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トリスタンの皇帝  作者: Jota(イオタ)
32/364

タク6


アトラの第二首都 ネオジンム。


俺たちの卒業した学校は郊外の地区タイダルにある。水が綺麗で、自然に恵まれた場所だ。


ここは、もともと起伏が激しく、この地区だけで、標高差が200mある。


驚きだ。


この少学校は標高17メートル。


区役所は160m、ケイリューショッピングモールは-6m、競技場は-56m、国道16号は145m、266号は32mというような感じに。


そして、ここはアトラの都市開発特別区に指定されてる。


ふんだんな国家予算があるから、区長達は任期5年の中で、自分の爪痕を残そうと必死だ。


区長が変わるとすぐ新しい都市開発が始まる。


区長達は、他に影響しないよう、自分の範疇だけで、イケてる街を作ろうとする。


それが、タイダルがこんなごちゃ混ぜな街な理由だ。


レトロで懐かしい街並み。


機械で制御される基地みたいな区画。


ネオジンムに負けない洗練された都市。


景色だけじゃなくて、習慣も色々だ。


イプシオ派の議長マダク•シムラさんの息がかかっている影響が大きい。


イプシオ派は、知ってると思うけど、右大市民議会の一番大きな派閥。


マダク•シムラさんは、等級開放主義で、行き過ぎなくらい革新派だ。


マダクさんのお膝元下はみんな、タイダルみたいにいろんなことが自由みたいだ。


この多彩さはマダクさんの影響って言っても言い過ぎじゃない。


第一太陽グラディアは、容赦なく白い校舎に日差しを浴びせる。


でも一昨日あたりから少し柔らかくなった。


何の花かな?。


甘い香りを風が微かに運んで来る。


この季節の花。


柄じゃないけど。笑。笑。


校舎の受けた強い日差しを、アフロダイ塗料で染めた校庭が和らげてる。


トラックには薄緑。


モス、モス何とかって言うのな?。


それ以外の場所には、レンガ色の素材が敷かれてる。


高い空に絹雲が続いてる。


どこまでも。あれ。笑。


俺ホント似合わないよな?。


こういうの。笑。


「...おーい、これも頼むなー。」


...ドンッ...


