き通るように高い声だ。


ララはそっと抱いているサビオをトラフィンに渡した。


トラフィンは、赤ん坊を抱くようにサビオを受け取った。


「サビオ。ワシじゃ。迎えに来たぞ。サビオよ。」


サビオはケガをしていない。


トラフィンは、サビオの鼻に耳を当てた。


胸に耳をつけた。


息をしてる。


心臓も動いている。


...フゥーーーーーーーーーーーー...


トラフィンは、サビオをもう一度しっかりと抱きしめると空を見上げた。


「あぁ...。神よ。感謝します...。ワシの大切な宝物を...護って下さった。」


ララは俯いている。


サビオは目を開かない。


「大丈夫。サビオは安心して寝ているわ。」


...グゥウウゥゥゥゥ....


ハルは、どこかから、赤い大きな布を咥え持って来て、トラフィンに渡した。


ララは両手を差し出して、サビオを抱いた。


トラフィンは布を纏った。


「ララよ。酷い傷ではないか。血が出ている。手当をせねばならない。今直ぐに。」


「もう分かってしまったでしょう...。私は平気。こんな傷くらい...。」


...ググググゥゥゥゥゥ...


ハルが低く唸る。


「とはいえ、手当をしよう。気にしなくて良い。そのような事は。何と礼を言ったら良いか。ありがとう。ありがとう。ララ。」


トラフィンはララごと2人を抱きしめようとした。


ララは避けて首を横に振った。


そして、トラフィンにもう一度サビオを渡した。


ララのか細い身体は、サビオを軽々と抱いている。


「可哀想に...。ワシが子供だけで行かせたために、このようなことに...。」


トラフィンは、サビオの頭に頬をつけボロボロと涙を落とし始めた。


...プゥーー...


サビオが深く息を吐いて、トラフィンの腕の中で寝返りを打う。


「サビオ。良かった...。良かった。サビオ...。」


「凄く疲れているみたい。安心して寝てる。大丈夫。」


ララは言った。


...グゥウ...


ハルはトラフィンの腰を押す。


「ん、何じゃハル。」


ハルは、トラフィンを出口の方に押した。


「ここは、この場所は、サビオには危ないわ。もう暗いし。寒い。」


「そうじゃな。ララ...羽織らせてやるものもない。すまぬ。行こう。道案内を頼むぞハル。」


...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー...


ハルは吼えた。


星が空を埋め尽くしている。


-------------------------------------


5人は官吏の男の陸用車に乗って外環道の入口から出口に移動している。


セメティームハイドラの舗装された道路を、ハイビームが照らしている。


道の左には、壁面がそびえている。


樹木や草の茂った山塔の大きな壁面が。


第二太陽が沈んだ後のこの季節は、光量が落ち、気温も一気に下がる。


昼には、穏やかで、人々を癒していた荘厳な緑の壁は、今はのしかかるような冷たさと圧迫感を与えている。


「酷い話ですなぁ。これは、そのムバという乗り合い員を捉えてきっちりと裁かないと。厳罰を与えないと。何が規則か!。コヌタの社長もしょっ引くか...。」


「あぁ、チコですか。彼は、中々の好人物ですから、お手柔らかに頼みますよ。」


「父様、いつもチコさんに怒ってばかりいるのに...。」


ネフィは、運転席と助手席の間から首を出して言う。


「しーっ...ダメ。 ネフィちゃん。」


キヨタが言う。


「しかし、監督不行き届きも極まりないではないですか。」


「確かに...。しかし、最近は、ロコウやタンジアの人口が増え過ぎて、チコもキリキリ舞いをしておるようでな。」


「ほう...キリキリ舞いと...。しかし、だからと言って、それで済まされる訳ではありません。まずしっかりと聞き取り調査を行い、裁判で明らかにせねば。そのムバと言う女、今警察が探しております。シャトルの記録にも無く、見つからぬのです...。お子様達、心配ですね。」


