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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
61/364

ララ10


「トラーー!。トラーーー!。火を放ってはいかん!。トラーーー!。落ち着けーーー!。」


スサは、崖を下りながら、声の限りに叫ぶ。


...ボォオオーーーーーーオオゴゴゴゴゴゴーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーーーー...


...ボォオオオオオオオオオオオオーーーーーーーーーーーーゴゴゴゴゴゴーーーーーーーゴゴゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー....


....ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーボォオオオオオオオオオオオオーーーーーーゴゴーゴゴーーーゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーー...


トラフィンの怒りは収まらない。


イプシロンの回転はますます早まり、輝きはより一層増して行く。


いわゆる雷爆を放とうとしている。


このままでは、セメタムジーナンばかりではなく、セクトルジーナンも消滅してしまう。


「トラ...。優しいトラや...。一体あなたは何にそんなに怒っているの...。」


カルラは大粒の涙を落とした。


...ゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


ヒドゥイーンタイガーの咆哮が微かに轟く。


トラフィンの咆哮に呼応するように。


イプシロンが、燦然と光を放ったまま上空で静止した。


辺りは昼間のような明るさだ。


...ゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゴゴーーーーーーーー...


...ゴゴゴゴーーーーーーーーーーーーーーーーーー...


...ゴゴゴゴーーーーーーゴゴーーーーーー...


今度ははっきりとヒドゥイーンタイガーの咆哮が聞こえる。


必死に何かを訴えている。


主人に、トラフィンに、何かを必死で伝えようとしている。


ヒドゥイーンタイガーの咆哮が届いたのか...。


トラフィンは、咆哮の聞こえる方角にゆっくりと移動し始めた。


「は、ハルか!?。」


スサは崖に捕まりながら、森を見回した。


イプシロンは光をゆるめ、逆回転をし始めた。


イプシロンが収縮し始めた。


「おぉぉ...。」


トラフィンの恐ろしい咆哮は、収まり辺りは静まり帰る。


イプシロンの消滅に伴い、辺りは暗闇に戻って行く。


もう夜だ。


...パチッ...パチッ...カラーーーン...


森のあちこちで、炎と焼ける音が聞こえる。


もうボヤになった...。


辺りを支配していた、ジェットタービンのような激しい音は、おさまっていく。


危機を表していた爆音が鳴りを潜めて行く。


...ゴゴーーーーーーーゴゴゴゴーーーーーーーーーーーー...


凶暴な巨人は、ヒドゥイーンタイガーの咆哮の辺りで静止した。


...


...


...


沈黙が続く。


とても長い長い時間だ。


...ゴ...ゴ...ゴ...ゴ...


突然、トラフィンの巨体が、ゆっくりと収縮し始めた。


スサは、やっと崖の下に辿り着いた。


「良かった...。お...収まったのか?...。」


スサは大きなため息をついた。


「...あなたーー!。...」


崖の上からカルラの声がする。


「カルラーーー!。大丈夫じゃーーー!。そんなに乗り出しては危ないぞーーー!。」


スサは下から叫んだ。


...ゴーーーーーー...

...ゴーーーーーーーーーーーー...

...ゴーーーーーーーーーーー...

...ゴーーーーーー...

...ゴーーーーーーーーーーーー...

...ゴーーーーーーーーーーー...


タンジアの消防用フライヤーが大編隊で、飛来している。


危機は過ぎ、辺りは静けさを取り戻した。


-------------------------------------


警報が鳴り止み、各ジーナンの待機指示は解除された。


混乱していた通信網も復旧した。


コヌタは相変わらずセクトルには来ない。


スサとカルラは、通信機を使い、偶然セレッタジーナンに止まっていたトリュックを捕まえた。


そして、セメタムジーナンまで降りた。


外環道を歩けば、数時間はかかる。


大トカゲのトリュックは停車場に入る。


セクトルからの最後の坂を減速することなく。


大トカゲは、ミュックス(オオカマキリ)などに比べ智能が低いため、加速、減速は出来ても、人の感覚に合わせて走るということは出来ない。


動物が昆虫よりも知能が低いのは不思議なことだが。


だから、最後の坂を下る時はいつもアトラクション並みのスリルが伴う。


しかし、融通が利かないかわりに、速度は速い。


トリュックの中では最速で120kmのスピードを誇る。


傾斜のある登板外環道でもスピードは落ちない。


そして、大トカゲのトリュックは、転落などの事故も少ない。


手軽で、高速で移動できるトリュックには、シャトルや、コヌタにはない便利さがある。


楕円形の停車場に大トカゲ達は全速力で入り、土埃を上げながら減速して行く。


停車場は競馬場に似ている。


大トカゲのトリュックは、電気ムチで足に電流を流し減速をする仕組みだ。


「トゥートゥトゥーードウドウ。」


...ゴルルルガ...