色の白い金髪が、グローブやラケットの入った箱を、移動式の作業台の下に置いて行く。


ビンセントだ。


あいつはスリムな割りに結構力が強い。


軽々と荷物を運んでる。良く働く。


「おぉ!。そこ置いといて。」


俺は、移動式作業台で休んでいる。


この作業台は黒い樹脂が塗られてて、小さな教室位の面積がある。


作業台には、箱に入った荷物がいくつも置かれている。


『タイダル開放中学校 説明会』


大きな看板。


今日俺たちがやったイベント。


毎度恒例の。


今、それの後片付けをしてる。


開放校は、市民の等級に関係なく通学できる学校のことだ。


最近、それぞれの階層の人たちは、揉め事や、事故を怖がって、等級別学校や、3分校(1級、2-4級、5-6級)に通いたがる。


マダクさんが始めた開放学校は、市民の階層化が進んだアトラやアマルじゃ珍しい。


開放学校だけじゃなくて、各学校の生徒会は、学校を代表して小学校などに説明会という名目で勧誘をしに行く。


後輩にいっぱい自分の学校に来て欲しいじゃん?。


それに同じ開放学校だし。


俺はジャン。毎度。笑。


15歳にして早くもオヤジ体型だ。


髪は天パー。


覚えてるだろ?。


ブレザーを着てなきゃ、酒も飲めるぜ?。


普通に。笑。


最近、ますますデカくなった。


隣にイーノがいる。


いつもと同じ。


イーノは相変わらず細身で小柄。


黒髪でそばかす。


イーノは、バルコニー型の棚に荷物を積み、可動式倉庫を操作をして、入れ替えている。


「もうすぐ3年だな...。」


俺はイーノに話しかけた。


「ん?。何が?。」


「タクと親父さんがいなくなってからさ...。」


「ああ、そうか...。もうそんなになるんだ...。」


俺たちは、校庭を見下ろして座った。


当時に比べて校庭はすっかり貼り替えられ、綺麗になってる。


「あいつ。元気にここ走ってたんだよな?。」


「あぁ...。そうだね。勇ましかったよな...。」


「小さな身体で...。」


「あれから、いろいろ変わった。」


「あの日からな。」


「いろいろ、あったよ。本当にいろんなこと...。」


「俺、あいつに会うまでは、死んでたよ。腐ってた。笑。」


「ははは。俺もだよ。笑。最低だった。」


少し前は自分が大嫌いだった。


俺の機嫌ばかり取ってくるこいつのことも。


でも変わった。


イーノも俺も。


「あいつ真っ直ぐだったよな。笑。どんな時も。最初は、機械とロボットの化け物かと思ったけど...。あいつ見て、俺は心の中で何かが変わったんだ。その時は気がつかなかったけど...。」


今のイーノは、本当に親友だって言える。


こいつこんなにいい奴だったんだなって。


イーノ、最近、ハッキリものを言ってくるようになった。


喧嘩を良くするようになった。


でも、喧嘩する度、こいつの良さが分かってくる。


こいつこんなことも思ってたんだ、とか。


こんな考え方もあるんだ、とか。


あと、自分では気がつかなくて、はっとさせられることもある。


「俺もだよ。笑。多分。まぁおバカだったけどな。笑。あれ覚えてる?オニババ厚化粧の変。」


「あったあった。女子の化粧に、オニババがキレた時だよね。」


「オニババだって顔分かんないとか言ってな。笑」


「あははは。そうそう、すげぇキレられてた。笑。」


「メチャ宿題出されてた。笑」


「でも、運動神経抜群だった。」


「なぜか、女子にモテた。あの外見で。」


「なぁ。笑。ジェシカにメチャ愛されてた。毎日追っかけられてた。」


「ははははは。そんなことあったよな。笑。ははははは。ちょー逃げてた。笑。」


「ジャン!。イーノ!。これはB12のとこなー!。」


...ドサッ...