「キリキリ舞いってなにーー?。」


メルテは、ボックス型の陸用車の後部座席で、カルラの膝の上にいる。


「大忙しよりも、大忙しのことですよ。」


「確かに、キヨタの言う通りトラフィンの怒りが収まったことを考えると、みな無事なのかもしれません。」


「恐らく。楽観はできないけれど。」


「首長会からは、何かと指摘はあるでしょうが、お子様達が無事なら、セメティームハイドラにも、人身の事故はないようですから。ただ、族長や大酋長が治めていた時分とは随分変わりましたからな...。」


「しかし、どれ位の賠償額になるのか...。身体が震えますわぃ。何度も族長達に泣きつく訳にも参らず...。」


「あなた。官吏の方も、お困りになりますよ。手続きをされるのは官吏の方なのですから...。」


「ところで、官吏の方名前をお教えいただけませぬか?。」


「あっ!。これはこれは失礼致しました大剛様。私は、ルビキョウと言います。」


「ルビキョウ?。ルビキョウって言うの?。」


メルテは大きな声を出した。


ネフィは、メルテを睨み、カルラは唇に指をおいた。


メルテは、両手で自分の口を押さえた。


「母様...サビオ兄様と、ララ姐は、どうなるの?。」


ネフィは言った。


「大丈夫ですよ。きっと。トラがサビオもララも連れて帰って来てくれますよ。寒いからどこかお店にでも入って待っていましょう。」


「私どもの監視棟でお待ちください。お子様達の荷物も置いておりますし、状況も状況ですので...。」


「すまぬな。ルビキョウ殿。」


「うふふふ。」


「メルテ。」


「こら。」


「大丈夫ですよ。監視棟はセクトルジーナンへの入口も見渡せますので...。もうすぐです。」


「見えてきた。」


ネフィは言った。


ゲートの10mの支柱が薄暗い夜空に浮き出して見える。


ゲートの中には道が走っていて、右へ行くと上への外環道と下からの外環道があり、左は樹海になっている。樹海の前には重厚な門があるが、茂った樹木が門を越え陸までせり出しているため、樹海に入るのは容易い。


陸用車は、ゲート脇の官吏用の駐車場に向かい、バックし始めた。


「そこ停めたらダメなんだよー。」


「これ!。いいのよ。このお車はお役人さんの車なんだから。」


「そうなの?。」


メルテは納得した。


...ピーー...ピーーー...ピーーーーー...ピーーーーーーー...


