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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
336/364

デュランダル•レビン7

….ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

…ゴゴオオオォォォォォォーーーーーー…


シム•キャスト(兵曹用陸用装甲車)の爆音が轟く。


MK1200ジニリウム鋼の分厚い装甲。


地上で1番硬く、粘土みたいに粘る。


重さは鋼鉄の数千倍。


反重力ベアリングや反重力板によって、重量の99%が軽減されている。


この質量と硬度がすでに武器。


普通は砲門とかの武装は無い。


乗っかってる兵曹が大砲や機関銃そのものだから。


だが、これには地対空ミサイルと、主砲を積んでる…なぜか…汗。


俺たちはサン•セルジオ•セイント•ルポール(碧寺院)に向かう。


右将の決定だ。


ルポールは、ケイブン派によるアンタッチャブルな教会であり、この街の守護神の元老リーベ(緑)を祀った寺院だ。


軍内部ではルポール(碧寺院)は人身売買の拠点と言うのが常識だ。


右将は我々単独で解放するつもりだ。


この作戦をリークすれば…右将は反勢力に包囲されて窮地に陥る。


なぜこの人を裏切らなければいけないんだ?。


なぜ俺なんだ?。


ルポールの地下には、無数の移民や難民、下層の子供達、孤児達が収容されている。


数千、いや、ひょっとしたらその10倍いる。


まるで、家畜のような扱いで。


現場を見て吐き気を催さない者はいない。


軍にいれば嫌でも目にする。


口外すれば凄惨な拷問を受けた後、処刑される。


右将の耳に入る前に。


可哀想とか悲しいとかそんな次元じゃない。


生きた人間が、小さな子供まで、麻酔もなくバラされ、内臓を売られ、まるでローストチキンのように焼かれる。


これは空想の世界じゃない。


小説や創作の世界じゃない。


怖くて恐ろしいが現実の世界だ。


あんたの住む世界のことだ。


本当だ。


権力や富に飽きたエリート達が行っている享楽。


宇宙人や元老に魂を売った1級市民や国際金融資本が行っている凶悪犯罪だ。


誰にも知られず、裁きなど全く受けない。


今の科学なら簡単に臓器は作れるし、幾らでも人工肉も作れる。


にも関わらず、敢えて生きた人間に、恐怖を与え陵辱の限りを尽くす。


理不尽の限度を超えてる。


身内がこうなったらと考えるだけで、血の気が引き、正気でいられない。


世の中の誰もが気づいていない。


事態は悪化するばかりだ。


それを隠蔽しようとする勢力が軍にも増えてきた。


右将は焦っている。


右将は数限りなく、拠点を解放して来た。


命と引き換えに。


しかし、ケイブン派によるその大罪は、明るみに出る気配すら無い。


そればかりか、寧ろ、右将が窮地に追い込まれて行く。


元老がコントロールしている。


何もかも。


中央アトラでは、元老達がまだ軍を動かす事が出来る。


神の怒りを示すかの如く、数万の陸車のテールランプが、大地を真っ赤に染めている。


片側13車線の特別公用高速に入るスロープ。


イザナミの誘導。


僅かな間違いも無駄も無い。


にも関わらず、ここはいつも渋滞してる。


最近は特にそうだ。


「すいません。う、右将殿。ち、ちょっとトイレ汗」


山のような大男が腕組みをしたまま、こっちを見て、また元の方向に向き直った。


行っても良いんですか…?汗


図体は平常時で5mを超え、極限を超えて盛り上がった筋肉…オレンジの髪、髭、右の目を跨いだ額までの傷、モヒカン、顔にまで入った入れ墨、鋲のようなピアス…猛獣のような鋭い眼光。


