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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
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ララ3

ハイドラ最大の海浜都市タンジアには、ロコウと言われる高い山がある。


ロコウは、大半がなだらかだが、一部が高い塔のように聳えている。その山塔は、ジーナン(戦闘神の足掛け)と言われる平地を不規則に持っている。


これは、バノアと言われるハイドラ特有の山の形状だ。


アルマタイトが豊富に含まれることからこのような形になると言われている。


ロコウは、バノアの中でも一際高い。


ロコウの山塔の先端は、雲に隠れ見えない。


昔から雲の上には仙人がいると言われる。


山塔は、妬み、嫉み、利己主義を捨て、愛を選んだ者のみが登ることが出来ると言われている。


そして、山塔を登りきる試練に耐え、仙人との戦いに勝った勇者の目の前には、更なる山塔が現れ戦闘神ナジマの巣に近づくことが出来ると言う。


かつて、最初のハイドゥク シンが、セティ 一族の総本山クバで、そうであったように。


ロコウやクバに似た形状の山は、ハイドラではよく見られる。


ロコウの中腹に、キドー一族の総本山 大水郭城はある。


大水郭城は、10000年続く由緒ある城だ。


300mのワイナ杉や山のようにみたいに大きいジャナタイトの一枚岩で作られている。


まるで、巨人の住み家のように大きく、神殿のように厳かな建造物。


かつてハイドラ最強の戦士を輩出し続けた名門キドー一族だが、御三家の中では唯一ハイドゥクを輩出したことがない。


征天大剛のスサは、強く、人徳にも優れている。


そして、キドーの門下生は人柄が良い。


それにもかかわらず...。


最近ではハイドラ最強軍に選ばれる戦士の輩出数も御三家の中で最も少ない。


近年、キドー一門は没落した一族と言われている。


それとは関係なく、門下生はどの一門に比べても明るく元気だ。


キドー一族の心を写すかのように、ロコウの頂上から見下ろす森、白い砂浜、海洋樹木デロメアの茂る透明度の高い遠浅の海カリビアは、宝石のように美しい。


大水郭城の巨大な正大門の外には三人の大きな若者が立っている。


みな、質素だが、綺麗に洗濯されている厚い水色の衣服を纏っていた。


門の内には、キドー一族 征天大剛(部族最高首長)スサとその奥内(部族大母)カルラが立っている。


スサは高齢だが、2メートルを超える偉丈夫。


厳つい身体つきをしている。


今年も、ハイドラの先祖を祈る日が近づいてきた。


「師匠。女将さん。我等も家族とともに祈って参ります。」


「行ってこい。」


「呉々も気をつけて。」


「我等で最後になります!。トラフィン兄者と、弟達をよろしく頼みます!。」


「関心なことじゃ。」


「ら、ララさんのことも!。」


1番若い男は、調子っぱずれな声で、顔を真っ赤にしながら言った。


「こら!。シントラ!。」


リーダー格の男は、若い男をたしなめた。


スサ達は顔を見合わせて、笑った。


「案ずるな。大丈夫じゃ。」


男達は深々と頭を下げた。


「では!。」


男達は、スサとカルラに頭を下げると、地面に置いてあった大きな荷物をそれぞれに背負った。


そして、道ではなく、崖の方に向かい、絶壁を素手で掴みおりて行った。


絶壁には、歴代複数の門下生の作ったくぼみがあり、門下生達はそこを伝い軽々と降りて行く。


あたかも、梯子を下るように。


門下生が崖を下る様子は、ロコウの祈日下りと言われ、タンジアでは夏の風物詩だ。


スサとカルラは、三人が崖を降りるまで見守っている。


遥か下から、鐘を揺する音が響いた。


「...うむ。無事降りたようじゃ。」


静かな晴れた朝だ。


涼しい昼前の風に乗り、厨の方から少女の歌声が聞こえて来る。


少女は井戸の前にある、大きな石の流し台で、山のように積まれた食器を洗っている。


門下生の使った皿。


祈りの日で少ないとは言え、かなりの量だ。


手際よく洗って、綺麗に整理して重ねて行く。


少女は仕事が大好きだ。


とても変わっていて、仕事が少ないと機嫌が悪い。


そして、几帳面だ。


...ラララ...ララ...