陸用車は、駐車場に停止する。


「さあ、こちらへ...。」


白い門柱の横の、重そうな格子状の扉を開け、階段を降りた。


ルビキョウに続き、スサを先頭に、ネフィ、メルテを抱いたカルラの順に階段を降りる。


銀色の金属でできている格子状の扉は、閉まると自動で鍵がかかった。


監視棟までの橋は、人がすれ違うことができる広さで、白いコンクリート状の路面だ。


柵があるので転落の心配は無い。


吊り橋のようなその道の下は見えないほど深い。


「怖かったわ。ネフィ、大丈夫だった?。」


「全然平気!。」


「僕も!。」


「へぇ。母様は、目が回るかと思いましたよ。」


「凄いね。未来の建物みたい。」


「シャトル?。これ?シャトルの駅?。」


「これは、ルビキョウさんのお家とお仕事場です。」


「どっちなの?。」


「どっちもですよ。笑」


「どっちも...。」


「さ、どうぞ。」


エレベーターの透明なドアが空き、全員乗った。


「3階から丁度ゲートが見えます。」


エレベーターは3階で止まった。


「わぁ。広い。」


全体的にガラス張りで、床や壁は打ちっ放しのコンクリートだ。


中央の大きな楕円形のテーブルには通信機と電子地図や書類が無造作に置かれている。


「今日は、第3か?。」


ルビキョウは言った。


オレンジ色の服に紺の帯を締めたルビキョウより若い男は頷くと、スサ達を見た。


「こちらは、キドーの方達。こちらはオルセー。私と一緒に働いています。」


「お邪魔しております。」


「いえいえ。こんにちは。ちょっと行ってくる。」


「おぅ。気をつけて。パンタは?。」


「下にいる。鍵。」


「2号車を使ってくれ。こっちはまだかかるかもしれない。」


「分かった。ご心配ですね?。それでは出かけて来ます。」


オルセーは、スサ達に挨拶をすると階段を降りて行った。


「イケメンー。」


「こら。ネフィ。」


「お茶を入れますので、お座りになってください。そちらのソファの方に。」


自動販売機の横に並んだロッカーの前にはソファがある。


「おぉ。それでは失礼しますぞ。」


スサとカルラは腰掛けた。見かけによらずクッションが柔らかいので、2人はソファの上でずっこけた。


「あぁ、すみません!。それ柔らか過ぎるでしょう。硬そうなのに。」


ネフィとメルテは、エレベーター前の、ゲートが見渡せる透明な壁に、ぴったりとひっついてゲートを見ている。


「ララちゃんも兄様達も無事だといいな。」


「大丈夫よ。きっと。トラ兄様がついてるんだもん。」


「僕見たよ。」


「クロカゲ?。」


メルテは頷いた。


「私も見た。真っ黒で、顔には口しかなかった。人みたいなのに手と脚、6本もあった。トラ兄様より大きかった。」


「一杯いた。一杯。一杯。」


「トラ兄様、本当にハイドゥクになるのかもしれない。」


「あれ?。ハル!。」


「あっ!。ハルだっ!。」


「ハルだっ!。」


...バンバンバンバン...


...バンバンバンバンバン...


「ハルーー!。ハルーー!。」


「メルテ!。ガラス叩かないのっ!。」


「ハルが戻って来たのかい?。」


ゲートの上に白いヒドゥイーンタイガーが立っている。


ゲートは山塔に接して作られている。


白い塗装の施された金属のゲート。


全幅は20m前後。高さは10m前後だ。


人間の足くらいの太さの鉄格子。


重厚な造りだ。


塗装は錆び、ゲートの上から木の根が跨いでこちら側に伸びている。


全ての格子の間からも太い木の根がせり出しているゲートを固定してしまっている。


蔦や他の木の根、花が絡まり、雑多な緑色で覆われ、ゲートの金属は埋もれている。


開閉はアフロダイエンジンで行うが、根のせいで動かすことが出来ない。


時々、この根を伝って、樹海の獣がセメティームハイドラに入り込む。


「あ。」


「ゲートが木の根で固まってしまって動きません。救助の人を呼びましょう。」


「トラフィンが何とかする。大丈夫じゃ。」


「見て、女の人が...。ララ姐!?。」


「あっ!。ララちゃんだ!。ララちゃん!。」


...バンバンバンバンバン...


「メルテ!。バカ!。ガラス叩かないのっ!。」


「何じゃと、ララが...。」


「ララ?。どこに?。母様にも教えて!。いた。ララ!。」


「おぉ、ララ。」


ララは、ゲートの上にのしかかっている木の根の上に立っている。


背後にトラフィンの身体も見える。


ハルが最初に樹木の根を伝いゲートの外に出た。


そして、ララはその10mの高さから飛び降りる。


「キャーー!。」


「ララ!。」


しかし、ララは、豹のように軽い身のこなしで着地した。


トラフィンもサビオを抱えたまま飛び降りる。


その3メートルを越える身体は、猫のように軽やかだ。


「サビオじゃ!。」


「サビオ!。」


「兄様!。」


「い、行きましょう!。」


ルビキョウは階段を指差す。


...ガチャ...ガチャ...ガチャ...カチャン...