...ゴルルルル...ガルルルル...


...ゴルルルガ...


...ゴルルルル...ガルルルル...


停車場には更に土埃が舞い上がる。


「ごほっごほっ...。」


カルラは咳き込む。


まるで元気がない。


トリュックの降車場は、セクトルジーナンの出口付近にある。


減速、加速のためのレーンに加えて、待機場もある。


大トカゲ、ミュックス、ダチョウに分かれ、外周の外側のケージに待機している。


ダチョウのトリュックはセメタムより上には行けない。


また、ダチョウのケージ群は、他の生き物に食われてしまうため、隔離されている。


外周にあるケージ群の前に歩道がある。


ヒゲを生やした、若い役人が、外周の歩道を伝い歩いて来た。


ネフィとメルテの手を引いて連れて来た。


男は紺の衣装に赤い帯を巻いている。ジーナンの官吏だ。


「父様!。母様!。」


メルテは大きな声で、スサとカルラを呼び走ってきた。


「おぉい、坊や!。危ない!。危ない!。いきなりは飛び出しちゃ。」


係員の男が言った。


「ネフィ!。メルテ!。」


カルラも走り2人を抱きしめた。


持ってきたものを全て置いて。


スサは金を払いながらも、こっちが気になって仕方がない。


「サビオは?。サビオはどうしたの?。ララは?。」


スサも走って来る。


「サビオは?。ララは?。どうしたのじゃ?。ネフィ!。」


メルテはカルラに強く抱きつき泣き出した。


「サビオ兄様が...サビオ兄様が...うわーーーーーーーーん!。うわーーーーーーーーーん!。」


「サビオ兄様、サビオ兄様、もう死んじゃったかも...。うわあーーーーーーーーーん!。わーーーーーーーーーーーーーーん!」


「えぇ!!。」


「なんじゃと!?。」


カルラがふらつく。


スサは目を見開いた。


ネフィは、立ったまま真上を見上げ泣き出した。


大粒の涙目が溢れる。


ネフィが泣くのは珍しい。


「し、し、死んだって、何を言ってるの!。母様に話して頂戴!。どこにいるのサビオは!。ララはどうしたの!。」


「おい。お前達!。サビオがどうしたのじゃ!?。ララは!?。」


「乗り合い員のおばちゃんがサビオ兄様だーまーしーたー。ひどーーいー。ワーーーーーーーーーーン!。」


ネフィが顔を真っ赤にして大声で泣いている。


気の強いこの娘が。


「騙した!?。ど、ど、どういうことじゃ...。」


「ね。ね。2人とも、母様に教えて頂戴。何があったの?。な、何があった?。」


「森に。森に入った...。」


「えぇっ...!?。」


カルラが絶句する。


カルラは必死で平静を保とうとしている。


カルラの額から汗がボタボタと落ちる。


「森に?。森に?。」


「兄様を騙したぁーーーーーーーーーーーーーーーーーー!。」


スサは放心状態で立ち上がり、辺りを見回している。


この時期に1人で森に入って生きていた者などいない。


「大剛様でいらっしゃいますか!。」


「わしがキドーのスサじゃ。」


背後から誰かが声をかけて来る。


「男の子...。お子様が...山に。山に入られまして...」


「ほ、ホントか?。いつじゃ?。どこから!?。」


「ムバ...って...ムバって、人が、ネフィと、メルテがお店見てた時に...兄様に、森に行ったって...嘘を、サビオ兄様は、1人で...森に...ワーーーーーーーーーーン!。」


ネフィがまた大声で泣く。


「...私が悪かったんです...も、申し訳ありません。何とお詫びをしたら良いやら...も、申し訳ございません。」


官吏の男が言う。


「急いで探しに行かんと!。こんな事しておられん!。ララはどうした?。2人とも何とか無事でいてくれれば良いが...。状況を手短に話してくれんか?!。どういうことなのじゃ?!。ワシも妻も全く状況が見えん!。」