凶悪そのもの。


絵に描いたような極悪人。


無法者で凶暴。


激情に任せて暴れ、暴力と恐怖で市民を従わせる。


手に負えない凶悪な暴君。


それがレビン右大将の一般の評価。


自分は3年前、右将の監視役を命じられた。


リン•ジェノス閣下のご命令との事だ。


ハルバール侵攻のあった直後のことだ。


右将は私利私欲のためにハルバールに侵攻したと、右将以外の上層部が判断している。


俺は全くそうは思わない。


まともな中央軍の兵士も皆同じだ。


あれも下層市民と子供達の解放だったはずだ。


口に出さないのは、右将に迷惑がかかるからだ。


ケイブン派や国際金融資本、背後の元老が糸を引いていることは明白だ。


….ザッザザザザザッザッザッザッザザザザザッザッザッザッザッザッザザザザザッザッザッ…


芝生の上をひたすら走る。


かなりの距離だ。


あの白い建築物まで。


古代ローマを思わせる広大な敷地、大きな建築物。


あれがトイレ。


ここの街は金持ちだ。


こんな広い豪華なトイレは税金の無駄遣いだ。


大勢が並んでいる。


陸車を利用する運送業社か下層市民ばかり。


「はっ…ハッ…はっ…はっ…汗」


息が上がる。


….ザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッザッ…


建物の中庭に出る。


大勢の下層市民たちとロボットが清掃をしている。


指令ロボに直結しているから、彼等は安全だ。


でなければ誘拐か強奪される。


目玉や臓器をだ。


下層市民はこの国で最も搾取される存在。


小説や映画の話ではない。


一歩踏み外せばこれが現実だ。


あんたの住んでる世界の。


だから普通の市民はイザナミの監視外のここには来ない。


左手を3度強く握り開く。


…ブゥゥゥン…


変化暗号通信機が展開する。


手の平に取り付けた装置。


中々繋がらない…。


右将は、スレーター•カーン左将よりも、ジェノス閣下に近いと思っていた。


寧ろ、レビン右将がジェノス閣下の後継者だと思っていた。


最近、不仲が噂されていたが、まさかここまでとは。


ジェノス閣下は変わってしまった。


あの時からだ。


救世主メガラニアユーライは、ザネーサーの69倍のパワーを持つ軍事兵曹として生まれた。


驚異的なパワーだ。


今エイジン•ローデシア最強と言われる、ザネーサーの69倍…。


同時に、生まれた陰極星タイトは競合を恐れた国家元首マダクと宰相ジェノスにより間引かれた。


つまり殺された。


ユーライは、善良で、慈悲や愛に溢れ、誰にでも愛される、人を惹きつける天性の素質も持っていた。


今まで存在したどの兵曹よりも。


正に救世主メガラニアと誰もが歓喜した。


これで、激化するケラムの圧倒的な野生、強大化が加速するアマルの軍事兵曹団、劇的な進化を続けるハイドラの自然兵曹、デューンの魔獣や神兵、爆増するバグーの砂獣を、越えることが出来る。