ルビキョウは、もどかしそうに鍵を回す。


先にメルテが飛び出す。


「メルテ!。メルテ!。ネフィお願い!。」


カルラが息を切らせながら言う。


スサはカルラを支えながらゲートに向かう。


ゲートの前にはハル。


裸足のララ。


そして、サビオを抱いたトラフィンが立っている。


「トラフィン。サビオは...。サビオは無事か?。」


...


「親父殿。サビオは無事じゃ。が、時折うなされておる。クロカゲに精気を吸い取られておる。」


「おぉぉ...。」


スサは天を仰いだ。


カルラは両手を顔で覆い泣き始めた。


ルビキョウは尻もちをついた。


「よ、良かった。」


「ララちゃんーー!。」


「ララ姐!。」


ネフィとメルテは、ララに向かって走る。


2人は、ララの様子が少し違い、怪我もしていることに気づいた。


今のララには、人を寄せつけない何かがある。


ネフィもメルテもいつものようにララに抱きつくことはできない。


「ララちゃん...。」


ララは、いつものようにメルテを抱きしめてはやらない。


メルテは今にも泣きそうだ。


「ララ姐様...。何かあったの?。ネフィに教えて。役にたたないかもだけど。私、いつだってララ姐の味方だよ。」


ネフィの瞳からは涙がこぼれている。


ララはいつものララではない。


カルラがララに歩み寄る。


「ララ!。お家に帰りましょう。」


しかし、ララの目は鋭くカルラを寄せつけ無い。


まるで、手負いの獣のように。


ララは、茫然と皆の方を見る。


「どうしたのじゃ。皆と共に帰ろう。」


「ごめんなさい。私...もうみんなとはいられない。」


「ララちゃんが喋った...。」


「ララ姐様が。」


「ララちゃん。綺麗な声...。天使みたい...。」


「ララ姐...。行かないで...。ララ姐...。ララ姐...様。」


サビオは苦しそうだ。


魘されている。


「目を覚まさない。目だけは覚まさない。どうしても。クロカゲの側にいたのじゃ。妖気に当てられている。サビオは精気を吸い取られた。」


トラフィンが言う。


「サビオちゃんを見せて。クロカゲもまた神に作られた化け物。人と違う組成の。どんなカラクリが隠されているか分からない。魔器のようにね。クロカゲの妖気はある種の毒。素粒子の振動レベルのウィルス。プログラムと言った方が良いかもしれない。人々はそれを呪いや魔力と言う。今の医療では検知することすらできないの。」


「今の医療では検知できないと...。どう言うことなのか?。それではサビオは?。」


「大丈夫よ。私にはできる。バール•クゥワンを救うことは出来なかったけど。」


「そうじゃった。ワシがあんたと知り合ったのはバールクゥワンとマタブマの闘いじゃった...。」


「ララ姐...。行かないで...。ララ姐...。」


トラフィンはしゃがみララにサビオを見せた。


ララは堪らずサビオを覗いた。


思わずサビオの頭を撫でている。


ララは泣いている。


ララの拭いきれない涙がサビオを濡らす。


ララ唇を噛み締めそれでも微笑んだ。


「ララちゃん!。僕は、ララちゃんが誰だってララちゃんのことが大好きだよ!。」


メルテは真っ赤になって叫んだ。


...ふーっ...


...ふーっ...


...ふーっ...


...ふーっ...


メルテは、必死に泣くのを我慢している。


それでも、涙はボロボロと溢れてくる。


メルテは自分の頭をげんこつした。


「ララちゃん!。ラーラーちゃん!。」


メルテは絶叫してる。


ララは、とても寂しそうに、メルテを見た。


「ララ姐様!。」


ネフィは、叫んだ。


「サビオが起きてしまう。サビオが起きてしまう前に...。」


そう言うと、ララはうつむき、ゆっくりと外環道の方へ歩き始めた。


とても寂しそうだ。


「ララちゃん!。」


「ララ!。」


「ララ姐様!。」


「ララ!。」


ララは一度だけ振り返った。

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