謀略26 / ルタール編8
投げてよこした。
ハフスブルグの将校が何かを。
左手の指で自分の唇を制し。
ふわりと落ちた。
その糸の束….。
髪の毛の束…。
白髪の混ざったブロンドの。
かなりの量、長く切り取られた。
ハッ!….汗
「貴様次第だ。」
あ….ぁあ….。汗
シンディ…。
妻の髪だ。汗
間違い無い。
「安心しろ娘にはまだ触れてもいない。確かエリサと言ったか?笑」
き….貴様…..。
貴様!怒
「ルタール!貴様あああぁぁ….」
….ガンッ….ボゴッ….ドゴッ…
…お..ぉ…
激痛が身体を走る。
ルタールの白い手袋からも血が滲んでいる。
「ハッ…ハアッ…ハッ…この..この私が…温情を..温情をかけて..ハッ…ハアッ…やるのだ…有り難く思え。」
「…貴…き…様….」
「ほお?これは貴様のせいだ。この大惨事は。笑。貴様1人の過失によってだ。罪悪感も無く随分と元気なことだ。このウジ虫野郎!」
….ガンッ….ボゴッ….ドゴッ…
「北アトラは、いや世界中の人間達は全てを失ったのだ。貴様の愚かさ故、身の程知らずさ故。私は貴様に罰を与えた。折檻も含めて。身体で分からせてやるのも飼い主の務め」
「貴….きさ…き….貴様…」
「まだ分からんのか?マバナカタールは火の海になる。ジェニファーの名において。市民は全てはバカ女の仕業だったと思い込む。過去の全てが。笑」
「き…貴..様…ぁ….……」
激痛が全身を駆け巡る。
激しい電撃のように。
ルタールがまた指で自分の唇を押さえ私を黙らせる。
「貴様が従うなら、バカ女の名誉と残りの親衛隊の命も救ってやる。但しゴーストサイファーを教えろ。全個体のだ。バカ女は生かしておかぬがなな。奴は粉々に分割し、ギニア大渓谷の火山に捨ててやる。この星で最も業火である悪神アジャイロの火山にな。笑」
抹消などさせない。
息子達の人格を。
貴様などに託す訳がない。
北アトラの極秘情報を。
「ふん。逆らえば、北アトラは更に大規模な地震と津波を受ける。マバナカタールは跡形もなく消えるだろう。思考は必要ない。貴様のような下等動物の思考など。ただ我々に従いさえすれば良いのだ。貴様は。」
この男がシー様の名誉など守る訳がない。
汚名を全てシー様に被せるだろう。
世界のネットワークは全て軍産複合体の傘下。
ハフスブルグ家、ルクセンブルグ家、スタインバーグ家…。
歴史から真実が消える。
自分達の犯した卑劣な罪を全てシー様や他の守護神達に擦りつけるだろう。
奴らの常套手段だ。
ここでシー様が負ければ全てが終わる。
均衡は崩れる。
ハイカーとウルスラ。
デュランダル•レビン。
ハイドラのアンティカ達。
そして、ハイドゥク。
全ての秩序は崩壊して行くだろう。
ドミノ倒しのように。
…父上…今です….
!?
「デニス!お前か…..?」
….?
…..幻聴だ……もはや…。
…父上…
まただ!?。
最愛のデニスは目前で死んでいる。
肉塊となって。
…父上….
「どうやら殴り過ぎたようだ。笑。古いおもちゃを壊してしまったか?笑。私としたことが。この老ぼ….」
…ッツ….
….ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…
….ガシャアァーン….
….パリィィーーーーーン…
……
…
「…..な…汗」
破片が降り注ぎ、爆炎が上がる。
….
「何だ…これは…….」
…..
「何だ!どうした!汗」
何と…。
シー様を吊り上げている兵曹が。
ハプスブルグの兵曹が。
「一体どうなっている?!汗」
ルタールが慌てている。
これは幻覚か?。
….ピーーーーーーーーーーーー…
….ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン…
….ガシャアァーン….
….パリィィーーーーーン…
コントロールキューブ撃ち抜く。
ハプスブルグの兵曹が。
粒子砲で別のコントロールキューブを。
大雷神と大風神の制御を行なっているコントロールキューブだ。
いつの間に再稼働をさせていたのか…汗。
ルタールは2体を奪い返そうとしていた。汗
油断をしていた。汗
しかし….。
これは…また…幻覚?。
「お….おい!コントロールルームは!貸せ!」
「ハッ」
ルタールが将校から端末を奪い取る。
「一体どうなっている?汗。」
『…第1….2…コン….ロー….やら…ま……た…全て….機能…停止…』
端末から音が漏れる。
「何だと!?」
ルタールが慌てている。
「別の奴にジェニファーを渡せ!直ぐにだ!今すぐ!」
「ハッ!渡すと言いますと…」
「渡せと言ったら…」
…ガコッ…
ルタールがジニリウムの鉄骨で将校を殴る。
かなり上の立場の者。
頭から血が噴き出している。
将校は動かなくなった。
…ドゴッ…
….ガゴッ….