中央アトラを中心とした、世界秩序が来る。


混沌としたこの世界に平和がやっともたらされる。


誰もがそう信じて疑わなかった。


しかし、ユーライが最後の養生に入る時、希望は絶望に変わった。


最終兵曹になる段階で、ユーライの致命的な欠陥が判明した。


ユーライの兵曹胚中のリピドアは7しか無かった。


通常の兵曹のそれは100〜180にも関わらず。


つまり養生に耐えられず知能が退化する。


5歳児にも満たない水準に低下するだろう。


スサノオは演算を間違えない。


知能の低い救世主メガラニアほど危険な存在は無い。


敵に悪用され、策略に嵌り、我が軍を危険に晒す。


アダムはそれを知っていた。


だから、わざわざユーライを救いに来た。


例え抹殺と言う形でも、救いに来ていたのだ。


しかし、ジェノス閣下もマダク•シムラも、そこで、また致命的な判断ミスを犯した。


アダムを撃退してしまった。


右将の致命傷と引き換えに。


救世主メガラニアに執着する道を選んだ。


誰が救世主メガラニアを制御するのか。


誰が敵方の悪用から救世主メガラニアを護るのか。


中央アトラに残されたもの。


それは、瓦礫の山、ジンム3守護巨兵の残骸、ギガサニーの女王マナの死骸、そして、知能の劣化した救世主メガラニアだけだった。


アダムはまた来る。


完全に破壊するために。


ユーライ、そして、ユーライを擁立しようとする全てのものを。


アトラ史上最高の智将ジェノスは、今やケイブン派への対抗力を完全に無くした。


右将だけだ。


今、中央アトラで市民を護る者は。


いつも身を切って市民を護って来た。


なぜそんな人を裏切らなくてはならないのか?。


自分達の幸せのために、そんな人を売って良いものか…。汗


生きるために、多く下層市民たちの、唯一の味方である右将を裏切り、サディストで異常者の片棒を担がねばならないのか…。


…ウィィィィィィーーーーーーン…


繋がった…。


モニタにRの文字が浮き出る。


…0013。ここ数日報告が無い…


「…何もないからですよ…そもそもあの人はボロを出すようなヘマはしない…」


…あの人…?…0013..貴様..変な気を起こすな?…


ぅぐっ..汗


「…変な気って何すか!汗。あのひ..や、奴は気づいています!こっちのこと…」


やはり裏切ることなんか出来ない…汗。


…妻と娘の安全とおまえの昇進…銃殺と家族の階級剥奪…どちらが得か子供でも分かる話だ…


ひっ…そ..それは…泣


「…だから何もないんすよ!いつも通りです!何回言わせるんすか!…」


…既に作戦は始まっている…


「…あぁ!分かってますよ!…」


…時間が無い…まだおまえは何の仕事もしていない…


「…何もないのに一体どうしろと…」


リークしろと言うことだ…汗


滝のように汗が流れる。


俺が情報を得てることを知っている。


…0013…我々は明確な根拠が必要なのだ…デュランダル•レビンによる不正の確実な証拠が…


「….そもそも不正なんかするはずが無いですよ!…」


…我々は大勢の人間を消して来た…我々に取っては虫を殺すより簡単だ…貴様も良く分かっているだろう…今日中に結果を出せ…結果をだ…このように猶予を与える寛大な措置に貴様は感謝しろ…我々をがっかりさせるな…


「…け?汗…け…結果…汗」


…良いな?…


「まさか!?汗。俺に右将を嵌めろと!?汗..そ…そんな…ちょ…汗…ちょっと待ってくれよ…」


…ブツッ…


「…おい!おおい!おい!ふざけるな!おい!」


しまった!。汗


ついデカい声を…汗


…ゴゴゴゴォォォォォォーーーーーー…


…ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォーーーーーー…


ハッ…


シムキャストの轟音が轟く。


う、動き出した…。


渋滞が..。


走って追いつけるか…。


….ザッザザザザザッザッザッザッザザザザザッザッザッザッザッザッザザザザザッザッザッ…


渋滞が加速して行く。


どうしても乗らなければ。


娘と妻が…汗。


….ガッ…ドダダダ…


シムキャストの最下層に何とか飛び乗った。


急いで梯子を登る。


一気に加速した。


渋滞は既に100kmで流れている。


間一髪。汗


狭い車間距離。


イザナミに制御されている。


…ダンッ..ドダッ…


漸くコックピットへ。


「遅いぞ」


「も、申し訳ございません!は、あ、す、少し腹の具合が悪く…」


「降りるか?」


「だ、大丈夫です!汗」


ダメだ絶対に。それだけは。


『…旦那…後で.合流する…』


パスタップが鳴る。


この声は…。


あ…アイスだ…。汗


アイスも合流するのか…。


もしそうなら、逆に奴らが殲滅される。


娘と妻が…汗


『…護衛に着いたわ。旦那の指示通り。取り敢えず敵の位置は全て把握済み…』


今度はエレーンだ。


奴も合流…。


教会を完全制圧するつもりだ。


「上手く入れたか?」


しかし、それでは..


『…すんなり信用してくれたわ…」


信用?ブラッククロウが?汗


バカな…。


「平穏にな。相手は民間人だ」


民間人!?汗


『…大丈夫よ。ウチの娘と同い年だもの。今、“ムーントゥィンクル⭐︎プロキュア”の話で盛り上がってるわ…」


娘!?プロキュア!?。


娘のティアラが大好きなアニメ…汗。


ま、ま、まさか….汗


『…シチュ…エレー…ンさんもいか..が…」


妻の得意料理…。


ん!?汗。


シホ!?..シホの声?。


ま、まさか!?汗


まさか!?


え?!…汗…えぇぇ!?汗


『…お口に合うかしら…』


まずい…これは…間違いなくシホの声。


なぜこうなってる。


一体何が起きた!?。


うわ!?


旦那もこっち見てる!汗


!?


「何だその汗は?貴様」


ハイウェイに入った…。


…ゴゴゴゴォォォォォォーーーーーー…


…ゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォーーーーーー…


シムキャストが速度を上げる。


片側13車線。


風が吹き抜ける。


こんな時でも風は爽やかだ。


「い、いや、こ、これは、腹の具合が…汗」


「おい!」


「ひぃぃっ…汗。は、は、はいぃ!?汗」


は、初めて聞いた…。


右将の怒鳴り声。


バレそうでヤバいのに汗が滝のように噴き出す。


「エレーンがどんな女が知ってるか?」


そ、そ、そんな…。泣

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