少女は時折、可愛く身体を揺らし、楽しそうに歌を歌っている。


いつもと同じメロディ。


「綺麗な声じゃな...。」


「お歌上手ね。どこの歌かしら...。」


「あの美しい希少石のある場所かの。」


「ヒモン石ですね。あの耳飾り。ララにとても似合っているわ。」


「働きものじゃ。」


「本当に。良くやってくれてる。でも、少し働き過ぎですね...。」


「あまり無理をさせてはいかんぞ。コルシカは少し厳し過ぎはせんかの?。」


「いえ、それが...。コルシカは、ララが兎に角、猛烈だと言うのです。笑。人手が足りないので助かるのですけど。」


「おお?。そうなのか。猛烈?。あのコルシカが?。自分のことじゃないのか...?。」


「それが...。笑。床掃除と言ったら、お城の全部の床を掃除してしまうらしいんです。」


「ぜ、全部?。」


「えぇ。誇り取りも、水拭きも、床の手入れも。」


「ホントか?。そりゃ。どうりで最近床が滑ると思ったわい。汗。ワシを恨む誰かの陰謀かと...。」


「恨む誰かとは、誰のことです?。」


「いや、いや...汗。」


「ほほほ。笑。そう。そうなんです。床もピカピカに。やり過ぎてしまうのがちょっと...。毎回ララは傷だらけです。」


「何?。床掃除で傷だらけ...。何で?。」


「あちこちぶつかったり、転んだり...。落っこちたり。お城全てですから...。なんせ。コルシカは、ララを気遣って、そこまでしなくて良いと言ったつもりらしいんですけど、ララが怒られたと思って泣いてしまって...。」


「ワシはてっきりコルシカが怖いのかと...。あんなに優しい女はいないが、なんせあの見た目で、あの口の聞き方じゃからな...笑。『これあんたのだって言ってんだろ?さっさといな!』『誰がそこまでしろって言ったんだい!。休みな!』...じゃからなぁ...。笑。そうか。」


「そうなんですよ。ほほほほ。笑。それに、コルシカも猛烈ですからね。」


「衝突せんと良いが...。」


「毎日してるんですよ。笑。それが。」


「えぇ?。大丈夫なのか?。」


「それがまた、気が合うみたいなのですよ。笑」


「ほう。そうなのか?」


「私も最初ハラハラしましたけど、どうやらララもコルシカと同じなんです。意外と野太いっていうか、大雑把っていうか...。コルシカはララにもはっきりと言います。遠慮せずに。それがララは好き見たいです。コルシカの乱暴だけど、男勝りだけど、凄く凄く優しいところ、ララはしっかり受け止めています。」


「コルシカはあれでいて、本当に相手のこと良く見ておるからな...。世話係の長に相応しい。コルシカのあの性格は、女にしておくのは勿体ない。男前って言うか、何と言うか、漢の中の漢という...。」


「やめて下さい。あなた。コルシカがまた怒りますよ。」


「あぁ...すまんすまん。そうじゃった。そうじゃった。そうか、ララも猛烈か...。笑。じゃから、催事皿を全部割ってしまったのだな。」


「ほほほほ。笑。それが、コルシカが間違えて一枚割ってしまったのをララが見ていて、あっと言う間に全部割ってしまったらしいのです。笑。おほほほほほほほ。おほほほほほほほほ。笑」


「あぁ。コルシカは、ララに見て学べと言っておったな。」


「そうなんです。仕事は教わるものではなく、見て盗むものだと。...」


「確かに、あの女の仕事は全て職人の中の職人...あ!汗。...あぁこれは良いのか...。笑」


「コルシカのあの時の顔と言ったら。なかったですわ。笑。私のせいです。ララのせいではありませんと...。命に変えてお詫びしますなんて。おほほほほほほほほ。笑。何で皿くらいで、コル、コルシカが...。おほほほほほほ。笑。」


「いかんぞ。カルラ。そのように。コルシカが可哀想ではないか。また、お暇を...とか言い出すぞ。あんな可哀想なコルシカ二度と見とうないわ。」


「あ。はい。ご、こめんなさい。つい。いえ、馬鹿にして笑っているのではなく、あのコルシカの一本気なところが可愛くて、可愛くて。おほほほほ。笑。でも、いけないわね。おほほ。コルシカに見られては...。」


「そうじゃ。見た目と違って傷つき易いのじゃ。大切に扱ってやらんと。あんなにいい娘はおらん。仕事も出来る。凄まじいほどじゃ。」


「分かっていますよ。あんなにひたむきな娘はいませんよ。真心があって。優しくて。不器用で。笑。2人は良く似ているんです。」


「ララは気づいてくれたか...。」


「そうです。コルシカのおかげで私もララのことが分かりました。」


「どこかにも、もう1人おるがな。」


「えぇ。もう1人と言わず。もう2人...。」


「誰のことじゃ?。あん?。」


「いえいえ...。でも...。コルシカもララも。お互い良い話し相手が出来て良かったわ...。本当に。ララはみんなララを綺麗なお人形さんみたいに扱うし、コルシカはコルシカで、能力が飛び抜け過ぎてしまってて。みんなも出来るのですけどね。それにあの喋り方でしょ?。コルシカの優しさ、誰もが分かってくれる訳じゃないから...。2人とも寂しかったのじゃないかしら。欲を言えばララが少し話してくれたら良いけど。」