「渡せぇ!無能が!」
ルタールが屍の頭を殴り続ける。
こいつは人を虫ほどにも思っていない。
「おい!あのクソから別の兵曹を使ってジェニファーを取り上げろ!手遅れになら….」
ルタールが端末に怒鳴り散らす。
何だ?。
どうした。
奴が怒鳴るのを止めた。
…ガン….
端末がアスファルトに落ちる。
奴はシー様の方を見ている。
呆然と….。
あっ!汗
….ヒュウゥゥゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーゥゥゥーーーーーー…
シー様のブロンドの髪が逆立った。汗
青く強い光を伴って。
放電毛…。
チェレンコフ放射。
ジェネシスがこんなに強力に発動しているのに…。
シー様は他の兵曹のような放電翼を持っていない。
シー様は頭髪から余剰なプラズマ、電気、熱を放出する。
黄金のような眩いブロンドから。
「ば…..ば….ば…バカな!」
ルタールが慌てている。
シー様の目は青く光っている。
シー様は目を見開いている。
あれは紛れもなくアルマダイの光。
シー様は生きておられる。
シー様が生きておられる!。
シー様が復活された!。
….ドタドタドタドタドタドタドタドタ…
….ドタドタドタドタドタドタドタドタ…
….ドタドタドタドタドタドタドタドタ…
ハプスブルグの兵士達が走って来る。
長い距離を。
軍服を着た中距離ランナーのように。
滑稽だ。
ここは広過ぎる。
「…ルタール..様!…ルタール様ぁ!バラクターが!バラクターが!」
先頭の指揮官らしき男が叫んでいる。
あの太った身体では苦しかろう。
汗だくで全身で息をしながら。
疾走はまだまだ続く。
1000mの全力疾走。
ご苦労なことだ。
「何ごとだ!これは!」
「ば…ハァ..ハァ…バラクターがぁ….ハッ…ハァ….は…反乱を….ハァん乱を…お…おこ….起こしましたぁ…..!ハァ…ひぃ…じ….GM10が!…は…反乱を!…フゥ…汗」
「何!?何が起きた!?」
「わ…わ….ヒィ….ハァ…わ…分かり…ません…い…一部の…ハァ…ハァ…バラクター…ハァ…我が軍…兵曹…研究員と無差別に…ヒィィ…こ…攻撃を…ハジ…始めました」
「愚か者!まともな機体で即時反撃…」
「す….既に…ハァ…ハァ…反撃しておりますが…ですが……ぐぇっ…」
….ガゴッ…
ルタールが指揮官の顔をジニリウムの柱で殴りつける。
「私が話している。貴様如きがなぜ遮る?」
指揮官の顔はジニリウムの柱で陥没した。
即死だ。
他の兵達が唖然としている。
知らなかったのか?。
こいつはこう言う奴だ。
ルタールはこう言う奴だ。
サイコパスだ。
どんなに綺麗な身なりをして、品のある話し方をしても。
一見穏やかで優しい紳士であったとしても。
知性が溢れて理想を話すリーダーだとしても。
実態はサディストであり殺人鬼だ。
人を虫ほどにも思わない暴君だ。
….ピーーーーーーーーーーーーーーー…
….ピーーーーーーーーーーーーーーー…
….ピーーーーーーーーーーーーーーー…
….ピーーーーーーーーーーーーーーー…
…ドン…
….ドーーーーン…
….ドーーーーン…
階上でバラクターの放つレーザーが赤い蜘蛛の巣のように光る。
複雑な模様の電飾のように。
バラクター同士で熾烈な戦いをしている。
あれは紛れもなくシー様のお力。
シー様を串刺しにしている兵曹、バラクター。
青く目が光っている者達。
シー様に操られている。
力が漲る。
痛みが消えて行く。
そうだ。
私の、いや、我々の命運は尽きていない。
あの方が生きておられる。
我らの守護神は健在だ。
心の拠り所があるだけで、人は強く生きられる。
シー様をお助けせねば。
だが絶望的なこの鉄の棺桶。
何とかせねば。
アルマダイが無ければビクとも動かない。
どうすれば。
…父上…
デニス!。
おまえの声が聞こえる!。
…ガチャ….
…..ピーーーーーーーーーーー…
電気系統が戻った!?。
なぜ。
もう当にバックアップは無くなっている。
アームが勝手に動く。
勝手に….。
上がったり、下がったり。
壊れているのか?。
違う。
この機体は何かを私に…。