ビンセントが大きな箱を、俺たちのいる作業台の下に置いた。


「おー!。了解ー!。」


俺は手を上げて返事をした。


「よろー。」


ビンセントは、後ろ向きで手を挙げ、足早に校舎に戻って行った。


「あいつ働くなぁ...。」


「今日は一段とな?。」


「...あいつも。寂しいだろうな...。」


「毎日タクと一緒にいたもんな...。」


「みんな寂しがってる。ここの卒業生。」


「いい奴だったな。」


「だったなって言うなよ。」


「会いたいな。あいつに...。また。」


「会えるさ。また。」


「...。」


「フゥ...。」


「さて、やっちまおうぜ。」


「どっこいしょ。」


「笑。どっこいしょ?。おっさんか?。」


「ねぇ。これもお願い!。」


ケイだ。


「あれ?。ケイもう帰るの?。」


「え?。何で?。」


「何でって、帰り支度してんじゃんか。」


「ちょっと今日はごめん。お先に失礼します。」


「....。」


エルカーの空中駐車場のチェーンの軋む音がする。


警告ベルの音。


そして、駐車ゲートの開く音。


時折、係員のしゃがれ声が風に乗って聞こえてくる。


「また、サーチュインに行く気?。」


イーノが言った。


「サーチュインって、ケイブン派の息がかかった治安警察だらけだろ。」


「親父さんが会いに来るんだ?。」


「そう...。あそこまでしか、父が来れないの。」


ケイは頷いた。


「この前も捕まりそうになった。」


「...。」


「ついてくよ。」


俺は思わずそう言っていた。


「え?。」


「俺も。」


「ビンセントも。多分。」


「ダメよ。みんなを巻き込めない。」


「......。」


「おーーーーーい!。」


ビンセントが大きな声で叫びながら走って来る。


「あ。来た、来た!。笑」


「いいタイミング。笑」


ビンセントが全力で走って来る。


「あれ?。どうした?。あいつ。」


イーノも、ケイも、可動式の荷台に手をかけ振り向いている。


「何かあったのかな。」


ケイが言う。


確かに普通じゃない。


「あれ!。あれ!。あれ見ろよ!。」


校舎よりも高いエルカーの駐車場をビンセントが指差す。


色あせた緑色鉄骨のタラップから、2人の人が話しながら降りてくる。


「何だよ?。そんなに慌てて...。」


「あれだよ!。あれ!。」


ビンセントはどうやら、タラップから降りてくる人たちを指差しているようだ。


「誰?。私の知ってる人?。」


「そうだよーぅ!。知ってるどこじゃないだろ?。」


「ここの生徒にしては大きいけども...。」


「あの歩き方!。」


「え?。誰?。俺知ってる?。」


みんな目を細めている。


ビンセントは、堪らず走って、駐車場の方へ向かった。


「誰だろ...。」


ピンと来ない。


あんな知り合いいたっけ?。


自分たちは、ただ待つしかない。


大人と高校生?。


ビンセントと楽しそうに話しながら歩いて来る。


誰だろう。


「ビンセント友達多いからな...。」


イーノが言った。


「あれ?!。やだ?。ウソ?。」


ケイが、口に両手を当てて言う。


「マジで?。えっ!。えっ?。うそ?。」


ケイが取り乱している。


「どしたの?。ケイ?。」


イーノが言う。


「あれお父さんじゃない?。えっ?。うそ?。うそ?!ウソ!?。」


ケイも、吸付けられるように走って言ってしまった。


「あれ?!。ケイ!。ケイっ?。」


イーノが叫ぶ。


「あれ?。ケイ泣いてる?。」


イーノがこっちを見上げて言う。


「さぁ...。」


「あれ、ケイの父ちゃんじゃないよな?。」


「おぉ。全然違うみたいだけど...?。」


「痩せたんかな?。」


「さぁ、髪もじゃもじゃじゃないじゃん?。」


「確かに。」


「あぁあぁあぁ...。」


ケイが高校生に抱きついた。


一体誰なんだろ。


「あれ?。タクの父ちゃんじゃね?。あれ。」


「え?。ホントか?。」


「ほら。」


「あ...。あっ!。ホントだ...。」


「白髪増えたなぁ。」


「おまえ、いらんこと言うな。あの高校生だれ?。」


「タクって兄貴いたんだっけ?。」


「男兄弟はユキトだけだろ?。」


「だよな?。ユキトじゃないよな?...。」


とうとう荷台の下まで4人が来た。


「こんにちは!。」


「ご無沙汰してます!。」


俺とイーノは、タクのオヤジさんに挨拶をした。


「よっ!。」


ケインさんの隣の高校生が話しかけて来る。


「久しぶりだなぁ!。元気かジャン?。イーノ?。」


「お、おぅ...。?。」


え?。


誰?。


イーノが振り返ってこっちを見て来る。


「みんな。ずいぶん心配かけたね?。」


ケインさんがニコニコしながら言う。


ってことは、タクは元気になったのか?。


「は、はぁ...。」


ケインさんの顔が、少し沈む。


「タクのことを、凄く気にかけてくれていたみたいだけど...。ありがとな。」


「お、おじさん!。た、タクは?!。タクはどうなりました?。」


「元気なんですか?。今どこにいるんですか?。」


イーノも俺も堰きったように質問をした。


「ここにいるよ!。笑」


高校生が返事する。


「え、え?。どこ...。てか、誰?。」


ケイもビンセントも笑ってる。


え?!。


え?!。


「俺タクヤだよ。笑」


「ええぇぇーーーーーーーーーっ!。」


「ええぇぇーーーーーーーー!。」


俺もイーノも大声を出した。


ビンセントよりも少し背が高い。


黒い髪。端正な塩顔。手も足も長い...。


こ、これがタク?。


これがタクなんだ?!。


「心配してくれてありがとな。また、仲良くしてな?。」


イーノ号泣してる。


俺たちは、作業台から飛び降りた。


...ドン...


...ドスン...


タクが走って来た。


俺たちも走って行った。


ケイも、ビンセントも。


何か目から水が...。


鼻からも...。


よ、良かった...。


ホント、良かったぁぁぁ...。


良かったああああ!!。


ケインおじさんも来た。


みんなで泣きながら抱き合った。


おじさんもみんなも肩組んで、円陣組んで、クルクル回ってる。


まるでルコントの試合の前にみたいに。


クルクル...クルクル...泣。


みんなの涙がしょっぱい。


ハズい?。


キモい?。


そんなの関係ねぇ...。


タク 完

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