「男の子が樹海に入ったのは、よ、4時前。わ、私が知った時は、す、すでに5時を回っていました。偶然、アンティカ様を見つけ、お子様の、お子様の救助をお願いしたのです。」


「ララは!?。若い娘は見なかったか!?。」


「そ、それが、場所を知ってると、お嬢さんは弟の場所を知ってると... 。」


「ララが?。ララがなぜそんなことを...。それで、ララは?!。ララは今どこにおる!?。」


「お嬢さんは、アンティカ様を追いかけ、セクトル口から...。」


「なに!?。ララが!?。ララも樹海に入ったのか!?。」


スサは目を見開いたふらついた。


「も、申し訳ございません!。」


「も、申し訳ないて...。止めなかったのか!?。何で止めてくれなかった!?。」


「も、申し訳ございません!。止めることができませんでした!。そ、それが、それが、もの凄い力で...。」


「そんな馬鹿な!。ララは、ララは普通の女の子なのじゃ!。」


しゃがんでネフィと、メルテの話を聞いていたカルラは、突然大きな声をあげる。


「ええっ!?。そ、そんな...。サビオはそのムバって女におまえ達が樹海に入ったって言われてそれで...。」


カルラは息を飲んだ。


スサは激昂している。


「大水郭城に通信をしたのですが、どなたも出られなくて...それで、軍にラジュカムで連絡を取ったのですが、クロカゲが50体近く確認されている中では、安易に樹海に侵攻できないと...アンティカ様が大きくなられた時から通信もできなくなりました...。」


「サビオは、いつどこから樹海に入ったのじゃ?。探しに行く。ララとサビオを。」


「いくら何でも50体以上のクロカゲのいる樹海にアンティカ様をいざなうなど、貴様はクロカゲの回し者かと、皆に、官吏の者、皆に言われました...。わ、私がアンティカ様もお嬢様も樹海に誘ったようなものですっ!申し訳ございません!。」


「いや。通信に出なかったのは、私の責任。すまない。トラフィンの心配は無用じゃ...あなたが大惨事と言っている事柄は、トラフィンの起こしたことじゃ...。」


「あ、アンティカ様はご無事なのですか!?。」


「そうじゃ。トラフィンはクロカゲを滅ぼした。あの凄まじい爆発も、雄叫びも、トラフィンがクロカゲを滅ぼした時に発したものじゃ。」


「トラフィン様はクロカゲに...クロカゲ達に勝ったのですか!?。」


「そうじゃ。クロカゲは、トラフィンが滅ぼした。ワシとカルラはこの目でしかと見た。」


「サビオとララが心配じゃ。これから、ワシは2人を探しに樹海に入ろうと思う。」


「し、しかし、いくら征天大剛様と言えど...。」


「危ねぇじゃねえか!?。あんたら!。なあーに考えてんだ!。」


...ギュギューーギューーーーーー...


...ギュギューー...


ミュックスの引くトリュックが背後で急停車する。


砂埃が舞い上がる。


「あぁ、すまない!。大事な話があったものだから。」


「大事な話は良いけど、制動トラックの中ですんのはホント止めてくれよ!。俺は永年無事故無違反でやって来てんだ!。今、個人になれる瀬戸際なんだからよ!。」


「あぁ...。申し訳ない。今の騒ぎの話をキドーの方としていたんだ。」


「おぅ。さっきのありゃなんだったんだい。何かすげぇ爆発が続いてたな?!。シーラルジーナンから慌てて降りて来たんだけどよ!?。」


「アンティカが、クロカゲを滅ぼしたそうだ!。」


「ひぇっ。アンティカ様!?。クロカゲ!?。」


唖然とするトリュックの男を置いて、スサ達は、停車駅を後にした。


...グエッ...グエッ...ガガッ...


...グエッ...ゴゴ...グエッ...グエッ...


ダチョウの鳴き声だ。


「危ねぇ!。バーカ!。お前何でこんなとこ停まってんだ!。死にてぇのか!。」


後ろで、別のトリュックの音がする。


「おぅ、兄弟!。アンティカがクロカゲ滅ぼしたってよ。さっきの地震そうだって...。」


「えっ!?。そうなのか?。」


...ギュギューーギューーーーーー...


「危ねぇーーー!。こっのクソ野郎どもーー!。何でこんな所に!...。」

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