「そうじゃな...。もうすぐ3年になるのに、話してはくれんな。あの子の本当の名は何と言うのじゃろ。」


「いいじゃないですか。ララのペースでのんびり...。ララも気に入ってくれてるみたいですよ。子供達が一生懸命に考えてくれたこの名前。」


「良く笑うようになったな。ララは本当に器量が良い。働き者で、優しい。シントラには気の毒じゃが、トラと気が合うようじや。」


「トラとずっと一緒にいますね。」


「トラの嫁さんになってくれんかな。トラの良さに気づいてくれると良いが。」


「まぁ!。ほほほ。そんなこと考えていたんですか?。笑。トラはアンティカなんですよ?。トラだって立派な若者です。笑。」


「当然じゃ。」


「トラをキドー一族で初めてのハイドゥクにするのはもう良いんですか。笑」


「いや...。カルラよ。ハイドゥクなど、デフィンやモルフィンのような我の強い者がやれば良いのじゃ...。」


「おやおや、いったいどうしたんですか?。笑」


「今のハイドゥクを超える者は他にもいるのだ。何も他の御三家として競う必要はないのだ...。」


「私は賛成だけど。トラはなんと言うかしら...。」


「カルラはトラのあの楽しそうな顔みたか?。あんなに嬉しそうにしているトラを見るのはあの時以来じゃ。」


「そうですね...。サンザの...。」


「...本当にな。」


「サンザは今、どこにいるのかしら。元気でいてさえくれれば...私は何も...。」


「トラは、サンザのことがあってからすっかり寡黙になってしもうた。」


「あの子達は、本当に仲の良い兄弟でしたから...。あんなに元気だったトラが...。」


「トラも良く頑張ってきた...。」


「私が、私がサンザを叱ったりしなければ...。一緒に市場に連れていっていたら...。」


「カルラ...カルラ、やめなさい。」


スサはカルラに近づきカルラの肩を抱きしめ背中を優しくさすった。


「 あの子、ちゃんと、ちゃんと履物揃えて...崖に...私の言ったこと、ちゃんと、ちゃ...。」


カルラは震え、辛そうな顔を両手で顔を覆った。


「もう良いではないか。悲しいことを思い出させてしまったの。すまぬ。」


「私は、1日だってあの子のこと思い出さない日はありません...。あの子のことを考えると、毎日、毎日、息が出来なくなる...。あの子の笑顔が。あぁ......。私はあの子達を愛している。愛してる。もう、耐えられない...。」


「大丈夫。大丈夫じゃ。カルラ。」


「あの子達の...あの子達のことが心配で心配で...。」


カルラは押し殺すような声で言った。


「大丈夫じゃ。サンザはトラの真似をしただけじゃ。泳ぎだって達者じゃ。ヒドゥイーンが溺れるわけがなかろう。成長は少し遅くともあの子はあれでいてしっかりしとる。トラの双子の弟じゃぞ。大丈夫じゃ。絶対に生きておる。」


スサの顔も厳しくなった。


「もう良いのじゃ。トラは、トラには幸せになって貰う。」


「本当ですか?。」


「ワシも歳をとった。」


カルラはスサに肩を抱かれたまま首を振った。


ララが気づいた。


心配そうにこっちを見てる。


カルラが泣いているのに気づいた。


慌てて走って来る。


「ララに聞こえてしまったようじゃ。」


ララは近くまで来て止まった。


「ララ...。」


「おお...ララ...。」


心配そうな顔をしてる。


カルラは急いで涙を拭った。


「ララ。びっくりさせてごめんね。」


カルラはそう言うと、ララを抱き寄せた。


ララはぎこちないながら、強くカルラを抱きしめた。


とても強く。


スサは二人の背中を優しくトントンと叩いた。


あたかも子供を寝かし続けるように。


突然、別の方角から、男が大声をあげて走って来る。


何か走り方が変だ。


妙にシナが入っている。


走り方の割に激走して来る。


「おーい!師匠ーーーっ!。師匠のオヤジーーーっ!。」

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